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農協 もがけばもがくほど政権の術中に

ニュースソクラ 6/17(金) 12:00配信

農協は農協のままでいいのか?

 改正農協法が4月1日に施行された。

 総本山のJA全中(全国農協中央会)が農協法に基づく組織から一般社団法人に移行し、地域農協への指導・監査権限を失うことが目玉だが、これはゴールではない。組織解体へ向けた時限装置がセットされただけだ。農協側は組織を挙げて「自己改革」に取り組み、破局を回避しようとしているが、もがけばもがくほど政権の術中にはまっていく。

 2年前に規制改革会議の農業ワーキンググループがまとめた原案には、全中(正確には都道府県を含む中央会制度)廃止のほか准組合員(非農家組合員)による農協事業の利用制限も盛り込まれた。最終的に「全中か、准組合員か」という二者択一を迫られ、JAグループは後者を取った。しかし、准組合員問題も「5年間の実態調査を経て判断する」と先送りされたに過ぎない。

「全中廃止」は派手な政治ショーだった。中央会制度ができた1954年以来、60年にわたって政官界に強い影響力を行使してきた圧力団体=既得権益集団にメスを入れたというわけだ。マスコミも農協法を「岩盤規制」とみなし、それを壊そうとする安倍首相にエールを送った。

 ただ、現実の全中は張り子のトラだ。TPP(環太平洋パートナーシップ協定)反対集会に動員された数千人の農協関係者は一枚岩に見えても、個別に話を聞けば「今は反対を叫んでいるが、どうせいずれは条件闘争に転じるのさ」といったシラけた感想が漏れた。

 もし全中のグリップが末端の地域農協にまで効いていたら、コメの減反はもっと達成率が高かったはずだ。政治力も、小選挙区制の導入や農家の減少などで低下していた。今や農協単独の力で当選できる国会議員は参院の比例代表候補、つまり全中の幹部OBだけである。

 張り子を岩盤に見立てた改革パフォーマンスだけが目的だったかと言えば、それも違う。求心力が衰えたとはいえ、全中は一応の「結集軸」である。そこを潰しておけば、TPPや農協改革第2弾に対する抵抗力をそげる――そんな狙いもあっただろう。現に農協改革が決着して以降、全中主導での大規模な反TPP集会は開かれていない。

 隠れた焦点は先送りされた准組合員問題だ。図に示す通り、准組合員の数は増え続け、09年度以降は正組合員を上回っている。都市部の農協ほどその傾向は強いが、農家の規模が大きい北海道でも准組合員は8割を占めている。今後、農家の減少が続けば、都府県でも更に差が開いていくだろう。

 その中で利用規制を導入すれば、農協は准組合員の利用が多い金融サービス(貯金や住宅ローン、共済など)、小売店舗、ガソリンスタンド、福祉施設、冠婚葬祭といった事業を維持できなくなる。結果的に農協解体論者の宿願が実現するわけだ。そこが本当のゴールだろう。

 今回の改革には「農協は農業振興に専念せよ」という農業純化路線が貫かれている。全中が昨秋打ち出した自己改革方針もそれに沿い「農業者の所得増大」「農業生産の拡大」を前面に押し出した。「地域活性化」も掲げたが、本気度は明らかに低い。

 農協は金融などの黒字で農業部門の赤字を埋めてきた。もし農業純化路線がうまくいって農業部門が黒字化すれば「もう金融や生活関連の事業は必要ないね」、失敗すれば「余計な事業にうつつを抜かしているからだ」と言われる。どちらに転んでも従来型の総合農協モデルは否定されるだろう。

 逆の選択肢もある。地域住民の相互扶助組織に転換し、農協法の規制から離れるのだ。農政上の優遇は受けられなくなりそうだが、コミュニティーを支え、その一環として農業者を応援することも可能だろう。農協は農協のままでいいのか。最も根源的な論点だと思うが、そんな議論はなぜか聞こえてこない。

綿本 裕樹 (農業ジャーナリスト)

最終更新:6/17(金) 12:00

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