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識者に聞く 2020年に勝ち残るインバウンド戦略とは

ITmedia ビジネスオンライン 7月5日(火)8時10分配信

 日本が今までに経験したことのない規模のインバウンドがやってくる――。

 2015年の訪日客数は前年比47.1%増の1973万7000人で、JNTO(日本政府観光協会)が統計を取り始めた1964年以降、最大の伸び率となった。過去最高であった2014年の1341万3000人から600万人ほど増え、1970年以来45年ぶりに訪日外客数が出国日本人数を上回ったのだ。

【連日大行列の「大阪くらしの今昔館」】

 政府も成長戦力の柱として2020年までに4000万人の訪日客を呼び込むという目標を掲げており、今夏も中国人などのビザ発給要件の緩和を進める方針だ。

 その経済効果は大きく、みずほ総合研究所の経済調査部主任エコノミスト、宮嶋貴之氏によると、2015年の訪日客による消費総額は約3.5兆円と前年から1.5兆円増加し、小売業や宿泊業、飲食サービス業を中心に約27万人前後の雇用創出効果があったという。

 東京五輪もあることから、今後のインバウンド消費にも期待できる。

 多くの企業や自治体はいま、この追い風をものにできるか問われているのだ――。本稿では、訪日客4000万人時代のインバウンドを味方につけ、成功するためのヒントを探っていく。

●ポスト“爆買い”時代のインバウンド戦略とは

 インバウンドと聞いてまず頭に浮かぶのは、昨年の流行語大賞にも選ばれた中国人訪日客による「爆買い」ではないだろうか。しかしいま、その爆買いはもう既に終わりを迎えようとしている。

 一時は、免税品目の拡大と円安効果により中国人訪日客が高級ブランド品などを中心に買い漁っていたが、円安の流れが一服すると状況は一変。日本百貨店協会が今年6月に発表した5月の免税品売上高は、前年同月比で16.6%減少した。ショッピング熱が冷めたわけではない。背景にはブランド品などの高額商品から、安価な日用品へと熱が移っているという実情がある。

 しかし、懸念材料は他にもある。中国政府は6月、低迷する国内消費を促すため、海外で購入した商品に課す関税を引き上げた。これにより、いよいよ爆買いへのブレーキが本格的にかかることになりそうだ。

 宮嶋氏は、今までのような爆買いに期待することは難しいとした上で、次のように説明する。

 「モノ消費は、為替レートの影響をどうしても受けてしまうため、中長期的には続かない可能性が高い。そのため、為替レートに左右されづらいインバウンド需要を喚起していくことが重要だ。その一つが、文化体験型サービスなどのコト消費。モノ消費と比べて、相対的には為替の影響は軽減される」

 買い物の場合、目的の物をネットで、あるいは比較的安価な国で購入するなど代替することができるが、日本の旅館に泊まり、日本食を食べて温泉に入るなどの文化体験サービスは、日本に来て消費するしかない。訪日旅行の目的がモノ主体からコト主体へと変わってくれば、為替レートが変化してもインバウンド消費への悪影響は軽減できるというわけだ。

 「訪日旅行者数の安定拡大を目指すのであれば、地産地消の体験型観光需要を促すことがポイントになる。そしてその体験型サービスの認知度、ブランド力をSNSなどによる情報発信を通じて高めることができれば、持続的なサービス消費が期待できる」

 体験型サービスで訪日客を呼び込めている成功事例はいくつかある。例えば、大阪市の博物館「大阪市立住まいのミュージアム 大阪くらしの今昔館」では江戸・明治・大正・昭和の暮らし(町の風景)を体験できるのだが、有料レンタルで着物を着て、その時代の町を歩き“当時の日本人になりきる”ことができるサービスが訪日客から人気で、連日開店前から行列ができるほどだ。

 ポスト爆買い時代のインバウンド戦略では、こうしたコト消費でいかに訪日客の心をつかむかがカギとなるのかもしれない。


●インバウンド戦略は地方の生き残り戦略

 インバウンドで成功するためにはターゲットに対して正しいアプローチをしなくてはならない。企業や自治体に対してインバウンドマーケティングのコンサルティングを手掛けるジャパンインバウンドソリューションズの中村好明社長は「団体観光客ではなく、個人観光客へのアプローチが急務だ」と説明する。

 これまでは団体観光客の割合が多かったが、近年は個人観光客(特に中国)が増加傾向にある。また、2015年に個人観光ビザの発給要件が大幅に緩和されたことで、このトレンドは続くと見ている。企業や自治体は団体観光客から個人観光客へシフトしてきているトレンドの変化にまだまだ対応できていない(あるいは気付いていない)ところが多いという。

 「従来のアプローチは、ツアーを実施する旅行会社に働きかければガイドや添乗員が案内してくれるB2Bの関係だったが、個人観光客を呼び込むB2Cでは苦戦しているところが多い。B2Cでは、事業者が単体で売り込むだけでは弱く、その地域、街全体の魅力を発信していくことや、街全体で受け入れ対応をしていかなければ、なかなか足を運んでくれない」(同)

 特に、大都市圏よりも認知度が劣る地方では、企業と自治体が連携し、街ぐるみで呼び込んでいくことがより求められる。これからのインバウンドは「一事業者のみで成功することは困難」(同)だと指摘する。

 さらに、「インバウント戦略は地方の生き残り戦略だ」――と中村社長は続ける。

 2014年、日本創成会議の増田寛也座長は「2040年までに896の自治体が消滅する」という調査報告書を提出した。日本は今以上に生産年齢人口が減り続け、そのダメージは過疎化が進む地方が真っ先に受けることになるかもしれない。

 現在、インバウンドの恩恵を多く受けているのは東京、大阪、京都、北海道などの主要観光地であるが、これからは地方こそがインバウンドという絶好のチャンスをものにしていかなければならない。そのためにも、前述したように企業、地域、自治体が一丸となって取り組まなければいけない課題なのだ。

 「爆買いのような一時的な現象に浮かれることなく、また、世界経済の浮沈に一喜一憂することなく全産業、全省庁が『これからはインバウンド時代だ』と自覚して積極的に取り組んでいかなくてはならない。地方創生はインバウンドマーケティングにかかっている」(同)

(鈴木亮平)

最終更新:7月5日(火)8時10分

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