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「民意無視」飛ぶ怒号 富山市議報酬増可決、傍聴席に失望広がる

北日本新聞 6月16日(木)0時51分配信

 「反対」「おかしいだろ」「異議あり」-。15日再開された富山市議会の本会議。議員報酬を月10万円増額して70万円とする条例改正案は、傍聴席を埋めた市民の怒号が飛び交う中で採決された。市民から声が上がるたび、議長が注意して審議は何度も中断したが、賛成多数で可決された。「民意が無視された」。傍聴席には失望が広がった。

 午前9時。傍聴受付には、開始の1時間以上前から市民が次々詰め掛けた。議会事務局によると、この日の傍聴者は78人で、86席の傍聴席がほぼ埋まった。初めて訪れた富山市久郷、農業、高道俊彦さん(63)は「数の力で押し切る議会なのか、市民の声に耳を傾ける議会なのかこの目で確かめたかった」と話した。

 同10時に議会が開始。報酬増の議案が取り上げられ、反対討論で赤星ゆかり氏(共産)や村石篤氏(社民)が「富山市の議会改革は大変遅れており、引き下げ論が出てもおかしくない状況」「議会の信頼を失ってしまう」と述べると、傍聴席からは「そうだ」「廃案を」という声が飛んだ。そのたびに市田龍一議長(自民)は「静粛に」「退場させますよ」と注意。審議は何度も中断した。

 議長注意や退場も覚悟して声を上げたという同市北代、パート、中平延一さん(67)は「10万円増は市民にとってはかけ離れた数字。報酬額を審議した会議が密室だったことも許せない」と憤った。

 同10時50分。多くの傍聴者が身を乗り出して見守った採決は賛成多数で可決。十数人の市民が諦め顔で席を立ち、議会を後にした。同市中市、無職、杉本俊治さん(78)は「時間の無駄と感じた。民意を完全に無視した」と怒り、同市の無職女性(54)は「10万円の重みがどれほどのものか全く理解していない」とため息。女性は体調不良のため7年前から仕事に就けない状態が続き、この日は杖をついて議場を訪れた。

 冷静に今後を見据える市民もいた。同市田中町、無職、村内義範さん(65)は「議会を情けなく思ったが、元々は私たちが選んだ議員。チェックが足りなかった」と悔やむ。「民主主義の危機を感じた。行政や議員の活動に厳しい目を向けていかなければならない」と語った。


■報酬に見合う仕事を/市民の声
 条例改正案が可決された15日、市民からは「高い報酬に見合う仕事をして」と求める声が相次いだ。

 議員報酬を来春から10万円引き上げると、議員定数を二つ減らしても、年間の議会費は約3470万円増える。

 富山市長附(大沢野)の会社社長、福本稔さん(72)は、来年3月末で市大沢野文化会館が閉館することを嘆く。「議員の報酬が上がる一方、住民の文化活動の拠点が無くなるのは納得できない。他の市議会のように、市民と意見を交わす場を設けてほしい」と言う。同市赤田のパート、菅田佳織さん(40)は「議員活動には費用がかかる、というが本当に無駄がないか見直してほしい」と求めた。

 開かれた議会づくりを要望する声も。同市新庄町の会社員、今村直人さん(28)は「誰が、何をしているのか分からない。ブログや議会のネット中継など、もっと積極的に情報発信すれば市民も関心を持つと思う」と話す。

 同市善名(大山)の介護士、青島真実さん(36)は「高齢化や商店街の空洞化など、地域が抱える多くの課題は未解決のまま。報酬にふさわしい成果を挙げるべき」と指摘した。


■市役所前で横断幕、30人抗議
 「オールとやま県民連合」などの市民団体メンバーらは15日、条例改正案が採決されるのを前に、市役所前に集まり抗議の声を上げた。

 同団体や「市民が主人公の富山市政をつくる会」などの市民団体メンバー、赤星ゆかり市議、市議会の傍聴に訪れた市民ら約30人が参加した。「市民は納得しない!」と書かれた横断幕を掲げ、「議員報酬引き上げ反対」「議員は市民の声を聞け」と抗議した。

 抗議活動後、同市大町の保育士、川島留美子さん(63)は「議員報酬を引き上げる理由が納得できない。自分たちと同じ思いの人は多い」と話し、市議会の傍聴へ向かった。


■本社・市に電話やメール続々
 富山市議会本会議で議員報酬引き上げが決まった15日、北日本新聞社には30件の電話やメールが届いた。5月下旬から寄せられた意見は計182件となった。

 この日の多くは、引き上げ反対や議論の方法を問題視する内容だった。「一部の議員は市民と向き合う気が全くない」(女性)や「納得がいかない。プロセスが開示されておらず、市民無視だ」(53歳会社員男性)などと憤る声や、「私たちが議員の資質や能力を選んで投じた一票の結果、望んでいない現実が突き付けられた」(男性)という嘆きが寄せられた。

 一方で「手順を踏んで決まったことだと思う。何が問題かよく分からない」(50代男性)、「可決してしまったのは仕方ないが、賛成した理由を一人一人に聞いてほしい」との声もあった。

 同日、富山市にも42件の意見が寄せられた。4月11日に市田議長が、森雅志市長に議員報酬引き上げの検討を求めてからの合計は301件となった。


■強行採決と抗議声明
 県平和運動センター(山崎彰議長)は15日、条例改正案が可決されたことに抗議する声明を発表した。

 声明は「多くの市民の声を無視し、強行採決した」と批判。「議会が審議会を隠れみのに反対意見を数の力で押し切った。賛成した議員一人一人の説明責任と、議会として猛省と撤回を求める」としている。


■問われる増額根拠/牛山久仁彦明治大教授(地方自治論)の話
 自治体議員は地方分権で活動領域が拡大し、行政チェックや、民意を集約して政策を立案する役割も大きくなっている。仕事に見合った形で報酬を上げることは一概に悪いとはいえない。ただ、大事なのは、住民に値上げする金額が合理的かを説明し、客観的に証明する努力をしたのかどうかだ。反対する市民を説得するだけの根拠を持っているかが問われる。今後、市民の目が厳しくなる中、議員には地域の実情に見合ったきめ細かい活動と、二元代表制にふさわしい首長との緊張感のある関係が求められる。

北日本新聞社

最終更新:6月16日(木)18時9分

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