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なぜ、スイスに「高級時計メーカー」が集まるのか?

ZUU online 6月26日(日)11時50分配信

高級時計というと誰もがまずスイスを思い浮かべるほど、同国には有名な高級時計メーカーが軒を連ねている。ロレックス、オメガ、タグ・ホイヤーなど、広く名を知られたメーカーもあれば、オーデマ・ピゲ、ヴァシュロン・コンスタンタン、パテック・フィリップなど、「超高級」ブランドも数多く揃っている。

なぜスイスは「高級時計の国」としての地位を確たるものにするに至ったのか。そこには単なる「自然環境の利」だけではなく、歴史的な要因を見出すことができる。

■ルーツは宗教改革時代に遡る

スイスにおける時計づくりの歴史は、16世紀の宗教改革時代に遡る。ルター派が活躍したドイツに対して、スイスではツヴィングリが改革者としての活動を続けていた。ルターとの共闘を志すもかなわず、結局旧教派との争いで戦死したツヴィングリの後を受けて、プロテスタントの指導者としての地位を固めていったのが、後にジュネーヴ大学の創立者となるジャン・カルヴァンだった。

一方フランスでは宗教上の弾圧から逃れるために、ユグノーと呼ばれるプロテスタントが国外へと散っていった。カルヴァン派の影響を強く受けていたユグノーの多くは、カルヴァンの拠点となっていたジュネーヴを目指すことになった。

■宝飾技術と時計技術の合体

ジュネーヴでは元来宝飾細工が盛んだったのだが、新教の厳しい戒律は贅沢を禁じており、宝飾職人の大部分が職を失っていた。そこへ時計技術を持つユグノーが多数流入した結果、宝飾と時計の技術が合体することになる。

やがて時計づくりは、ジュネーヴからフランスとの国境に沿って長く連なるジュラ山脈一帯へと拡大し、18世紀には産業として定着するに至る。19世紀後半になると、それまでの家内工業を脱した近代的設備による工場生産も開始され、後日著名となるブランドの創業も相次いだ。スイスの精巧な機械時計は博覧会などで数々の受賞に輝き、その地位はますます確かなものとなっていった。

■スイス時計産業を直撃した「クォーツ革命」

20世紀に入っても、スイス時計産業は順調に業績を伸ばしていった。しかしその繁栄を根底から揺るがしたのが「クォーツ革命」だ。クォーツは、超小型の水晶発振器が発生させる安定した電気振動を使って時計を動かす仕組みで、日本のセイコーが1969年に世界に先駆けて腕時計を売り出し、その先陣を切っている。

クォーツにかかる技術革新は日進月歩で進化し、機械式よりはるかに高精度で価格も手頃なクォーツ時計が世界を席巻した。伝統に縛られ、クォーツ革命に乗り遅れたスイス時計産業は、壊滅的な打撃を受けた。

■スイス時計産業復興の立て役者「スウォッチ グループ」

プラスティックケースにクォーツ・ムーブメントを組み込んだ、革命的とも言える「スウォッチ」を欧米で大ヒットさせ、日本製のクォーツ時計からシェアを奪い返す役割を果たす立役者となったのは、ニコラス・G・ハイエックが創設した「スウォッチ・グループ」だった。

スウォッチ・グループの最大の特徴は、クォーツという新しい技術を駆使するのと同時に、伝統的な機械式時計技術の効率的な活かし方を実践して見せたことだろう。現在同グループは、かつてのムーブメント専業メーカーを大統合したETAを始め、傘下に多くの部品メーカーを抱えており、時計業界全体に強大な影響力を発揮している。大半のブランドが、同グループからETAムーブメントや部品などの供給を受けているのだ。

■スイスの時計メーカーを下支えするETAムーブメント

ETAムーブメントがありさえすれば、それにケースや裏蓋、ガラス、リューズ、文字盤、針、バンドなどを加えるだけで、機械式時計が完成してしまう。長年の歴史を持つ時計メーカーにとって、さほど難しい技術が必要とされるはずもない。信頼性と正確性が高く、調達コストが安いETAムーブメントの存在が、スイスにメーカーを集中させてきた要因のひとつでもあったのだ。現に時計職人が機械式時計をオーバーホールする際に、異なったブランド時計のムーブメントがほとんど同じだったという事例も少なくないという。有名なブランド時計であっても、「超高級」を除く製品のラインには、自社製ではないムーブメントを使っているケースも珍しくない。

■巧みなブランド戦略

ムーブメントの低価格化によって原価が下がったとしても、スイスの高級時計が市場価値を下げることはない。高い付加価値と利益率を保ったまま、高級時計としての評価を維持し続けている。顧客は決して製造原価などではなく、その時計を身に着けた時の満足感にこそ価値を見出しているのだ。

このようなブランド戦略において、スイスの高級時計メーカーは確固たる地位を築いている。高級時計となるのが必然であるかに見える地理的、歴史的な背景を、そのままブランドの力に変えていける力量は、やはり「さすが」と言うほかないだろう。(ZUU online 編集部)

最終更新:6月26日(日)11時50分

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