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国債に背を向けた三菱東京UFJ

ニュースソクラ 7/4(月) 14:30配信

先例のスウェーデンでは政策を変えさせた

 アベノミクスへの静かな不信任案なのか。三菱東京UFJ銀行が、国債入札などで優遇される資格(国債市場特別参加者=プライマリー・ディーラー)を返上すると、財務省に申し出た。マイナス金利下で国債を保有するリスクが大きいと判断したようだ。

三大メガバンクの筆頭で、かつては日銀総裁(第21代、宇佐見洵)も出した名門銀行の金融政策への不満表明だ。安倍晋三首相の消費増税先送り会見から日が浅いタイミングであることも、見逃せない。

「護送船団」時代の金融界を取材した筆者には隔世の感がある。かつて国債は“御用金”扱いで、民間金融機関が、大蔵省(財務省)や日銀に楯突くことなど考えられなかった。

「国債に背を向ける」と言えば、強烈な先例がある。1994年7月、スウェーデン最大の生保、スカンディアが国債の購入を停止した。時のCEOは「政治家が真剣に財政赤字削減に取り組むまで、国債は買わない」と宣言した。国債暴落で長期金利が跳ね上がり、通貨クローナも暴落、市場が大混乱した。

 当時、同国の財政赤字はGDPの10%を超え、5年前はGDPの4割台だった国債残高も、8割近くに急増していた。スウェーデンも、日本と同じ90年代初めにバブルが崩壊。3年続きのマイナス成長で歳入が落ち込む一方、銀行への資本注入、失業給付などの対策費が増え、世界に冠たる福祉国家の維持費もかさむ事情があった。

 スカンディアの年、94年が分岐点になった。秋の総選挙で生まれた社民党政権が、給付削減・負担増の社会保障の抜本改革を含む財政再建に取り組み、98年には財政黒字化を達成した。産業界も通貨安の恩恵と、IT(情報技術)活用による生産性向上で、国際競争力ランキング上位の常連となるまでになった。

 今振り返れば、スウェーデン経済の再生に、スカンディアの反乱が一役買った、と言えよう。

 市場に大ショックを与えたスカンディアと、市場が反応しない三菱東京UFGの行動を同列に論じるべきでないのは当然だ。

 長期の資産運用に意を用いる生保と、日々の業務に国債保有・売買が不可欠な銀行という業態の違いもある。同行は、今後も国債を買う市場の参加者であり続けるし、系列の証券会社2社はプライマリー・ディーラーにとどまる。同資格を持つ3大メガバンク+外資系も含む証券会社の計22社が、21社になるだけ、ともいえよう。

 しかし、トップバンクのレジスタンスは、国債市場や金融政策に徐々に波紋を広げていくかもしれない。政策の大きな変更につながらない、とも言い切れない。その最終的な“破壊力”は即断できない。

■土谷 英夫(ジャーナリスト、元日経新聞論説副主幹)
1948年和歌山市生まれ。上智大学経済学部卒業。日本経済新聞社で編集委員、論説委員、論説副主幹、コラムニストなどを歴任。
著書に『1971年 市場化とネット化の紀元』(2014年/NTT出版)

最終更新:7/4(月) 14:30

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