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Fintech(フィンテック)100、1位の衆安保険を知っていますか?【アジア・新興国】中国保険市場の最新動向(20)

ZUU online 6月21日(火)17時20分配信

■要旨

KPMGと豪ベンチャー・キャピタルのH2 Venturesが発表した2015年の「Fintech100」において、中国の衆安保険(Zhong An)が首位となった。

今般のFintech100の上位50社には、中国企業が7社ランクインした。前回の2014年は1社のみであったが、今般はフィンテック先進国とされる英国と互角の戦いとなるなど、中国企業の大きな躍進に注目が集まっている。

衆安保険については、2015年に事業拡大として、米モルガン・スタンレー等、国内外の大手投資機関、ファンドから前述の9億3100万ドルの投資を受け、巨額な資金調達に成功した。これによって、衆安保険の企業価値は80億ドルに跳ね上がり、Fintech100での選出は、今後の事業の発展性が大きく期待されていることを裏付けた形となった。

■世界における中国フィンテック企業の台頭

KPMGと豪ベンチャー・キャピタルのH2 Venturesが発表した2015年の「Fintech100」において、中国の衆安保険(Zhong An)が首位となった。

Fintech100は、世界の金融サービス業界において最も有利にテクノロジーを活用し、既成概念を変革した実績のある企業上位50社と新興企業50社で構成されている(*1)。

Fintech100の評価は、(1)対象となる会社の資本が総額でどれくらい増加したか、(2)増加率はどれくらいか、(3)事業展開の地域やセクター(領域)の多様性、(4)消費者及びマーケットをリードしているか、(5)商品・サービス・ビジネスモデルの革新など、5つの指標に関するデータを分析して選出しているようだ。

今般のFintech100の上位50社には、中国企業が7社ランクインした。前回の2014年は1社のみであったが、今般はフィンテック先進国とされる英国と互角の戦いとなるなど、中国企業の大きな躍進に注目が集まっている(*2)。

また、フィンテック企業への投資も急増しており、KPMGによると、2015年の投資総額は前年のおよそ66%増の200億ドルにのぼるとされている。そのうち投資額が多い上位20社として、図表2の中国企業では、衆安保険が9億3100万ドルで2位、陸金所(Lufax)が4億8500万ドルで5位、趣分期(Qufenqi)が2億ドルで11位となった。

衆安保険については、2015年に事業拡大として、米モルガン・スタンレー等、国内外の大手投資機関、ファンドから前述の9億3100万ドルの投資を受け、巨額な資金調達に成功した。これによって、衆安保険の企業価値は80億ドルに跳ね上がり、Fintech100での選出は、今後の事業の発展性が大きく期待されていることを裏付けた形となった。

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(*1)KPMG Insight(vol.17)March2016によると、2015年12月に、KPMGとH2 Venturesが世界19カ国において、最も成功しているフィンテックイノベーター100社を発表。。なお、「Fintech(フィンテック)」は、財務省産業資金課(平成28年4月)の資料によると、「ITを活用した革新的な金融サービス事業」としている。
(*2)Fintech 100 ? Announcing the world's leading fintech innovators for 2015、FINTECH 100‐ Leading Global Fintech Innovators Report 2015より、上位50社のうち、英国は5社、米国は25社がランクインしている。
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■衆安保険-中国初のネット専業の保険会社

衆安保険は、2013年に設立された、中国初のネット専業の損害保険会社である。設立には通販最大手のアリババ、SNSに強みを持つテンセント、保険業界第2位の平安保険を中心に、大手旅行サイト(携程)など、ITベンチャーや既存の事業会社、異業種が参加した、オープンイノベーションによる運営となっている。

それぞれの強みである小規模企業や個人のネット顧客情報、オンライン決済機能、保険経営のノウハウを持ち寄り、融合させることで、国内ではいまやInsurance×Technology-インシュアテックをリードする存在だ。

また、今般のFintech100では、1位の衆安保険、2位のOscarの両社が保険事業で、両社を含む計7社の保険会社が選出されている。2014年は保険会社が1社も選出されなかったが、保険事業とITの融合の大きな進展が評価された。加えて、11位に選ばれた陸金所(Lufax)は、1位の衆安保険に出資をしている平安保険グループの傘下にあるスタートアップ企業でもある。

この点からも2015年は、中国のインシュアテックの普及やその成長ぶりを印象付ける結果となった。中国におけるインシュアテックの普及やスピード感は国内においてもその他の金融機関を凌いでいるといえよう。

その衆安保険であるが、ネット専業の保険会社として、上海の本部を除き、保険販売のための営業店舗を設置していない。また、保険によっては、ネット決済やスマホのアプリを活用して、加入から給付までの手続きを全てネット上で行なうことができる。

つまり、これまでの既存の保険会社とは異なり、拠点の開設や維持、保険の各種手続きにかかるコストを極力抑え、その分を保険料の引き下げや商品開発に向けることができる。商品について、同社のウェブサイトをみても、他社とは異なり、保険料と補償内容がシンプルかつ分かりやすく提示されている。

ネット保険を活用するユーザーの年齢が相対的に若く、学生、独身者、一人っ子同士の若い世帯などが中心となるので、彼らが求めるニーズを徹底的に絞り込んでいる。これによって、保険料は低額で、既存の保険会社ではあまり見かけない特徴のある商品の開発を可能にしているのだ。

衆安保険が販売している商品をみると、自動車保険が大半を占める損害保険会社の商品構成とは大きく異なる。衆安保険は、2015年5月に自動車保険の販売許可を得ているが、現時点では主に、オンラインで手続き等が完結する、ネット通販の取引リスクを対象とした保険の販売に軸足を置いている。よって、販売は株主であるアリババのネット通販を通じてが多い。

収入保険料ベースで最も売れている保険商品は、消費者向けでは、アリババ傘下のC2C(個人間取引)の淘宝ネット(タオバオネット)で購入した商品に欠陥や不満があり、商品を返送する場合、その送料をカバーする保険商品である(図表3で「その他」に該当)。この保険は、衆安保険の設立以降、主力商品として2013年、2014年の収入保険料全体のおよそ8割、2015年でも6割を占めている。

一方、ネット通販の事業者向けには、アリババ傘下のB2C(企業-個人間取引)の天猫(Tmall)へ出店する際に必要な保証金を補償する保険があり、衆安保険の収入保険料全体の1~2割ほどで推移している。

直近の2015年については、上掲の保証保険や、保険期間が1年間の傷害保険の販売が増加したこともあって、収入保険料は、前年のおよそ3倍となる22億8000万元となった。ただし、これは同年の損害保険の収入保険料総額の0.3%、業界内でネットを介した収入保険料全体の1.0%にあたり、その規模はまだ小さい。

商品は、前掲に加えて、オンライン決済口座の資金が盗まれた場合の補填を行なう保険や、中国のスマホメーカー小米のスマホの故障を対象とした保険など、ネットやスマホユーザーを対象とした多様性に富んだ商品が販売されている。

一方、医療保険分野では、重大疾病や女性特有の疾病、こどもの歯科治療を対象とした保険商品がある。加えて、遺伝子に係る諸検査の結果を反映させる保険商品など、その是非の議論は別として、中国社会が抱える問題に則した実験的な試みもしている。

ネット上に掲載している商品数は200を超え、同社が抱える保険加入履歴、オンライン決済口座の取引履歴やネット通販にかかるビックデータを分析、活用し、伝統的な保険商品の規制概念を変革する新たな商品を毎年100種ほど発売している。

また、経営状況については、2013年の設立当初は、3~5年での収支均衡を目標としていたが、実際は翌年の2014年に黒字化し、2015年には累損も解消している。しかし、収入保険料の大半を占める前述の返品送料補償保険の収益は、連続してマイナスとなっており、2015年についても信用保険以外は収益が確保できていない状況にある。

2015年は資産運用面で株式や債券の売却益が大きく貢献し、営業収入を押し上げたことで累損も解消したが、商品の収益構造については、見直す必要があると指摘されている。同時に、収入保険料の大半を占める保険商品、販売チャネルとも株主であるアリババへの依存度が高く、経営におけるアリババからの自立も課題とされている。

さて、そんな衆安保険の今後であるが、2015年の巨額な資金調達を背景に、積極的な業務展開を考えている。まず、これまで依存度が高かったアリババを通じた保険販売であるが、収入保険料ベースで8割程度であった依存度を今後、4割まで縮小する目標を掲げた。その分、医療保険分野などにおいてインシュアテックを活用した新たな商品の開発に余念がない。

例えば、新たに発売された糖尿病患者を対象とした保険は、スマホと同型のタッチパネル式の血糖値測定端末を通じて、定期的に血糖値のデータを取り、正常値であった場合や、適切な食事や運動によって、血糖値が規定値を下回った場合、保険金が一定額加算される仕組みとなっている(ただし、保険金に限度額を設定)(*3)。

日本でも被保険者の健康状態や喫煙歴などの情況に応じて保険料を割り引く保険商品もあるが、衆安保険のこの保険は、患者が症状を一定に保つもしくは改善の努力をすることで保険金が加算されていくという内容となっている。

この保険専用の血糖値測定端末を開発したのは、衆安保険の株主のテンセントである。これまでSNSに強みを持っていた同社は、現在、スマートデバイス(多機能端末-IT)と医療サービスとの融合を視野に入れた開発に力を入れている。

この端末で測定した血糖値のデータは、クラウド上で蓄積・分析され、テンセントが構築した医療ネットワークを通じて医師に、SNS(微信・Wechat)を通じて契約者に伝えられる。例えば、血糖値が異常値であった場合、測定から5~30分以内に、医師から本人に電話で医療指導が入る仕組みだ。

このように、保険加入の入口として、糖尿病の合併症による入院や手術への備えもさることながら、遠く離れた糖尿病を持つ両親の日々の健康管理のため、または測定を忘れがちなこどものためといった、患者の日常生活からアプローチすることで需要を取り込む作戦をとっている。

それと並行して、衆安保険は、新興フィンテック企業100社ほどと提携し、収益の柱となるような新たなビジネスモデルの模索も続けている。

現時点では、学生や若手のホワイトカラーを主なユーザーとし、ローン決済が可能なオンライン小売業である趣分期(Qufenqi)、P2P(ネットを介して個人間の資金の貸借を結ぶサービス)や融資のための与信情報を提供する閃銀奇異(Wecash)などと連携し、消費者金融の領域への進出を考えているようだ。

中国のP2Pや個人向けのローン決済などは、この数年でマーケットが過熱し、詐欺や倒産が多発した経緯がある。P2P業者はおよそ3000社まで膨れ上がっているとされている。当局はそのうち3割は何らかの問題を抱えているとしており、今後、貸出規制の強化、業界の再編や淘汰が進むと考えられる。

衆安保険は、この領域について課題はあるとしながらも、これまで培った保険加入顧客の健康や資産形成から得られたビックデータの解析や、諸リスクのコントロールといった保険分野の技術を、与信判断の事業にも応用していきたいと考えている。衆安保険はこれに先立ち、6月半ばに、上海に、新たなスタートアップのIT企業も設立しており、そのフットワークは驚くほど軽い。

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(*3)商品名は「糖小貝」、契約時に合併症を併発している場合は契約の対象外となる。期間は1年間。血糖値の測定は、スマホと同型の血糖値測定端末に、血糖値を測るセンサーチップ(試験紙)を差込み、無痛針による血液をセンサーチップが自動で採血し、測定する。測定結果は5秒で端末に表示される。テンセントが開発した端末の強みは、センサー(試験紙)が米国食品医薬品局(FDA)の認証を受けており、精度が極めて高い点、センサー1枚あたりの価格が市場にある一般のセンサーよりもはるかに安価(1枚0.99元)である点が挙げられる。保険による給付については、測定した血糖値が正常値等であれば100元支給され、支給額は1週間で1000元を限度に保険金が加算される仕組みで、最高2万元の保険金を支給。
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■エンドユーザーの味方、としてのフィンテック

そもそも、フィンテック普及の前提となるIT(情報技術)の成長について、中国では海外勢の参入が制限される中で、地場のITベンチャーによる自国のユーザーのニーズにマッチした開発が行なわれてきたという特徴がある。しかもこの成長が短期間で、急速に進んだという点が大きい。

ネットユーザー7億人という足元にある`国内'マーケットは、とりもなおさず世界最大のマーケットでもある。自国のユーザーのニーズに特化し、新たに開発した金融サービスがそこで受け入れられることが世界的な成長に直結しているのだ。

衆安保険の大株主であるアリババは、インターネット通販に端を発し、商品やサービスの代金を支払うオンライン決済(支付宝・アリペイ)、アリペイの口座内にある小額な資金からの投資が可能なオンライン金融商品(余額宝)の開発、また、オンライン決済口座での取引や与信情報を活用した小口融資(アリ金融)など、このわずか数年で、国内のITと金融サービスの融合を一気に推し進めた。

その際、取り込んだのは、既存金融事業の担い手である大手国有銀行が見向きもしなかった、膨大な数の中間所得層以下の個人顧客である。エンドユーザーの目線に立った、利便性の高い金融インフラを構築し、短期間で中国社会の金融に対する有り方を変え、新たな価値を生み出したのが成功の要因であろう。

また、中国においてフィンテックの普及が急速に進んだ背景には、中国政府や業界の反応の速さもあろう。中国政府は、IT業界からの提言を受け、2015年の政府活動報告で、「インターネット+」(インターネットプラス、中国語:「互聯網+」)として、ITと産業の融合を国の成長戦略の1つに決定した。

経済成長が減速し、これまでの成長戦略を見直す必要に迫られていた政府は、ITによって、既存の産業の新陳代謝をはかり、更なる経済成長を目指すとしたのだ。

金融事業はP2Pが急拡大し、リスクマネーの増加と同時に、業界における詐欺、倒産などの問題も取り沙汰されていたが、政府は2015年7月に「インターネット金融の健全な発展の促進に関する指導意見」を発表した。そこでは、ITによるネット決済、クラウドファンディング、消費者金融、信用情報のプラットフォーム構築などを奨励し、既存の金融機関と連携、共存することで、フィンテックの更なる普及、拡大を促した。

また、保険業界もその数日後に「インターネット保険業務の監督管理暫定弁法」を発表しており、その他の金融事業に先駆けて、インシュアテックの普及を表明している。現時点では、インターネットを専業とする保険会社は、衆安保険を含め合計4社まで増加しており、各社では第2の衆安を目指して、新たなビジネスモデルが日々、模索されている。

〔参考文献〕基礎研レター「ネット人口、世界最多の6.5億人―ネット専業の保険会社誕生」http://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=42384?site=nli(2015年4月21日)

片山ゆき(かたやま ゆき)
ニッセイ基礎研究所 保険研究部 研究員

最終更新:6月21日(火)17時20分

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