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ドローンの自律飛行に見る、「人工知能の可能性」と「エンジニアの役割」

@IT 6月28日(火)6時10分配信

楽天が2016年4月25日に発表した、ドローンを活用した消費者向け配送サービス「そら楽」の実現を支えるなど、自律飛行ドローンの実用化を進めている自律制御システム研究所。“自ら考え、自らを制御する”自律制御はビジネス、社会にどのようなインパクトをもたらすのだろうか。

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 写真や動画の空撮をはじめ、物流、老朽化が懸念されるインフラのメンテナンスなど、ドローンの活用範囲は広がるばかりだ。政府もこの分野には注目しており、2015年12月に改正航空法を施行して無秩序なドローン利用の規制に乗り出すと同時に、「小型無人機に係る環境整備に向けた官民協議会」を設立。ドローンの活用や技術開発に向けたロードマップ策定を進めるなど、両面で枠組みを整えようとしている。

 そんな中、ドローンのさらなる活用を考える上で欠かせないのが、周囲の状況を把握し、機体自身が判断を下し、適切に飛行する「自律飛行」の実現だ。現在のドローンのほとんどは、ラジコン飛行機のような遠隔操作が前提となっている。つまり「操縦者」が欠かせない。だが、高齢化社会に向かう日本で人手不足が指摘される物流・運輸市場をはじめ、質量ともに本格的な活用を考えると、自律飛行は欠かせない技術となる。

 この分野に長年取り組んできたのが、千葉大学から生まれたスタートアップ企業、自律制御システム研究所(ACSL)だ。代表取締役CEOを務める野波健蔵氏は、千葉大学 野波研究室で、「ドローン」という言葉が生まれるはるか以前から、小型飛行ロボットの自律制御技術の確立に向けた基礎研究を進めてきた。

 その成果をビジネスに生かそうと2013年11月に設立したのが同社となる。2014年から同社取締役に就任し、自律制御のシステム開発を担う岩倉大輔氏は、その研究開発とビジネス推進をリードしている。

 実際、自律制御や複数の機体の編成飛行といった同社の技術は、市場からも注目を集めており、ビジネスシーンでの実用化が着実に進んでいる。例えば楽天が2016年4月25日に発表したドローンを活用した消費者向け配送サービス「そら楽」はご存じの方も多いのではないだろうか。

 こちらにもACSLが開発したマルチコプター型ドローンが活用される予定だ。千葉県はドローンの国家戦略特区に指定されており、今後他の配送にも活用していくと見られている。

 ACSLのドローンは、災害発生時の気象観測や現地調査など、人間にとって危険性の高い場所での作業を手助けするものとしても期待されている。その顕著な例が、福島第一原発事故における汚染区域の空間線量の測定だ。この実証実験ではGPSを使った遠隔制御によるものだが、人の立ち入りが困難で、しかもさまざまな機器や障害物があると予想される原発建物内の調査のためのドローン開発も進めているという。

 もちろん、ビジネス領域での活用も進展中だ。測量・計測や空撮、設備やインフラの点検、農業などがあるという。

 「例えば農業では、単なる農薬散布ではなく、これからの精密農業に活用されると考えています。今は農薬を撒いたらそれでおしまいで、フィードバックがありません。これに対し精密農業は、近赤外線カメラで生育状況を計測し、作物の生育状況をマップ化して、どこに農薬を散布すべきか、追加すべきかが分かるようにします。最大の効率で作物を収穫するといったことが可能になります」

●3つのレイヤーを制御し、非GPS環境での自律飛行を実現

 では、同社の自律制御技術とはどんなものなのだろうか?

 現在のドローンのほとんどは遠隔操作とGPS電波に頼って飛行している。だが、ドローンに対する期待が高まるにつれ、工場やトンネル、建物の中や周囲に障害物があるような場所など、「GPS電波の届かない場所でも飛ばしたい」というニーズが高まっている。

 こうした要望に答えるのが、ACSLが開発した非GPS環境下での自律飛行を実現する「SLAM(Simultaneous Localization And Mapping)」と、ドローンの自律的な安定飛行を実現する「Minisurveyor Autopilot」だ。

 これらは平たく言えば「障害物を避け、経路通りに進んでいくにはドローンをどうやって飛ばせばいいか、そのためにどのモーターをどれだけ回転させればいいかを計算している」。一種の人工知能といえるだろう。岩倉氏によると、ドローンの制御は大きく3つのレイヤーに分かれているという。

 「最も下位のレイヤーはジャイロセンサーや角速度センサー、加速度センサーを用いて求めた姿勢角に対して制御を行うといったもので、人間で言えば、脊髄反射や心臓を動かすといった、生き物として必要不可欠なコントロールに当たります」

 次のレイヤーが、GPSに代表される速度や位置のコントロールになる。これにより、速度や位置情報を把握し、機体の移動速度などを制御する。3番目のレイヤーは、障害物を回避しつつ、どのように機体が動くべきかを計算するものだ。

 「2番目のレイヤーと3番目のレイヤーはどちらも位置の制御に関わりがありますが、2番目のレイヤーは現在地近傍、3番目のレイヤーは大局的な挙動を決定するという違いがあります」

 同社ではこれを、機体に搭載されたレーザーセンサーを用いて実現している。

 「レーザーを使うことで、例えば『今、機体が向かっている方向には障害物がある』ということが分かる仕組みです。目的地を目指すために、障害物を迂回できるルートを計算し、障害物をよけて飛んでいくといった処理を行います」

 SLAMはこうした「複数のレイヤーにまたがる処理」をサポートするために重要となるソフトウェア(※)で、野波研究室で蓄積してきた成果を活用したものだという。野波研究室ではもともと、マルチローターヘリコプターに比べて、より制御が難しいシングルローターヘリコプターの制御技術を研究してきた。複雑なリンク機構の制御に関するノウハウを活用することで、よりシンプルなマルチローターヘリコプターの制御が可能になっているという。

※SLAMは位置の計算を行い、SLAMの出力データを使う別プログラムが軌道生成を行っている。また、SLAMと軌道設計は負荷の大きい処理のため別ユニットで行っている

 「SLAMは知能というよりもセンシングの技術となります。SLAMはドローン周辺の障害物環境と、ドローンの現在位置を与えてくれるので、大局的なルート決定に役立ちます」

 ドローンという言葉が生まれる以前からマルチローターヘリコプターの研究に取り組んできた岩倉氏は、「マルチローターヘリコプターは機構がシンプルなので、持ち運びできる機材が大きくなり、機体の重量以上のものも持ち運べます。より高性能なコンピュータやセンサーを本体に載せることもでき、もっと自由度が高くなります」と、その可能性の高さを語る。

●モデルベース制御の採用で、状況の変化に強い制御を可能に

 一方、ドローンを安定飛行させるAutopilotのプログラムは、2008年ごろからこつこつと岩倉氏が開発を進めてきたという。C++で書かれたソースコードは何十万行という量に上るそうだ。

 その特徴は幾つかあるが、他社がほとんど採用していないのが「モデルベース制御」だという。「どの程度モーターを回転させると、機体がどのように動くか」という事柄、要は「“機体制御に最も不可欠な要素”だけを抽出した物理モデル」を数式化、つまりモデリングし、そこから制御アルゴリズムを導き出して実行していく。さらに、実際に機体を飛ばしてみて「センサーで取得したデータ」と「数式モデルから導き出した予測値(例えば角速度など)」とを比較し、重なっていれば「使えるモデル、いいモデル」であると確認できる、その上でそれをAutopilotに実装していく。

 「最も古くから、かつ広く用いられている制御手法『PID制御』では、さまざまなパラメータを入力しては、試行錯誤を繰り返す中で最適なパラメータの組み合わせを求めていきます。モデルベース制御もPID制御と同じくフィードバック制御の1つですが、こちらはうまくいけば試行錯誤を繰り返す必要がありません。モデリングという作業を正確に行うことができれば、そのモデルを使って、“機体を良好に制御できるパラメータ”を一発で求めることができるのです」

 これは「現実のビジネス」に適用していく上で、とても重要なポイントになる。例えば、PID制御の場合、機体の構成を少し変更したり、より重たいものを搭載したりしているにもかかわらず、変更前のパラメータを用いて制御していると、正しく制御できず飛行時に機体が揺れたりするという。

 「そのようにおかしな飛び方をしている時には、飛行ログのデータを取ってパラメータを再設計する必要があります。人があれこれ数字を調整しては飛ばし、まだおかしければもっと調整して……ということを繰り返す必要があるわけです。しかし、このモデルベース制御を採用したシステムでは、それが自動的に行えるようになっています。例えば5kgなら5kg増えたときに適したパラメータを一発で出し、機体をすーっと飛ぶ状態に戻すことができます」

 もう1つポイントに挙げるのが「非線形制御」だ。ドローンの飛行状況には、例えば無風の中のホバリング状態など、安定していて制御しやすい“非線形性の弱い”状態と、突風など予測できない外乱に見舞われるような“非線形性が強い”状態がある。Autopilotはこの非線形性に対応し、外乱に強いことも特徴だという。

 「機械や現実世界に対してアクションを行い、その結果を基に、次のアクションを修正していくことの繰り返しです。人間が何かを持つときなどに、無意識のうちにやっているような制御を自動的に行っているのです」

●「制御」は脳の一番深いところに当たる

 ただ岩倉氏は、現時点での“機械にできることの限界”も指摘する。

 「自分の考えでは、制御とは人間で言うと脊髄のような、脳の一番深いところにある機能に当たるものだと考えます。人間は熱いものに触ると反射的に手を引っ込めますが、それはそうした制御が遺伝子に組み込まれているからです。しかし制御システムの場合、学習で覚えさせてもそこまで素早い反応はできません。AIや機械学習ではそこまでの性能を出せないと思うんです」

 例えば、ドローンの“きりもみ飛行”など、非線形性が極めて強い機体の動きでも、人間は何回も繰り返し飛ばすことでコツを体に覚えさせ、いずれは意のままに操ることができるようになる。だが「これは非常にすごいことで、これをコンピュータのプログラムで表現しようとすると、とても難しい」という。

 一方で、「ディープラーニングや機械学習が活用できる領域もある」と期待している。例えば前述したモデリングの領域だ。制御する対象が複雑になればなるほど、モデリングは難しくなっていく。そうしたところに機械学習が役立つ可能性はあるという。また「きりもみ飛行などはプログラミングが難しい(数式化が難しい)ので、機械学習が優位性を出しやすい分野」だという。

 「ただ、これも数十年~100年といったスパンで見ていけば変わるかもしれません。ベテランパイロットの動きを覚えさせてその通りに飛んだり、繰り返し飛んでいるうちに自然にその動きを自己修正し、より高性能な飛び方ができるようになる――そうしたコンピュータが自ら学び、人と同じことができるまでになる時代が、いずれ来るでしょうね」

●人工知能に代替されない“価値”の創造が大事

 岩倉氏は、人工知能の進展に伴い、こうした傾向があらゆる業務に影響を与え得ることも示唆する。特に「プログラミング一般も同じトレンドに飲み込まれるだろう」と予測する。

 「例えばプログラミングにも、ほとんど“製造作業”に近いものと“創造”に近いものがあると思いますが、前者は次第にいらなくなるかもしれません。仕様書をコードに変換するだけの作業は将来的に人工知能にとって代わられ、いずれは不要になると思うんです。実際、そう考えている人も少なくないのではないでしょうか」

 特集第1回で紹介したように、人口知能はあくまで人をサポートするものであり、凌駕するものではない。だが、それは「仕事を奪われない」ことと同義ではないということだろう。

 「時代はどんどん変わっていき、身に付けた技術もいずれは陳腐化していきます。それがいかに高度なものでも人工知能に代替される可能性はあります。だからこそ常に最新の技術をキャッチアップし、“人工知能に取って代わられにくい価値”を生み出す力を身に付けていくべきなのではないかと考えています」

 製造、流通・小売り、農業、建設、社会インフラなど、自律制御型マルチコプターの実用化は着実に進んでいる。岩倉氏らの考える“価値”は、さまざまなビジネスフィールドで大きく花開こうとしている。

[高橋睦美,@IT]

最終更新:6月28日(火)6時10分

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