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英のEU離脱、グローバリズムの退潮と喜ぶべきか?

ニュースソクラ 7月3日(日)12時30分配信

英でも若者は圧倒的にグローバル支持だった

 数年前に来日した北欧の政治家が、こう言っていた。「欧州では右翼、左翼という政治区分は時代遅れで、『ローカリスト』と『グローバリスト』という分け方が現実に近い」。EU離脱という英国の国民投票の結果は、ローカリストの勝利、グローバリストの敗北であることは疑いがない。

 「グローバリゼーション・パラドクス」の著者ダニ・ロドリック教授は、(1)グローバリゼーション(2)国家主権(3)民主主義の3つは、同時に成り立たないトリレンマとした。英国にあてはめれば、民主主義の手法を介して、国家主権がグローバリゼーションを負かした、と言えそうだ。祝福すべきなのか。

 「1914年の8月に終わりを告げたこの時代は、人間の経済的進歩のなかでも、なんと素晴らしいエピソードであったことか!」。ジョン・メイナード・ケイインズは、出世作「平和の経済的帰結」に書いた。

 ロンドンの住民がベッドで朝の紅茶をすすりながら、電話で全世界の色々な産物を注文することができ、世界の好きな資源や事業に投資でき、パスポートなしに好きな国、地域に旅行できた、と続けている。

 彼が惜しんだのは、1870年ごろから第1次大戦の勃発まで続いた「第1次グローバリゼーション」ともいえる時代だ。電信電話の登場や、鉄道網や、汽船の定期航路化などに牽引された

 進行形のグローバル化は、1980年代から顕著になった。70年代前半のブレトンウッズ体制の崩壊と主要国通貨の変動相場制移行、情報通信、とりわけインターネットの発達、国際航空網の拡大や、コンテナ船の普及などが契機になった、と考えられる。

 国際経済にもトリレンマがある。(1)通貨の固定相場制(2)各国の金融政策の独立(3)国境を越えた自由な資本移動、の3つは同時に成り立たない。変動相場制移行で、自由な国際資本移動が活発になった。

 結果、世界の市場経済化が進んだ。悪く言う人は経済の金融化・カジノ化を批判する。先進国でも新興・途上国でも所得格差が拡大、不平等化したとする。

 だが、良い面が軽視されていないか。世紀の境目あたりから、新興・途上国の成長率が、先進国のそれを恒常的に上回ることになった。中国やインドで何億人もが、絶対貧困ラインから脱出することができた。

 グローバル化が逆行した20世紀前半は、2度の大戦で多くの人命、財産が失われた不幸な時代だった。

 フランスを反移民のルペン大統領が統治し、米国をトランプ大統領が率いる時代は、魅力的とは言えまい。確かに、先進国の成長率が長らく低迷し、グローバル化が壁に突き当たっているが、修正の余地がない、とは言い切れない。ダニ・ロドリックが指摘したトリレンマも「行きすぎた」グローバル化が前提だ。

 2001年、米国を襲った9.11同時多発テロの直後に「グローバル化が終わった」と断言した識者がいた。早とちりだった。英国でも、未来を担う若い人たちは、圧倒的に残留派だった。即断は避けたい。

■土谷 英夫(ジャーナリスト、元日経新聞論説副主幹)
1948年和歌山市生まれ。上智大学経済学部卒業。日本経済新聞社で編集委員、論説委員、論説副主幹、コラムニストなどを歴任。
著書に『1971年 市場化とネット化の紀元』(2014年/NTT出版)

最終更新:7月3日(日)12時30分

ニュースソクラ

TEDカンファレンスのプレゼンテーション動画

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