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ジカ熱理由に五輪辞退、渡辺彩香「治らないわけじゃない」に心地よい響き

デイリースポーツ 6月29日(水)11時0分配信

 女子ゴルフでリオデジャネイロ五輪出場を目指している渡辺彩香(22)=大東建託=の言葉に胸を打たれた。先日のアース・モンダミンカップの会場。記者が「ゴルフではリオデジャネイロのジカ熱や治安の悪さを理由に五輪出場を辞退する流れがあるが、これをどう思うか?」と質問すると、渡辺は迷うことなく答えた。

 「ジカ熱や治安のことは聞いています。不安はありますが、それを理由に五輪に出場するチャンスをあきらめるなんて、そんなもったいないことはできません。ジカ熱になっても治らないわけではないみたいだし、私は今のところ妊娠とも関係ないので、なったらなったでいいかという感じです。治安については、選手村から出なければ問題ないと思います」

 実に歯切れがよく、日本のいい意味での武士道を継承するかのような心意気がいい。自分たちは戦士、戦いの環境は選べないし、それは相手も同じ条件。四の五の言わずに現地へ行って、目標はただ相手を打ち負かし、自分が金メダルを首から下げるのみ-。

 記者がこう感じた背景には、世界の一流選手の、特に男子選手の中には出場権がありながら、現地の治安の悪さやジカ熱の危険を理由に、出場を辞退する選手が出始めているという現実がある。

 例えばアイルランド代表権がある世界ランク4位のロリー・マキロイが五輪に出場しない意向を明らかにした。報道によれば、マキロイは声明で「熟考を重ねた結果、リオデジャネイロで開催される夏のオリンピックから辞退することを決断した。近親者と話し、自分と家族の健康がなによりも優先されることを認識するにいたった。ジカ熱に感染するリスクは低いとされているが、それでもそれはリスクであり、そのリスクは取りたくない」と話したという。

 世界では既に豪州のアダム・スコット、南アのルイ・ウーストハイゼン、シャール・シュワルツェル、オーストラリアのマーク・レイシュマン、フィジーのビジェイ・シンらが過密日程やジカ熱への懸念などを理由に五輪辞退を表明している。また、日本の松山英樹も出場について態度を保留しており、今後も辞退者が出る可能性は低くはなさそうだ。

 記者としても、仮に現地へいくことになったら二の足を踏むだろう。五輪出場はこの上ない栄誉だが、身の危険を冒してまでとなると、やはり考えてしまう。多くの人には自分の他にも家族、友人、財産など守るものがある。極端な話、交戦中の国で五輪が開催されるとして、出場する選手はまずいないはず。自分や自分の愛する者を守るために、危険を避けることは実にまっとうな考えだと思う。

 とはいえ、出場を辞退する選手に対して、少し残念な気持ちが沸くのは私だけだろうか。だからこそ、竹を割ったような、まっすぐな渡辺の発言が鼓膜に心地よく響く。怖いもの知らずの若さゆえかもしれないが、還暦を迎えようとする記者が忘れていたことを痛切に思い出させてくれる。人間、生きていく上で、渡辺のように前だけを見ていられたら、どんなに楽しく幸せなことだろう。

 「ジカ熱にかかっても治らないわけじゃないみたいだし、かかったらかかったでいいかなと思っています」。尊い言葉をさらっと口にした渡辺、五輪出場が叶った暁には、大和魂を胸に威風堂々、世界をねじ伏せてほしい。(デイリースポーツ・松本一之)

最終更新:6月29日(水)11時16分

デイリースポーツ