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世界鉄鋼業に再編機運-伊高炉イルバ、ミッタル・マルチェガリア連合とアルヴェディが買収合戦

鉄鋼新聞 7/4(月) 6:00配信

 過剰能力問題が業績に影を落とす中、世界の鉄鋼業で再編機運が高まってきた。先月30日には経営再建に向けスポンサーを探していたイタリア高炉大手、イルバに対し、アルセロール・ミッタル(AM)と伊マルチェガリアが共同買収を提案。同日には米電炉大手のスチール・ダイナミクスもアラバマ州の特殊鋼加工会社を買収することで合意している。高コスト体質の欧米ミル絡みが多いが、アジアでも再編の動きは広がっている。

 伊イルバが発表した声明によると、同社の買収にはアルセロール・ミッタルとマルチェガリアのコンソーシアムだけでなく、伊鉄鋼大手のアルヴェディも名乗りを挙げている。イルバは現在、政府管理下にあり、今後120日間かけて議論した後に伊政府が売却プロセスに入るという。
 AMとマルチェガリアの共同発表文によると、両社はイルバの環境対策や生産性向上の推進、AMのグループ力を生かした再建案を示している。世界鉄鋼協会によるとイルバの2015年の粗鋼生産は476万トンで世界66位。この全量をAMに加えた場合は1億190万トンとなり、リーマン・ショック後で初めて年産1億トン台を回復する見通しだ。
 AMなどは、イルバが保有する高炉を最低3基は操業し続け、粗鋼生産を20年までに600万トン超へ引き上げる方針を掲げている。イルバは14年に622万トンを造った実績がある。AMは、欧州事業の粗鋼生産が4385万トンとグループ内のセグメントで最も多いが、イタリアでは表面処理鋼板事業のAMピオンビーノ(年産能力80万トン、旧ラ・マゴナ・ド・イタリア)があるのみで、一貫製鉄所はなかった。
 AMと組むマルチェガリアはオーナー系のイタリア大手鋼板・溶接鋼管メーカーで、15年の鋼材出荷は540万トン。母材は外部から調達しており、イルバに参画すればスラブや熱延コイルなど一定量を自給できるものとみられる。
 この連合に対抗するアルヴェディはオーナー系の電炉メーカーで、プライメタルズ・テクノロジーズが開発した最新鋭の薄スラブ熱延ミル「ESP」を真っ先に導入するなど、先駆的な経営に定評がある。
 イルバは、もともとイタリア鉄鋼最大手のリバ・グループ傘下だったが、12年に伊南部のタラント製鉄所で環境汚染問題が発生。13年にリバから分離され、政府管理下に置かれていた。リバ自体も会社は存続しているが、電炉・条鋼事業のみとなり粗鋼年産は600万トン規模に。かつては世界のトップ10に入っていたが、大きく後退している。
アラバマの特殊鋼棒鋼加工会社/米SDIが130億円で買収
 米電炉大手のスチールダイナミクス(SDI)は、1億2600万ドル(約130億円)でバルカン・スレッド・プロダクツ社(本社・アラバマ州バーミンガム)の全株式を取得することで合意したと発表した。
 バルカンは1978年の創業で、特殊鋼棒線を加工し、ねじ山を造る事業を手掛ける。2016年3月期の年間鋼材出荷は約8万9千トンだった。
 SDIはバルカンを傘下とすることで、同社への棒鋼供給を拡大し、設備稼働率を高めるとしている。昨年、バルカンがSDIの棒鋼部門から調達した鋼材は2万トンだったが、これを3万~5万トンへと増やす考え。
 買収金額の1億2600万ドルには運転資本の4200万ドルも含まれているものの、バルカンが16年3月期で上げたEBITDA(利払・税引・償却前利益)の5倍に当たる。SDIは米ミルの中でも収益力が高く、4~6月期は1億2千万ドル前後の純利益を上げる見込み。優位なポジションを生かし、収益性の高い下工程事業を獲得するとともに、母材の供給先を囲い込む。
解説/過剰能力に危機感/提携・再編を後押し
 昨年の世界的な鉄鋼市況急落や、中国発の過剰能力問題を受け、今年の鉄鋼業では提携や事業売却が相次いでいる。
 インド高炉大手のタタ製鉄は、2007年に英蘭高炉大手のコーラスを買収し欧州へ進出したが、現在は英国事業を切り出し売却に動いている。このうちスカンソープ製鉄所などを中核とする条鋼・厚板事業は5月末にグレーブル・キャピタルへ売却。同事業はコーラスの前身を思わせる「ブリティッシュ・スチール」へと社名を改称した。しかし旧コーラス時代から弱い品種とされてきたポートタルボット製鉄所など薄板事業の買い手は付いておらず、英国のEU離脱問題もくすぶり宙に浮きそうな情勢だ。
 タタが英事業売却に動きだしたのは、欧州鉄鋼業が高コストで今の市場環境に耐えられなくなってきたことがある。ブラジル鉄鋼大手のゲルダウも本国が厳しいこともあって6月23日付でスペインの特殊鋼事業、シデノールを1億5500万ユーロで投資会社へ売却した。フランスの世界鋼管大手、バローレックには新日鉄住金が15%出資し、持分法適用会社としている。
 タタが英国からの撤退後、オランダ拠点のアイモンデン製鉄所と鉄鋼事業の統合がうわさされるドイツのティッセン・クルップは、5月末にブラジルの高炉・スラブ事業、アトランティコ製鉄(CSA)で伯ヴァーレが保有していた27%分の株式を買い取り完全子会社化した。再編に備え、CSAを機動的に手放すための環境整備とみられている。
 アジアでも、過剰能力問題の震源地である中国で宝鋼集団と武漢鋼鉄集団の事業統合検討が表面化した。中国には国営や公営の鉄鋼企業が多いが、拡大する赤字を政府が補てんし続けるのも限界が見え、構造調整の推進にかじを切った象徴的な動きと言える。
 伊政府もEUの規定や財政上、イルバを抱え続ける余裕はなくなっていた。公共セクターで鉄鋼業を支えるのが難しくなっているのも、再編を後押しする一因になっている。(黒澤 広之)

最終更新:7/4(月) 6:00

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