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鹿島一筋15年半…元同僚内田篤人を「泣きそうに」させるほど慕われた青木剛の人柄とは

SOCCER KING 6月27日(月)6時45分配信

 最終節にまでもつれ込んだ川崎フロンターレとのデッドヒートを制し、明治安田生命J1リーグ・ファーストステージの優勝決定から一夜明けて、鹿島アントラーズDF青木剛は慌ただしい一日を送っていた。

 勝てば川崎の結果に関係なく、11月に行われる明治安田生命Jリーグチャンピオンシップへの出場権を得られるアビスパ福岡戦を2日後に控えた23日。鹿島の公式サイトで青木のサガン鳥栖への完全移籍が発表された。

「ファーストステージが最終局面を迎える大事な時期ですが、自分の気持ちをしっかりと伝えたかったので、このタイミングでの発表とさせていただきました」

 鹿島一筋でプレーすること15年半。GK曽ヶ端準、キャプテンのMF小笠原満男に続く古参選手となった青木は、公式サイト上でつづったサポーターへの熱い思いをこんな言葉で締めくくっている。

「僕は鹿島アントラーズに関わるすべての方々への感謝の気持ちでいっぱいです。残り一試合、アントラーズの一員としての責務を全うしたいと思います」

 福岡戦ではディフェンスリーダーの昌子源が累積警告で出場停止となる。3試合ぶりにベンチ入りすることが確実視されていたからこそ、入念に調整を重ねながら万全の心技体を作り上げたかった。

 愛してやまない鹿島の一員として迎える最後の一戦。人事を尽くしたいからこそ、新天地・鳥栖への引っ越しを控えながら、準備は手つかずの状態となっていた。

 優勝の余韻がまだ残る福岡戦後の取材エリア。最後に姿を現した青木が苦笑しながら残した言葉からも、チームメイトの誰からも慕われた、その誠実な人柄が伝わってくる。

「荷物は全くまとまっていません。最後までアントラーズの一員として、全力でやろうと思っていたので。これから荷造りをしないと」

 今季リーグ戦では6試合でベンチに入りながら出場機会はゼロ。優勝争いを演じるチームに絡めない日々が続いていた中で、先週になって鳥栖から完全移籍でのオファーが届いた。

「鹿島の一員として現役生活を全うしたい」
「一人のサッカープレーヤーとして、必要とされる場所でプレーすることで、もっともっと成長していきたい」

 相反する思いが脳裏でぶつかり合い、葛藤が生まれた中で、青木は新鮮な驚きを覚えていた。

「今回の移籍について考えている時は、濃密な時間だったというか。悩むというよりも考えに考え抜いて、その考えている時間が自分の中で本当に濃くて、いろいろなことに気づかされました」

 時間の経過ともに、後者が占める割合が大きくなっていく。自分の中で結論を出した直後、鹿島への深い愛を注ぎながら、出場機会を求めて京都サンガF.C.、そしてベガルタ仙台へ移籍し、現役引退後の2015シーズンからコーチとして鹿島へ復帰した柳沢敦氏へ決意を告げた。

「ヤナギさん(柳沢)も経験していることなので、すごくいい話をいただきました。今回の話を決めてからはヤナギさん以外にもいろいろな人へ伝えましたけど、誰からも反対されませんでした。みんなが『やるべきだ』と。今シーズンはJ1で出場機会がなくて、自分の状態に対してすごく悩んでいたんですけど、周りの人がそう言ってくれたことで、自分でも『まだ老け込む年でもない』と思えるようになった。ようやく状態が上向いてきたので、タイミング的にはすごくいい移籍だと感じています」

 迎えた福岡戦。2点をリードしたまま突入した後半アディショナルタイムで、青木と同様にファーストステージ限りで退団するFWジネイがMF遠藤康に代わって投入される。

 交代のカードはまだ一枚残されている。チームカラーのディープレッドに染まったゴール裏スタンドを発信源として、カシマサッカースタジアムに「ア・オ・キ!」の名前が響き渡るようになった。

 ゴール裏のエリアでウォーミングアップを繰り返しながら、青木は熱いものが込みあげてくるのを必死に抑えていた。直後に石井正忠監督から声がかかった。

「サポーターの方々から、あそこまで名前をコールしてもらえるとは思わなかった。すごくうれしかったし、胸が熱くなりましたけど、ピッチに立った時には2-0のまま試合を終わらせる気持ちのほうが強かった。残り何分かは分かりませんでしたけど、絶対に失点はしないと言い聞かせてピッチに入りました」

 時計の針は94分に差しかかろうとしていた。福岡が直接FKのチャンスを獲得した直後、DFブエノに代わって背番号5がピッチに入る。青木の名前を連呼していたコールは、万雷の拍手へと変わった。

 そしてFWウェリントンの強烈なキックがバーの上を超え、曽ヶ端がゴールキックの体勢に入った刹那だった。それぞれがポジションに戻る中で、小笠原がすれ違いざまに青木の手を握り締めた。その思いをキャプテンはこう口にする。

「俺たちがもっといい試合をしていれば、アイツももっと長く出られただろう、もっと一緒にプレーできただろうと思って。チームの状態がもっと良ければ、早目に青木を使う試合もあっただろうけど、そういう状況でもアイツは一生懸命やっていた。若い選手たちも、もちろん自分もそうだけど、アイツのそういう姿を見習わなきゃいけない。アントラーズを象徴する選手だし、本当に尊敬できる選手であり、尊敬できる人間なので。そういう選手がいなくなった後こそ、アイツが見せてきたものをみんなで引き継いでいかなきゃいけない」

 果たして、曽ヶ端がゴールキックを蹴った直後に試合終了を、そしてファーストステージ優勝を告げるホイッスルが聖地の夜空に鳴り響いた。青木がボールに触れた回数はゼロ。時間にして1分にも満たなかったが、センターバックを組んだ植田直通は万感の思いに胸を震わせていた。

「ウチが勝っている状況なら青木さんも必ず出てくると思っていましたし、最後は青木さんと一緒にセンターバックを組みたいという思いがあった。今まで本当にお世話になった方なので、すごく寂しい気持ちはありますけど、これからは自分が鹿島のセンターバックとしてやっていかなければいけない。青木さんは普段の生活からプロ意識が高かったし、そういうところを僕は見習っていた。プレーの面では、キックの質という部分で青木さんを超えようと必死に練習してきた。青木さんから吸収したものを、これからも出していきたい」

 開幕からレギュラーの座を不動のものとし、U-23日本代表に招集されて、トゥーロン国際大会に出場した関係で欠場した2試合を除いて先発フル出場した植田は、リーグ最少の10失点という数字にも満足していなかった。

「失点が2けたにいってしまったので、そこは改善しなければいけない。セカンドステージでは、もっと減らしていかないと」

 それは去りゆく青木へ送る、常勝軍団の最終ラインを背負っていく植田の決意表明でもあった。そしてもう一人、スタンドから青木へ熱い視線を送る男がいた。

 青木の「背番号5」が施された鹿島のユニフォームを身にまとい、青木本人からサインを試合後にしたためてもらったDF内田篤人(シャルケ)が無邪気な笑顔を浮かべる。

「青木さんの最後ですから当然(ユニフォームを)用意するし、着るでしょう。最初はショップで買おうと思ったんですけど、もう売り切れていて。ちょっと昔のユニフォームをショップの人に手配してもらいました」

 清水東高校から鹿島に加入した2006シーズン。クラブハウスでロッカーが隣同士となった青木からは、サイドバックとセンターバックでポジションも隣同士になる間柄だったこともあって、数多くのことを学んだという。

 インターネットを通じて青木の出場機会がゼロだったことを知っていた内田は、古巣のトレーニングに参加しながら素朴な疑問を青木に投げかけている。

「監督とは話をしているんですか?」

 返ってきた言葉に、改めて青木への尊敬の念を深めたとまた笑う。

「青木さんは『自分の力が足りないからであり、自分で乗り越えるだけだ』と言うんですね。やっぱり青木さんらしいなと思いました。多くを言う人でも怒ったりする人でもないですけど、常に自分に厳しくやっている。ああいう人と一緒にチームでプレーできたことを、すごく誇りに思います」

 福岡戦を翌日に控えた練習に、内田はFW大迫勇也(ケルン)とともに参加した。小笠原は「鹿島の伝統を伝えてくれた」と喜んだが、勇気とエールをもらったのは内田のほうだった。

 2人一組で行われた練習前のウォーミングアップ。たまたま青木と組んだ内田は、「今日が最後の練習っすね」と話しかけたという。

「青木さんが『そうだね』と言った瞬間から、俺、下を向いたままになっちゃって……。すごく寂しくなって、危うく泣きそうになった。俺もシャルケで7年目で、その前に鹿島に4年半いますけど、それを加えても青木さんの在籍年数にまだ足りない。それほどメディアで取り上げられる選手ではないし、プレーも相手を潰したり、ロングキックを蹴るという感じでしたけど、ああいう人が鹿島を支えていた。ボランチを含めていろいろなポジションができるし、タイトルを取るためには欠かせない人。試合の最後、サポーターの方々はよくぞ青木さんの名前をコールしてくれたと思います」

 試合後の優勝セレモニー。ジネイに続いて優勝トロフィーを夜空に掲げる役割を託された青木は、ゴール裏のスタンドへ駆け上がり、拡声器を通じて思いの丈をサポーターに訴えている。

「みんなが喜ぶ姿を見たくて、ここまで走ってきた。アントラーズと出会えて本当に良かった。本当に僕は幸せ者です」

 涙をこらえながら叫ぶ後姿を、小笠原が感無量の表情を浮かべながら見つめていた。最後にチームメイトの手で3度、胴上げで宙を舞い、再びサポーターからの「ア・オ・キ!」コールを浴びながらロッカールームへ姿を消した。そして取材エリアに姿を現した時には、晴れやかで精かんな表情を浮かべていた。

「鹿島でサッカーをやってきた中で、目標は優勝することで、じゃあ目的は何なのかと考えた時に、僕の場合は見てくれている人に喜んでもらうこと、感動してもらうこと、元気になってもらうことでした。ファンやサポーターの方が喜んでくれる姿は、試合が終わった時に本当によく見える。今日もそういう姿を見ることができて、自分としてはすごく喜びを感じました。これからもまずサッカー選手として向上心をもって成長していきたいですし、人間としての幅も広げていきたい。あとはここで得た経験というものを本当にこれからも生かして、鹿島に所属していたことに恥じない取り組みをしていきたい。昔の自分だったらかなり不安になっていたと思うんですけど、今は新しい自分に出会えるチャンスがすごく楽しみというか。早く馴染めるように、積極的に話をしてきたい」

 今週末には早くも明治安田生命J1リーグ・セカンドステージが開幕する。そして7月30日の第6節では鳥栖がホームで鹿島を迎え撃つカードが組まれている。

「鹿島は本当に強いチームだと思いますし、紅白戦だけでなく日々の練習でもそういう点はすごく感じている。しっかりと準備して戦いたいですね」

 敵として初めて臨む古巣戦へ――。武者震いする自分自身に新鮮な思いを抱きながら、青木は27日に慣れ親しんだ鹿嶋の地に別れを告げ、新天地へ向かう。

文=藤江直人

SOCCER KING

最終更新:6月27日(月)6時48分

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昔は街の広場で、現代はYouTubeで。歴史を通じ、公開処刑には必ず人だかりがつきものでした。人が処刑というものを、恐ろしく不快に感じながらも、つい気になって見てしまうのはなぜか。フランシス・ラーソンが人間と公開処刑の歴史、中でも斬首刑に焦点を当てて解説したこのトークは、気分の良い内容ばかりではありませんが、同時に興味をそそること間違いないでしょう。