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中国軍艦は日本の主権を侵害していない

ニュースソクラ 6月27日(月)12時30分配信

政府の強い抗議、中国のエスカレートけん制が目的か

 中国軍艦1隻が尖閣諸島周辺の接続水域に6月9日午前0時50分頃、進入した。これに対し日本政府は、深夜にも関わらず駐日中国大使を外務省に召致して中国軍艦の退去を求めるなど、これまでになく中国に激しく抗議した。だが、国際法に照らすと、中国軍艦は日本の主権を侵していない。日本政府の反応は、中国の脅威を国内向けに印象付けるための行動ととられかねないものだ。 

 国際法ではどう解釈すべきかみてみよう。
 海洋は、国家の領域に含まれる内水と領海、領域外となる接続水域、排他的経済水域及び公海に大別される。各水域の範囲は基線(通常は沿岸国の海岸の低潮線)からの距離で決まる。

 国連海洋法条約は沿岸国が基線から24海里までの範囲で接続水域を設けることを認めている。沿岸国が領海幅を12海里と主張する場合、その外に12海里幅の接続水域を設けることができる。

 また同条約は沿岸国が、接続水域内で自国の領土又は領海内における通関、財政、出入国管理又は衛生上の法令違反を防止するために必要な規制を行うことを認めている。

 従って沿岸国は、自国の関係法令の違反の疑いのある船舶を停船・臨検し、その確認後、接続水域外へ退去させることなどができる。
 
  ただしその対象は、商船に限られており、主権免除を享有する軍艦及び政府公船に対しては実施することはできない。

 このように国連海洋法条約の観点からは、今回の中国軍艦の行動は規制の対象にならないし、そもそも沿岸国の許可を必要としていない接続水域内の航行に「侵入」という評価は成り立たない。単なる「進入」である。

同様に軍艦を接続水域に進入させたロシアには抗議していないことから明らかだ。その意味で政府の対応は中露でダブル・スタンダードであったと言える。やはり、日本政府の深夜の抗議行動は、中国の脅威を印象付ける「政治行動」なのだろうか。
 
あえて日本政府の懸念を忖度するなら、中国軍艦の今回の行動そのものにあるのではなく、この行動を黙認した場合に中国が、尖閣諸島周辺の領海に進入させる船舶を、これまで海上法執行機関所属の公船から軍艦に代えることにあると思われる。軍艦を進入させることで、対立のエスカレーションを更に上げることを中国が目論んでいると政府は危惧しているのだろう。

相手国の行動のエスカレーションを黙認したことが、紛争に発展した前例としては、フォークランド紛争(1982年)が存在する。同紛争では英国が、アルゼンチンの意図を読み違え、同国の行動のエスカレーションに適切な措置を取らなかったため、アルゼンチンの抑止に失敗したと分析されている(防衛研究所平成23年度所指定研究成果報告書「フォークランド戦争史(その2)」)。
 
この轍を踏まないために日本政府が敢えて中国に抗議を行ったのであれば理解できる。
 ただし日本政府の態度として問題なのは、こうした背景を国民に説明していない点だ。あたかも中国が違法な行動を行ったと国民に誤解を与えているのは、日本国民の対中感情をいたずらに悪化させるのみと懸念される。

ところでそのエスカレーションの一例として、中国海軍と海上自衛隊が対峙することで以下のような「危機」を懸念する報道があった。完全にミスリードだ。
 
記事をみてみよう。
 「国際法上は、中国艦がFCR(火器管制レーダー)のロックオンを解除しなければ、射程内でのミサイル用FCR照射なら反撃開始、艦砲用なら砲塔が指向された時点で攻撃できる。だが、筆者が専門家と実施したシミュレーションでは、かくなる『戦況』に陥ってなお、日本政府は武器使用を許可する防衛出動は命じない」(産経新聞 2016.6.10/尖閣接続水域侵入 中国軍艦が突き付けた「中国領海法の強制順守」「自衛官を見殺しにする国内法」)
 
記事は、中国軍艦がFCRを照射しても、防衛出動が下令されていない海自は武器使用が許されないので、撃たれるのを待つだけということを主張したいようである。

 しかしながらFCR照射から火器が発射されるまで秒単位のタイムスパンなので、この状況ではそもそも防衛出動の下令など間に合わない。そこで、こうした事態に備えて自衛隊法には第95条(自衛隊の武器等の防護のための武器の使用)という条項が安保法制以前から制定されており、防衛出動の下令がなくとも武器使用はできるようになっている。

このように中国軍艦が海自護衛艦に攻撃を仕掛けてくれれば、反撃もできるのでそれなりに対処可能。だが、逆に対処が難しいのが、中国軍艦が何もせずに領海内に居座った場合である。

 国連海洋法条約は、沿岸国の要請を無視して無害通航に該当しない航行を続ける外国軍艦に対して領海からの退去を要求することを認めている。

 これに関連して日本政府は、昨年5月14日の閣議決定で、 無害通航に該当しない航行を続ける外国軍艦に対して、海上警備行動(自衛隊法第82条)を発令して自衛隊がこれに対処する方針を定めている。

 ところが軍艦等は、警察権の対象とはならないので、海上警備行動が下令された場合でも自衛隊が実施する措置は、原則として「遵守の要請」及び「退去要求」等に過ぎない〔「講義資料:関係国内法令」(2013年12月18日 海上自衛隊幹部学校運用教育研究部)〕。

 これは、我が国には、無害通航に該当しない航行を行う外国軍艦を強制的に退去させる措置を直接規定した法律がないためで(昨年成立の安保関連法でも新設されず)、強制力ある措置は取れないのだ。

 政府は、「切れ目のない対応を可能とする国内法制を整備」(平成26年7月1日の閣議決定)することを謳い文句に安保関連法制を昨年成立させたが、この法の切れ目を突かれたらどう責任を取るのだろうか。

桜井  宏之 (軍事問題研究会 代表 )

最終更新:6月27日(月)12時30分

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