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職場で「性同一性障害」のカミングアウトを要求、法的にどんな問題がある?

弁護士ドットコム 6月22日(水)10時23分配信

性同一性障害で女性的な名前に変更した、愛知県の40代の会社員が、職場でカミングアウトを強制されたとして、勤務先の愛知ヤクルト工場に計330万円の損害賠償を求める訴えを名古屋地裁に起こす。

報道によると、社員は戸籍上は男性だが、自分の性別は女性だと認識している。私生活では女性として過ごしていたが、職場では偏見を恐れて男性として働いていた。同僚から「性同一性障害ではないか」と指摘され、上司に同障害の診断書を出したが、社内で公表することや、女性として扱われることは望んでいなかった。

その後、工場側が、役員用の更衣室や来客用トイレの使用などを認める条件として全従業員への説明を求め、名簿などの名前もすべて女性的な名前に変更された。その結果、周囲に性同一性障害を知られることになり、朝礼で「私は性同一性障害です。治療のためご迷惑がかかります」と全従業員に説明することになった。会社側は、「従業員の前で説明することに同意があった」「適切な対応だった」として、争う方針を示しているという。

一般論として、性同一性障害を秘密にしておきたい労働者に、企業側がカミングアウトを求める、あるいは強制することは、法的にどのような問題があるのか。労働問題に詳しい波多野進弁護士に聞いた。

●「性同一性障害は、高度な私的情報」

「あくまで一般論として、使用者側が、性同一性障害の労働者に対して、その意に反して職場でカミングアウトすることを求める、強制することの法的問題を考えてみたいと思います。

性同一性障害は、極めて高度な私的な情報であり、原則として意に反して公表を強いることは許されないというべきです。

仮に公表を求めることが許されるとしても、それは公表以外に適切な手段がないなど、極めて例外的な場合に限られると考えます」

波多野弁護士はこのように述べる。なぜ、そう考えるのだろうか。

「近年、社会の理解が進んでいる状況にあるとは思われますが、性同一性障害は、まだ余りなじみのない、周囲の理解が完全に得られているとは言えない状況だと思います。

実際、今回のケースでも、労働者の方は、そのことを考えて、女性として扱われることも公表することも望んでいなかったようです。そうした中で、あえて、このようなことを、全従業員に説明したいという労働者はいないのではないでしょうか。

また、会社が職場において労働者に公表を求めなくとも、たとえば、役員室の更衣室の使用などは役員室を使用する会社役員に限定して、会社がその労働者の使用について理解を求めれば十分対処可能ですから、労働者に公表を求める必要性はないというべきだと思います。

仮に、労働者の意に反して、全従業員の前で、自身が性同一性障害である事実を説明させたのであれば、それは人格権などを理由に損害賠償の対象になる可能性があると考えます。

疾患に罹患しているという情報は高度なプライバシー情報であり、また、その情報を公表するかどうかは、本人が真に自己が決定できる領域(自己決定権の保障)の問題として、憲法上保障されていているからです(憲法13条)。

憲法は、国家と国民との関係を規律するものですが、その趣旨は、企業と労働者の関係にも及ぶケースがあります。企業においても、これらの権利を不当に侵害することは許されないというべきでしょう」

波多野弁護士はこのように述べていた。

弁護士ドットコムニュース編集部

最終更新:6月22日(水)10時23分

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