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清武弘嗣の新天地、セビージャ…指揮官に就任する“名将”サンパオリ氏とは

SOCCER KING 6月28日(火)17時0分配信

 UEFAヨーロッパリーグで3連覇を飾ったセビージャが、2016-17シーズンからの指揮官として前チリ代表監督のホルヘ・サンパオリ氏を招き入れることに成功した。欧州での実績こそ皆無だが、一時はチェルシーも獲得に動いていたほどの名将との契約にこぎつけるあたり、モンチSDの辣腕は健在といったところだろう。

 セビージャは先日、日本代表MF清武弘嗣との契約合意を発表したばかり。今後、日本国内でさらなる注目を集めるのは間違いなく、だからこそ新指揮官の人物像についても気になるところ。果たしてサンパオリは、セビージャでどのようなチーム作りを進めるのか。そして、清武をどのように起用していくのか。筆者は2012年、サンパオリが当時、率いていたウニベルシダ・デ・チレを10日間ほど取材した。その経験をもとに、サンパオリの人となりを紹介したい。

 サンパオリは1960年3月13日生まれ、56歳のアルゼンチン人指揮官である。選手時代はニューウェルス・オールド・ボーイスの下部組織に所属していたが、わずか19歳の時にケガを理由に引退し、指導者への道を志すこととなる。指揮官として彼が崇拝するのは、同胞であり、同じニューウェルス出身のマルセロ・ビエルサ監督だ。「私にとってビエルサは世界最高の指揮官」。そう公言してはばからないサンパオリのチームには、「ビエルサ・イズム」が色濃く反映されている。

 練習は非公開で行われ、単独インタビューも受けてくれない。監督室にこもって分析やデータ収集に多くの時間を費やす。ウニベルシダ・デ・チレのフロント陣は「ちょっと変わった人物」とサンパオリを評していたが、一方でファンサービスには気さくに応じるし、選手たちも彼に厚い信頼を寄せる。チームの番記者たちの中にも彼のことを悪く言う人はおらず、直接対話の唯一の機会である記者会見の場を、心から楽しんでいるように見えた。

 その記者会見では筆者もいくつか質問をさせてもらったが、その際に発した「ボール奪取は守備的な作業ではなく、攻撃的な作業。そう考えれば、いったん攻撃が終わってもすぐに次の攻撃を仕掛けることができる」という言葉は彼のサッカー観を端的に表しているようで、非常に印象深かった。

 2014年ブラジル・ワールドカップや昨年のコパ・アメリカでチリ代表の試合を見た方ならイメージできると思うが、サンパオリが率いるチームの選手たちはとにかくよく走り、球際での激しさを見せる。運動量で相手を圧倒し、ハイプレスで相手からボールを奪うと、鋭利なショートカウンターで一気に敵陣へと迫る。これこそサンパオリが求めるスタイルであり、選手たちは常にゴールへの意識を働かせながらプレーしている。だからこそ、連続した厚みのある攻撃が可能になるのだ。

 球際の激しさと鋭い攻撃。これはセビージャの伝統的な戦い方にも共通する。スペイン屈指の熱狂度を誇るサポーターは、上品なプレーよりも闘志溢れるプレーを好む。その点を考えると、サンパオリのスタイルはセビジスタたちにすんなりと受け入れられる可能性が高い。

 サンパオリは戦術的な柔軟性も持ち合わせており、相手や戦況によって4-3-3や3-4-3、4-4-2など、様々な布陣を使い分ける。そのため、選手にはあらゆるフォーメーションや戦い方に対応し、複数のポジションをこなせるポリバレント性が求められる。

 また、ビエルサがアルゼンチン代表時代にアンドレス・ダレッサンドロやパブロ・アイマールを、アスレティック・ビルバオ時代にアンデル・エレーラやイケル・ムニアインを重用したように、サンパオリも「走りながら創造性を発揮できる選手」を好む。チリ代表を率いていた時は、ホルヘ・バルディビアやアルトゥーロ・ビダル、アレクシス・サンチェスといった選手たちが、ハードワークをこなしながら彩りに満ちた攻撃を披露するという、攻守両面における活躍を見せていた。

 柔軟性、運動量、創造性。清武はこの3つを兼備しているという点で、サンパオリに重宝されやすいと考えられる。清武とほぼ同じタイミングでセビージャへの加入が発表されたパブロ・サラビアとポジション争いを演じるだろうという声もあるが、サンパオリの手にかかれば両者の共存は十分に可能だ。また、彼のチームは運動量の激しいプレーが求められるため、長いシーズンを戦い抜くためにはメンバーを固定したままだとどうしても限界が生じる。ましてやセビージャは来シーズン、UEFAチャンピオンズリーグも並行して戦わなければならない。そう考えると、清武もコンディションが万全であれば多くの出場機会を与えられるはずだ。

 もう一つ、清武にとってのアドバンテージがあるとすれば、サンパオリがすでに日本人を指導した経験がある、という点だ。サンパオリは2006年、ペルーのコロネル・ボロネーシという中堅クラブを率いていたが、この時チームに所属していたのが、元柏レイソルの澤昌克(現デポルティーボ・ムニシパル/ペルー)だ。たった一人の選手を日本人の基準にしてしまうことの乱暴さは承知しているが、澤もまた複数のポジションをこなし、運動量が豊富で、多くの得点シーンに絡める選手。サンパオリも主力として重用しており、日本人に対してポジティブなイメージを持っているのは間違いないだろう。

 ウニベルシダ・デ・チレ時代に国内リーグ3季連続優勝を果たし、2011年のコパ・スダメリカーナでは無敗優勝を達成。この実績が評価されてチリ代表監督に就任すると、それまで低迷していたチームを見事に建て直し、2015年のコパ・アメリカで優勝した。彼の手腕があれば、セビージャがさらにレベルアップし、さらに魅力的なチームへと変貌を遂げる可能性は高い。清武にとっては、南米屈指の名将からサッカー観を吸収し、多くを学べる絶好のチャンス。その中で清武自身も大きく成長し、主力として活躍する姿を見せてほしい。

文=池田敏明

SOCCER KING

最終更新:6月28日(火)17時21分

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