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X線天文衛星「ひとみ」はなぜ失敗したか(1) 「要求以上の要望」の罠

sorae.jp 6月21日(火)18時34分配信

単なる「人為ミス」で片付けない、JAXAの危機意識

2016年6月15日、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の奥村直樹理事長は定例記者会見で、X線天文衛星「ひとみ」の喪失事故について陳謝し、理事長、副理事長、宇宙科学研究所(ISAS)所長の3名の厳重注意と給与の一部自主返納を発表した。
チャレンジと失敗がつきものの科学研究で、失敗を理由に関係者が処分されることは極めて異例だ。しかし筆者は、これは今回の「ひとみ」喪失事故の本質を的確に表していると考える。というのも、処分対象は管理責任者であるJAXA役員であって、「ひとみ」開発チームではないからだ。
調査報告書を読んでも、科学的な研究の失敗を問題視するような点は見受けられない。むしろ宇宙開発に限らず「仕事の進め方」において陥りがちな、様々な問題点が赤裸々に書き出されている。このため、個々の研究者の「人為ミス」として片付けるのではなく、組織全体の運営の問題であるとJAXA上層部は考えたのだろうと、筆者は理解した。
そこで「ひとみ」喪失事故から見えてきたJAXA、ISASの組織的問題を複数回の連載で明らかにしていきたい。1回目となる今回は、「ひとみ」がゆっくりとした異常回転を始めた理由を見ていく。

異常回転を起こした「ひとみ」の設計

筆者は[X線天文衛星「ひとみ」、2重のトラブルで「自分で回った」と推定][X線天文衛星「ひとみ」、浮かび上がった3つの問題点]という2回の記事(リンクは記事末尾)で、「ひとみ」が回転を始めた理由について解説し、その問題点と疑問点を指摘した。その後JAXAが公表した調査報告書で、筆者が指摘した疑問点は全て説明された。個々のトラブルの詳しい内容はこれまでの記事を参照していただくとして、筆者が示した疑問点とその回答を見ていこう。

観測時間確保のため、急いだ姿勢修正

第1の疑問点は、衛星の姿勢を実測するスタートラッカ(STT)が不意にリセットしてしまい、衛星の姿勢を推定する慣性基準装置(IRU)が通常より大きな誤差のあるデータを出したにも関わらず、その値をそのまま採用して姿勢の修正をしてしまったことだ。自動車の運転を想像してみるといいだろう。「自分はズレているのではないか」と思ったとき、あわてて急ハンドルを切ると必要以上の操作になってしまうことがある。「ひとみ」は実際には大きくズレていなかったのに、必要以上の姿勢変更をしてしまった。
そのような設計をした理由は、「早く姿勢修正を終えたかったから」だった。「ひとみ」は天文観測衛星だから、望遠鏡を正しく天体に向けなければならない。姿勢修正に時間が掛かって観測時間が減らないよう、素早い姿勢変更をするよう設定したのだった。

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最終更新:6月21日(火)18時34分

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