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「君住む街へ」 歌手活動46年の小田和正 “あの日”に戻る歌声

カナロコ by 神奈川新聞 6月28日(火)12時3分配信

 神奈川県横浜市出身の小田和正(68)が、24カ所48公演を行うツアーで全国を巡っている。46年の歌手活動を凝縮した3枚組みのベスト盤「あの日 あの時」を引っさげて行われる公演では、小田が初めて書き下ろした「僕の贈りもの」(1973年)、「さよなら」(79年)などオフコース時代の名曲から、ソロの大ヒット作「ラブ・ストーリーは突然に」(91年)、最新曲「風は止んだ」(2016年)までたっぷりと歌唱。年を重ねても変わらない澄んだ歌声は、聴き手を一瞬で、“あの日”に引き戻す。

 小田はベスト盤用に選んだ曲を年代別に並べた。「この曲たちを残しながら、その時その時を生きてきた」と実感した。

 コンサート冒頭では、ツアータイトルでもある「君住む街へ」をBGMに、これまでの道のりを振り返る写真をスクリーンに映していく。1枚目はアポロ11号が月面着陸に成功した1969年。左手にギターケースを持ち、街を歩く20代の横顔だ。少し長い襟足が、当時の流行を感じさせる。

 客席にタンバリンを投げ込む後ろ姿は、82年6月30日の日本武道館(東京都千代田区)。5人のオフコースとして最後に舞台に上がった一夜に、客席からため息がもれた。97年は監督を務めた映画「緑の街」の撮影風景。2000年は、雨が降った大みそかに横浜八景島シーパラダイス(横浜市金沢区)で行ったカウントダウンライブ。年代が“いま”に近づくにつれ、期待が高まっていく。

 そして-。階段を駆け上がり姿を見せた小田を、割れんばかりの拍手が包む。

 「あまりの声援で迎えてもらったので感激しています」。満員の客席をいとおしそうに見つめた。

 新しいアレンジを加え、50曲中、8割を再録音したベスト盤はオリコン週間アルバムランキング(5月2日付)で1位を獲得。5月16日付でもトップの座を手にし、ソロ名義で初のアルバム1位返り咲きという偉業を達成した。発売約2カ月で売り上げは33万8千枚。上半期のアルバム部門で2位にランクインしている。

 シングル「群衆の中で」で1970年にデビューしたオフコースは、17枚目のシングル「さよなら」までヒットに恵まれなかった。いまでは映画主題歌やCMなどで小田の曲を耳にすることが多いが、「眠れぬ夜」の歌唱後、「この曲が生まれた1975年は、タイアップもなくて、新しい曲を待ってくれるファンはほとんどいなかった。曲に向き合い、一生懸命書いていた」と当時の思いを告白した。

 ツアーのリハーサルを行っていた4月。16日未明に起きた熊本地震をテレビで知った。2011年の東日本大震災の際は、直後に予定していたツアーを延期することを選んだ。今回も「このままやっていいのか」と悩み、アルバム発売日の3日前、小田は発売とツアーを先延ばしにできないか、いったんは関係者に申し出ていた。

 自分たちにできることは何か。悩んだ末、自粛・延期ではなく、気持ちを届けるため、前進することを決めた。

 初日公演が行われた4月30日の静岡。終盤に披露した「君住む街へ」では花道を歩く途中、〈死にたいくらい辛くても〉の声が出ず、足が止まった。左の頬を伝う涙を、そっと拭った。流れていく演奏。うつむいた小田の背中を押そう。8千人が一つになり、小田に声を送った。

 〈ひとりと 思わないで〉

 大合唱が会場に響く。マイクを外し、「ありがとう」と頭を下げた小田に、客席からも「ありがとう!」の声と、拍手が届けられていた。

最終更新:6月28日(火)20時2分

カナロコ by 神奈川新聞