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【インタビュー】タイトルマッチを控えた北岡悟に直撃!「相手を消したいですね。存在を否定したい」

バトル・ニュース 6月25日(土)5時20分配信

 5月26日、DEEPライト級タイトルマッチを4週間後に控えた北岡悟(Lotus世田谷)を訪ねた。北岡がパンクラスイズム横浜をオープンして3ヵ月。サンドバッグなどの設備もすっかり整った道場で、北岡はジム会員たちとともに約1時間、補強で汗を流した。
「コンディションは“試合の4週間前”のコンディションですね。もう身体は自然に“そのときのベストの状態”が出来上がりますから。試合の前日には、勝手に体重が70.3kgになりますよ。全てが当たり前です」
 先ほどのキツイ練習内容を見ていれば納得できる。一般会員と一緒ではあるが、梅木良則コーチが次々と指示するメニューは、見ているだけで痩せる気がするようなものだった。寝転ぶ。起き上がる。跳ぶ。文字にしてしまえば単純なことが、こんなにキツイものだったとは。
 ともに汗を流したのは、P’sLAB横浜時代から長く続けている会員たちがほとんど。だから気心も知れ、余計な気を遣わずに集中できるのだろう。
「ジムを持ちましたけど、変わらずこういうサイクルに身を置けています。ジムを持つ前からやっていたことですし、ロータス(のみ所属)の時も、下の子たちのことを考えていました。パンクラス所属だった頃も、いろんなことがありましたね。本当にいろいろなことがありましたけど、今こうしてパンクラスの道場を持つことになっても、結局、突き詰めれば変わらないんですよ」
人一倍、変化の激しい格闘家生活を送ってきた北岡だが、芯の部分は何も変わっていないという。

 DEEP王者と、パンクラスの道場主宰者――。北岡の中では、どう共存しているのだろうか。
「毎回、僕が立ち上がる場所を設けてくれるDEEPというイベントの王者なのに、パンクラスの道場を持ったことに、違和感というか、分離していると感じる人もいるか知れませんね。でも、“だからこそハマる味”みたいなものなんですよ。レモン牛乳みたいな(笑)。それぞれの舌がありますから、マズイと思う奴は飲まないでいいですよと。でも、きっとこれを美味しいと思ってくれる人はいる。たとえば佐伯さん(※佐伯繁DEEP代表)は美味しいと思ってくれていると思うんですよ。それは“僕だから”はもちろんそうですけど、僕が今まで誰もやれなかったことをやって来たからだと思います。UFCに出たとか言って(いる人が)いても、僕と同じことはできない」

さて、6月26日開催のDEEP 76(後楽園ホール)は、今年に入って初めての試合となる。
「去年11月にKO負け(※パンクラス・ライト級王者決定戦、VS徳留一樹)しましたからね。KOじゃなかったら、もっと早く試合をしていたかも知れません。約7ヵ月ぶりですけど、試合間隔がそこまで開いたわけではないと思います。前がやり過ぎだったくらいじゃないかな」
4度目の防衛戦。北岡は「うーん、何度目だからどうだっていうことはないですね。試合は毎回、特別ですよ。テンプレみたいなコメントですけど」とサラリ。


 今回の相手は下石康太(BLOWS)だ。下石は2010年修斗ウェルター級新人王で「業師」の異名をもつ。昨年4月、元UFCファイターの吉田善行に完勝、今年3月にはDEEPライト級トップ選手の岸本泰昭を破り、北岡への挑戦権を手にした。戦績は16勝3敗、DEEPでは5連勝中だ。
下石の印象を訊くと、北岡は一瞬大きく目を見開いたが、すぐ元の表情に戻った。
「それは、これ以上言うまい」。
下石が挑戦者として上がってきたことにも、特に思うところはないと言う。
さらに下石が「よそ(※パンクラス)で負けた奴が王者のわけない」「よそで負けてベルトを返上しない方がおかしい」と発言し、北岡を挑発したことについて尋ねると、口をグッとへの字に結んだ。下石が4連勝中で勢いがあることに危惧があるかと尋ねても、こちらを大きく睨みつけるように無言を貫く。漂う緊張感。

少し方向を変え、どんな試合をしようとしているかを訊いた。北岡は表情を崩さないまま長考し、低くこう言い放った。
「……相手を消したいですね。存在を否定したい」

なんという怖い言葉なのだろう……。
ピリピリと音がしそうなくらい、空気が張り詰めた。

――それは、下石選手に格闘技を嫌にさせるということですか?
「……いや、もうこれ以上は言いません」
北岡の鋭いまなざしと、先ほどの補強を黙々とこなす姿が重なった。

「ビッグマッチのメイン。ありがたいですし、重い仕事だと思っています。でも、それは、僕の中では当たり前です、王者ですから。コンディションや体重が整っていくのと同じです。俺にしかできないことですから」。
しばらくの沈黙のあと、北岡が口を切った。

現在、月曜日から土曜日まで、ビッシリとスケジュールが詰まっている。自分の練習と、ジムでの指導だ。それも、ロータスのある世田谷区と、道場のある横浜を行ったり来たり。さらに出稽古もあり、移動距離はかなりのものになる。
「誰もがそういうことをしろとか、誰もが練習の中で背中を見せていけとか、そういうことは言いません。……でも結局、究極は関係ないんですよ。たとえ誰もついて来なかったとしても僕は変わらないし、僕のやることも変わりません。もちろん、道場を持ったからには責任は持ちます。でも、基本的には自分は変わっていないです」
先ほどの練習の様子が再びよぎった。決して器用ではない。しかし、ひたむきに打ち込む姿。ふと、棋士・羽生善治氏の言葉が浮かんだ。
「以前、私は、才能は一瞬のきらめきだと思っていた。しかし今は、10年とか20年、30年を同じ姿勢で、同じ情熱を傾けられることが才能だと思っている。報われないかもしれないところで、同じ情熱、気力、モチベーションをもって継続してやるのは非常に大変なことであり、私は、それこそが才能だと思っている」

格闘家はもちろん、勝つためにリングに立つ。しかし、勝敗は闘ってみるまでわからない。それでもリングに立たずにはいられない。
「UFCに行けなかった時点で、(日本での試合は)相手が格下になることは分かっていました。それでも僕は闘うことが好きだし、生きる術なんですよ。人前で闘って勝つということは麻薬みたいなものですから。そりゃ、負けたら辞めたくなることもありますよ。でも……そんな感じ」

昨年11月、パンクラスのベルトを巻けなかった。パンクラス所属時代にも巻けなかったあのベルトは、北岡が一番欲しかったものだったはずだ。
「あの後、もういいかなとも思ったんですよ。でも、やっぱり負ければムカつく。ネバーエンディングストーリーというか、ゾンビというか(笑)。それを美化するつもりはないですけどね。そこが麻薬なんでしょうね」
だから、北岡は闘う。しんどい思いを続けながら。自分を厳しく律しながら。
「勝つことにこだわらなかったら、つまらないし、薄っぺらい。そういう試合は見ていて冷めますね。恥をかくのを怖れないで、馬鹿になれなきゃ酔えない。昔の人は、すごくいいことを言ったと思いますよ。馬鹿になれとか、気合だとか。シンプルだけど、すごいなと思います。2007年、2008年(※パンクラスに所属し、戦極に参戦していた時期)の自分を振り返ると、悔しい思いもありますけど、あの時の熱量はすごかった。それを思うと、今の自分は、あの頃の自分と闘っている部分もありますね。だから負けられない。“あの頃の方が強かった”なんて言葉も含めて、否定してやりたいですね」

北岡ほど、リングで、ケージで、そしてプライベートで、自分をさらけ出してきた格闘家はいない。かっこ良さも、かっこ悪さも全て含めて。試合の時だけでなく、24時間全て、格闘家として生きてきた。北岡はそのために、誰よりも必死に闘ってきた。まさに「オンリーワン」の存在だ。
試合まで、いよいよ1日。北岡の濃密な生きざまを、その目で見てほしい。

(写真・文/佐佐木 澪)

最終更新:6月25日(土)5時20分

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