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「メタ思考トレーニング」――一つ上の視点から客観視する

ITmedia ビジネスオンライン 7月4日(月)12時43分配信

※この記事は「経営者JP」の企画協力を受けております。

●「メタで考える」とは?

【図2:解決するための2つのアプローチ】

 まず「メタ思考」とは何かを簡単に説明しましょう。

一言で表現すると、「メタ」というのは物事を一つ上の視点から客観的に眺めてみることです。例えば分かりやすい例が「自分自身を客観的に見る」ことです(図1参照)。

 このように、自己中心の視点から、「幽体離脱して自分自身を外側から眺めて見る」とさまざまなことが分かってきます。

 その例の一つが「自己矛盾への気付き」です。人は皆多かれ少なかれ自己矛盾の塊です。要は「言っていることとやっていることが違う」ということです。「他人にケチをつける」のは「自らの言動を正す」より何百倍(下手をすると何万倍?)も簡単であるのは誰もが感じていることでしょう。またこのことに気付くのが、「自分の言動」からでなく「他人の言動」を見た時が圧倒的に多いというのも皮肉な事実です。

 ところが世の中はこのような自己矛盾に満ちた言動で溢れています。例えば以下のようなものです。

・「批判ばかりしている人は許せない」という批判
・「あの人は他人の陰口ばかり言っていて困る」という陰口
・「傾聴力が重要だ」という長時間の説教

 これらの言動の特徴は、本人はその「自己矛盾」に気付いていないことです。しかもそれを指摘でもしようものなら、間髪入れずに「いや自分は彼らとは違うんだ」という猛烈な反撃が来ることでしょう。他人から客観的に見れば「彼ら」とその人は全く同様に見えるのに……です。

 人間というのは、多かれ少なかれこのような自己矛盾に満ちたものです。だからいかにそれに気付けるかがその後の成長にかかっています。

 そのために、まずは身の回りのさまざまな事象に関して、何が本当の問題かを見極められるよう、問題そのもの(上の例で言えば自分自身)を一つ上の視点から眺めてみることも重要です。「自分自身」の例で分かるように、その中にどっぷり浸かりすぎていると本当の問題が見えてこないのです。

●「メタ思考」は「気付き」のための第一歩

 ビジネスにおけるさまざまな問題を解決したり、自らを成長させたりするために最も必要なことの一つが「気付き」です。「そもそも何が問題なのか?」「いま何ができていないのか?」「何が自分に不足しているのか?」……このように「そもそもの問題を自覚する」ことが問題解決の一歩になります。

 哲学の父と言われるソクラテスは、古代ギリシア時代に「無知の知」という概念を説きました。彼が言わんとした重要なことの一つがそもそも「物事を知らない」という無知そのものが問題なのではなく、それを自覚していない、いわば「無知の無知」が問題だということです。

 これは「無知」であることを一つ上の「メタの視点」で捉えるべきであることを意味しています。この他にも、メタのレベルで問題を捉えることが重要な場面はあります。

 「論理的でない」人の本当の問題点は「どこが論理的でないかが分かっていない」ことです。「コミュニケーション下手」な人の問題点はそもそも「伝わっている」という前提でコミュニケーションをしていることで、下手をすると「伝わらないのを他人のせい」にしてしまっていることです。

 「ダメな上司(部下でも同様)に向けた本」は当のダメ上司は決して読むことはありません。逆に言えば、その本を手に取った時点でその人は「本当のダメ上司」ではありません。真のダメ上司のダメ上司たる所以は、そういう話を聞いても決してそれは自分のことだとは思わず「いるよなあ、そういうダメなやつ」とすっかり他人事として捉えているところです。

●「何が本当の問題か?」は「どうやって解決するか?」よりはるかに重要

 ここまで述べてきたことは、問題解決に入る前の「問題発見」あるいは「問題の認識」の重要性を物語っています。アメリカの発明家のチャールズ・ケタリングは、「問題をうまく表現すれば、半ば解決されている」という言葉を残しています。何が本当の問題かが分かれば、ほぼその問題は解決したも同然だということです。

 逆に言えば、問題が解決しない場合の根本原因は「問題の解き方」にあるのではなく、そもそも問題の認識や定義そのものが適当でない可能性が高いのです。ところがビジネスの日常では、このように「間違った問題をそのまま解いてしまうこと」やさらにそれに気付いていないままになってしまって真の問題が解決していない(ことにも気付かない)ことが往々にしてあるのです。

 いくつか例を見てみましょう。例えば日常以下のような「依頼」が上司やお客様からくることがないでしょうか?

・「新商品の説明に来てほしい」
・「担当者を替えてほしい」
・「情報システムを更新したい」

 これらを「与えられた問題」とみた時に、解決するために2つのアプローチがあります(図2参照)。

 1つ目は、図の下の人のように、与えられた問題の中にどっぷり浸かり、「与えられた問題をいかにうまく解くか?」に集中するというアプローチです。

 例えば上記3つの問題でいえば、「新商品の説明をする」「担当者を変える」「情報システムを更新する」という与えられた問題はすべて「ありき」という前提で、いかにそれらの問題をうまく解くかを考えるということです。

 新商品の説明であれば、どの機能に重点を置いて、どんな写真を使って、競合の商品との違いをいかにアピールするかを考える、あるいは情報システムの更新であれば、どんなシステムをどんな風に作り込んでどのようなユーザーに使ってもらうかを考え始めるといったことです。それでも悪くはないですが、時として「そもそも与えられた問題が適切でない」かもしれないことに気付くことができません。

 これに対して、一つ上の視点で考えるメタ思考では、まず「問題そのものが妥当なのか?」について考え始めます。そもそもこの問題が解くべき問題なのか?を確認してからでなければ努力が無駄になり、望まれる結果につながらないことをまず考えるのです。

 このために必要な問いかけが「なぜ?」という言葉です。つまりこの問題を解く目的をまず考えることを意味します。つまり。目的の確認=「なぜ?」というのは視点を一つ上げる、メタ思考のためのキーワードであるということです。

 逆に言うと、なぜ以外の疑問詞、つまり「どこ」や「誰」や「いつ」といった問いかけはすべて問題を解くための第1のアプローチのための言葉であることを意味します。「なぜ?」だけが、メタの視点に上がる言葉なのです。

 そう考えると、先の3つの問題は、「なぜ新商品の説明をするのか?」「なぜ担当者を変える必要があるのか?」「なぜ情報システムを更新する必要があるのか?」といった問いかけに変わります。

 例えば1つ目の問題を例にとれば、この言葉の背景にある「上位目的」として考えられる仮説は、

1、現在使用中の自社製品の調子が悪くて買い替えを検討している

2、採用する気はないが、現在つきあっている競合会社をけん制したい

3、最近営業担当者が来訪しないので、来てもらうための口実が欲しい……

といったさまざまな理由が考えられます。

 このような理由が依頼主(この場合は顧客)の「本心」であるならば、やるべきことは実は「新商品の説明」ではなく、「既存製品のバージョンアップ」かもしれないし、「休日に一緒にゴルフに行くこと」あるいは「上司を連れて雑談しに行くこと」かもしれないのです。このような場合には、先の1つ目のアプローチのように、「いかにうまく説明するか」に集中していては全く的外れであることが分かるでしょう。

 他の2つの「問題」についても「上位目的」を考えることで、実は「解くべき問題」が他にあるかもしれないということを改めてメタ思考によって読者の皆さんが自分で考えてみて下さい。

 要は「メタの視点」で考えることで、「そもそも解くべき問題」を定義し直すとともに、相手の真意に応えるためにさらに良い提案ができる可能性があるということです。「そもそもの問題」に気付くこと、そのために「一つ上の視点から」物事を眺めて見ることがメタ思考の考え方です。

 日々の仕事の中でも「そもそもこの問題は適切なのか?」を問うべき場面は多々あるはずです。ぜひ日常生活に応用してみて下さい。

●著者プロフィール:細谷 功(ほそや いさお)

ビジネスコンサルタント。株式会社クニエ コンサルティングフェロー。東京大学工学部卒業。東芝を経てアーンスト&ヤング・コンサルティングに入社。製品開発、マーケティング、営業、生産等の領域の戦略策定、業務改革プランの策定・実行・定着化、プロジェクト管理を手がける。著書に『地頭力』(東洋経済新報社)などがある。

(ITmedia エグゼクティブ)

最終更新:7月4日(月)12時43分

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