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[書評]韓日米主流の利益に合致する朴裕河現象

ハンギョレ新聞 7月2日(土)10時17分配信

『誰のための「和解」なのか』ー「帝国の慰安婦」に見られる反歴史性 鄭栄桓著、イム・ギョンファ訳/プルン歴史

在日朝鮮人3世の歴史学者、鄭栄桓氏
日本メディアが絶賛する「帝国の慰安婦」批判
日本問題を韓国問題に変質させる

 『帝国の慰安婦』(2015年)をはじめとした世宗大の朴裕河教授(日本文学)の著作と、その著作がもたらした朴裕河現象、それを増幅させる日本の“知的後退”を鋭く批判する本が出版された。明治学院大准教授で在日朝鮮人3世の歴史学者、鄭栄桓(チョン・ヨンファン)氏の『誰のための「和解」なのか』(原題、『忘却のための「和解」』)における批判は痛烈で根本的な問いかけがされる。解題を書いたオスロ大の朴露子(パクノジャ)教授は、同書を「『帝国の慰安婦』を超えた朴裕河現象という2000年代以降の韓日間の重大な知的論壇上の現象を歴史的に究明することに大きな貢献をした」と評した。

 帝国の慰安婦(以下、「帝国」)、『反日民族主義を超え』(2004年、「反日」)、『和解のために』(2005年、「和解」)など朴裕河氏の著書が日本で絶賛された原因の一つは、韓国人が韓国の「反日ナショナリズム」を批判した点にある。著者の鄭栄桓氏も指摘しているように、これは実に奇妙なことだ。残酷な反人倫的戦争犯罪の解明と断罪という人類の普遍的課題に対する被害者の要求を、韓国や韓国人と称される集団の「反日」民族主義に置き換え、罵るような態度こそ、むしろ日本民族主義の発露と言わねばなるまい。

 日本軍「慰安婦」問題の根本的な解決策は、日本政府が戦争犯罪を事実そのままに認め、被害者に謝罪と補償をした後に真相究明と再発防止、そして加害事実の責任を負って(教科書などに)叙述して教育することにある。これは反日民族主義の根本解決策でもある。問題はこの単純明快な解決策を日本が拒否していることだ。朴裕河氏の著作が日本で歓迎されるのは、そのような拒否の論理に合致することと無縁ではないだろう。

 「反日」、「和解」、「帝国」は、大佛次郎論壇賞(朝日新聞社主催)や石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞など様々な賞を受賞した。 「帝国」は右翼紙の産経新聞や保守紙の読売新聞は言うまでもなく、朝日新聞や毎日新聞といったベラルのメディアも絶賛するなか1万部以上が売れた。

 鄭栄桓氏は日本国内のこうした評価と動きを真っ向から反論する。「朴裕河氏は、今まで議論されてきた日本軍『慰安婦』制度や韓日会談、戦争責任や植民地支配の責任に関する研究を理解できないばかりか、歴史研究の成果に照らしてみても、『帝国』が描いた歴史には数多くの致命的な問題があり、史料や証言の解釈も恣意的と評価せざるを得ない飛躍がある」。朴裕河氏はよく批判者の誤読を批判するが、朴裕河氏こそ誤読と無理解、事実の歪曲、恣意的な編集と解釈の誤りの張本人だと鄭栄桓氏は指摘する。

 その具体的事例を朴裕河氏の著作から一つひとつ見出して批判し、朴裕河氏の和解論の論理的根拠を崩すことで、そこに歓呼する日本国内の知的・思想的信条の問題点を示しているのが『誰のための「和解」なのか』の基本構造になっている。

 鄭栄桓氏は、秦郁彦氏など「慰安婦」問題と関連した日本軍と日本国家の責任を否定する者たちの歴史修正主義的見解に朴裕河氏が批判するような姿勢を取っているが、基本的に日本軍無罪論と事実認識を共有し、真偽を問わないまま、その主張をすべて認めたうえで批判する限界があると指摘する。

 朴露子氏によれば、朴裕河氏を話題にすることは両国の支配層の意図に合致する。被害者側の譲歩を主張する朴裕河氏の和解論は、韓日資本の関係拡大の障害物である反日民族主義の解体作業に流用された。日本国内の韓流ブームの造成もそれと無縁ではないという。

 金大中(キムデジュン)、盧武鉉(ノムヒョン)政権の登場と市民社会や進歩的知識勢力の台頭に驚いた韓国支配層エリートらは、自らの基盤であり、根が植民地時代にあるエリートらに対する弁護が必要となり、その頃は進歩的なイメージを持っていた朴裕河氏は、この課題に対する適任者だった。朴裕河氏は「合理的に歴史を清算してきた日本」対「感情的で無理な要求ばかり掲げる韓国人の反日民族主義」という虚構の対立構造を設定し、もともと日本問題だった反日民族主義を韓国・韓国人の問題に置き換え、日本で脱民族進歩主義者と認められた。韓国人という民族や集団全体が「うそつき」「詐欺集団」と位置付けられる荒唐無稽な事態が起こるのは、その論理的帰結である。

 日本での朴裕河論は、二つの歴史修正主義、つまり伝統的保守派の植民地化・戦争責任の否定論、そして保守化して主流への「延性転向」を図るイカサマ自由主義者たちの戦後「民主・平和国家日本」という虚構のイメージの肯定と反省、「和解」志向を一つに統合できる素材となった。さらに、冷戦的対決構図を温存させ、中国を想定した韓米日三角軍事同盟体制を強化しようとする米国の利益にも合致すると朴露子氏は考えた。

 一方、7月1日にソウルで開かれる予定だった本の出版記念講演会のため、30日に入国しようとした著者の鄭栄桓氏は、入国を拒否されたと29日知らせてきた。金大中、盧武鉉政権時代に一部認められたことがあるものの、韓国は「朝鮮籍」の在日朝鮮人たちの入国を原則的に許可していない。

ハン・スンドン先任記者(お問い合わせ japan@hani.co.kr )

最終更新:7月3日(日)15時7分

ハンギョレ新聞