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『欲望』(1966年)監督:ミケランジェロ・アントニオーニ 出演:デヴィッド・ヘミングス 第52回【名画プレイバック】

シネマトゥデイ 7月1日(金)15時30分配信

 今の世の中は、理解できないものに対する許容度はとても低い。疑問や知りたいことがあるとネットで検索し、そこにある答えや説明で納得する。その情報が正しいか否かはさておき。だが、こんなふうにお手軽に答えを得られるようになり、世間が謎を謎として受けつけなくなったのは、つい最近のこと。およそ半世紀前、ミケランジェロ・アントニオーニが『欲望』(1966)を発表したとき、観客はその不条理な世界を大いに楽しみ、その謎について、ああでもないこうでもないと議論を戦わせた。(冨永由紀)

 全編イギリスのロンドンで撮影した『欲望』は、『太陽はひとりぼっち』(1962)や『赤い砂漠』(1964)などのアントニオーニ監督初の英語作品。1967年のカンヌ国際映画祭でパルムドール(最高賞)を受賞している。一面の芝生から映画は始まり、次々と謎をばらまいていく。車で走り去る白塗りの集団、どこかの建物から一斉に出てくる粗末な身なりの男たち。その中にブロンドの若い男が1人。主人公だ。だが、この男はロールスロイスのオープンカーを乗り回し、高級なカメラを持っている。

 ファッションフォトグラファー、トーマスの1日を描く前半は、当時スウィンギング・ロンドンと呼ばれたポップカルチャーを象徴するような主人公の行動を追っていく。自信過剰で尊大で、若くてきれいなモデルたちを奴隷のように支配する仕事ぶり。言葉で煽りながらシャッターを切るアグレッシブな様子は非常に印象的で、だからこそ、あのアイコニックなポスターのビジュアルとして、冒頭のフォトセッションのシーンが使われたのだろう。当時のスーパーモデル、ヴェルーシュカが本人役を演じているこのシーンは、性描写に厳しいヘイズ・コードに挑むようでもあり、原題『Blow-Up(写真の引き伸ばし)』と全く関係ない邦題はこのイメージに触発されたもののように思える。

 本作でブレイクし、ジェーン・フォンダ主演の『バーバレラ』(1967)などで活躍したデヴィッド・ヘミングスは撮影当時25歳。実在の人気フォトグラファー、デヴィッド・ベイリーを思わせる主人公のクールさ、傲慢さ、全てを得ているようでどこか空疎な雰囲気をうまく演じている。

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最終更新:7月1日(金)15時30分

シネマトゥデイ

TEDカンファレンスのプレゼンテーション動画

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昔は街の広場で、現代はYouTubeで。歴史を通じ、公開処刑には必ず人だかりがつきものでした。人が処刑というものを、恐ろしく不快に感じながらも、つい気になって見てしまうのはなぜか。フランシス・ラーソンが人間と公開処刑の歴史、中でも斬首刑に焦点を当てて解説したこのトークは、気分の良い内容ばかりではありませんが、同時に興味をそそること間違いないでしょう。