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「今や雑誌は情報ではなく“雑貨”」――女性向けWebメディア「MERY」が紙の雑誌を創刊した理由

ITmedia ニュース 6月28日(火)11時19分配信

 ファッションや美容に関する情報を集約した女性向けキュレーションサービス「MERY」。2013年4月のリリースから約3年経ち、月間ユニークブラウザ数(PC、スマホ累計)は2000万を超える規模に成長している。

【画像】ファッションやメイク、雑貨など、誌面は全体的にパステルカラー

 20~30代の女性がユーザーの約7割を占め、アクセスの9割がスマートフォンからだ。15年7月にリリースしたアプリは、今年5月に500万ダウンロードを超えた。

 若い女性に高い認知を持つ「MERY」が、Webを飛び出して紙の雑誌を創刊したのは、今年3月。雑誌がWebやアプリを展開する例や、流行のWebサービスやアプリがムックや雑誌の特集で取り上げられるケースはあっても、サービス名を冠した雑誌を自ら立ち上げるのは珍しい。キュレーションサービスとしてユーザーによる投稿も多く、スマホでの閲覧に最適化したメディアをどう“雑誌化”するのか注目を集めた。

 第1号は、カバーガールに有村架純さんを起用し、ピンクを基調としたガーリーな雰囲気だ。Web掲載時に人気の高かった記事コンテンツをさらに掘り下げるなど、デジタルコンテンツとの連携を強く意識した作りになっている。Instagramを思わせるフィルターのかかった写真や「#ピンクの力を信じてる」「#スニーカーでヘルシーに」「#いつもドキドキしてたいの」などハッシュタグのような目次も特徴的だ。

 Webのユーザー層と同じ20代の女性をターゲットに3月末に発売し、5万部がほぼ完売した。他業種から参入して創刊する雑誌としては「比較的挑戦的な部数」だが「せっかく出す以上、これくらいのボリュームで売りたかった」と、プロジェクトを束ねた野崎耕司コンテンツ事業部長は話す。大きな反響を踏まえ、8月には第2号の刊行も決定した。

 出版不況が叫ばれる今、なぜ雑誌にチャレンジしたのか。Webと雑誌の“誌面”作りの違いとは。Webメディアと雑誌は共存できるのか――発刊に至る経緯や今後の展望を聞いた。

●Webメディア運営のノウハウを生かして

 「MERY」が生まれたのは2013年。「女の子の毎日をかわいく。」をテーマに、女性向けのファッションや美容、ヘアアレンジの情報にフォーカスして成長してきた。

 当初は流行のファッションやヘアアレンジを画像やテキストでまとめるキュレーションサービスとしての面が強かったが、規模が拡大するにつれ、企画からスタイリング、撮影まで一貫して社内で行うオリジナル記事に力を入れてきた。雑誌の創刊も、この企画力・編集力の向上があったからこそ実現したという。

 創刊に向け、プロジェクトが始動したのは昨年秋ごろ。サービスリリース時から「いつか雑誌も」という展望はあり、ファッション誌出身の編集者などが複数人編集体制に加わったことで、具体的に形になった。

 「MERYを日々楽しんでくれているユーザーに、もっと好きになってもらうために」を掲げ、これまでWeb/アプリで発信してきた記事で反響が大きかったテーマを誌面に反映した。「毎日かわいいを育てる22のこと」という特集名や内容をはじめ、各コーナーのタイトルのつけ方や写真や文章の表現なども、時々刻々とページビュー(PV)やSNSで反響が表れるWebサービスの運営で得られたノウハウを生かしているという。

 「これまでWebで完結していたものを違う見せ方にすることで、メディアとしてさらに大きく育て、存在感を高める一歩にしたかった。数字で見えているMERYの読者の興味関心に寄り添いつつ、ものとして愛着が持てる雑誌という形で、Webではできない表現にチャレンジしたいという意欲を持って始めた」(野崎部長)

 野崎部長は、Webと雑誌の最も大きな違いは「表現の幅」と振り返る。「雑誌の強みはやはりビジュアルの訴求力。スマホ画面より大きなサイズで、自由なレイアウトで、大判の写真や見開きを駆使して表現できるのは大きな違い。情報の取捨選択の仕方や考え方が変わってくる」(野崎部長)。

●「雑誌は今や雑貨」 情報量よりも“世界観”

 誌面を作る上で強く意識したのは、MERYの“世界観”を伝えることだった。プラットフォームとしてのMERYは、あえてテイストを定めず、女の子らしいものからカジュアル路線、オフィスワーカー向けまで多様な趣味嗜好の読者に向けたコンテンツを提供することを心がけている。雑誌では逆に、想定読者層を狭め、これまで配信してきたコンテンツの中でも特に反響の大きい“ガーリーでスウィート”な雰囲気を全面に押し出した。

 表紙は薄いピンク色に金色のハートマーク。コーナー名も「ピンクの力を信じてる」「ミルキーカラーで甘~く」などガーリーな文言が並ぶ。猫のイラストがあしらわれたアクセサリーやグッズを集めた「猫パケアイテム大集合」は、Webでも人気が高かった企画だ。ビジュアル的にも色味の淡いもの、ソフトフォーカスがかかったものなど、Instagramのフィルターのような加工が施された写真も多い。

 SNSのような身近さを残しつつ、意識したもう1点は“憧れ感”。表紙の有村架純さんをはじめ、AKB48の島崎遥香さん、高畑充希さんなど、テレビや雑誌で活躍するタレントやモデルを多数起用している。「有村架純の顔になりたい」というコーナーがあるように「まねしたい」「こうなりたい」という気持ちを醸成するような構成になっている。

 スマホアプリが「すぐにできる」「私でもできる」「明日使える」ことを意識し、行動に移すことを前提としたものであれば、雑誌は自分の興味や関心、好みを形で示すもの――雑誌でイメージを抱かせ、具体的な方法や手順はアプリで見てもらう。メディアミックスを前提にアプローチを変える見せ方は、Web/アプリからスタートしたからこその発想だった。

 例えば「高橋愛に学ぶ足もとカジュアルのススメ」では、誌面では高橋さんの私物のスニーカーを使って全身をスタイリングし、Webでは高橋さんの私物の詳しい紹介や、具体的な「靴紐の結び方」のアレンジにフォーカス。まねしやすく噛み砕いた解説を掲載することでメディア間の回遊を促し、Web上で10万PVを超えるヒット記事になった。他にも、モデルの撮影オフショットはWeb記事で公開、誌面に登場したファッションアイテムをアプリ上で販売――などの連動施策を積極的に取り入れた。

 即時性を求めるWebコンテンツと異なる“憧れ感”を一層高めるべく、デジタルでは作れない質感にもこだわったという。500円という値段ながら、厚めのしっかりとした紙に金の箔押しも施された「安っぽくない」見た目に仕上げている。

 「気になったことはスマホですぐに情報収集できる今、紙の雑誌で速報性や詳報性を高めてもメディアの特性として合っていない。読者の女性が部屋に置きたいと思える“雑貨”を作りたかった」(野崎部長)

 雑誌単体で高い収益性を求めているわけでなく、ビジネスモデルとしてはあくまでWeb/アプリで展開する記事広告を中心に据えているからこそできるアプローチとも言える。一方、雑誌は単にこれまでのWebの延長というわけではなく、雑誌に掲載した広告の中には、初めて出稿するクライアントからのものもあったという。

 「女性向けメディアとしての『MERY』自体の認知度は上がってきており、媒体としての価値を感じてもらっていても、Web記事のフォーマットではやりにくいというブランドもあった。大判のビジュアルでアピールできる雑誌広告にはまた違ったニーズがあり、雑誌を発刊したことで、読者だけでなくブランドやメーカーに対しても、媒体の色を深く理解してもらえた実感がある」(野崎部長)

●Webメディアと雑誌は共存するか?

 創刊号は、大都市圏を中心に全国に配本し、5万部がほぼ完売。想定以上のスピードで売り切れ、「買えなかった」という声も寄せられるほどだったという。

 野崎部長は成功の理由の1つとして、発売前から読者の関心を高める参加型の施策をWebで展開していたことを挙げる。付録のフォトプロップス(写真撮影に使用する小道具)は、デザイン案を事前に公開し、約5万票のユーザー投票で決定した。Web/アプリのユーザーに発売を告知しながら、自らが選んだ・関わったものとして興味を持ってもらい、購入につながった手応えがあるという。

 「Webのコンテンツ作りで常に意識しているのは、実用性があり、行動につながること。記事1つ1つだけではなく、メディア全体として『明日も見に来よう』と信用してもらう、愛着を持ってもらえるように日々作ってきたことが雑誌の反響にもつながったのでは」(野崎部長)

 反響を受け、8月には第2号の発売が決定。今後も継続的な刊行を予定している。発刊ペースは今後調整を検討していくという。

 編集中の次号では、読者参加型企画やWeb/アプリ連動のコンテンツをさらに増やす予定だ。誌面で紹介したコーディネートに近いものを“プチプラ”(リーズナブルな価格)で紹介、メイクの手順やヘアアレンジのコツを動画で――など、デジタルコンテンツとの連動のパターンも広げていきたいという。

 出版不況が叫ばれる中、雑誌作りにチャレンジしたのはシンプルに「役割として、紙でしか表現できないことは必ずあると思ったから」(野崎部長)。Webメディアとしてある程度の認知度があり、熱心なファンもついている状態でスタートできたメリットは大きく、Webの特性と雑誌の魅力を組み合わせることで表現の可能性を広げ、相乗効果を生んでいければと話す。

 「雑誌離れと言われるが、モデルやタレントのスタイルブック(ファッションやメイクを含めたライフスタイルを紹介する本)は人気を集めているし、今の読者が雑誌や本の形でほしいものは、情報よりも“好きになれる世界”なのだと思う。Webが中心にあるからこそできるアプローチや見せ方はまだあるはず」(野崎部長)

最終更新:6月28日(火)11時19分

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