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<映画の交叉点>ポップ・ソングへの親愛が詰まった珠玉の青春映画「シング・ストリート」

Stereo Sound ONLINE 7/1(金) 18:10配信

壁にフライヤーを貼ってニヤニヤしてしまう

 音楽はどんな心情と風景のなかから生まれてくるのか。

 ジョン・カーニー監督の「はじまりのうた」(2013年)は、多くの観客から愛された人生ドラマの佳作だった。落ち目の音楽プロデューサー(マーク・ラファロ)と、新人シンガーソングライター(キーラ・ナイトレイ)のつかのまの交感。

 ネコ宇宙飛行士のジャケット写真が印象的なダンス・ロック・アルバム『サーフィング・ザ・ヴォイド』(2010年)などを出した英国のロック・バンド、クラクソンズのジェイムズ・ライトンと家庭を構えたくらいだから、もともと素養があったのだろう。ペナペナのサマードレス姿にアコギで、ノラ・ジョーンズみたいな歌声を聴かせるキーラが魅力的だった。

 ジョン・カーニーは、アイルランド出身のロック・バンド、ザ・フレイムズの初期のベーシストだった人物で、アイランド・レーベル(トラフィック、ジェスロ・タル、ロキシー・ミュージック、ロバート・パーマー、マリアンヌ・フェイスフル、懐かしいなあ!)からリリースされたデビュー・アルバム『アナザー・ラヴ・ソング』(1991年)に参加。その後、映像作家に転身した。

 これも音楽ドラマの秀作として、さざ波のように人気が広がっていった2006年の演出作「ONCE ダブリンの街角で」もいい映画だったっけ。

 売れないストリート・ミュージシャンを演じたグレン・ハンザートはザ・フレイムズのフロントマンで、チェコ移民の女性に扮したマルケタ・イルグロヴァとザ・スウェル・シーズンというデュオを組み、2009年には来日公演も行なっている。

 最初に実在のグループがあり、その存在と音楽性を活かして作られた低予算映画。男(ハンザート)の曲に歌詞を付けるため、預かったCDを聴きながら夜の街を歩く女(マルケタ)にカメラが寄りそう魅惑的すぎるシークエンスがあり、“希望の声をあげよう、自分で選んだ道なのだから。きっと君はたどり着けるよ”と歌われる挿入歌『フォーリング・スローリー』は(ほとんどノン・プロモーションだったのに)アカデミー歌曲賞に輝いた。

 そうそう、この「ONCE ダブリンの街角で」、青い掃除機が出てくるのだけれど、その扱いが笑える。最高にいい。ハーネス(胴輪)を付けた雑種犬の散歩みたいで。その眺めも、気持ちの持ちようも、なんというか音楽的なのだ。

 と、これまでの2本がどちらも良かったので楽しみにしていたジョン・カーニー監督の新作「シング・ストリート 未来へのうた」。これがもう、涙ちょちょ切れた!

 滅多にそんなことはしないんだが、仕事机の前の壁にフライヤー(チラシ)を貼って、お前ら最高だよ! とニヤニヤしている。俺は中学生かよ。でも、それだけ吸引力のある音楽青春映画なのだ。

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最終更新:7/1(金) 18:10

Stereo Sound ONLINE