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発売日決定からトリコの秘密、そしてVRの印象まで。上田文人氏インタビュー【E3 2016】

ファミ通.com 6月29日(水)7時1分配信

文・取材・撮影:編集部 世界三大三代川

●発売日決定からトレーラーの謎までをうかがう
 2016年6月14日~16日(現地時間)、アメリカ・ロサンゼルスにて世界最大のゲーム見本市、E3(エレクトロニック・エンターテインメント・エキスポ)2016が開催。先日の“PlayStation E3 2016 Press Conference”で2016年10月25日発売と発表された、プレイステーション4用ソフト『人喰いの大鷲トリコ』について、ゲームデザイン及びディレクションを務める上田文人氏にインタビューをする機会をいただいた。なお、インタビュー中にたびたび出る“デモ版”とは、『人喰いの大鷲トリコ』の冒頭が遊べる、メディア向けのもの。そのデモ版の流れや、プレイ感覚について書いたプレイリポート(→コチラ)も合わせてお読みいただければ、よりインタビューが深く読めるはずだ。ついに発売まで半年を切った本作へのインタビュー。『ICO』、『ワンダと巨像』ファンならずとも、お読みいただきたい。

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――ついに発売日が発表されました。発売が近づいた実感があると思いますが、ご感想はいかがですか。

上田 ようやく発表できたことでホッとしているのが半分と、発売日に向けて時間が限られているので、大きなトラブルがないといいな、というのが半分です。自分もそうですが、制作スタッフも体調に気をつけて、あとは粛々と作っていくだけかなと。

――あとは詰めの段階と。

上田 そうですね。レベルデザインは確定していて、モニターテストでバランスを見ながら調整しているところです。それと、グラフィックだったり動きだったりをブラッシュアップしていく、磨き上げの段階ですね。

――長い開発を経て、発売が発表されたわけですが、特別な想いはありますか?

上田 発売日が発表できてホッとしている反面、開発期間が非常に長かったので、寂しい気持ちがありますね。ずっとトリコと向き合ってきて、開発しているのが当たり前と思えるくらいに長かったので、もうすぐ手を離れていくことを考えると、少し寂しいなと。もちろん、新しいことをやりたいという気持ちもありますが、いまはまだトリコが巣立っていく寂しさのほうが、自分だけでなく制作スタッフの中でも大きいと思います。

――長年寄り添ったペットが、親元から離れてユーザーさんの元へ旅立つような。

上田 まさにそうですね。『ICO』も『ワンダと巨像』も自分がゲームプレイヤーとして“こういうゲームが遊びたいんだ”という想いが制作するうえでのモチベーションになっていて、『トリコ』も同じ想いからスタートしているので、実際に遊んで喜んでくださるお客さんがたくさんいるといいなと、祈りながら作っているようなイメージです。

――開発期間が長く、かなり多くのスタッフが関わったと思いますが、上田さんの中でこれだけはブレないようにと注意した部分は?

上田 ゲームの内容に関しても、またそのビジュアルスタイルも、PS3のころからほとんど変えていません。もちろんPS4の恩恵を受けて解像度や、細かなCGのシェーダーなどがよくなっているんですが、もともと目指したものをそのまま作っています。スタッフに対しても、目指したものはブレさせてはいません。

――では、当初から目指していたものがそのまま実現できていると。

上田 はい。

――序盤が楽しめるデモをプレイさせていただいたんですが、『ICO』のようなパズル要素が入ったゲームデザインをベースに、トリコの身体に『ワンダ』の変型コリジョン(地形の判定)が入っていたりと、2作品が融合したイメージを感じました。

上田 『ICO』も『ワンダ』も制作期間が長くかかったこともあって、つぎこそは短く作ろうという計画だったんです。当初は、2年半くらいの予定でスタートしていました(苦笑)。『ICO』や『ワンダ』の反省点として、技術的課題がとても大きかったんです。たとえば、『ICO』だったら手つなぎだったり、『ワンダ』だったら変型コリジョンだったり。それに非常に時間がかかったので、つぎはいままでに培った技術やメカニックをうまく使うことで新たな技術的障壁をなくし、映像演出やゲームのチューニングにより多くの時間をかけた、集大成的な作品をできるかぎり短期間で完成させたい、というのが当初の予定でした。結果としては、いろいろトラブルもあり、長くかかってしまったのですが。

――では、上田さんの中で、『ICO』、『ワンダ』、『トリコ』と三部作のようなイメージはあるのでしょうか。

上田 何をもって三部作と呼ぶかは難しいのですが、たとえば『ICO』と『ワンダ』にはなんとなくつながりがある印象をお持ちだと思うんですが、当初『ワンダ』は『ICO』とはまったく違うゲームを作りたいというところからスタートして、リソースコストだったり、たくさんある制限を踏まえたうえで最適解を出した結果、あのような形に落ち着きました。それで、『トリコ』も同じように、メカニックや技術は同じものを使いつつも、『ICO』や『ワンダ』と違ったまったく新しいゲームにしたいとスタートして、自然に現在のようなスタイルに落ち着いているんです。

――なるほど。結果的に同じようなイメージになっていくのは、上田さんの作家性などが影響しているのでしょうか。

上田 作家性というよりは、自分の中での最適解を目指した結果なのかなと。たとえば、遺跡のような世界や、霧がかった雰囲気などでは、レベルデザインを構築するうえで、見せたいビジュアルよりも、ゲームプレイヤーが迷わないように、行きやすいように設計していくことが優先されるんですが、たとえば、こちらから光が射しているほうがプレイヤーは目的の場所へ向かうだろうと考えると、そこに窓が必要になります。ほかにも、“ここに階段やハシゴがあってもおかしくない、不自然ではないような世界観”を考えたとき、ああいう遺跡になったりするんですね。ふだん生活している現実の世界や街とはかけ離れているんだけどリアリティーを感じる、というちょうどいいバランスの最適解として、遺跡や霧がかった雰囲気のような世界を作っているのではないかと、自分の中では思っています。

――現段階で、ここだけは体験してほしいというポイントは?

上田 全部余すところなく体験してほしいと思いますが、体験し終わったときに、トリコの肌触り、触れた感触のようなものがプレイヤーの中に残ってくれるとうれしいなと思います。それはイコール、トリコの存在ということだと思います。トリコという動物が生きていた、存在していたと感じてほしいですね。

――冒頭だけでも肌触りを感じられました。

上田 ありがとうございます。冒頭の展開だと、トリコにつかまったりはできますが、まだ安全な状態で少年とトリコが存在している状態です。ゲームが進むと高いところに移動したりと、もう少し不安定な場所が出てくるので、もっとしがみついたりと、トリコの存在が重要になってくる。そこを体験してもらうと、触感などがより伝わるのかなと思います。

――トリコにつかまったとき、皮がたるむような、巨像よりも柔らかい、生物らしさを感じました。それはやはり変型コリジョンの技術などが進化しているのでしょうか。

上田 はい。つかまったところを少し下にずらしたり、少年の重量を考慮してリアクションしたりというのは努力して表現しているところですね。たとえば、高いところから着地したりすると、つかまっている場所だけじゃなく、その周辺にも波及したりと、細かい調整を行っています。

――トリコの警戒度によってつかめる位置なども変化があるのでしょうか。

上田 いえ、そこは変化させていません。警戒度によって耳が立っていたり、寝ていたりといった変化はありますね。

――トリコでいちばん驚きだったのが、尻尾からの稲妻発射でした。『トリコ』の世界観に、こういうある種未来的なものが出てくるとは正直驚きました。

上田 ああ、そうですか。海外のメディアさんからも似たような感想をいただくことがあって。でも、自分たちにはそんな意識はないんですよ。意外性という意味で受け取っていただけるといいかなと思います。ゲームを進めていくことで、はっきりとした答えは示しませんが、なぜそうなっているのかはなんとなく伝わるかなと思います。

――楽しみにしています。あと、ギミックの仕掛けで、トリコが湖に入って水かさが上がるという部分に驚きました。トリコを誘導して自然に影響を与えるような、ああいったギミックは多くあるのでしょうか。

上田 今回は水だけでしたが、ほかのステージにも水がありますし、それ以外のものもあります。

――ああいう風にトリコと連携を取りながら進んでいくと。

上田 はい。ただそれだけでなく、少年はトリコと比較すると身体が小さいので、少年だけしか進めないステージもありますし、少年単独で障害をクリアーしないといけないというところもありますね。意識したのは、そのバランスをあまりよくしないようにすることでした。

――あえてよくしない。

上田 それが、1、2、3、1、2、3と順番に来ると、自分もゲームプレイヤーとして予想がついてしまいますし、自分は意外性がないなと思ってしまうタイプのプレイヤーなんです。

――なるほど。遺跡がバランスよく謎を用意してくれるわけもないですからね。

上田 まさにそうです。あえて不規則なバランスにすることで意外性を感じてもらえたらなと思います。

――でも、あえてバランスを崩すというのも難しいと思うのですが。

上田 デモの最後に開けた風景が見えるんですが、あれはただの遠景ではなく、後に訪れる場所だったりするんですね。そこから見える、いまいる場所もきちんと整合性が取れたうえで作られているので、意外性を持ちながらレベルを解剖していくというのは、難しいというかたいへんでしたね。

――冒頭の映像に、いろいろな生物が書かれた図鑑のようなものがあって、そこの最後にトリコが書かれていましたが。

上田 “トリコという動物がいてもおかしくないよね”という演出でああいう本を使っていて。あれは実在する図鑑なんですが、トリコだけクロスフェードすることで、本当にいたかもしれない動物として描きました。

――今回、いままでの『ICO』、『ワンダ』よりも、人物の表情として少年のフェイシャルモーションがくっきり表現されていますが、あれは絵コンテなどを切られたのでしょうか?

上田 そうですね。PS3で開発していたときからですが、解像度が上がったことで表情が見えるので、そこはよりしっかり作らないといけないなと。

――表情が加わると、情報量が増えますよね。

上田 そうなんですが、少年はあくまでプレイヤーの分身ですから。少年の意志、画面の中のキャラクターの意志はあるんですが、メインはトリコで、少年が本当に自分の意志で表情豊かに感情表現をするかというと、そこは最低限に留めています。

――ゲームのボリューム、プレイ時間はどれくらいでしょう?

上田 いまモニターテストで、実際にプレイしてもらって、進行に迷うところはないか、不親切なところはないかとチェックしながらボリュームをカウントしているんですが、迷えば迷っただけ時間がかかってしまうので、それがどれくらいのところに落ち着くかはわからないんです。ただ、『ICO』や『ワンダ』と同じくらいのボリュームを目指して作っています。

――プレイをさせていただいたとき、偶然謎が解けることもありましたが、そういった偶発性もある程度考慮されているのでしょうか?

上田 そういう偶然性が起こるゲームになってほしいなと思って、トリコが自律的に動いたり、物理演算のエンジンを使っていたりします。ですから、偶然が起こって解けることはうれしいです。モニターテストをやっていても、すごく悩まれる方もいますし、サクサク解く方もいますし、どれくらいの塩梅に落ち着けるかは最終調整次第ですね。

――公開された映像で、もう一匹の大鷲が出てきたことに驚きました。もう一匹の大鷲は若干黒く見えました。

上田 あの映像以上のことは実際にプレイして知っていただきたいと思いますが、トリコだけではないということはわかってもらえるかなと。色はライティングの影響で、明確に黒いということではありません。

――あと、トリコが最初に出会ったときは角が折れていたのが、トレーラーでは生えているように見えたのが気になったのですが……。

上田 ああ、よく見ていますね(笑)。それも徐々にプレイしていくと、どういう意味を持っているかがわかるんじゃないかなと思います。

――先ほど、『トリコ』が終わったら新しい作品を……というお話が出ましたが、今後の作品を作るとして、VRなどは興味はありますか?

上田 あります。『ICO』も『ワンダ』も『トリコ』もそうですが、おおもとにあるのは、テレビの向こうにあるリアリティーのある世界を表現したい、そこにいるキャラクターや世界を魅力的に見せたいというもので、それがビデオゲームを作っているモチベーションなんですが、昔からその究極系がバーチャルリアリティーだと思っていたんです。ただ、このタイミングでOculus RiftなどのさまざまなVR機器が出てきてブームになるというのはまったく想定していませんでした。いろいろなビジネスの問題はあると思いますが、もともと目指していたのは仮想空間の臨場感や体験だったので、個人的にはやってみたいですね。

――今回のE3で発表されたVRタイトルで、気になったものはありましたか?

上田 まだ情報をちゃんと追えていないので、どういうタイトルが発表されたのかはわかりませんが、『バイオハザード7』はやってみたいですね。

――VRで挑戦してみたいジャンルは?

上田 ジャンルから考えるということはなく、臨場感だったり、不自然じゃない世界を追求していった結果、たとえばそれがシューティングになるかもしれないし、ホラーになるかもしれないし、はたまた違うものになるかもしれないし、まだわかりませんね。さっきの世界観の話ではないですが、そのときの持っている表現力で最適なものを選択するという形なので、ジャンルや時代背景、世界観からはスタートしないんです。

――E3のプレイステーションブースに大きなトリコがいますが、あれがVRなら目の前に立っていることも実現できますよね。

上田 ああ、そうですね。今回のE3版は、体験されましたか?

――いえ、今回のはまだ体験していなくて、東京ゲームショウなどでは体験させていただきました。

上田 ああ、あれは、ゲームのAIを日々アップデートしているので、つねに最新のトリコがあそこに来るんです。今回は樽を持ってトリコに近づくと、トリコが樽に触れて、樽が震えるんですね。それがもしかしたらVRにマッチするんじゃないかなと思います。実際には存在しないんだけれど、VRの中に樽も存在していて、樽を介して、トリコの存在がリアルに伝わるんじゃないかなと。ただ、『トリコ』はVR対応は予定していません。

――なるほど。上田さんのVR作品もぜひ体験してみたいです。それでは最後に、発売を心待ちにしていたファンにメッセージをお願いします。

上田 『トリコ』の開発期間は想定外に長かったんですが、そのあいだ、僕だけでなく、制作スタッフのモチベーションが維持できたのは、『ICO』、『ワンダと巨像』のHD版が出て、それを遊んでくださった方々のリアクションがとてもポジティブだったからだと思うんです。あと、『トリコ』は開発期間のわりに、情報がそれほどたくさん出てきたタイトルではなかったと思いますが、それでも忘れずに、皆さんが期待してくださったところが、自分たちのモチベーションになったかなと。応援してくださってありがたいなと思っています。

――10月25日を楽しみに待っております! ありがとうございました!

最終更新:6月29日(水)7時1分

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