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「頭から否定しては何も得られない」特集・JAL植木社長が考えるダイバーシティ

Aviation Wire 7月4日(月)11時48分配信

 「パイロットは女性の方が優秀。記者も同じでしょ(笑)」。5月10日、日本航空(JAL/JL、9201)の植木義晴社長は、ある機体を鹿児島空港で出迎えた。グループのジェイエア(JAR/XM)が就航させた新型機エンブラエル190(E190)で、国内初導入となった機体。初便の副操縦士は、長谷川涼子さんが務めた。到着した感想を私が尋ねると、植木社長は冒頭の一言を付け加えた。

 航空会社で働く女性と言えば、客室乗務員や空港の地上旅客係員が思い浮かぶが、従来男性の職場のイメージが強かった分野でも、活躍する女性が増えてきた。JALでは国内初の女性機長が2010年に誕生し、整備士も整備記録に出発時のサインをする整備士の社内資格「ライン確認主任者」の有資格者が、日々の運航を支えている。

 近年、企業経営において性別や年齢、国籍、人種、障がいの有無などダイバーシティ(多様性)に注目が集まる。今年3月には、経済産業省と東京証券取引所が女性の活躍推進に優れた企業を選定する2015年度の「なでしこ銘柄」45社の1社として、JALはANAホールディングス(9202)とともに選出された。

 JALは2015年11月、女性活躍支援の研究組織「JALなでしこラボ」を設立。子育てと仕事の両立など、JALグループ全体で男女を問わず組織横断的に課題の共有や人材活用の可能性を探り、研究成果をグループで共有する試みを進めている。JAL初となる女性の常勤取締役で、客室乗務員出身の大川順子専務が担当役員として統括する。

 なでしこラボは7月7日に最終報告をとりまとめる。これに向けて年度がスタートした4月には、植木社長がラボのメンバーと意見交換した。パイロット出身の植木社長にとって、女性の活躍推進をはじめとするダイバーシティとは、どういうものなのだろうか。

◆職種・性別異なるメンバー

 植木社長が参加した会議では、「意識」「ポジション」「継続性」をテーマとした3チームが進捗状況を発表した。JALグループ各社から職種や性別が異なる1チーム7人が集まり、7月の最終発表を目指して研究を進めている。

 「意識」をテーマに設定した浅香浩司・JALマイレージバンク社長らのチームは、JALグループが掲げる2023年度までに女性の管理職比率20%という目標に対し、なでしこラボの活動テーマである「女性がやりがいを持って、長く働き管理職を目指すために、何が必要か」を、社員の意識からアプローチすることにした。

 チームでは社員に対してアンケートを実施し、社員が現状と理想の間で感じるギャップに着目。年齢や性別、役職などではなく、特徴ごとにグルーピングしたり、社員への個別インタビューなどで深掘りしていく。

 「ポジション」をテーマとした浜井ゆり子・JALブランドコミュニケーションWEB事業本部WEBコンテンツ部長らのチームは、女性が管理職になるには、壁があり、制度や文化、考え方が影響しているのではとの仮説を立てた。

 アンケート結果では、女性は会社との信頼関係が築けていない、男性は社内が男社会であるとの方向性が見えてきたという。女性と男性とも、育児休職からの復帰がひとつの問題となっており、女性は意識や制度、環境について、男性は育児休職に対して理解が足りないとの要因分析に至った。

 社内インタビューや他企業研究を進めており、社外の知見を持つ人との意見交換などを通じて最終発表につなげる。

 「継続性」をテーマに定めた今村厳一・日本航空健康管理部統括マネジャーらのチームは、継続して働くことを、長くいきいきと活躍していくことと位置づけた。その中で、深掘りしていくテーマを介護とした。

 育児休暇などの制度がある出産や育児と比べ、介護は必要性の認知度や取り組み度合いが低いとして、JALグループの実態と他社の取り組み事例を研究。育児とは異なる制度設計や同僚や上司、家族の理解へつなげることや、介護する本人のメンタル面も含めた健康維持など、重要課題を5つ仮定した。

◆育児以上に共有できる問題

 「僕が社長に選ばれたこと自体がダイバーシティだと思う。今までパイロットがこの会社の社長になったことはなかったんだから」と話す植木社長は、自らの育児経験や、高齢化が進むこれからの社会での介護の必要性などに着目しながら、社員と意見を交換した。

 シフト制のパイロットだからこそ育児に参加できた植木社長だが、30年ほど前はまだまだ男性が子育てにかかわるのは珍しかった。

 「“お父さんはどういったお仕事をされているのですか”と聞かれることもよくあった」と、当時を振り返る。

 介護についても、「僕らの年齢になると、介護や没後の話が共通の話題として出てくる。育児以上に全員で共有できる問題ではないか」と、研究チームの方向性に理解を示した。

◆“撃墜王”から学んだこと

 ではなぜ、植木社長は今、ダイバーシティに取り組むのか。その点についてもメンバーに説明した。

 「今取り組んでいるのは、流行だからとかじゃない。この会社が事業を続けて行くに当たって、必要だと感じたから。本を読んでいろんなことを勉強するのは大嫌い。失敗の中から知恵をため込んできた」と、さまざまな職種がある上、女性の比率が高い航空会社が事業継続する上で、必要なものだと話す。

 植木社長は、機長昇格訓練での体験を披露した。4人の教官と1人ずつ組んで飛ぶ訓練のうち、3人目で苦手なタイプの教官と組むことになった。

 「“撃墜王”と、その教官は副操縦士たちから恐れられていてね。とにかく(合格の)サインを書いてくれない。苦手だなと思いながらも、結局サインをもらうことはできた」と振り返る。

 「後から気づいたのは、気が合う教官よりも、自分を押し殺して訓練に臨んだ人から得たものが、こんなにあったんだということ。何を意味するかというと、みんなそれぞれ個性があって受け入れると、いろんな発見がある。頭から否定していては、何も得られない」と、ダイバーシティへの取り組みは、多様な意見から新たな発見をすることだと語りかける。

 苦手とする教官から指導されたことは、「やってみたら何割かは“いただき!”というものがあった」という。しかし、その教官から得たものも、普段のフライトであれば得られなかったと、植木社長は考えている。

 「機長昇格訓練では、教官に“合格!”と言わせなければならない。そのためにどうすればいいか、副操縦士はみんな必死だよね。本音と本音がぶつかり合い、まさつを起こしながらも、何かを作り出そうとした。3人目の教官からはいろんなものをもらった」と、自分とは違うタイプの人と本音で関わり合うことの重要性を説く。

◆失敗が力になる

 優秀な社員には、会社で働き続けてほしい。特に女性が多い航空会社では、ダイバーシティの中でも代表的な、女性が活躍できる環境作りが重要になる。

 そして、なでしこラボのメンバーに植木社長は、こう呼びかけた。「これが必ず正解か? そんなことを考えていたら判断が遅れてしまう。少々論法が違ったからといって、大きなダメージが会社に及ぶわけではない。やってみて失敗すればいい。それが君たちの力になる」。

 役員にも植木社長は、まずは仕事をさせてみよとアドバイスする。「若い社員に失敗するまでやらせろ、と言っている。失敗するから痛い。若い時に失敗した人が物事を決められる人になる。失敗していないと、ものが決められない。どのくらいの影響があるかわからないからだ。稲盛さん(名誉会長)の“やってみなはれ”なのだと思う」。

 植木社長の想いを、なでしこラボのメンバーはどう受け止めたのか。7月7日の発表会で、メンバーは研究成果を発表する。

Tadayuki YOSHIKAWA

最終更新:7月4日(月)11時48分

Aviation Wire