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「撮りたい」の一瞬を逃さない ウインクで世界を切り取るウェアラブルカメラ「Blincam」

ITmedia ニュース 6月30日(木)11時51分配信

 今この瞬間、見ている世界をそのまま切り取れればいいのに――そんな夢をかなえるウェアラブルカメラ「Blincam」(ブリンカム)を日本のスタートアップが開発している。まばたきの動きをセンサーで感知し、ハンズフリーでシャッターをきる仕組みだ。

【画像】眼鏡のフレームに付けて使用する、着脱式のカメラ

 Google GlassやApple Watchをはじめ、大手IT企業が次々とウェアラブル端末を発表していたのは記憶に新しい。Blincamは高機能で汎用性がある製品ではなく、あくまで撮影に特化していることが特徴の“ありそうでなかった”IoTガジェットだ。

 高瀬昇太CEOはアイデアが生まれたきっかけを「子どもの自然な表情を逃さず残したかったから」と話す。スポーツやドライブ、サイクリング中に、映像制作のツール、工場など手が離せない現場作業の記録など、応用が期待できる分野は幅広い。

●「面倒だな」を1秒でも減らす

 Blincamは、眼鏡のこみかみ部分のフレームに付ける着脱式のカメラ。強くまばたきするとパシャリとシャッターがおり、スマートフォンやデジタルカメラを起動したり構えたりする必要なく、「今だ!」と思った瞬間をHD画質のカメラで逃さず収められる。特別な眼鏡は要らず、普段使いの眼鏡にプラスして付けられるのもポイントだ。

 「どんなに面白くても楽しそうでも、ちょっとでも面倒だなと思ってしまうと、もうその瞬間に少しやる気がなくなっちゃいません?」――高瀬さんが開発する上で徹底的にこだわったのは「面倒なアクションを1秒でもなくす」ことだった。

 例えば、眼鏡のフレームへの付け方。眼鏡自体にカメラ機能を内蔵すると、いつ撮影しているのか周囲からは分からず、盗撮などを疑われる可能性もありえる。Blincamは当初から常に装着・撮影し続けることは想定しておらず、使いたい時にすぐに装着できる着脱式を考えていた。カメラの存在を外からも分かるようにしてプライバシーに配慮しつつ、普段使いの眼鏡にプラスできる気軽なスタイルだ。

 眼鏡側にパーツを事前に付けておく取り付け型、上下に挟み込むクリップ型、端から通すような筒型、マグネットピアスのように裏表から挟む磁力型などさまざまな形を検討した。眼鏡を外したりかけたりするのは手間、使わない時もパーツが付いているのはうっとうしい、などユーザー目線で「これなら使いたいと思えるか」を考え抜き、何度も作り直したという。

 最終的には、やわらかくフィットするラバー素材のアタッチメントに落ち着いた。眼鏡をかけたまま耳元に手をやり、上からかぶせるようにフレームに取り付け、安定させるまでわずか数秒だ。

 撮影した写真は、アプリ経由でスマホから、USBケーブルをつないでPCから、撮影後すぐに確認できる。カメラとスマホアプリの連携は今や珍しくないが、その挙動にもこだわる。

 撮影した写真は本体内部のストレージ(16/32GBを予定)に保存し、専用アプリから確認・整理できるようになっている。同様の機能を持つデジタルカメラは、Wi-Fi経由で通信するタイプがほとんどで、その都度カメラと端末を接続する必要がある。

 Blincamでは、その一瞬の手間を省くべく、Bluetoothを用いて通信する仕様を採用した。スマホ側がBluetooth通信をオンにしている限り、特別な操作なくアプリを起動するだけで画像一覧を表示する。Bluetooth規格は本来は画像のような大きなデータをやりとりするものではないため、軽量化の工夫を施したという。

 プロトタイプを作る上で最も苦労したというセンサーも、使い心地を再優先に試行錯誤した。「ウインクで撮影」を実現するため、こめかみの筋肉の動きを検知する電波系の独自センサーを開発し、特許も取得。非接触センサーなので肌に触れる必要もなく、いつもの眼鏡のかけ心地を損なわない。

 「とにかく自分が1ユーザーとして感じる面倒くささや、いつもと違うアクションが必要になる手間をなくしたかった。眼鏡型の端末は数年前にいくつか出たが、あくまでギークな道具にどまってしまった理由の1つがここにあると思っている。眼鏡自体もファッションの一部であって、それごとメカニックにすることに抵抗がある人も多いはず。使いたい時にすぐに使えて、ユーザーの日常やこだわりを壊さないことを1番に考えた」(高瀬さん)

●子どもの自然な表情、その一瞬を収めたい

 Blincamのアイデアが生まれたのは2015年春のこと。外資系企業のシステムエンジニアとして働いていた高瀬さんは、起業に興味は持っていたが、具体的なアイデアはなく、起業家が集まるイベントの運営に携わりながら知見を広げていた。

 具体的に一歩を踏み出したきっかけは、IoT(Internet of Things、モノのインターネット)をテーマにした「スタートアップウィークエンド」(週末で集中的に行うビジネスプラン立案ワークショップ)に参加したことだった。

 「子どものかわいいしぐさや表情、その一瞬を逃さず残したい」――着想の発端は、自身が子どもと遊んだり接したりする中で感じた「もっとこうなれば」というもどかしさと願望だった。スマートフォンや一眼レフカメラを使って撮ると、どうしても両手がふさがってしまう。レンズを意識していない自然な表情やしぐさを撮りたい。まばたきするだけでこの光景が焼き付けばいいのに……。そんな日々の感覚から生まれた。

 イベントにあたってチームでプロトタイプ作りに励んだが、決められた時間内にはアイデアをきちんと形にはできず、次につながるような賞や評価も得られなかった。しかし、周囲にヒアリングする中で「スポーツ中にプレイヤーの目線で撮影したら面白そう」「料理しながら撮ってみたい」など、自分の生活や趣味に引きつけた好意的な感触や提案が多く、手応えを感じたのも事実だった。悔しさの中で「絶対可能性はある、これはいける気がする」という思いが強まっていったという。

 7月には単身会社を設立し、ハードウェアエンジニアをはじめ、少しずつ協力メンバーを募っていった。夜や週末など空いた時間に手伝ってもらう仲間を集め、抱いた熱を形にすべく小さなチームでスタートした。

●「スマホでできるじゃん」の先にある“気持ちいい”IoT

 創業1年未満ながら、プロトタイプを手にアジアやヨーロッパのイベントや展示会にも参加し、国外に向けても積極的にアピールする。Webサイトやアプリの成熟した市場に比べ、IoT関連は大手もスタートアップもさまざまな機器を開発・提案している段階だ。市場として注目も高く、海外メディアや来場者からの反応も上々だという。

 国内向けには、7月14日にクラウドファンディングサイト「Makuake」で先行販売を始める予定だ。製品出荷は年末~年明けを目指す。通常定価は2万円前後で、各種早期割引も用意するという。

 その後、ウェアラブル端末の文化が比較的先行しており、プライバシー面でもハードルが低めな米国での展開に着手する予定。将来的には欧州や中国など各国でも、パートナーを見つけるなどして販売を広げていきたいという。

 まずは現状のプロダクトの開発・販売を軌道に乗せることを目的に掲げつつ、今後の方針としてはさらなる小型・軽量化、眼鏡なしでも付けられるタイプの開発などを目指す。ウインクを感知する独自センサーの他企業への提供も視野に入れる。

 要望の多い動画対応も検討するが「視界を丸ごと録画することが目的ではなく、瞬間を切り取るのがコンセプト。シャッターを押した前後10秒を収めるなど、Blincamならではの動画活用を考えていければ」(高瀬さん)。

 IoTの意義は「センサーや通信環境を使って、1つ1つのアクションをもっと気持ちよく、簡単にできること」と高瀬さんは考えている。

 「写真の撮影を含め、IoT機器が実現する行為のそれぞれは、結局スマホでできること。デバイスがこれだけ高機能に進化している今、ネガティブな意味ではなくてそれはそれで正しい。その前提の上で一部の機能をシンプルに取り出し、もっと気持ちよく、簡単に、感覚的な使い方を追求できるのがIoTの役割だと思う。だからこそ、“気持ちよさ”に徹底的にこだわっていくしかない」(高瀬さん)

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最終更新:6月30日(木)12時9分

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