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「求人詐欺」対策「罰則だけでは限界」「適正な求人を促す仕組み必要」弁護士が指摘

弁護士ドットコム 7月3日(日)10時4分配信

実際よりも好条件をかたる「求人詐欺」が問題視されている。厚生労働省の有識者検討会は6月3日、ハローワークや民間の職業紹介事業者での求人詐欺に対して、罰則を求める報告書をまとめた。職業安定法改正に向けた議論が始まる見通し。

企業が自社のサイトなどを通じて直接、採用募集する際は、誇大な求人条件の表示について罰則がある。いっぽうで、ハローワークをはじめとする紹介業者への求人票に対する罰則はなかった。

紹介業者を利用した「求人詐欺」を防ぐためには、どのように罰則を定めていくべきなのだろうか。古金千明弁護士に聞いた。

●罰則の設定だけでは、限界がある

「厚生労働省の統計によれば、ハローワークにおける求人票の記載内容と実際の労働条件との違いに関する苦情は、2014年度だけでも1万件以上ありました。労働者が泣き寝入りしている案件も含めれば、相当な被害が発生しているものと思われます。

ですから、今回の報告書が求めた規制強化の方向性は、評価に値するでしょう。しかし、罰則を設けるだけでは、残念ながら、限界があるでしょう。被害をなくしていくためには、罰則をはじめ実効性のある規制を設定するとともに、運用する現場の努力が重要になるでしょう」

具体的にどんな規制を設ければ、実効性があるだろうか。

「求人詐欺は、以下の3タイプに分類されると考えられ、タイプごとに規制を変えるべきでしょう。

(1)そのような労働条件は実際には存在しないのに、求職者を引き寄せるために出した求人(おとり広告型)

(2)求人を出した条件は一応、存在するが、固定残業代等の明示がないために労働者の誤解を招くもの(求人条件の不実表示型)

(3)その求人条件は存在するが、紹介後の面談の段階で、労働条件を切り下げて、労働契約を締結させる場合(労働条件切り下げ型)

(1)の「おとり広告型」については、まさに虚偽の労働条件を表示しています。これを禁止し、罰則の対象とすることには、多くの人が異論はないでしょう。

(2)の「不実表示型」については、固定残業代の内訳等の記載がある求人票のモデル書式をつくり、職業紹介事業者にこの書式を使う義務を設定するといった規制がありえますね。もちろん、募集の段階で一定の労働条件を明示することを求人企業に義務づけたり、違反企業を罰則の対象とすることも、有効でしょう。

すでに、若者雇用促進法と同法の指針では、青少年の募集や求人を行う事業者は、賃金に固定残業代が含まれる場合には、固定残業代の時間数、固定残業代などを除外した基本給の額等を明示することを義務づけられています。このような規制を、青少年に限らず一般に広げることも一定の効果があるでしょう」

●「労働条件切り下げ型」の実務的な対応は難しい場合がある

「(3)の「労働条件切り下げ型」については、実務的な対応は難しい場合が多そうです。求人企業が、求職者に虚偽の事実を伝えて、求職者をだまして労働条件を切り下げた労働契約を締結させるのは、問題です。しかし、求職者が、不本意であっても、切り下げられた労働条件に合意し、労働契約を締結してしまうと、その内容で契約が成立してしまいます。もちろん、契約を締結しても、詐欺や錯誤に基づく場合は契約の効力を否定することも理論的には可能ですが、実務的なハードルは高いでしょう。

また、求人企業が、ハローワーク等から紹介を受けた後、求職者が企業側の採用条件を満たしていない場合、ハローワークに出した求人票とは異なる労働条件を提示することが実務上あるかと思います。採用条件の全てを求人票に記載することは現実的でない場合もありますし、採用条件によって、労働条件も一定の幅が出ることはやむを得ないからです。

このような場合まで求人詐欺として、罰則の対象とすることは、行きすぎた規制になってしまいます。これを罰則で禁止してしまうと、採用条件を満たさない場合に、他の労働条件を提示することが禁止され、かえって求職者の選択肢を狭めてしまうからです」

●労基署のマンパワーにも限界、複合的な仕組みを

では、罰則以外に何か対策は取れるだろうか。

「求人詐欺の根絶のためには、罰則だけではなく、複合的な対策が必要です。

 例えば、以下のようなアプローチが考えられますね。

・違反事例の情報収集を継続的に行い、定期的に結果を発表して、国民に啓発する

・求人票のモデル書式を充実したものに改訂し、普及を図る

・民間の職業紹介事業者の業界団体の自主規制を促す

・違反企業に行政指導を行い、従わない場合には、会社名を公表する

・違反企業には、ハローワークや民間の職業紹介事業の利用を一定期間禁止する

・違反を繰り返す企業に対し、違法な求人を差し止める訴えを一定の公的な団体に認める

労働基準監督署のマンパワーにも限界があります。厳格な手続が要求される『刑事手続』で、罰則を適用して全ての違反事例を取り締まることは物理的に難しいでしょう。だからこそ、求人詐欺を撲滅するには、罰則以外にも、それ以前のレベルで、求人企業が行動を改めざるをえないような複合的な仕組みの導入が期待されます」

古金弁護士はこのように述べていた。



【取材協力弁護士】
古金 千明(ふるがね・ちあき)弁護士
「天水綜合法律事務所」代表弁護士。IPOを目指すベンチャー企業・上場企業に対するリーガルサービスを提供している。取扱分野は企業法務、労働問題(使用者側)、M&A、倒産・事業再生、会社の支配権争い。
事務所名:天水綜合法律事務所

弁護士ドットコムニュース編集部

最終更新:7月3日(日)18時9分

弁護士ドットコム

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