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OpenStackを導入する国内企業のIT現場は、今何を目指しているか

@IT 7月5日(火)6時10分配信

 「ネット企業を除けば、日本におけるOpenStackの普及はまだまだだ」と思っている読者は多いかもしれない。だが実際には、公共機関や一般企業で、OpenStackの本格利用を開始した例が増えている。採用を決定済みで、導入作業が進みつつある例を含めれば、さらに多い。公表されているものが極端に少ないだけだ。

 では、既にOpenStackを導入したか、導入を進めている国内の一般企業は、どのような用途や目的を持っているのか。本記事では、アイティメディア @IT編集部と日本OpenStackユーザ会が、2016年3月3日に開催したOpenStackセミナー、「@IT×日本OpenStackユーザ会 企業のためのOpenStack実践編」における講演やディスカッションの内容を踏まえ、下記にまとめてお伝えする。

 OpenStackというと、「クラウドネイティブな」「新しいアーキテクチャの」、つまりアプリケーション側で可用性を担保できるアプリケーションでなければ動かしてはいけないという考え方を述べる人々が多かった。一方、当初多くの一般企業はOpenStackを「VMware vSphereの置き換え」として検討し、ここに大きなギャップがあるとされてきた。

 だが、例えば元日本OpenStackユーザ会会長である、伊藤忠テクノソリューションズCTC)クラウドイノベーションセンター エキスパートエンジニアの中島倫明氏は、「(以前、)OpenStackにクラウドネイティブは必須だと思っていたが、そうではなかった」と上記セミナーで語っている。同氏は続けて、こうした技術的な問題は大きなことではないことが分かってきたとしている。

 「OpenStackは従来型のアプリケーションにしか適さないのか」という問題は、大まかにいって「Amazon Web Services(AWS)は従来型のアプリケーションに適さないのか」という問いに等しい。

 AWSは一般企業のあらゆるアプリケーションに対応する取り組みを進めており、特にセキュリティやガバナンスについては充実したサービスを提供するに至っている。だが、根本的に変わらないのはハードウェア(物理サーバ)の故障やメンテナンスへの対応だ。AWSでは、ヴイエムウェアのvMotionに相当する、ライブマイグレーション機能は用意されていない。これは、スケールするサービスを提供するための、意図的な判断だと考えられる。従って、物理サーバあるいはハイパーバイザーのメンテナンスは、仮想インスタンスを停止して実施することになる。

 HAクラスタリングについても同様だ。単一顧客の仮想インスタンスが同一リージョンに存在しているとしても、どれくらい離れているか確定できないこともあり、事実上利用できない。従って、仮想インスタンスの稼働している物理サーバがダウンすれば、従来型のアプリケーションはダウンする。再起動で復旧を図るしかない。

 それでも、従来型のアプリケーションを書き換えることなく、AWSに載せる企業は増えている。これはユーザー企業が、アプリケーションの可用性についての考え方を変えているということでもある。実際に、AWSのユーザー企業の中には、「社内向けの業務システムなので、多少のダウンタイムがあっても構わない」と話す人がいる。

 OpenStackでも、スケールするサービスの運用という観点から、ライブマイグレーションやHAクラスタリングは推奨されてこなかった。だが、重要なのは、従来型アプリケーションの「可用性」をどこまで厳格に考えるかということにある。従来型アプリケーションをAWSにそのまま移行して問題がないと考える企業であれば、OpenStackへの移行を躊躇する必要はない。

 しかも、OpenStackでは、共有ストレージボリュームを使った仮想インスタンスのライブマイグレーション機能は提供されている。仮想マシンのHAについても、OpenStackコミュニティ内で複数の取り組みが進められているし、商用のクラスタリングソリューションも存在する。比較的小規模なプライベートクラウドであれば、これらを利用することは可能だ。

 それでも心配な場合は、VMware vSphere上にOpenStackをかぶせて使う「OpenStack on VMware」と呼ばれる方法がある。この場合、仮想化環境の管理はvCenter経由で実行できるため、vSphereの可用性機能などは全て活用可能だ。

 上記は、より根本的な問題を含んでいる。これまで多くの国内企業では、社内の業務システムについて、「一瞬でもダウンしてはならない」と考え、特にハードウェアに対する多額の投資を続け、調達に手間を掛けてきた。だが、「一瞬でもダウンしてはならない」ことを、本当に求められているのだろうか。汎用サーバや、これを活用したパブリッククラウドが、圧倒的な価格性能比を示す新たな選択肢となっている今、「一瞬」、あるいは年間30分程度のダウンタイムを避けたいがために、例えば数億円を投資し続けることの経済的非合理性に、気付く人が出てきているということだ。

●キリンはシステム基盤の構築・テスト自動化でOpenStackを使う

 キリンはOpenStack on VMwareを採用している企業の一社だ。同社は飲料事業で、約1000台に上るサーバのOpenStackへの移行を2015年に開始した。最終的には、約2000サーバを移行する予定だ。だが、キリンビジネスシステム 情報技術統轄部 インフラ技術管理グループ 部長の門田晴裕氏は、上記セミナーで、OpenStackやオープンソースを使うことが目的ではないと語った。

 キリンでは、ITコストの削減が明確な経営課題になっており、2015年からの中期経営計画では、10%のITコスト削減目標が示された。これを達成するためには「非連続的な考え方が必要だった」と門田氏は話す。

 同社ではこれまでのM&Aなどの結果、同一の役割を果たす業務システムが社内に複数存在する状況が続いてきた。そこでまず、3カ所存在していたデータセンターを1カ所に集約することで運用コストを圧縮。また、2015年時点で、社内のサーバ約2000台のうち半数が、2、3年のうちにサポート切れになることをきっかけとして、OpenStackへこれらを順次移行するプロジェクトを開始した。

 OpenStackの採用理由は、アプリケーションの構築およびテストにおける自動化を進め、コストを削減することにあった。OpenStackの利用自体が目的ではないので、大きなリスクを背負いたいとは考えなかった。OpenStack on VMwareを採用したのは、そのためだという。

 さらにセルフサービスポータルで、必要なミドルウェアを備えた仮想マシンを作成し、自動的に払い出せるツールとして、「IBM Cloud Orchestrator」を導入した。テストツールとしては「Serverspec」を選択し、完全な自動化を実現した。

 この仕組みは2015年に稼働を開始。当面の移行対象である1000台のうち、約半数が移行を終えている。

 今回のプロジェクトは、パブリッククラウドではなく、オンプレミスに環境を構築することを選んだ。理由は、200サーバを対象に試算したところ、パブリッククラウドのコストがオンプレミス環境を大幅に上回ったことにあるという。

 「キリンはパブリッククラウドを使わないわけではない」(門田氏)。実際、ディザスタリカバリ(DR)や開発では一部利用している。IBM Cloud Orchestratorはパブリッククラウドとの連携機能を備えているため、OpenStack環境上の仮想マシンは、いつでもパブリッククラウドに移行できる。こうした形で臨機応変にオンプレミスとパブリッククラウドを使い分けられる自由を獲得したことが、今回のプロジェクトの成果の1つでもあるという。

 なお、キリンはIT運用でNTTデータと包括的な契約を結んでおり、ノウハウを持ったエンジニアに支援してもらっているため、OpenStackに関するスキル不足について、心配することはなかったという。

●アイシン軽金属のOpenStackクラウド利用はDRから、クラウド側がメインに

 富山県射水市にあるアイシン軽金属は、同県のケーブルテレビ会社4社が推進するOpenStackベースのクラウドサービスのファーストユーザーとして、生産管理システムや部品表マスターシステムの災害対策(DR)を行うべく、検証を進めてきた。DRがきっかけだが、より広範な活用を考えているようだ。

 アイシン軽金属 経理部 情報システムグループ システム開発主任専門員の鍛冶一志氏は、このクラウドサービスのデータセンターが富山県内にあり、高速な接続ができることから、「社内データセンターの延長として使える」と話した。

 同社は海に近い立地であるため、津波などの可能性に備える必要がある。また、工場の長期連休時には停電となり、その都度サーバのシャットダウンと立ち上げの作業が発生する。このような、トラブルの原因となりやすい作業を減らすことが動機の1つという。

 そこで、同社では、OpenStackクラウド側をバックアップでなく、メインとして動かそうとしている。データについては、社内とクラウド側に同時書き込みを行う。これにより最新のデータを双方で保持し、代替システムへの切り替えを即時に行う仕組みの整備を進めている。同社では、他にファイルサーバや仮想デスクトップをクラウド側で動かすことも検討。全般的に保守や維持のための負荷を軽減しようとしている。

●今後の焦点、事業部門のITをどうするか

 上記は、既存の業務システムを出発点としたOpenStack利用の例だ。一方、情報システム部門が、場合によってはこれまで深く関与してこなかった、事業部門におけるビジネス活動のための環境を整備する例も見られるようになってきた。

 NEC クラウドプラットフォーム事業部 OSS推進センター エキスパートの鳥居隆史氏は、「AWSなどを企業の業務部門が活用する例が増え、『シャドーIT』と呼ばれるなどしている。そういう世界が生まれているにもかかわらず、企業の情報システム部門は、『業務部門のためのIT環境を整えるのに、半年から1年かかる』などと言い続け、二者の間でのスピード感のギャップが広がってきた」と説明する。これを何とかしなければならないと考える情報システム部門の間で、OpenStackへの関心が高まっているという。

 例えば、好むと好まざるとにかかわらず、FinTechの波にさらされつつある金融機関を想定すると、この話は分かりやすくなってくる。事業部門は試行錯誤を繰り返しながら、新しいサービスを高速に開発していかざるを得なくなっている。ビジネスアナリティクスでも同様だ。あるデータを、時には別のデータと組み合わせて、多様な角度からの分析を繰り返すことが求められる場面が出てきている。こちらも、試行錯誤的な側面が強くなってくる。こうした活動を支援することを考えたとき、情報システム部門の発想は変わらざるを得ない。

 中島氏は、「開発者に対するおもてなし」という言葉を使って、これを表現している。「顧客の中には『技術を使ってシステムをもてなすのではなく、システムを作ってくれる開発者のおもてなしをしていこう』という発想に切り替える顧客が出始めている」という。

 同氏は、@ITが掲載したBMWの事例が重要な示唆を含んでいると話す。「情報システム部門が開発者のサポートに視点を移し、開発者と連携しながら社内のITを改善するべく、自らの役割を再定義しようとしている」と説明する。

 「現在AWSの活用を進めている企業で、使い方が洗練されていくと、逆にオンプレミスに戻す動きも出てくるだろう」と、中島氏は予測する。重要なデータはやはり外に出したくないということから、AWS上にデータを移行する場合も、厳格な審査を求めるようになることが考えられるからだ。また、AWSのストレージサービスの料金は、必ずしも安いとは言えない。「大量のデータが関わるアプリケーション/用途では、社内で運用したほうがコスト効率は高い」という判断もあり得る。

 ちょっとした開発作業をしたいときに、審査を経ることなくすぐに使える環境を、情報システム部門から提供されれば、開発者の満足度は高まる。これが「開発者のおもてなし」につながるという。

●パブリッククラウドだけが企業ITの未来ではない

 上記をまとめると、次のようになるのではないか。アプリケーションのアーキテクチャが従来型であっても、クラウドネイティブ型であっても、一般企業が機動的なITを目指す際に、OpenStackは生きてくる。特にクラウドネイティブな取り組みでは、物理的インフラ製品の調達から構成、アプリケーションの開発や展開と、全プロセスを通じてITをユーザーに近づけやすくなる。

 「そんなことは、AWSをはじめとした非OpenStackのパブリッククラウドで、できるではないか」という意見は当然ある。確かにそうだ。

 だが、同様なことができるという前提の下で、ユーザーにとっての使いやすさ、コスト、セキュリティ/ガバナンス、コントロール性といった観点から、どんな用途でどのクラウドサービスを利用するのか、あるいはオンプレミスでどのようなプラットフォームを使うのかは、意見の分かれるところであり、誰も単一の解を世の中の全ての人に押し付けることはできない。

 用途によって、あるいは社内IT全般を、オンプレミスでコントロールしたい、あるいは「今後パブリッククラウドを主とする」という判断を下した場合でも、将来いつでもオンプレミスに巻き取れるように準備をしておきたい。パブリッククラウド至上主義者は認めようとしないだろうが、こうした考え方をする人は確実に存在する。あるいはもっと単純に、処理対象となる社内データの量があまりにも多すぎ、パブリッククラウドにそのまま持っていくことが不可能に近いこともあり得る。

 こうしたケースで標準APIによるエコシステムという要素を含め、オンプレミスのプラットフォームとして最有力候補となれる存在が、OpenStackだといえるのではないか。

[三木 泉,@IT]

最終更新:7月5日(火)6時10分

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