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トランプ氏のポピュリスト戦略、苦境に

ニュースソクラ 6月30日(木)11時0分配信

支持率低下は、トランプ氏の終わりの始まり?

 米フロリダ州オーランド市のナイトクラブで49人が犠牲になった米国史上最悪の銃乱射事件から今週末で3週間。テロ後に支持を増やしてきたトランプ氏だが、今回ばかりは支持率低迷に悩んでいる。

 通常、安全保障上の脅威が生じると、共和党候補者に有利に働く。コロラド州デンバー大学で中東政治を教えるネーダー・ハシェミ准教授によれば、「断固たる態度で臨む」ことを約束し、民主党の弱腰を批判するのが共和党候補者のポピュリスト戦略だ。

 トランプ氏が、まさにそうだった。今回の銃乱射事件を受け、我が意を得たりとばかりに、イスラム系移民の入国禁止を改めて強調。13日のニューハンプシャー州での講演では、神妙な面持ちで聴衆に黙とうを求め、特定の宗教や人種などへの偏見・先入観・一般化をタブーとする「ポリティカル・コレクトネス(PC=政治的・社会的正当性)」のせいで、「何が問題か議論することさえできない」と、持論を展開した。

 「賢明で断固とした措置を今すぐに取らないと、われわれの国は滅び、何一つ残らない。何一つ!」と、デマゴーグ(扇動者)として不安を煽るのも忘れなかった。そして、民主党のクリントン候補を「『ラジカル・イスラム(イスラム過激派)』という言葉さえ口にしない、銃規制だけでテロを防ごうとする」弱い候補だと、舌鋒鋭く批判した。

 また、破たんした移民制度のせいで、オーランド事件の容疑者の両親がアフガニスタンから米国に移住したとし、移民制度改革が実現するまで、「欧米や同盟国にテロ攻撃を行った地域からの移民の入国を禁止すべきだ!」と、ぶち上げた。

 トランプ氏が強気を崩さない背景には、こうしたお騒がせ発言のたびに有権者の支持が厚くなるという事情があった。だが、今回はトランプ氏の思惑が外れたようだ。14日発表の米ブルームバーグの世論調査によると、クリントン氏の支持率が49%だったのに対し、トランプ氏は37%と、ほぼ拮抗していた両者の差が12ポイントに広がった。ワシントン・ポスト紙とABCニュースの共同世論調査では、トランプ氏を否定的に見る人は70%(クリントン氏は55%)と、過去最高に達している。

 トランプ氏は事件後、ツイッター上での第1声で、同氏が急進的イスラムのテロリズムに対し断固たる姿勢で臨んできたのは正解だったとして、「祝意」を示した。だが、「これが完全に裏目に出た」と、カリフォルニア州ロサンゼルスのロヨラ・メリーマウント大学で教鞭を取るマイケル・ジェノビース政治学部教授は指摘する。「対するクリントンは、慎重、熟慮した対応を示した」(同教授)。

 クリントン候補は13日に電話出演したNBCニュースの番組で、「イスラム教徒全体を糾弾するのは、むしろ危険だ」と指摘。「『ラジカル・ジハーディズム(急進的聖戦主義)』『ラジカル・イスラミズム(急進的イスラム主義)』、どちらの言葉を使うのも、やぶさかではない」と、抑えた口調で語った。「イスラミズム」には、「イスラム」より政治的な意味合いがあるという。

 トランプ氏の人気失速は、実はテロ以前から始まっていた。6月初め、同氏は、詐欺的行為などで訴訟沙汰になっている不動産系オンラインプログラム「トランプ大学」の担当判事がメキシコ系であることを取り上げ、「不利な審判が下る」と不満をあらわにしたのだ。共和党のライアン下院議長は、これを「典型的な人種差別」と一蹴。トランプ候補にとって「大きな痛手」になった。

 米政治紙『ヒル』によれば、ラリー・プレスラー元共和党上院議員がクリントン候補への正式支持を表明し、他の共和党員も続くよう呼びかけるなど、党内でも懸念が再燃している。ライアン下院議長は、トランプ氏への支持を撤回しないとしながらも17日、NBCニュースに対し、「『良心』に逆らってまでトランプ氏を支持しろなどと言うつもりはない」と、各議員の判断に任せる見解を示した。

 大企業も、「トランプの共和党」と距離を置き始めている。米政治誌『ポリティコ』の電子版(18日付)によると、フェイスブックやグーグル、マイクロソフトは、来月開かれる共和党全国党大会に何らかの支援を行うが、アップルは、いかなる支援も行わないという。JPモルガンやフォード自動車、米ドラッグストア大手ウォルグリーン、米貨物大手UPSなども後援しない(ブルームバーグ16日付)。

 トランプ報道も辛辣さを増している。背景には、トランプ氏が、批判的な報道をするメディアや記者を非難し、選挙遊説の取材許可を出さなかったり、記者を名指しで「ゲス野郎」呼ばわりしたりするという事情がある。

 5月31日には、全米記者クラブが「合衆国憲法修正第1条(出版・報道の自由)に対する、ドナルド・トランプの危険な姿勢」に警告を発した。「本来の職務を果たしている報道機関を攻撃するような候補者は、民主主義国家で選挙活動などすべきではない」というわけだ。

 大統領選まで4カ月半。支持率低下は一時的なものなのか、トランプ候補の「終わり」の始まりなのか。ジェノビース教授いわく、今回ばかりは「トランプが落ち込んだ穴は深く、這い上がれないのではないか」。

 一方、テロ後、トランプ氏の支持率がわずかながら上がったという報道もある。ロイター通信と米調査会社イプソスによる最新の世論調査では、クリントン氏とトランプ氏の支持率の差が13ポイントから11.6%に縮まった(ロイター14日付)。

 大統領選前に新たなテロが起こるようなことがあれば、有権者が、恐怖心やオバマ政権への不満からトランプ氏に救いを求める可能性もある。「米国にとって、テロは極めて感情に訴えるもの」(ハシェミ准教授)だからだ。

 副大統領候補を引き受ける議員すらいないのではとの声もあるなか、米東部時間20日朝、トランプ陣営は、コーリー・ルワンドウスキ選挙対策本部長の更迭を発表した。今後、起死回生策に打って出るのは確実だ。

肥田 美佐子 (ジャーナリスト 在NY)

最終更新:6月30日(木)11時0分

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