ここから本文です

鈴木IIJ会長、 「この国では、早すぎると大変」  評価してくれたのは海外

ニュースソクラ 6月27日(月)12時20分配信

「わが経営」を語る 鈴木幸一IIJ会長兼CEO(4)

――日本初のデータ通信専門会社として設立したクロスウェイブコミュニケーションズ(CWC)の挫折は、どのような教訓を残したのでしょうか。 (聞き手は森一夫)

 この国は、早すぎると大変だということですよ。CWCが1999年10月に始めた広域イーサネット(広域LAN)というサービスは今や、グローバルスタンダードになっています。正当に評価してくれたのは海外です。

――LAN(ローカル・エリア・ネットワーク=構内情報通信網)は本来、オフィスなど一定の施設の中で利用する通信網です。それを遠隔地間でも使えるようにしたものが広域イーサネットで、CWCが当時始めたサービスは世界初でした。

 悪いことは重なるもので、2つ造った大きなデータセンターが開店休業になってしまったのです。当初、NHKが放送した番組をここにためて、そうしたコンテンツをインターネットで配信できるようにするはずでした。しかし解決すべき問題があったうえに、積極的だったNHKの海老沢勝二会長が辞任されて、計画は頓挫しました。

――方向は間違っていなかったわけですね。

 今になって見ると、もしNTTコミュニケーションズがCWCの事業を買い取らずに、データセンターを引き継がなかったら、その後のNTTグループのインターネット関連事業の展開は遅れたでしょうね。向こうに言わせると「NTTの歴史上、もっともいい買い物だった」そうです。

――広域の情報通信網とデータセンターが組み合わさって、処理する情報をネットワーク上に置いていつでも引き出して利用できるようになる。いわゆるクラウド・コンピューティングが可能になるわけですね。鈴木さんは日本全体のためには貢献したと言えませんか。

 日本全体のために、やるつもりはなかったのですがね。結果的にNTTに貢献しました。あのころソフトバンクの孫正義さんが何度も電話してきました。「一緒にやりましょう」と。「一緒に」といっても、向こうがうちの株を持つわけですからね。

――CWCへの会社更生法の適用申請によって、IIJは信用が揺らいだためNTTに支援を仰ぎましたが、経営の独立性を維持しましたね。

 NTTはIIJに対するNTTグループの出資比率を31%という微妙な線で収めてくれました。NTTにすれば救済するのだから3分の1以下では嫌なわけですが、こちらとしてはそれでは困ると、粘り強く交渉した結果です。今は20%台になっています。

――意気消沈せずに立て直したのは、社員のために頑張らなければと考えたからですか。

 そういうことではなくて、この程度の失敗が何だと思い、社員にそう言ったのです。

――この程度の失敗ですか。

 CWCに会社更生法の適用を東京地裁に申請した日、CFO(最高財務責任者)が社員に事情を説明しながら泣いたと、翌日になって知ったのです。そんなバカなと思い、社員を集めて話しました。
 「これは一番誇らしい失敗だ」と。「IIJはこういう先進的なことをやる会社なんだ。僕は何も反省していない。やり方はまずかったが、やろうとしたことは正しい」と言いました。今、クラウドとかビッグデータとか言って、データセンターもつくられているわけでしょう。
「悪いけど、これから3年間は利益を確保しないと困るから、基礎技術の開発は止めよう。まず儲けようじゃないか」。さらに「下を向くな。誇らしい失敗なのだから」と、ぶちました。
 下期は黒字で、それからずっと黒字ですよ。みんなやりたい技術の開発を我慢して、売れるサービスにまい進したのです。
 その時、エンジニアに営業について行かせました。そうしてお客さんの相談相手になって、誠心誠意やったら評判がよくて、売り上げが伸びました。うちの技術はいいですからね。
 もちろん大変だったんですよ。CWCは米国のナスダックに上場していたので、経営破たんの経緯を説明せよと、SEC(米証券取引委員会)にも呼び出されました。当時、洗髪すると髪の毛がバサッと抜けました。家の前には記者が待ち受けていたので、毎夜、居酒屋に寄って時間をつぶしてから帰るような生活でした。
 そんな私をNTTの宮津純一郎相談役が見かねて、「安酒ばかり飲んでいると死んでしまうぞ。いい酒を飲ませてやろう」と料亭に呼んでくれました。2人でお銚子を20本以上も開けちゃいました。ああいう時は、酒をいくら飲んでも酔えない。顔がむくむだけでね。

――経営を見事に立て直して、3年前に社長を元財務事務次官の勝栄二郎さんに譲って、会長になりましたが、何か変わりましたか。

 会議など実際の経営は勝さんに任せています。僕は技術関係を見て、大きな方向づけをやっています。

――なぜ社長を代わったのですか。
 僕は審議会などに出ると喧嘩しかねないので、勝さんのようなまっとうな人が公の場に出るべきだと思ったんです。勝さんはバランスが取れているので、国の政策にもきちんと意見を述べて関与できる人です。

――昔、採用試験に使う適性テストを、幹部の皆さんが受けたら、鈴木さんだけがまともだったとか。

 他の連中と比べればです。みんな「協調性ゼロ」という結果が出たんです。こんなテストに通る人間ばかり採用したら、会社は駄目になるから、適性テストなんか止めてしまえと言いました。昔はユニークなのが多くてね。技術屋同士で会議して議論が白熱すると、ペットボトルを投げるんだから、危なくてしょうがない。
 米国のシリコンバレーに集まる連中は、開発に没頭すると1週間くらい徹夜しますよ。技術の世界で競争する人間は、1回、地獄を見ないと伸びないんです。今は普通に仕事をする若い子が増えましたね。

――でも時々、傑出した人も出るでしょう。

 そうそう、若い社員と酒を飲むと、中にすごいのがいます。若い人は何かのきっかけで化けるでしょ。仕事をしていて、そういうのに出会うのが楽しいですね。

■森 一夫(経済ジャーナリスト、元日経新聞論説副主幹)
1950年東京都生まれ。72年早稲田大学政経学部卒。日本経済新聞社入社、産業部、日経BP社日経ビジネス副編集長、編集委員兼論説委員、コロンビア大学東アジア研究所、日本経済経営研究所客員研究員、特別編集委員兼論説委員を歴任。著書に「日本の経営」(日経文庫)、「中村邦夫『幸之助神話』を壊した男」(日経ビジネス人文庫)など。

最終更新:6月27日(月)12時20分

ニュースソクラ

TEDカンファレンスのプレゼンテーション動画

地球外生命を宿しているかもしれない1つの惑星と3つの衛星
地球外にも生命はいるのでしょうか?NASA(アメリカ航空宇宙局)の惑星科学部門の部門長であるジェームズ・グリーンと一緒に、地球外生命を宿していそうな場所を太陽系内の中で探してみましょう。 [new]