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「7カンパニー制」導入でトヨタ商用車ビジョンはどうなる?

ITmedia ビジネスオンライン 7月4日(月)8時6分配信

 2016年5月2日、トヨタ自動車は大規模な組織改革を発表した。トヨタを7つのカンパニーに分けたのだ。狙いは意思決定のスピードアップ。具体的には「企画から生産までの一気通貫」を目指す。発表以来、トヨタが何度も繰り返している説明だが、巨大になった組織が意思決定の速度を遅らせているのだという。「何も決まらない会議」という言葉まで出るほどそれは深刻なものだというのだ。

【ランドクルーザーほど世界の多くの地域で活躍しているクルマはない】

●トヨタの危機感と新組織

 と、悲観的なことを言うが、トヨタは販売台数だけでなく利益でも世界一だ。3月末で締まった2015年度の決算結果を見ると、売上高27兆2345億円で営業利益率10.0%。実績を見ればうまくいっているようにしか見えない。これでうまくいっていないと言われたら世界中の全ての企業が取締役総退陣レベルの話である。ピカピカの勝ち組なのだ。

 にもかかわらず、その危機感の持ち方は尋常ではない。勝って兜の緒を締めよという言葉があるが、それを上回る危機感だ。「慢心しないように」ではなくこれだけの結果を残してまだ恐怖感と戦っている。世界のホームラン王・王貞治が、毎年シーズンオフになると「来年は1本もホームランを打てないかもしれない」と思ったという話を思い出す。

 さてその改革では、これまでの機能軸の組織編成から、製品軸の組織へと変更された。トヨタの表記に従えば7つの組織は下記のようになる。

・先進技術開発カンパニー
・パワートレーンカンパニー
・コネクティッドカンパニー
・Toyota Compact Car Company
・Mid-size Vehicle Company
・CV Company
・Lexus International Co.

 この分類を見ていると必ずしも一切の例外なく製品軸へと移行したわけではなく、例えば、先進技術カンパニーは自動運転などの先行開発を、コネクティッドカンパニーはいわゆるIoT(モノのインターネット)を担うという意味で機能軸的な色合いが強い。

 パワートレーンカンパニーはエンジン&トランスミッションの開発を行うので少し機能軸のニュアンスが残っている。もっとも製品軸の各部門が個別にエンジンやトランスミッションの開発を行うのでは無駄が多くなってしまう。パワートレーンは製品を横断して使われるという性格上、別くくりにせざるを得ない。

 さて、残る4つがまさに製品軸だ。コンパクトカー、ミッドサイズカー、CV(商用車)、レクサスだ。

 今回、このCVカンパニーのエグゼクティブ・バイス・プレジデントである中嶋裕樹氏に取材する機会があり、組織改革後のCVカンパニーについての説明を受けた。そこで分かったのはトヨタの粘り腰だ。上の分類でも「機能軸への移行」を強く訴求しながら、その整合を例外なく遂行するわけではなく、ものによっては機能軸での開発の方が効率が良いと言うことになれば、それはしれっとそのまま残す。こういう言行不一致がトヨタのおもしろいところなのかもしれない。理屈が先行するドイツ各社では、こうはならない。

●トヨタの商用車戦略

 さて、中嶋氏はCVカンパニーのバイス・プレジデント、つまり副社長だが、肩書きは常務役員となっている。熱くエネルギッシュな人だ。CVカンパニーはCommercial Vehicleという名の通り商用車部門である。

 中嶋氏が配布した資料によれば、線で囲ったCVカンパニーの内側にはトヨタとトヨタ車体があり、その外側に連携する事業体として、トヨタの海外事業体と日野、ダイハツが描かれている。

 トヨタとトヨタ車体はその絵柄の中心にイコールパートナーとして収まっているのだが、実は実務の中核となるのはトヨタ車体である。言い換えれば、7カンパニー制のうちCVカンパニーの中核はトヨタ車体ということになる。

 カンパニー制の将来形として、トヨタ車体をトヨタの一組織として取り込むのかと聞けば、それぞれ別の企業体でいいのだと中嶋氏は言う。企業という形として一体になることが目的ではなく、会社の垣根を取り払って商品企画から始まるクルマ作りが一体であることが目的だと言うのだ。つまり、新しい事業部制度の中で、CVカンパニーは大げさに言えばファブレス事業的側面を持っていることになる。外向けの明快な発表と内向けの現実的対応。そういう食えない感じがとことん現実主義である。

 カンパニー制以降のビジョンについては大きく3つに区分けされている。第一が「タイムリーな商品企画」である。つまり、商用車全体のバランスを見つつ、計画的にモデルチェンジを行うことで、モデルライフの長いCVを計画的に活性化させていこうということだ。当然開発リソースの安定的稼働という意味もあるだろう。

 第2に「ラインアップの拡充」だ。これは軸となる本筋の商用車からさまざまな発展モデルを作り出して戦略的な商品ラインアップを構築しようということだ。具体的には商用車をベースとしたSUVやミニバンの開発を意味している。

 第3は「新技術のけん引」。商用車は稼働率が高く走行距離が長い。環境技術や安全技術が地球全体に及ぼす影響は乗用車より大きい。例えば、自動運転導入のインセンティブも商用車の方が大きいのは考えればすぐ分かる。ドライバーの数が減らせればそれはすぐに物流コストに跳ね返る。自動運転がそれなりに高価であったとしても、人件費に比べれば安い。つまりトヨタ全体にとって新技術の普及をけん引していく役割を担う可能性が高いのだ。

●変わりゆく新興国マーケットでの課題

 トヨタには世界に名だたる数々の商用車がある。ハイエース、ランドクルーザー、ハイラックスなど、特に新興国で人や物の輸送に加え、軍や警察車両など治安維持の用途にまで至るインフラの重要な担い手である。国内に目を移せば、ハイエース、プロボックス/サクシードがある。営業車の揺らがぬ定番として、日夜日本の経済活動を草の根レベルで支えているのだ。どのクルマも偉大なクルマだと思う。リスペクトさえ感じるクルマたちである。

 トヨタの商用車が世界で覇権を唱えてくることができた要因の1つは、中嶋氏によれば、きめ細かなローカライズ対応によるものだそうで、国によってルールや基準が異なる中で、その対応力は大きな戦力になってきた。

 しかしながら、例えばインドやASEANは間もなく欧州基準のEURO6に準拠することが決まっており、そうなればトヨタのこれまでのアドバンテージの原動力が消えてしまう。欧州メーカーは欧州仕様のまま輸出することが可能になるのである。そうした中でこれまで以上に「世のため、人のために、もっといいCVづくり」を目指して戦っていくのだそうだ。

 重要なポイントは、インフラとのパッケージ化だ。例えば、鉄道の輸出のような場合、車両と設備だけでなく、それを運行するためのシステムが必要だ。トヨタは、それをクルマと一緒に輸出していくことを視野に入れている。ハイエースは、新興国では荷物を運ぶものではなく、人を運ぶバスとして使われている割合が圧倒的に高い。実質的には公共交通手段なのだが、運用は泥縄だ。適当に乗りたい人が乗ったら走り出す。それでは効率的な運用は不可能だ。だから定時運行や停留所などの公共交通ノウハウをクルマとセットで輸出していく必要がある。そこまでやって「世のため、人のために、もっといいCVづくり」になるのだ。製品だけでなく総合力で戦うことで新たなアドバンテージを生み出していくという考え方だ。

 もちろんそれは運行ノウハウだけではなく、バリューチェーン全体を見通すことになる。新車をベースに必要な特装仕様を作ったり、用品を用意すること、保険やローンの提供、補修整備など、ハードとソフトをすべて一体化した自動車周辺サービスを提供することによって、最終的に世界の「お客さまの笑顔」を目指すのが中嶋氏の説明するビジョンである。

 配布された資料によれば、商用車は2015年の実績ベースで、トヨタ全体の販売台数の約3割、262万台を売るとある。巷間に伝えられるトヨタの世界販売台数1000万台に対して262万台では3割に満たないと思う人もいるだろうが、中国での販売台数は会計基準上の連結決算会社とは見なせないため、別計上されている。2015年度のトヨタの決算書上の販売実績は897万1864台となっている。

 また商用車について「数字は具体的に言えないが、収益貢献度は大きい」と言う。つまり利幅が大きいビジネスだということだ。CVカンパニーは、存在こそ地味ながら、トヨタの収益を支える屋台骨の1つである。

 商用車が乗用車と決定的に違うのは、オーナーとドライバーが別だということだ。これまでどうしても購入意思決定者であるオーナーに注意が向いていたこともあったと、中嶋氏は素直に述懐する。しかし、仕事で毎日乗るクルマが、昨年からトヨタが打ち出している「もっといいクルマ」であったとしたら、それだけで世界中で働く人々の幸福度は上がるはずである。

 だからこそ「もっといいCVづくりは世のため人のために重要なのです」。そういう言葉を聞くと、もっといいクルマづくりは商用車にこそさらに重要に思えてくる。トヨタの事業戦略が思うように進むかどうか、世界の人々により幸福を届けていかれるかどうかを注視していきたいと思う。

(池田直渡)

最終更新:7月4日(月)8時6分

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