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消費増税見送りで、家計は元気を取り戻すのか?

ZUU online 6月30日(木)19時10分配信

参議院選の投票日が次の7月10日に迫っている。すでに期日前投票をし、意思表示を済ませた人もいれば、当日に投票しようとしている人もいるだろう。さらには、投票先の政党や候補者をまだ、決めかねている人もいるかもしれない。

「アベノミクスの成否」も選挙争点の一つと目されており、消費税の10%への引上げ見送りや、円安・株高による「キック・スタート」を追求してきたアベノミクス。安倍晋三首相にとっては、「リーマンショック級の海外リスクが怖い」と延期した消費増税も、「Brexit(英国のEUからの離脱)」の市場へのショックで、怪我の功名に落ち着いた観もある。一部には安倍首相には「先見の明」があったとする見方さえ浮上しているほどだ。

■所得・消費の拡大をもたらさぬ「アベノミクスの成果」とは?

一方、安倍政権が選挙戦で胸を張って「アベノミクスの成果」として喧伝しているのは、雇用環境の改善だ。確かに、有効求人倍率、完全失業率、企業の「雇用人員不足感」といった労働市場の動向を見る限りでは、人材不足の雰囲気も強まっており、雇用も上向いていると言えなくもない。アベノミクスの効果だと見ることももちろん、可能だ。

しかし、現実はそう単純ではない様子だ。端的にそれを表しているのは、現金給与総額でみた一人当たり賃金。年度ベースでみれば2015年度まで5年連続で減少してきた。最近の数カ月は、実質、名目ともに増加しているとはいえ、「アベノミクスの成果」で改善していると言えるかどうかは判然としない。

また、正社員の雇用数の動向も芳しくない。春闘で賃上げ2%台の達成が濃厚になっているものの、恩恵を主に受ける正規雇用者数は2007年以降減少の一途をたどっている。さらに被雇用者数自体は増えているが、2013年以降は非正規雇用や短時間労働者の増加が中心で、消費の拡大に回る、所得の拡大と単純には割り切れない事情もある。

他方で、個人消費や家計の動向は、景気の向上や経済成長を後押しする上で重要性を増してきている。現状を踏まえると、アベノミクスを評価するにあたって「家計」の動向そのものにもっと注目することが不可欠だ。GDPの6割を占める家計消費が動かない限り、景気回復、持続的な経済成長は覚束ないというマクロの視点からも、庶民の生活窮迫感の緩和、個人向けビジネス環境の改善というミクロの視点からも同様に重要なことになるだろう。

■マクロでみる家計の所得と消費

個人消費の動向にそこで、踏み込んで見てみよう。最近2年間では、2014、15年度と2年連続で実質マイナスだ。力強さを欠く背景には、(1)実質賃金の伸び悩み、(2)2015年後半の株価低下による消費者マインドの停滞、(3)2014年4月の消費税引上げ(5%から7%へ)に伴う予想外に大きな駆け込み需要への調整、(4)天候不順などの特殊要因も浮かんでくる。

特に、消費増税の個人消費に与える影響については、駆け込み需要の反動減で約2.0%、価格上昇による実質所得の減少による効果で約0.9%と試算されている(2015年経済財政白書)。ただし、収の増大とそれを通ずる社会保障財政の再構築に対する期待が、消費者マインドにどう影響するかは理論的にも、実証的にも定かではない。

大事なのは消費の低迷が、リーマンショック以降継続していることだ。実質消費は、基本的には名目可処分所得、消費者物価、消費性向によって説明される。物価要因は消費税の物価押し上げ効果とその?落、為替相場や、資源価格等の影響を受けつつも、ほぼデフレ傾向が続くことで、どちらかといえば実質所得を下支えする方向に作用してきた。

問題は、名目所得だ。大部分を占める給与所得の伸び悩みだ。リーマンンショック(2009年)以降2014年にかけての名目給与の変化を国際比較すると、欧米4カ国(英米仏独)は10%前後の増加となっているのに対し、日本はほぼ横ばいだ。実質では1.4%増となるが「物価の下落」のおかげという「デフレ脱却政権」には皮肉な結果にすぎない。

個人が実際に使えるお金(可処分所得)から、消費にどれだけ回ったかの割合である消費性向は、最近数年間は一貫して上昇している。ただ、クセモノなのは、消費性向の高まりが、家計の消費意欲の高まりを反映するものなのか、はっきりとはしない点だ。ほかにも、所得が伸びない中で消費を切り詰めたり、貯蓄を取り崩したりしないため、押し上げられているかもまだ、明確ではない。

■近年の家計行動を左右する「高齢者世帯」の重み

答え探しも含め、「家計の今」を把握するにはよりミクロな視点を含む多様な分析が必要だ。以下では「高齢者世帯」の家計行動が持つ意味に焦点を絞って注目点をいくつか挙げよう

高齢化が進めば進むほど消費は伸びにくくなりがちだ、少なくとも近年の日本の場合、高齢者が消費の主役となっているようだ。やや古いが、2003年から2010年の個人消費の変動を世帯主の年齢階層別に分析した経済財政白書の推計によれば、60歳以上の高齢者世帯による個人消費の押上げ寄与は非常に大きい。

対照的に35~59歳の中年世帯はプラス・マイナス両側に振れるものの、通常小さな影響しか与えず、34歳以下の若年世帯は、ほぼ一貫して個人消費を押し下げる方向に寄与している。もちろんこうした結果は高齢者の「世帯数」が一方的に増えていること、高齢者の消費性向が圧倒的に高いことと無縁ではない。

高齢者世帯の消費性向の高さを支える一因は言うまでもなく取り崩せる保有資産のあることだ。「全国消費実態調査」(2009年)で、年収200~400万円未満の世帯において、金融資産残高が1000万円以上である世帯の割合をみると、現役世代(20~59歳)の1割程度に対し、高齢者(60歳以上)では5割程度に達する。

一方で高齢者家計の消費の中味を見ると食費や医療費などの義務的経費が相対的に大きなシェアを占めている。年金など限られた収入に頼るしかない高齢者にとっては、円安や消費税による食糧品の値上がりが大きな負担増と感じられることもありうるわけだ。

今後の消費拡大を目指すに当たっては、年齢格差、所得・資産格差への目配りといった細やかな配慮が不可欠となって来るだろう。(岡本流萬)

最終更新:6月30日(木)19時10分

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