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ボラティリティーの変動に着目する運用

ZUU online 7/5(火) 19:50配信

■ボラティリティーの変動に着目する運用

近年、ボラティリティーの変動に着目する運用戦略が注目されている。ターゲット・ボラティリティー戦略とカバードコール戦略も、それらの一つである。

ファンドのリスク水準を一定に保つターゲット・ボラティリティー戦略は、リスクが上昇するなか、株価の下落が予測される局面で、株式配分を減らし、下方リスクを抑制する効果が期待できる。

カバードコール戦略は、海外における研究では、インデックス・ファンドに投資するよりも、リスクに対するリターンの効率性が高く、下方リスクも抑制できるとされている。

そこで、近年の日本市場のデータを利用し、これらの戦略の効果があったか検証した。

日本市場では、株価の変動とボラティリティーの水準に明確な関係が観察されなかったため、ターゲット・ボラティリティー戦略は、これまでのところ、その効果を十分には発揮できていなかった。カバードコール戦略は、リスクに対するリターンの効率性が確認されたが、ボラティリティーの変動に対する効果は、相対的には低いものであった。

■ターゲット・ボラティリティー戦略の可能性

株式市場のボラティリティー(リスク)は一定ではなく、定期的に変化している。年金運用でボラティリティーを管理しない場合、ファンドのリスクの水準は、市場でのボラティリティーの変化に連動する。

また、ボラティリティーと株価の方向性には一定の関係があると言われている。株価が下落する際には、ボラティリティーの上昇を伴うことが多く、逆に、株価の上昇時は、ボラティリティーが低下する傾向があるとされる。

近年、ボラティリティーの水準を一定に保つ運用手法が注目されている。市場におけるボラティリティーが上昇した際には、ファンドの株式配分を下げることで、ファンドのリスクが高まらないようにする。また、ボラティリティーの上昇により予想される株価下落の影響をある程度避けようする運用手法である。

一方、市場におけるボラティリティーが低下した際には、ファンドの株式配分を上げ、リスク水準を保つとともに、予想される株価の上昇が享受できるようにする。

そこで、このような運用手法が最近の日本市場で上手く機能したのか、検証してみた。

15%のボラティリティー(リスク)をターゲットとする株式運用を考える。株式のパッシブ運用よりリスクが低い安定運用である。ボラティリティーの予測には、EGARCH(1,1)モデルを利用した。これは、ヒストリカル・ボラティリティーよりも先行性があると言われている。予測ボラティリティーが高まった場合には株式配分を下げ、逆に低まった場合には株式配分を上げて、ファンドのリスクが15%になるように調整する。

分析は2007年1月~2016年5月までの日次の日経平均株価データを利用した。巻末図表9はこの間の株価の動きである。2008年には金融危機があり株価は大きく下落した。その後、一定水準を維持し、2013年以降ではアベノミクスにより株価は大きく上昇している。

図表1は、ボラティリティーの推計結果(青線)と、15%ターゲット・ボラティリティー戦略(15%TV戦略)の株式配分(オレンジ線)である。ボラティリティーが上昇した際には、株式配分が低下し、ファンドのリスク水準を管理していることがわかる。

図表2は、ボラティリティーと株式リターンの関係である。ボラティリティーが上昇する際に、株価が下落する傾向があるか確認する。予測ボラティリティーを低~高まで5つのグループに分け、日経平均株価の日次平均リターンを算出した。ボラティリティーが低い方の平均リターンがマイナス、高い方がプラスであり、当初の予測とは逆の傾向であった。実際には、この5つのグループの平均リターンには統計学的に有意な違いがなかった。

このような環境の中、図表3は15%TV戦略の平均リターンを推計したものである。金利、配当、運用コストはないものと仮定した。全期間を見ると、15%TV戦略のβは0.53であり、日経平均株価のリスクよりも低い。そのため、15%TV戦略の平均リターンは0.007%と日経平均株価を下回っている。αは有意ではなかった。

各年の結果を見ると、2008年の金融危機の際には、株式配分が低い分、下方リスクが回避できたと言えよう(巻末の図表9も参照)。一方、2013~2015年の株価上昇時には、超過リターンはマイナスであり、株価の上昇についていけなかったことがわかる。αはどの期間でも有意ではなかった。

このように、ターゲット・ボラティリティー戦略は注目されているが、分析期間中ではその効果は十分には発揮されていない。ボラティリティーと株価の関係が、当初の予測通りではなかったことも要因であろう。

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* Hocquard A. S. Ng, and N. Papageorgiou (2013) “A Constant-Volatility Framework for Managing Tail Risk," Journal of Portfolio Management Winter 2013, pp.28-40. を参考にした。
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■カバードコール戦略の可能性

近年、カバードコール戦略が長期運用で注目されている。海外における研究では、株式のパッシブ運用を行うよりも、シャープレシオ、つまり、リスクに対するリターンの効率性が高く、さらに、下方リスクも抑制できるとされている。通常、カバードコール戦略は、

カバードコール = 株式のロング + コールオプションのショート

と理解されるが、別の解釈として、

カバードコール = 50%現金 + 50%(株式のロング + ストラドルのショート)

という組み合わせでも実現できる。

図表4は、カバードコール(黄色)のペイオフを表している。株式のロング(オレンジ色)により、株価の値上がり・値下がりがペイオフに影響する。次に、ストラドルのショート(= コールのショート + プットのショート、灰色)含まれるため、株価が現状付近で動かない場合の利益が大きい。大きく値下がり・値上がりした場合には、損失が拡大する。

さらに、オプションのショートはボラティリティーの低下に賭ける戦略である。ボラティリティーが高い時にポジションを組むことができれば、高いオプション・プレミアムを得ることができる。

逆にボラティリティーが低い状況から、高い状況に移るような環境では、プレミアムが低いだけでなく、株価の値上がり・値下がりによっても損失する。カバードコールは、株価の方向性だけでなく、ボラティリティーの変化にもリスクをとった運用手法と言える。

このような運用戦略が最近の日本市場でうまく機能したか、検証してみた。データは、前節と同様に、2007年1月~2016年5月(日次)の日経平均株価のデータである。カバードコール戦略の運用成果を表すインデックスを推計し、その平均リターンやリスクを分析した。

前月末にカバードコール戦略のポジションを組み、翌月中はそのポジションを維持して、月末にロールオバーする運用戦略を繰り返す仮想のインデックスである。オプションのプレミアムは、前述のEGARCH(1,1)モデルの推計結果を利用した。前節と同様に、金利、配当、運用コストはないものと仮定した。

図表5はカバードコール戦略(CC戦略)のシミュレーション結果である。全期間を見ると、CC戦略の日次平均リターンは0.031%で、日経平均株価を上回っている。日次の標準偏差1.468%を年率換算すると約23%であり、日経平均株価のリスク(約26%)よりも若干低い。βは0.86であり、日経平均株価との連動性はある程度高い。αは0.02%で有意であった。

各年の結果を見ると、2012年と2013年を除き、CC戦略の平均リターンは日経平均株価を上回っている。一方、βは0.70~0.95の範囲で安定している。2008年の金融危機時では、日経平均株価と同様に値下がりしており、15%TV戦略と比較して、下方リスクの抑制効果は低いものだった(巻末図表9も参照)。

一方、2014年・2015年では、平均リターンは日経平均株価より高く、株価の値上がり時に強い傾向がある。2015年ではαも正で有意であった。

このようにカバードコール戦略は、分析期間中では、パッシブ運用に対する一定の超過リターンが確認された。一方で、リスクは市場平均よりも低く、リスクに対するリターンの効率性が確認された。しかし、下方リスクの抑制効果については、それほど強いものではなかった。

投資家の下方リスク抑制ニーズの強さから、コールオプションよりも、プットオプションの方が割高になっているという研究結果がある。そのため、カバードコールと同じペイオフを達成するプットのショートを利用する方法が最近では検討されている。

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* Israelov R. and L. Nielsen (2014) “Covered Call Strategies: One Fact and Eight Myths," Financial Analyst Journal 70(6), pp.23-31. を参考にした。
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■ボラティリティーの変化に依存する運用戦略の比較

ターゲット・ボラティリティー戦略(TV戦略)は、ファンドのリスクを一定水準に保つ運用戦略である。株価が下落する際にボラティリティーの上昇を伴うことが多く、このような時に株式配分を下げることで下方リスクを抑制できる効果が期待できる。

しかし、近年の日本の株式市場では、株価の値上がり・値下がりとボラティリティーの関係は、平均的に見れば、明確ではなく、TV戦略の効果は十分には発揮されていない。

カバードコール戦略(CC戦略)は、株価変動リスクと、ボラティリティー変動リスクを同時にとって、一定のオプション・プレミアムを獲得しながら、リスクとリターンで見て効率的な運用を目指す運用戦略である。

今回の分析期間中、一定の効果が確認された。しかし、これらは過去の分析の一例であり、今後もこのようなことが継続するとは限らない。どのような環境で運用成果が異なるか、予め分析しておくことは重要である。

図表6は、予測ボラティリティーを低・中・高の3分類、また、株式リターンを低・中・高の3分類にし、TV戦略の日経平均株価に対する超過リターンを比較したものである。

本来であれば、リスク調整後のリターンを検討すべきところではあるが、単純化のために両者の差を比較した。TV戦略は、もともと株式配分を抑えた運用であるため、株価が値下がりした際には相対的に良く、値上がりした場合には悪いことが予想できる。さらに、ボラティリティーの水準に応じて、結果は異なってくるはずである。

予想通り、TV戦略は株式リターンが低い場合に超過リターンがプラスである(1%有意水準)。その中でも、予測ボラティリティーが高い場合に、超過リターンが最も高い。この結果は、この戦略の意図通りである。一方、株式リターンが高い場合は、超過リターンは負であり(1%有意水準)、その中でも、予測ボラティリティーが高い場合に、超過リターンのマイナス幅が最も大きい。これは意図せざる結果であろう。

図表7は、CC戦略の日経平均株価に対する超過リターンを比較したものである。

CC戦略は株式リターンが低い場合に超過リターンがプラスであった(1%有意水準)。その中で、予測ボラティリティーの水準では超過リターンは大きくは違わない。一方、株式リターンが高い場合は、超過リターンが負である(1%有意水準)。

特に、予測ボラティリティーは低い場合と、高い場合で、マイナス幅が拡大している。前者は、ボラティリティーが低いため、オプション・プレミアムが低いことが要因であろう。後者は、株価の値上がりによるコールのショート(ストラドルのショート)からの損失が要因であろう。

図表8は、今回の分析結果を利用して、(予測)ボラティリティーの水準の違いによる超過リターンの違いをグラフ化したものである。

TV戦略は、株価が低下する局面で、ボラティリティーが大きくになるつれ、超過リターンは拡大している(青線)。一方で、株価が上昇する局面は、ボラティリティーが大きくになるつれ、超過リターンは低下している(オレンジ線)。このことから、TV戦略は、将来のボラティリティー自体の予測と、ボラティリティーと株価との方向性を上手く予測できるかが、この戦略の運用成果を左右する大きな要因となろう。

CC戦略は、(予測)ボラティリティーの水準の違いにより、TV戦略と比較して、超過リターンは変化しない(灰色線・黄色線)。オプションを含む戦略なので、ボラティリティーの水準によって運用成果が異なるものと予測されたが、今回の検証では、株価の変動からの損益の影響の方が、相対的に大きなものであったと考えられる。

北村智紀(きたむら ともき)
ニッセイ基礎研究所 金融研究部 主任研究員・年金総合リサーチセンター兼任

最終更新:7/5(火) 19:50

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