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人的交流に支障「社交不安症」、年間労働損失額は1兆円超-千葉大などが認知行動療法で成果

日刊工業新聞電子版 6月17日(金)16時2分配信

 人と交流することに著しい不安や恐怖を覚える社交不安症。抗うつ剤による治療を行っても患者の7―8割は症状が改善しないとの推定がある。一方でこのほど、心理療法の一種である認知行動療法を併用すると47・6%の患者で症状がほぼ消失したとの研究結果が発表された。ただ同療法に習熟した医師は少なく、普及が課題になっている。(斎藤弘和)

【年間労働損失額は1兆円超】
 「うつ病とアルコール依存に次いで3番目に多い精神疾患。病気として認識されにくく医療機関を受診する人が少ない」。宮崎大学の吉永尚紀講師は社交不安症についてこう解説する。人との交流に恐怖を覚えることで学業や仕事に支障が生じ、同疾患に関連する年間労働損失額は1兆4795億円に上るとの試算もあるという。

 吉永講師はこうした問題意識から千葉大学の清水栄司教授らと研究グループをつくり、認知行動療法の有効性を実証した。同療法は患者自身が医師との面談などを通じ、物事の受け取り方や行動の幅を柔軟にして気分を楽にするよう試みるもの。例えば患者が会議の司会をしている様子を撮影し、その動画を見て自分の振る舞いが客観的には悪くないと知ってもらう。自己に対する否定的なイメージが修正され、症状の改善につながる。

 研究では社交不安の重症度を示す指標のLSASを評価項目とした。抗うつ剤のみを利用した群は16週が経過してもLSASが横ばいだったのに対し、認知行動療法併用群は有意な改善を示した。併用群は症状がほぼ消失した患者の割合も47・6%に達し、顕著な効果が出たと言える。

【療法普及は精神科医の育成カギ】
 ただ、日本で認知行動療法を行える精神科医の数は「100人くらいではないか」(清水教授)。普及には人材育成がカギを握りそうだ。

【医療経済面で評価されることが必要-千葉大学大学院医学研究院 認知行動生理学 教授 清水栄司氏】
 社交不安症を適応とする抗うつ剤は市販に至る前の臨床試験でプラセボ(偽薬)と比べて効果があったことで承認された。薬物療法を否定するつもりはないが、根本的な治療としては不十分と思う。

 褒め言葉を使えば、日本の精神科医は上手に短時間でたくさんの患者さんを診療していた。患者お一人に時間を使って、効果のある認知行動療法を提供する体制に切り替えていく時期に来ている。それには診療報酬の見直しなど、医療経済面でこの療法が高く評価されることが必要だ。

 社交不安症は、小学校の授業で発表する時に失敗して笑われたといった、ちょっとしたきっかけで起きる。就職面接などでのつまずきにもつながりやすい症状だ。対人恐怖への対処を学べるような取り組みが教育現場でも必要ではないだろうか。(談)

最終更新:6月17日(金)16時2分

日刊工業新聞電子版