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綾野剛が語るモラルと不道徳 タブーだらけの問題作で「シンパシー感じる」

クランクイン! 6月24日(金)19時0分配信

 映画『凶悪』で強烈な存在感をみせた白石和彌監督が、綾野剛とタッグを組んだ『日本で一番悪い奴ら』が公開を迎える。実際にあった北海道警・警部の不祥事「稲葉事件」をモチーフに、警察の闇や人間の奥底に潜む弱さなどをえぐり出す問題作だが、「登場人物にある種のシンパシーを感じる」という綾野と白石に、本作の魅力や自身のピカレスク(悪漢)という題材に対する考えなどを聞いた。

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 本作の主人公・諸星要一のモデルになっているのは、2002年に北海道警で起きた「日本警察史上最大の不祥事」と呼ばれる「稲葉事件」稲葉圭昭氏だ。柔道の猛者であり、暴力団と親密な関係をもち、自身も覚せい剤取締法違反などで逮捕された人物。一見するとスマートな綾野と結びつかない印象があるが「稲葉さんの原作を読み、第一稿を書いたときは、まったくイメージする人がいなかったんです。でも稲葉さんご本人に会ったとき、骨太な印象はあったのですが、非常に色気があってモテる感じ。そちらの線でいった方が映画は成功すると思ったんです。そうしたら綾野君の顔が浮かんだ」とキャスティングの理由を説明する。

 そんな白石監督の言葉に「僕にこの役を振ってもらえたことがとても嬉しかった。なかなか来そうにない役です。でもこの役を演じられたおかげで『役者をやっています』ということを何の恥じらいもなく言えるきっかけになったと思います」と運命的な出会いを感じたという。

 本作に入る前から、綾野にとって白石監督は特別な存在だった。『凶悪』を観て強い共感を覚えたという。「白石監督は、悪さをしている人間の快楽主義的な部分だけじゃなく、ある種、人間として一番まっとうな部分も描いているんです。白石監督は、生きていることを選んでいない人間、本当にダメな奴は嫌いなんです。『凶悪』もこの作品も、本当の意味でのダメな奴ではない。そういう部分がとても僕には響いたんです」。

 実際に現場に入ってからも、白石組の魅力に取りつかれた。「白石組は唯一無二なんです。すごく役者に自由に芝居をさせてくれる中で、決定的な部分では手綱を握ってくれている。いつムチを叩くか、いつブレーキを掛けるか……そのセンスがとてつもない。その意味では諸星という人間は白石組が作ってくれた産物なんです。出来上がった作品をみたとき、どのシーンでも『こんな顔をしていたんだ』と自分がイメージしたものを凌駕していた」と舌を巻く。


 スタッフ、出演者ともに強い気持ちで臨むことができた題材。「僕は実録ものが続いていますが、それって小説やマンガと違って、分からないことが多いんです。事件を引き起こした動機や目的が何なのかを探していく作業=『人間って何なの?』という所につながっていく。とても魅力的ですよね」と白石監督は本作の魅力を語る。

 一方で、暴力シーンや覚せい剤など、現代社会では表現することもタブー視されることも多い。「今の世の中は本当に潔癖症。不倫したら人生全否定みたいな。この主人公もつかまった時の報道だと『なんてひどい奴なんだ』で終わってしまう。でも彼にも青春があったり、当たり前に人としての営みもある。表現する場としては、それを描くべきだし、僕らはインモラルなことこそ見て、色々なことを学んで来た世代。日本全体がこういうご時世、一人ぐらいこういうことをやっていいんじゃないですかね」と白石監督。

 綾野も「面白い映画です。笑いながら観てもらっていい作品。白石監督の言葉を借りれば『不道徳なものから道徳を学ぶ』。今は比較するものがないから、モラルという言葉も非常に曖昧になってしまっている。こういう不道徳な作品があるからこそ、道徳の意味が分かるんだと思います」と追随する。

 インタビュー中、何度も二人が口にした「こういうのって楽しいじゃないですか」という言葉。インモラルなものをエンターテインメントに昇華していくために、お互い最高のパートナーを得たと笑顔を見せる。「スコセッシとディカプリオみたいにね」と、今後何度も続くことを示唆した白石監督&綾野のタッグから目が離せない。(取材・文・写真:磯部正和)

 『日本で一番悪い奴ら』は6月25日より全国公開。

最終更新:6月24日(金)19時0分

クランクイン!