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話題の新曲「ヨシ子さん」にみる音楽家・桑田佳祐の真髄

オリコン 7月1日(金)16時0分配信

 桑田佳祐が6月29日に発売したシングル「ヨシ子さん」がネットを中心に「歌詞が面白い」「ヨシ子さんって誰?」などと注目を集めている。本格的な夏を前に、約3年ぶりに放たれる新曲ということで、王道のポップスになるかと思いきや、MVも含めた“カオス”な世界観が話題に。桑田らしい、毒気のあるポップスが、驚きと新鮮さを持って受け入れられている。果たして新曲にはどんな思いが込められているのだろうか? ここ数年、桑田へのインタビューを重ねてきたライター/編集者の内田正樹氏の寄稿から、「ヨシ子さん」をひも解いていきたい。

■敢えて“新境地”の新曲をメインに持ってきた理由

 今回の「ヨシ子さん」発売にあたっては、発売のアナウンスからジャケ&収録曲公開、歌詞、先行視聴した関係者のコメントを段階的に公開していき、ファンの期待感を高めていくという手法が取られた。5月の半ばの発表時には、関係者によると、「桑田流ポップスの新境地を開拓」する意欲作で、桑田本人は「インドとラテンとペルシャと東南アジアが混ざった、無国籍な匂いがする、平成のロバート・ジョンソンともいうべき曲になりそう」と表現。“ヨシ子さん”というタイトルからはおおよそ予想できない、わかるようでわからないそのコメント、そして小出しにされる情報に、どんな曲が飛び出してくるのか、想像を膨らませていた人も多かったのではないだろうか。

 そして6月17日の『MUSIC STATION SP「世代を超える カッコイイ歌謡曲」』(テレビ朝日系)でテレビ初披露されると、多くの音楽リスナーに衝撃が走った。内田氏は「(「ヨシ子さん」のような曲を)M1に持ってきてリリースするという英断は、桑田にとっても、スタッフにとっても、かなりの冒険だったに違いない」というが、確かに、楽曲としての完成度は高いものの、この時期に発売するのであれば、例えばM3の「愛のプレリュード」のように、「波乗りジョニー」を彷彿させるキラキラのポップソングを1曲目にもってきてもいい。この理由について、内田氏は「『かの時代に比べたら音楽が売れなくなったと言われて長いけれど、そろそろそんなこと言っててもしょうがねえだろうよ』『たまには面白いことしようぜ? そろそろざわざわしちゃおうぜ?』という、イタズラ心に近い実験的精神が作用したような気がしてならない」と分析する。

■一筋縄の表現ではいかない等身大の桑田佳祐

 サザンオールスターズのフロントマンとして、35年以上音楽シーンのトップを走り続けてきた桑田だが、思えばソロ活動に関しては歌詞などに、より“等身大”の部分が反映されていたと思う。幅広い層に訴求する大衆性も持ちながら、特に同年代の男性が感情移入してしまわずにいられない人間くささ、愛の姿、死生観……「ヨシ子さん」では自らを“オッサン”とし、その“オッサン”の目線から「EDM」「サブスクリプション」など最近の音楽のブームには疎い、<なんやかんや言うても演歌は良いな>と歌う。

「そもそも桑田佳祐はかつての立川談志やビートたけしらに通じる批評眼の持ち主。“ヨシ子さん”自体に深い意味はないようだが、散文的な歌詞はおっさんのボヤきのようでありながら、一方で時事漫談のような切れ味を帯びている。サザンオールスターズの歌詞が当時の若者であり桑田のリアリティだったように、おそらくは「ニッポンの男達が元気ないんじゃない?」「おフザケやエロが足らないんじゃない?」という思いがいま彼のなかにあるからこそ、身体を張って全力でフザけているのだ」(内田氏) 

 「ヨシ子さん」には“桑田佳祐の今”が存分につめこまれている。“等身大の自分”を歌おうと思った時に、ストレートな言葉ではなく、全く違うところから球を投げてきて、それでいてきちんとポップスとして仕上げているところが、いつの時代も彼の曲が人々の心をつかんで離さない所以なのかもしれない。

最終更新:7月4日(月)11時26分

オリコン