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鈴木IIJ会長、 「役所に頼むくらいなら、事業を止める」

ニュースソクラ 6/19(日) 18:00配信

「わが経営」を語る 鈴木幸一インターネットイニシアティブ会長兼CEO(3)

 ―― 1998年10月に鈴木さんがつくった日本初のデータ通信専門会社のクロスウェイブコミュニケーションズ(CWC)は、日本高速通信(現KDDI)から通信回線を長期使用権に基づいて借り受け、自前の通信インフラを持つ第一種電気通信事業者になりました。NTTの回線をいわば間借りする第二種電気通信事業者としてスタートしたインターネットイニシアティブ(IIJ)にとって大きな飛躍でした。(聞き手は森一夫)

 トヨタ自動車とソニーと組んで会社を設立して事業を始めたのですが、ソニーショックにぶつかりましてね。

 ――IIJが40%、トヨタ、ソニーがそれぞれ30%ずつ出資して、自動車、エレクトロニクスのリーダー企業を結集してCWCを設立したわけですね。ところが2003年4月24日にソニーが大幅減益の業績予想を発表して、株価の暴落を招き、経営環境は暗転しました。

 売り上げは大きく伸びていて、6か月後には黒字化がするのが見えていたんです。しかし売掛金ばかり増えて、一方で投資を続けなければならない。あと80億円くらいあれば持ったのです。
 資金繰りが急速に悪化し、銀行に融資を求めました。三井住友、UFJ(現三菱東京UFJ)、みずほの3行がシンジケートローンを組んでいたのですが、応じてくれない。株主には増資を頼み、トヨタは「お宅をつぶすことはない」と言ってくれたのですが、結局、間に合わなかった。
 最悪の事態を考えたとき、資産保全が緩い民事再生ではサービスが継続できなくなって顧客に迷惑をかける恐れがある。それで会社更生法の適用を申請したのです。東京地裁に申請した2003年8月20日は大変でした。
 銀行はなぜ事前に連絡しなかったとごうごうの非難でしたが、貸してくれなかったからでしょと言いたいですよ。黒字が目前だったのですからね。銀行は実際には損していないんです。売掛金を担保に取っていて、CWCはNTTグループに買い取られて破産せずに事業を継続し、売り上げはそのまま伸びましたので。

 ――債権者の怒りは厳しかった。

 損させたリース会社にお詫びするために歩いたら、ある社の社長に怒鳴りつけられました。頭を下げるしかないが、あまりにひどいので「長い付き合いじゃないですか」と言いたくなりましたよ。意外によかったのが三井リースの社長で「鈴木さん、素晴らしい事業なのに残念ですね」と言ってくださった。三井物産から来た方で腹が座っているのでしょう。
 オリックスは商売人でしたね。「鈴木さん、こういうこともあるでしょう。再起するときには、またぜひお付き合いさせてください」と言って、さらに「すぐ今からでもやりましょうか」ですからね。すごいなと思いました。ある銀行のトップは、お詫びをして帰るとき、「部下がいるから、きついことを言ったが悪かったな」と耳打ちしてくれました。こういう面白い人もいました。

 ――当時、CWCが会社更生法を申請して、親会社のIIJの信用も揺らぎました。このためライバルのNTTに支援してもらいましたね。NTTは出資してIIJの筆頭株主になりましたが、経営には口を出さないそうですね。

 その経緯はいろいろあってね。このままだとうちは本当に米国の会社になりかねなかった。現に買いに来ていました。IIJをまるごと買いたいという話で、僕は嫌でしたが、2000数百億円だったか、ものすごく高い値段を出してきた。政府でもIIJの動向が話題になって、NTTの当時の和田紀夫社長が「いざとなれば、NTTで全部面倒を見る」と、麻生太郎総務大臣(当時)もいる場で言ったらしい。

 ――鈴木さんは、NTTを凌駕すると言いながら、NTTがインターネット接続事業に乗り出すときに、強力な競争相手ができるというのに応援しましたね。それが今のNTTのOCNです。

 僕は頑張って応援しました。だってうちはインターネットイニシアティブという舌を噛みそうな、一般になじみのない名前でしょう。NTTがやりだせば、接続サービスの信用が一気に高まり、市場が拡大すると思ったのです。NTTがやりたいのならば、協力しましょうと応援したわけです。
 NTTがOCNをつくるときは大変だったんですよ。うちでシステムの運用方法などを研修してあげるなど協力したら、中小企業や個人の需要をそっくり取られた。でもパイが膨らんだから、いいんです。
 同業者が「鈴木さん、NTT参入反対を役所に一緒に言いに行きましょう」と言ってきたので、「役所に頼むくらいなら事業を止める」と断りました。「NTTが出てきて困るのなら、自分が止めたら」なんて言ったら、業界で村八分になって大変でした。

 ――後にIIJはNTTに支援されたのですから、「情けは人のためならず」ですか。

 どうかな。総務省はIIJが外資に買われるのを恐れていましたよ。NTTもそうだね。

 ――外資に買われるかもしれないと警告していたのですか。

 NTTはさすがによくわかっていてね。NTTの当時相談役(前社長)だった宮津純一郎さんに3月末くらいに、危ないと思ったのか呼ばれました。「鈴木さんよ、うちの研究所とIIJを一緒にしよう」と言うんです。「で、どうするのですか」と尋ねたら、「あんたが社長をやって、うちが64%の株を持つというのはどうかね」と打診されました。
 僕は「64%の株をお宅が取ったら、うちのエンジニアは辞めちゃいます」と答えました。「打倒NTTと言って集めておきながら、NTTと一緒にやると言って、しかもNTTが絶対的に管理する会社になったら、みんな辞めるでしょう」。そんな話をしたら「社員は関係ないだろう」と言うので「関係ありますよ」と、5時間くらいやって平行線で終わりました。

■森 一夫(経済ジャーナリスト、元日経新聞論説副主幹)
1950年東京都生まれ。72年早稲田大学政経学部卒。日本経済新聞社入社、産業部、日経BP社日経ビジネス副編集長、編集委員兼論説委員、コロンビア大学東アジア研究所、日本経済経営研究所客員研究員、特別編集委員兼論説委員を歴任。著書に「日本の経営」(日経文庫)、「中村邦夫『幸之助神話』を壊した男」(日経ビジネス人文庫)など。

最終更新:6/19(日) 18:00

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