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『Alliance of Valiant Arms』無課金でも日本一になれる“AVAれ祭”が復活! 夏以降の展開とeスポーツの未来について井上Pにインタビュー

ファミ通.com 6月29日(水)17時2分配信

インタビュアー:編集部 ミス・ユースケ

●およそ2万文字のロングインタビュー
 ゲームオンが運営するPC用オンラインFPS『Alliance of Valiant Arms』(以下、AVA)。正式サービス9年目の本作では国際大会も積極的に開催されており、日本のeスポーツ事情を牽引するタイトルのひとつと言っていいだろう。

 そんな『AVA』ではあるが、2016年は少し運営の方向性を見直すらしい。何を目的に、どういう方向に舵を切るのか、日本運営プロデューサーを務める井上洋一郎氏に話を伺った。

 井上氏はブーム以前から実直に対戦ゲーム(eスポーツ)と向き合ってきた人物だ。そんな井上氏に「現在のeスポーツブームをどうとらえているのか」という質問もぶつけてみた。『AVA』ファンも、プロゲーマーを目指す若者も、業界関係者も、必読。

●AVAれ祭が復活! 複数のタイプの大会を開催する意味
――夏以降、どういう方向性で展開していくのか、いま検討していることを教えてください。

井上 2015年からの流れを引き継ぎつつ、大会を中心に『AVA』を盛り上げていくのが基本となります。ただ、昨年の反省点として、国際大会中心にし過ぎたという部分がありました。大きな大会で優勝を狙うハイレベルな層に意識を向け過ぎたんです。今年はもう少しハードルを下げたい。それと、世界でトップを目指す道筋とは別に、日ごろからプレイしている方にとっての目標となるイベントを日本国内で設けたいんです。ですので、2015年は実施できなかった“AVAれ祭”を復活させ、年末開催に向けて動き始めています。

――いわゆるミドル層の方々の目標としての、AVAれ祭復活ということですか?

井上 大会に参加する人を増やしていきたいんです。トップの人たちだけが参加できる国際大会ばかりをフィーチャーすると、その下の人が育ちません。蚊帳の外に感じてしまって、いっしょにイベントに参加する感覚もなくなってしまう。そういう人たちが目標としやすい舞台も必要だと思うんです。

――そうか。そもそも「世界一になりたい」と「大きな舞台に立ちたい」は別の感情ですもんね。全員が国際大会に出たがるとは限らない。仕事の都合もある社会人プレイヤーなんて、とくに。

井上 『AVA』は対戦ゲームですから、世界を目標にするわけではないにしても、真剣に勝ちを狙ったほうがおもしろいと思います。そういう感情にフォーカスしたイベントや支援を行わなきゃいけないだろう、と。そこで、多くのプレイヤーの目標として、参加しやすくて、達成感があり、誰もが主役になれる舞台としての“AVAれ祭”を提供したい。

――AVAれ祭の舞台に立つには、どのようなルートを辿ればいいんですか?

井上 AVAれ祭に参加するための予選として、オンライン大会を開きます。オンラインで腕を競って少数のチームを選出し、決戦の場をAVAれ祭に設定する流れを作ろうとしています。国際大会の予選的な“AVARST”という大会が年に2回くらいあるのですが、国際大会のレギュレーションに沿っているので、課金で手に入る銃器も多く使えるんです。これも参加ハードルが高い理由のひとつ。
 そこで、今回のAVAれ祭は無課金オンリーでいきます。ユーロ(ゲーム内マネー)で販売している銃器のみ使用可能というレギュレーションで。その前にガチ勢が揃うAVARSTを盛り上げる企画として、秋に大きな会場でオフライン決勝を行います。その後の冬に、今年の集大成として、AVAれ祭を開催する、と。

――無課金で日本一を狙えるとはいえ、何だかんだでAVARSTに出るような強豪チームが優勝すると思うのですが。

井上 今年に関しては、そうなる可能性も高いでしょうね。ですけど、隠れた強豪の掘り起こしだったり、優勝に手が届きやすそうな雰囲気を作りたいという目的もありますから。

――「課金しないと勝てない」みたいな間違ったイメージの払拭にもつながりそうですね。

井上 まさにそうです。「お金をかけないと勝てない」、「大会にも出られない」みたいな固定観念を取り去りたいんですよ。開発側もそこは認識していて、無課金でも入手できるユーロ販売の銃器のリメイクが4月から続いています。課金と無料の差が縮まってきているものの、課金のほうが強いことは変わりがないので、そこを基準にしている国際大会では無課金の人たちが主役にはなれない。
 日本の『AVA』プレイヤーって、課金している人はそんなに多くないんです。でも、大会出場者は強い課金銃器をたくさん持っている。要するに、大会が課金者しか参加できないものになってきている。これが続くと、あまり課金しない人たちは大会への興味をなくしてしまいます。
 1月にアンケートを取ったら、大会に興味がない人が35%もいるんですよ。3人にひとりは大会に興味がない。理由を突き詰めていくと、先ほどのような構造が見えてきました。気軽に大会に参加できる雰囲気作りが大切ですが、みんなで集まって参加しようではなく、勝つためにガッツリやらないといけないみたいな空気ができてしまった。これでは大会出場クランも減ってしまいます。AVARSTは国際レギュレーションに合わせないといけないので、別のルートとして講じた策が、今年のAVAれ祭です。

――AVAれ祭の舞台に立てるのは何クランの予定ですか?

井上 そこはまだ確定していないんですよ。準決勝戦からやるのか、決勝戦だけなのか。イベント全体のスケジュールも整理しないといけませんから。昔のAVAれ祭は交流の機会が多いイベントでしたので、それを目指したいとも思っています。試合ばかりだと、ほかの大会とあまり変わりません。アイテムをゲットしたり、ほかの人と交換したり、デバイスメーカーさんのブースで遊んだり。試合を見に行くというより、遊びに行くイベントにしたくて。

――試合は全体の要素の一部ということでしょうか。

井上 そうですね。もう一度、『AVA』プレイヤーのためのお祭りを作り上げたい。そのなかで、派手な演出も入れた決勝戦を見て楽しむ、と。2010~2012年頃にやっていたイベントのイメージですかね。

――僕が『AVA』の大会を見に行き始めたのはその頃でした。当時は応援合戦とかあって、ワイワイやっている印象が残っています。

井上 「赤組と青組でやれ競え」みたいなお祭りは楽しかったですよね。ここしばらくは本当に国際大会に勝つことに躍起になり過ぎていたというか。

――それも大事なんですけどね。

井上 ええ、大事です。ただ、日本のプレイヤーの皆さんはあまり気にはしていない。昔はもうちょっと気にする人も多かったんですけど。

――昔に比べて、ゲーム自体を楽しみたい勢と、トップを目指したい勢と、応援したい勢が明確に分かれているような気がします。

井上 前はそれだけコアな人が多いゲームだったんだと思います。大会に出たい・見たいという声が非常に多かったんですよ。それが、いまは気にしない人が3割くらいいるという。大会にガチで参加する人たちは、全体の1割くらいでしょうか。プレイヤー層が変わってきている。

――基本無料のオンラインゲームとしては正しい方向ですね。裾野が広がっているということなんですから。

井上 お客さんが増えるに従って、ライト層の比率も高くなっています。これまでは大会中心で盛り上げを作ってきましたが、大会を気にしない人が増えたということは、そのサイクルを見直す必要があります。ガチ勢が結果を出しても、がんばり損になっちゃいますから。

――まぁ、たしかに。誰だって優勝したら賞賛してほしいし、歓声を浴びたいですよね。

井上 大会をやるからには真剣にプレイに打ち込む人を応援したいですし、頂点を目指す人にたくさん出てきてほしいとも思います。以前は自然とそういう形になっていましたけど、いまは環境を整備していったほうがいい。2015年を終えて痛感しました。トップだけを盛り上げるのではなく、それ以外も見直さないといけない。原点に立ち返るというか。

――いまはeスポーツの波を味方につけようとするメーカーも多いと思います。そういうご時世だからこそ、トッププレイヤー以外に目を向けないといけない。目から鱗です。

井上 そうなんですよ。がっつりそのゲームをやって頂点を狙おうという人は、いろいろなゲームに分散しています。ふつうにゲームを楽しむ人の比率が上がったおかげで、5月3日にやったようなイベント(※1)もできるようになりました。

(※1 5月3日のイベント:エキシビションマッチ企画“AVAれ感謝祭”のこと。親子マッチ、女子限定、40代以上限定の3種類の試合が実施された)

――あれ、よかったですよね。すごく楽しくて。

井上 プレイヤーの層が広がったのはいいことですが、トップの人たちが目減りしている状況です。上位にまでうまく誘導できていないのは運営側の責任もあると思います。そこをなんとか改善して、大会があるから盛り上がろうという、昔の『AVA』に戻さないといけないですね。
 そのためには、大会に興味のない人たちにも感動体験を提供したい。「AVAれ祭がすごくよかった」と、口コミ的に広がれば、来年以降にもつながります。変えるべきところはそれだけではなくて、クラン創設の支援をしたり、公式サイトを新規の人にもわかりやすい作りにしたり。いまのうちに“初心者が遊びやすい『AVA』”を構築しておけば、勢いが乗ってきたときに今年用意した施策がうまく回りだして、お客さんにも楽しんでもらえると思います。そうなれば、世界大会に興味を持つ人も増えるだろう、と。

――無理に世界大会をアピールするよりは、自然に興味を持ってもらいたいですよね。

井上 選手に興味を持ってもらうことも大事ですし、日本代表の一員になれる機会も増やさないといけません。2013年に“AIC(※2)”が日本で開催されました。その熱戦を見ていたプレイヤーが、自分もあの舞台に立ちたいと思って3年間がんばって、いまのトップ層が構築されています。その流れをまた作りたいんですよね。去年日本で国際大会の“AWC(※2)”を開催したことは悪くはなかったと思うんですけど、あれは日本だけでなく、世界の選手がぶつかり合うことで生まれたシーンです。世界に飛び込むということは、それだけでハードルが高いと感じるのではないか、とも思います。

(※2 AICとAWC:AVA International ChampionshipとAVA World Championship。どちらも世界大会だが、出場条件が異なる)

――たしかに、それはあるかもしれません。トップ層への憧れはあるんでしょうけど、どうやってそこに行けばいいか見当がつかないし、自分がそこに行けるとも思えない。

井上 トップまでの過程がわかりにくいですよね。だからそこを整理していきたいな、と。コミュニティーの流れがうまくできるように、ネタを用意したいんですよ。

――いまの見立てで、AVAれ祭の上位に来れそうなクランはいくつくらいありますか?

井上 大会の上位に食い込むクランは4~5つくらいあって、そこはほぼ固定されています。選手個人の実力も高くて、戦術やノウハウもしっかり貯まっている。始めたばかりの人たちがそこに追いつくのは、そうとう難しいですよ、やっぱり。「継続は力なり」という言葉があるように、長く続けているところほど安定感があります。1日でも長くチームとしてプレイしてもらえるように、ゲーム内アイテムの支援などを続けていきます。少しでもやりがいを感じてもらいたいですから。
 あとは地道に育てていくしかなくてですね。いまのトップチームにはベテランが抜けて若手の実力派が入る、新陳代謝的な循環があります。いいことだとは思いますが、これが続くともともと強いチームだけが活躍してしまう。若い子たちが上のチームを倒そうとするモチベーションを、どうやって作るかが課題です。AVAれ祭がそのきっかけとして機能すれば理想ですね。大きなステージで感動した人どうしがつながって、新しいチームが生まれるかもしれません。プレイヤー間の横のつながりを活性化させたいですね。

――新進気鋭のクランが出てきたらアツいですね。「おれたちがプロを倒す!」みたいな。

井上 実際、できて間もないクランもたくさんあるんですよ。その中で、また強い人や気の合う人どうしが集まる流れもなくはないと思っています。いまのeスポーツの流れを追い風に感じてもらいたい。がんばればチャンスがあるんじゃないか、がんばっただけの結果を得られるんじゃないか、とか。
 いまのトップの人たちは、ノウハウだけで下の人たちを倒せてしまうので、上のレベルで切磋琢磨している状況です。そこに追いついて、ひと花咲かせるチームや選手に出てきてもらいたい。上位の選手は2、3年かけてあの場を勝ち取りました。AVAれ祭をきっかけに、2年後、3年後に新しい人が出てくるように願いを込めながらやっていきます。

●より美しく、より軽快に進化する『AVA』
――少しAVAれ祭から離れましょうか。強い選手が生まれるには、ゲーム内の整備も大切です。5月3日にグラフィック強化などの発表(※3)がありましたが、その辺の進捗を教えてください。

※3:関連記事
『AVA』2016年中に実装予定の3モードがPmang感謝祭で発表、爆破の新マップ開発にも意欲的!?


井上 グラフィック刷新の準備は着々と進んでいて、まずは韓国で先行して実装されます(6月28日に当該アップデートが実施された)。この辺の問題は、Windows 10登場後にとくに重要なものとして認識しています。少し前にアンケートを取ったら、Windows 10のプレイヤーさんが3割くらいいらっしゃったんですよ。グラフィックボードを積まない、オンボードのPCでプレイしている人の比率もだいたい同じくらい。いまはPCに関してライトな人たちが非常に多いんです。

――Windows 10ユーザーが全体の3割ですか。そもそもグラフィックボードやゲーミングPCのことを知らない人も多そうですね。

井上 すごくカジュアルな人たちが『AVA』に増えてきているんです。

――オンラインゲームとしては、とてもうれしいことですね。

井上 そうですね。コア層のプレイヤーがほかのゲームに移ったとしても、きちんと新規の人も増えている。この流れに対応するには、余計にスペックに対してゲームの挙動を軽くしないといけませんし、Windows 10への対応もマストです。これは開発側も含めて動いています。
 先ほどビジュアルのアップグレードについてお話ししましたけど、きれいになりつつ軽くなる前提のアップデートなんですよ。韓国でクローズドのテストを行ったら、お客さんには非常に好評だったみたいで。実際に日本の環境で動かしてみないとわからない部分もありますが、期待はしています。DirectX 12にも対応予定ですので、Windows 10でそうとう遊びやすくなるはずです。
 ゲームが軽くなれば、ガクガクな状況で遊ばれているプレイヤーもストレスが軽減されますし、長く続けてもらえるきっかけになれば、もっといい環境で遊ぶためにPCを買い換えてくれるかもしれません。

――現時点で、Windows 10には対応しているんでしたっけ?

井上 遊べることは遊べるんですけど、より高いスペックが必要になっちゃうんですよ。環境によっては挙動が重く感じることもあるのではないでしょうか。
 グラフィックボードがパフォーマンスをより発揮するためのスイッチを自動的に入れたり、ビジュアルアップグレードで軽くさせたり、いろいろな手を重ねて今年の夏に対応していくという話です。日本でも7、8月頃に適応できればだいぶ遊びやすくなるはず。PCメーカーさん各社からも、そろそろ最新の『AVA』推奨モデルを作りたいという要望を受けていますし、大会で借りるPCも今後はWindows 10モデルになるでしょう。早く対応を完了させないと、大会すら開催でなくなってしまう。急いで対応しないといけませんよね。

――Windows 10対応は日本だけの問題じゃないですからね。

井上 台湾と中国は家でプレイされる方が多くて、韓国はネットカフェ人口がとても多い。そのネットカフェさんがなかなかOSを入れ替えないみたいで、Windows 10によるクレームはまだそれほどないと、韓国のサービスパブリッシャーから聞いています。それほど切迫した雰囲気ではなかったんですけど、いよいよWindows 10無料更新の期限が迫っているじゃないですか。だから、半年ほど前から対応の準備は進めてきました。

――どのメーカーさんも、この7月は大変そうだなと感じます。5月3日にはグラフィック関連のほかにも多くの要素が発表されましたが、そちらのスケジュールはいかがでしょうか?

井上 ボイスチャット実装やコミュニティー関連の強化は、下半期の第4クォーター(2016年10月~12月)頃になるかな、というところですね。まずはWindows 10問題と軽量化。この2点は最重要課題として、運営と開発のスタッフだけでなく、当社の社長と開発会社の社長とでも協議をしながら進めています。

――武器や新しいHOTマップ(※4)はどうでしょうか?

(※4 HOTマップ:大会などにも使われるマップ)

井上 韓国では武器が毎月実装されていて、日本でもそれに合わせて順次、といった形です。HOTマップは「年末くらい」という口約束状態でしたけど、最重要の2点が解決しないことには、まだ何とも。

――ひとまず夏、秋のアップデートが落ち着いてから、ということでしょうか。

井上 マップはつねに作り続けていて、いくつも作り置きがあるんですよ。ただ、ブラッシュアップには時間が必要で、半年くらいは寝かせる時間がほしいという話を聞きます。クオリティーの高いものじゃないと遊び続けてもらえないので。年末までに何とかしたいということは、いま進めているものを早く出せそうという目算があるのかもしれませんね。

――マップの追加は大会にも関わってきそうですから、慎重になるのもわかります。

井上 そうなんですよ。いまは大会で使うHOTマップが8つあって、これでも多いと思うんです。ひとつ減らすのかどうかという議論も必要です。既存の8マップだけでやっていると、プレイ時間が長い人ほど研究量が増え、強くなる傾向にあります。新しい人に大会に参加してもらうためにも、マップの新陳代謝は必要です。7月に台湾でAICが開催されて、そこで各国が集まって会議するんですね。「HOTマップを入れ替えていくルールを作らないか」という提案をしようと思っています。

――ベテランチームが強いのは当然ですけど、研究し尽くされていない新マップならジャイアントキリングも起こり得るというわけですね。

井上 8個分のHOTマップの構造を覚えるのはたいへんなので、限定してやるのもアリなんじゃないかとは、これまでも思っていました。運営チームのメンバーとも議論は必要ですが、よりハードルを低くして、どんな人でも大会に参加できる形を考えています。

――マップ限定のオンライン大会はこれまでもありましたよね。これは今後も続けていきますか?

井上 継続します。いくつかあるマップ限定の大会と実力別のリーグ戦は、オンライン上では継続的にやっていきます。これらの軸は変えずに、AVAれ祭を加えます。オンライン大会でモチベーションと練度を高めて、国際大会の予選的なAVARSTに参加。そして1年の締めくくりとしてAVAれ祭がある。このサイクルを作れればベストですかね。

――たとえば、世界をターゲットにする強豪クランが、AVAれ祭の予選に出ない可能性もあるのでしょうか?

井上 出るとは思いますけど、AVARSTは2次予選からBO3(2セット先取で勝ちとなるルール)でやるんです。そうなると、本当に強いところしか勝てない。何かの拍子で勝てるという見込みがほぼない大会なんですよ。AVAれ祭関連の試合は、すべて1セットマッチでやるつもりなので、番狂わせがあるだろうなと思います。参加することに意義があるし、勝負はやってみないとわからない。そのチャンスを掴んで日本一の座を狙ってほしいですね。

――そういう立てつけだからこそ、強いチームに出てほしいですね。彼らを倒せるチャンスがあるのは、それだけでモチベーションになる。

井上 クラン戦の配信なんか見ていると、どんなに強いところでも負けるときは負けるんですよ。10回に1回負けるのであれば、その1回が大会に回ってくることもあり得ます。まずはモチベーションをもって強いチームと戦ってみるきっかけを、どんどん作っていきたいですね。

●異なるタイプの楽しさや遊びかたを提供
――コンテンツ追加のアップデート準備は予定どおりに動いていますか?

井上 当初から、気持ち的には夏休み以降ぐらいを予定していました。韓国での導入が7~9月くらいで、これまでは1~3ヵ月遅れで日本に入ってきていたんですが、今回はほぼ同時期に導入できるように開発側が動いてくれて。JOINT OPERATION、LAST TEAM STANDING、最高難度のスナイパーモードが、この夏に実装となる予定です。同時期にビジュアルアップグレードと軽量化が入って遊びやすくなり、夏休みで若い人も増えるでしょうから、活性化するんじゃないかと。

――その流れはスムーズでいいですね。

井上 その中で、8月にAVARST season2の予選が行われ、秋には大きな会場でオフライン大会を予定しています。遊べる要素を投入して、大会も始まって、多くの人がイベントに集まる。昨年と似た流れですが、そこで終わってしまったのが昨年の反省点。それ以降、オンライン上でみんなが参加して楽しめる大会がなかったんです。

――9月の東京ゲームショウ2015でイベント的な大会があって、その後は国際大会系に走っちゃったんですよね。

井上 カジュアルな人たちは、ふつうに遊ぶくらいしかやることがなかったんです。今年はさらにオンライン上の大会がありながらも、秋にAVAれ祭のオンライン予選をやって、冬にはAVAれ祭の本番。そういうスケジュールを想定しています。AVAれ祭の前には国際大会のAWC。年末年始って、各国のパブリッシャーが冬休み向けに多くの施策を用意するんです。例年の日本の動きとは少し違いますが、合わせる部分は合わせて流れを作っていこうとしています。海外のパブリッシャーはクリスマスを本当に大事にするんですよ。書き入れどきみたいで。

――日本独自の動きに固執するより、そっちのほうが大きな流れを作りやすそうですね。AWCとAVAれ祭、大きな大会がふたつ続くんですか?

井上 AWCはカジュアルに遊んでいる日本のプレイヤー的にはあまりメリットはないですから。トップの試合を配信で見るような人の比率は昔より下がっていますし、「世界一が決まる!」とあおっても、それほどのインパクトはないと思うんです。その頃にはAVAれ祭に参加するチームは決まっているはずなので、オフライン決戦に向けてモチベーション高く練習してもらったり、代表として出てくる選手たちへの興味や応援で盛り上がっていただければ。

――応援の楽しさをみんなに知ってもらいたいですよね。野球ファンは自分で試合をしなくても応援するのが楽しいわけで。応援することに慣れてくると、イベントに参加するのも楽しくなると思います。

井上 大きな会場になると萎縮する傾向があるみたいで。客席も赤と青で分けたイベント(AVAれ祭2012 プリズムホール-秋の陣-など)では、大きな声を出して盛り上げていただけましたね。

――たしか有名プレイヤーが応援団長みたいなことやってませんでした? 日本人は自分だけ大声を出すのが恥ずかしいから周りが盛り上がっているかどうかをまず確認しますよね。先導して声を出してくれると応援しやすい。

井上 ああいう雰囲気のイベントをまたやりたいんですよ。あのときは盛り上げ自体が勝負になっていて、応援合戦+試合の結果みたいな感じでした。同じ形式かどうかはわからないですけど、方法を模索中です。

――オフラインイベントと言えば、少し前に運営チームが各地を回るネットカフェキャラバンの前半がフィニッシュしましたよね。今後はどういう予定ですか?

井上 今年は夏に大阪と東京で番外編をやるんです。7月16、17日で大阪、8月27、28日で東京で、女性限定と30歳以上限定のイベントを。いろいろなパターンのイベントを提供していきたいと思っていまして。

――個人的に、30歳以上限定イベントが楽しみなんです。

井上 30歳以上に差し掛かっているベテランや強豪のプレイヤーって多いんですよ。『AVA』も9年目ですから、サービス開始当初に大学4年生だった人がいまは30歳過ぎ。こういうイベントを知って久しぶりに戻ってくる人がいてもおもしろいですし、近い年代や女性どうしでコミュニティーを作ってほしいとも思います。

――やっぱりおっさんは大事ですよ。マーケットを分析すると若者や女性の支持が大事とか言いますけど、僕らおっさんだって大事にされたいですもん。

井上 オンラインゲームプレイヤーの年齢層は少しずつ上がっていくものですけど、30代は維持しているます。離れていく人と30代に突入する人がだいたい同じくらいのイメージですね。これは大事にしていきたいな、と。

――オンラインゲームって、プレイヤーに長く続けてもらえば、その人が大人になったときに親子で楽しんでもらえる可能性がありますよね。それが、先日の親子マッチで見られました。

井上 そのための布石というか、土壌を作っておいて、また親子マッチ的なイベントをやっていきたいなと。

――そろそろ親子3世代チームが出てきたりしませんか?

井上 まだ難しいですね。60代くらいのプレイヤーもいらっしゃいますが。親子で出てきた人たちが、おじいちゃんを巻き込んだらすぐにできそうですけど、さすがにまだ早いかなー。

――そういう土壌ができたら、僕に記事を書かせてください。もうキャッチコピーは考えてあるんです。「老兵よ、去るな。立ち上がれ」。いつか使いたいので、ぜひ。

井上 新しいタイプのイベントを考えて、そこで楽しんでいる人がいるのが大事なことです。遊びのパターンを増やすのは、プレイヤー層を広げていくという意味では、重要な意味を持っていると思います。

――女性限定イベントにするがモンキーママ(※5)、出ないですかね。

(※5 するがモンキーママ:強豪チーム・DeToNatorのするがモンキー選手はお母さんも『AVA』プレイヤーであると公言している)

井上 出てくれたらおもしろそうですね。お母さんと娘さんでいっしょに遊んでいる方にイベントでお会いしたこともあります。若い子たちだけでなく、幅広い層に遊んでいただけているというのを見せていきたいなと思ってますね。きっかけを増やさないと、そういった人たちもつながっていかないので、なるべく用意したいな、と。

――これまでのお話を整理すると、まずはゲームの挙動自体を軽くしていく、と。

井上 それは夏頃のアップデートの課題になっていて、夏から秋にかけてゲームコンテンツを充実させつつ、大会で新しい土壌を作って種をまく。来年以降に芽が出てきて、それを継続させていけば、2020年の東京オリンピックの年につながっていくと思います。eスポーツの展開は東京オリンピックをひとつの目標点にするという動きがあるので、その流れに『AVA』も乗っていければ。対戦ゲームをおもしろいと思ってくれる人が増えれば増えるほど、僕らの考えも受け皿としてうまく機能する。そういうやり方を見据えています。

●井上氏が考える、いまと未来のeスポーツ
――少し広い話を聞かせてください。いまの日本のeスポーツ業界の動きについて、どう感じていますか? 個人的に、やや地に足がついていないというか、浮ついた状況が続いている気がするのですが。

井上 日本と海外はどこが違ってどこが同じなのか、ひと言では語れないので難しいですが、多少は浮ついていてもいいんじゃないかなと思っています。頂点を目指す人たちが継続的に活躍できる場があるのは単純にいいことですよね。それってどんなサービスにも言えると思うんですよ。ひとつのサービスが立ち上がると、同じようなものが出てきます。ファンや世間の興味はどんどん移って行くのは当然なのですが、それで最初に出てきたものがつぶれてしまったら市場が広がりません。ただ、市場が広がるためには、ある程度は移ってもらったほうがいいんです。
 eスポーツを軸に、いろいろなプレイヤーが交流して広がっていく流れは絶対に必要です。eスポーツというバズワードをうまく使う人もいれば、そこには頼らずに実直に進む人もいます。いろんな層の人たちをカバーできるようにはなっているからこそ、日本でもひとつのチャンスが生まれているかなと感じます。多くの人が信念を持ってやっていることでしょうから、それ自体は歓迎するべきです。ただ、コミュニティー間どうしのトラブルは出てくると思うので、ある程度の軋轢は仕方ないと思います。これは日本に限らず、海外でも同じですけど。

――その辺はどこも変わらないですよね。

井上 海外のeスポーツシーンみたいな状況を作ろう、追いつこうと、大きな大会を仕掛ける企業や団体が出てきています。そうすることで、対戦ゲームにもっと目を向けてもらえるようになる。日本人の興味を引くのは非常に難しいので、パワーをかけて目を向けてもらおうという施策はすごいと思って見ています。
 ただ、我々はそういったやりかたではなく、地道に「対戦ゲームはおもしろい」ということを伝えて興味を持ってもらって、コミュニティーを作ってもらって、頂を目指してもらうというサイクルを何とか作りたい。方法論はいろいろあるわけですから、それぞれの個性をどこまでも活かしてほしいと思います。

――どういった形であれ、プレイヤーにチャンスが増えることには違いないですもんね。

井上 コンテンツは長く続けることが大切ですし、お客さんが移り変わっていくのは当たり前。『AVA』に残ってもらうための施策や、また『AVA』に戻りたいと思ってもらえるサイクルを作るのが我々の責務です。ゲームの運営を5年、10年、20年と続けていくと、担当者もどんどん変わっていくので、組織的なノウハウの整備も重要です。
 人が移り変わっていくというのは、ひとつのチャンスでもあると思うんですよね。いろいろなコンテンツが立ちあがり、ほかのゲームに興味を示す人がいれば、こっちに来てくれる人もいます。そういった方を受け止める施策を用意できれば、チャンスは非常に大きなものになる。
 これまではFPSというジャンルの中でプレイヤーの動きはありましたが、ジャンルを超えた広がりは弱かったように感じます。いろんなゲームが密に関係し合う状況になってくれれば、非常におもしろい世界になるだろうな、と。いまはほかのゲームを遊ぶユーザー同士の交流が活発になっていて、前に比べて情報が伝播しやすくなってきました。この状況を活かしたいと考える人も出てきています。どこかひとつの企業が単独で事を起こすのではなく、いろいろな人が関係性を持てるという意味では、チャンスは拡大していると思いますね。

――ここ最近はスポンサーがついたりして、いわゆる“プロ化”するチームが出てきていますよね。デバイスの提供を受けるセミプロ的なチームもあります。この波は今後どうなると思いますか?

井上 『AVA』のチームでいうと、DeToNator、Requish、F4E、SCARZあたりはスポンサーがついた、いわゆる“プロチーム”ですよね。ゲームへの接しかたとして、そういったチームがあるのは理解できます。プロとしての活動が広がるステージが何かと考えると、海外には“プロゲーマーリーグ”があったりします。

――台湾には“AVA ELITE LEAGUE”(※6)がありますね。

(※6 AVA ELITE LEAGUE:通称AEL。日本のチーム・DeToNatorも参戦している)

井上 たとえば、日本にプロリーグを作ったとして、それを目当てにお客さんが集まるかどうか。去年や今年の状況を見るに、その域には達していないと思っています。日本の『AVA』の場合、新規プレイヤーが増えてきていることもあり、大会に興味のない人も多いんです。選手を応援する動機もないですし、わいわい遊びたい人にとっては、トッププレイヤーの緊張感のある試合を見てもしんどいだけ。自分たちには関係ないと考える人も多い中で、上級者の動きだけを見て推し進めるのは、コンテンツ自体の成長にはならないと思います。

――日本の『AVA』の現状を鑑みて、いまはプロリーグ等の施策は得策ではない、と。見る人はもちろん、選手のためになるのかどうか、という視点も大切だと思いますが、その点はいかがでしょうか?

井上 それももちろんあります。さらに加えて、プレイヤーが『AVA』のプレイ自体を仕事にする必要がありますから、彼らを支援するメーカーさんへのメリットも重要です。観客が熱心に試合を見る、観戦や応援を楽しむようなサイクルが生まれないことには、せっかく協力してくれるメーカーさんに利益を還元しにくい。プロゲーマーにメリットを感じる企業さんもまだまだ少ない状況ですから、スタートする段階には来ていないと思っています。

――『AVA』のオフライン大会には、1000人以上の観客が来場されますよね。たとえ入場チケットが有料であったとしても。これはそうとうなものだと思いますが、それでもまだまだであると考えているのでしょうか?

井上 熱心な方が1000人も集まってくれるのは本当にありがたいことですが、やはり配信を20万人、30万人が見るようなコンテンツにしないといけません。これは1タイトルだけだと難しい。海外では一極集中でグローバルのファンが配信を見る形ができあがっていますが、日本国内はゲームのファンが細分化されていますから。市場規模的にも悩ましいところです。

――冷静に考えれば考えるほど、ブレーキになる要素が見つかりますね。個人的に、世間の勢いを前向きにとらえたい気持ちは強いのですが。

井上 僕にもそういう気持ちはあります。見ているぶんにはおもしろいし、夢もあります。ただ、ゲームを運営する側としては、しっかり現実を見据えないといけません。いまは一部のトッププレイヤーたちの熱意が先行していると思うんですよ。そこに資金を提供してくれる大人がいないと成り立たない。現時点ではそういう流れが強いと見ています。

――そこは冷静に、ですね。熱気に浮かされて準備ができていないまま花火を打ち上げてしまって、最終的にプレイヤーたちが不利益を被ることになってはいけません。

井上 そこは各人、各企業の判断ですから、投資するだけの価値があると見ている方もいらっしゃいます。とはいえ、人気の移り変わりも激しい状況ですから、市場の変化に耐えられるだけの盛り上がりを作らないといけない。そういう地盤ができているコンテンツって、日本にはまだないか、少ないんじゃないかなぁ、と。
 自分が知らないゲームでも、何となく見て楽しむ文化があればいいんですけどね。自分がやってないゲームに興味を持つのは難しいですよ。小さな芽の段階からコツコツとムーブメントを育てていけばいいんでしょうけど、コンテンツが集まったからといって、どうにかなるわけでもありません。見せるための仕掛けが必要ですね。たとえば“Red Bull 5G”(※7)。あれは東西の対決構造がいいんですよね。

(※7 Red Bull 5:Red Bull主催のゲームイベント。東西の2チームに分かれて、5タイトルで競い合う)

井上 AVAれ祭で赤チーム・青チームに分けたのは、対決構造を作って盛り上げたかったからなんです。観客にとっての目的を用意したいという意図があって。
 プロゲーミングシーンになった場合、チーム同士のライバル構造はあるべきだと思います。こういった部分が増えていけば、いつかはプロリーグも実現できるんでしょうけど、チームに根付くファンもこれからでしょうし。努力次第で知名度が上がってファンも増えるとは思うんですけど、いまはそのコストのかけかたをチームに依存することになっちゃんですよ。周囲からの見られ方まで考えて動けるチームがあるかというと、なかなか。

――少なくとも日本ではごく少数でしょうね。日本の『AVA』でいうと、たとえば、DeToNaotorやRequishあたりでしょうか。

井上 DeToNatorは活動拠点を台湾に移しつつありますよね。ちょっとした判断で多くの変化が起こる時代ですから、舵切りを間違えると一気に流されてしまう危険性もありますが、舵切りの方向性としてはすごくユニーク。

――eスポーツに関しては、少し前から仕込まれていたものが徐々に動き出している状況だと思いますが、世間の動きをどう見ますか?

井上 複数の業界団体が立ち上がるまでこぎつけてはいますよね。ただ、うまくコミュニケーションを取れているのかどうかという心配があります。それらの団体は持ちつ持たれつの関係でしょうから、「団体を作ったから勝手にやります」では絶対にダメです。業界全体が健全に育つには、多くの人の関わり合いが大切ですけど、まだ何とも。僕らも含めて、誰も糸口を見いだせていないのかもしれませんね。今年の様子を見ていると、何かの壁にぶつかってまごまごしているような印象を受けます。

――プレイヤーの動きはどうですか?

井上 新作タイトルが出ると「部門を作ります」みたいな流れはありますけど、あれってそれまでシーンを盛り上げてきた人たちが移るだけという側面もありますね。競技シーンだけを見ると、純粋な新規層の開拓とは違うのかなぁ、と。

――全体のパイが広がっているのとは少し違いますね。

井上 新作きっかけで対戦ゲームファンが増えたらうれしいんですけどね。試合の配信を見るようなファンを増やすには、いろんなゲームをごちゃまぜにしてシーンを盛り上げたほうがいいと思うので。ただ、サービスをするパブリッシャーやメーカー側で動いているところって、そんなにないと思うんですよ。いまの段階で動いている人はどんどん盛り上げてもらって、そこに協力したい企業が集まっていくという。最後は元気玉作戦ですね(笑)。

――みんなの元気を、ゲームへの熱意をおらに分けてくれ、と。

井上 その元気玉を作る人が誰なのかはまだ見えないですね。主動したいと思う人たちどうしの協力も大切です。みんながくれくれ言い出すと分散しますから。オールジャパン構想でいかないと、日本のeスポーツシーンは上のレベルに進めないんじゃないかなというイメージがあります。
 高橋名人が全国キャラバンをやっていた時代に、ゲームはガーッと盛り上がったじゃないですか。マンガや映画にもなって。いまはあの盛り上がりに達していないですよね。そこ達する前に終わっちゃうのはいやですよ。

――種もまかれ始めているわけだし、中途半端なところで刈り取るのはもったいないと思います。

井上 リミット的には東京ゲームショウ2020でしょうかね。東京オリンピックが開催されて、スポーツへの認識が大きく変化するでしょう。そこで、ある程度の結果が出るのかなと思っています。それが終わった後、先導する人がどういう風には旗ふりをしていくのか気になります。何を目的に、何を目標に。
 「eスポーツは日本のためにならなかった」とか、悪い結論にはなってほしくないですね。そこまでに何とか元気玉を完成させないと。このまま進むだけでは厳しいと、気を引き締める必要はあるでしょうね。

――ゲームオンさんや井上さん、『AVA』が全体を先導するわけにはいけないですよね。

井上 まずは自社タイトルやそのプレイヤーのみなさんを第一に考えて行動しないといけませんから。そこを取り違えると、おかしくなりますよね。だから、パブリッシャーやメーカーじゃないところに盛り上げていただいて、そこに協力していくっていうやりかたになるでしょうね。
 プレイヤー主体のゲーミングチームであったり、サポートしている企業さんであったりがタッグを組むのが大条件。個々でやっている部分がひとつずつ集まって、企業を中心としていろんなチームが集まる。その答えのひとつが、先日のNVIDIAさんのイベント(※8)なのかもしれません。ああいった形でイベントが開催されて、そのイベントを主催する企業さんどうしがまたくっついて、そこにパブリッシャーも加わる。その仕組みができれば、ひとつステップアップするのではないでしょうか。
 日本のなかでそれをやっても、企業さんのメリットはそれほどないと思います。“アジアへの市場をどれだけ広げていけるか”も重要です。となると、日本語、韓国語、中国語ができるパーソナリティーを持った人が企業を含めて先導したほうがいいかもしれません。そこまで考えておかないと、本当の意味でのeスポーツという文化にはならないだろうなと思います。

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井上 ヨーロッパで複数の国にまたがって成功しているのは、“英語圏だから”という理由が大きいでしょう。共通の言語ツールがあったうえで、何万人、何十万を集客しています。日本にはマンガ・アニメカルチャーで数十万人を集める文化があります。そちらの流れも勉強しつつ、取り込みながらやっていくのがいいのではないかと。

――裏を返せば、そういった点をクリアできれば芽はあるんだろうなと感じます。

井上 人が集まる場所や環境、コミュニティーの土台には大人の力も大切です。そのために年齢の高い人たちにも華やかな舞台に立ってほしいという想いがあります。ですので、いまの『AVA』としては年齢層の幅を広げる活動を大切にしたいんですよね。

――やっぱり、気のいいおっさんとおばちゃんじゃないですかね。居心地のいい場所を作れるのって。

井上 10年近くサービスをしていると、上の世代のプレイヤーも出てきます。その人たちがオピニオンとして、コミュニティーの中で(年齢が)下の人たちを取り込むような流れができたら、それこそ20年、30年続く可能性だってあると思います。『ドラゴンクエスト』や『ファイナルファンタジー』があれだけ長く続いているのは、上の世代は当たり前として、下の世代のファンも育っていることが大きいはずです。若い子を取り込む動きを、『AVA』でもしっかり勉強していかないといけません。高橋名人ブームが終わった原因はそういうところなのかな、とも思います。一定の層に向けて先鋭化しすぎた。ブームってそういうものだと思うんですよ。

――一極的に盛り上がっている雰囲気だけ作られちゃう。

井上 局所的にはすごいパワーを持つんですけど、長続きせずに終わっては意味がありません。それまでがんばった人たちだけが残されて「じゃあ、これからどうしようか」となるのはまずいです。eスポーツもそうなる危険性はあるので、しっかりやっていかないと。

――『AVA』もサービス開始10周年が見えてきたタイトルですから、熱心なファン以外の部分にも目を向けて、広く見ていかないといけないですね。

井上 そうですね。たとえば、新規プレイヤーをどんどん取り込んでいくコンテンツパワーは、新作ゲームと比べると弱いわけです。新しいゲームに興味が向くのは当然ですからね。このまま何の対策も講じないと、「一過性のブームで終わりました。FPSブームに乗っかっただけでした」で終わっちゃうので。そうじゃない形に持っていきたいです。

――10年続けてきた30代、40代以上の人が中心になってコミュニティーがうまく育てば、若者にとっても居心地のいいゲームという位置づけになれますよね。

井上 年代が違っても、集まればいっしょに遊べるというシーンができれば。ゲームが持つ本来のパワーって、そこにあると思うんですよ。ゲームが生み出す、コミュニティーが持つパワー。それを大切にしていくというのが、ひとつの目標ではありますね。

――40、50のおじさんと10代の若者が横に並んで熱気を共有できるコンテンツは少ないと思います。それが、最初にお話を伺った参加しやすい大会“AVAれ祭”につながるわけですね。

●10年後に世代交代が起きたときがチャンス
――この流れで、世界大会の流れについても聞かせてください。

井上 7月2、3日に台湾で“AIC”が開催されます。つぎが冬に予定されている“AWC”。AICの開催時に各国のパブリッシャーで集まって会議を行うので、そこで時期や開催国がほぼ確定すると思います。

――直近のAICには、日本からDeToNatorが出場するんですよね(2016年5月29日に開催された“AVARST2016 Season1”で優勝し、出場権を獲得)。

井上 AICに初参戦する地域もあるんですよ。それが、シンガポール/マレーシア。EU側はAWCに注力するということで、AICに出場するのは5地域6チーム。ロシアでサービスが開始されたので、AWCではEUとロシアも含めた7地域から強豪が集まる予定です。

――ロシアはPCゲームが盛んですし、いろいろなeスポーツチームがあるんですよね。楽しみです。

井上 チームをスポンサードするお金持ちが多いみたいですね。

――たまに巨額の支援金が話題になったりします。ケタが違う。

井上 そういった人たちがゲーミングチームに目をつけるとえらいことになります(笑)。楽しいことになりそうですし、話題にもなるので、こちらとしてはいいんですけどね。

――今年はヨーロッパでサッカーチームを持っている企業がゲームに進出したり、ちょこちょこ話題になっています。ヨーロッパで何が起きてるんでしょうね。

井上 DreamHackやESL(※9)を中心として、ビジネスとして成立するくらい市場が成熟したと見られているのかもしれません。配信ソリューションも含めて。何年も前からスタートして規模を拡大し続けて、その成長過程も含めて、投資する価値があると判断したんでしょうね。
 サッカーチームがeスポーツチームを持つって、サッカーチームには直接的なメリットは小さいと思うんですけど、いま若者が何をやっているとかというと、スポーツ以外はゲームなんでしょうね。世界全体のプレイヤー人口を見ると、ほかのスポーツと比べてもゲームは多いはずです。その人たちにもサッカーを見てもらいたいから、eスポーツのチームを持ったのかなぁと。サッカーに興味がなかったとしても、同じチームが活躍したらうれしいですから。ゲームにはそれくらいの視聴パワーがあると踏んでいるのかなと。

(※9 DreamHackとESL<Electronic Sports League>:どちらもトップクラスに巨大なeスポーツイベント)

――すごくシンプルな話ですね。

井上 そこまで成長したということですね。グローバルで見てもらえるコンテンツは本当に強いと感じます。そうなってくると、日本でeスポーツのプロ化がどうかと考える場合、何かしらのプロチームを持っている企業や母体がeスポーツ分野に進出して相乗効果を狙うのが、いちばん現実的なのかなという気もします。

――なるほど。世間へのアピールのひとつとして、「ゲームで食べていく若者を支援します」と名乗りを上げてもおかしくはない。青少年の健全育成(※10)とか、そういった部分の説明さえつけば。

(※10 青少年の健全育成:たとえば、サッカーチーム・アルビレックス新潟の運営母体は学校法人のNSGグループ。NSGグループが運営する学校のなかにはゲーム系専門学校も含まれており、ゲームと教育がまったくの無関係とは言い切れない)

井上 ゼロではないと思います。ただ、やっぱり“ゲーム”という壁があります。ゲームを悪いものと見なす古い慣習をどうやって覆すのか。もう少し時間はかかると思いますが、それを覆したのがヨーロッパの例です。長いこと耐え忍んで続けていけば、おのずと人も世代交代が起きます。いま現在、eスポーツやゲームを盛り上げようとしている人は、おそらく30~40代くらいが中心。その人たちがいろいろな企業さんの同世代の人とコネクションを作って準備を進めても、50~60代の上司を説得するのに四苦八苦している状況です。

――60代の上司が引退し、いま現役バリバリの人が熱意を持ったままステップアップすれば・・・。

井上 現在のヨーロッパのような流れに近づくのも、なくはない。ただ、そのときまでeスポーツの灯が残っていないといけません。

――いまは焦らずに、地に足をつけて、少しずつ拡大していくターンなのかもしれませんね。

井上 種をまいて畑を耕している状態ですよ、きっと。

――夢物語に感じる人もいるでしょうけど、ひとつひとつの要素を整理していくと、すごくシンプルな話に行きつきます。

井上 どんな業界にも、市場認識のギャップはあると思うんですよ。そのギャップをどうにかするには、世代ごと動くのが手っ取り早いというのが、日本の現状なのかなと思います。
 「ゲームは悪いもの」と、レッテルを張られてしまった社会がありました。それを覆す努力がまず必要で、そのためには対戦ゲームを利用して、「青少年の健全育成につながるんですよ、世代を超えた交流もできるんですよ」と、いい面を広めていくのが重要なんじゃないでしょうか。ただし、この活動自体は儲かるものではないから、企業としてやるメリットがあまりないのも事実でしょう。そうしないとコンテンツとしての寿命が縮まりますから、やる意義自体はあるんですけどね。すごく時間がかかって、結果もすぐには出ないので、やる人も限られてくるとは思いますが。

――世代が動いたときが勝負ですね。

井上 10年後はアツいと思いますよ。そのときに、いま熱意を持って実直に動いている人たちが、ようやく本当の支援を受けられる時代になっていく。2020年はひとつのきっかけになると思います。

――そういう意味では、いま第一線で動いている人の責任は大きい。チームマネージャーもそうですけど、とくにいまトップの選手。

井上 彼らが経験したことが、つぎの施策のベースになるわけですからね。ムーブメントを作り上げるくらいにならないと、彼らも未来の道がないと同義ですよ。そこまで将来のビジョンがある人は、今後も生き残っていくだろうな、と。ゲームに競技として取り組むことを少しでも将来につなげたいなら、ノリで生きているだけでは厳しいですよ。

――ゲームを楽しんでくれる分にはまったく悪くはないですけどね。

井上 今後の市場を考えると、そういった子たちにもっと芽が出てほしいというのはありますね。

――僕は輝かしい未来を信じて、「将来、きみが大成してインタビューとか受けることがあったら、ユースケさんに影響を受けたと言いなさい」と、選手を洗脳するようにしています。

井上 ツバ付けた状態ですね(笑)。いろんな思いや出会い、支えがあって成り立つ部分もあるので、きっと感謝してくれますよ。

――職業柄、本気でやってるプレイヤーと接する機会も多いですけど、ちゃんと考えている真面目な子も多いですね。

井上 土台は僕らが作りますから、プレイヤーたちには市場を開拓する先駆者になってほしいです。

――プレイヤーたちを見てどうですか? 以前に比べてしっかりした子も増えたと思いますが。

井上 うーん・・・。そうだといいんですけどね(笑)。真面目に取り組んでるのはすばらしいですけど、すべてがマネージャーに乗っかってる状態に思えるんです。いつかはマネージャーと選手が二人三脚にならないといけなくて。そうなると、トップ選手であることを維持できなくなるのかもなぁと。トップ選手が引退したとき、どう変われるかがつぎの壁でしょう。それを乗り越えた先に、マネージャーさんたちといっしょに未来を作る先駆者になって、彼らが表舞台にどんどん出て行って、つぎの世代が育っていく。出てくる人はいるのかなぁ・・・、いてほしいなぁ・・・。

――最終的には暖かく見守るしかないと思いますよ。彼らが自分で考えないといけないですもん。

井上 時代や状況で必要なことは変わるじゃないですか。彼らと同じ世代の人たちが多くのメーカーさんに務めていますから、その人たちの協力を得られるような関係を築けたら、ようやく一人前なんだと思います。
 そのときの上司は僕らと同世代だと思うんですよ。ですので、そこまで行ければ最初のステップは成功です。いまはまだ僕ら世代が切磋琢磨するだけでよくて、それに若い子たちがついてきてくれて、僕らが上になったときに彼らが主役になれるように支援していく。そうなったときに初めて、日本のeスポーツの夜は明けるんじゃないかなと思います。

最終更新:6月29日(水)17時2分

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TEDカンファレンスのプレゼンテーション動画

斬首動画が何百万回も再生されてしまう理由
昔は街の広場で、現代はYouTubeで。歴史を通じ、公開処刑には必ず人だかりがつきものでした。人が処刑というものを、恐ろしく不快に感じながらも、つい気になって見てしまうのはなぜか。フランシス・ラーソンが人間と公開処刑の歴史、中でも斬首刑に焦点を当てて解説したこのトークは、気分の良い内容ばかりではありませんが、同時に興味をそそること間違いないでしょう。