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セブンのドミナント戦略が、沖縄では通用しない理由

ITmedia ビジネスオンライン 7月5日(火)8時32分配信

 先週、セブン-イレブンの沖縄進出が大きな話題になった。5月に就任した古屋一樹社長が6月24日の日経新聞インタビューで「2~3年のうち」と具体的な時期を明言したからだ。

【セブン-イレブンの出店の考え方】

 沖縄といえば、セブン唯一の空白地。全国制覇に王手をかけたということもあるが、近年の「沖縄人気」を裏付けるニュースとしても注目を集めた。

 近年、アマゾン、コストコ、IKEAなどの有名企業が沖縄に進出をするという噂が流れている。もうケツをまくってしまったが、ユー・エス・ジェイも海洋型リゾートをつくるという計画があったのも記憶に新しい。

 背景にあるのは、人口増だ。

 実は沖縄は全国で人口増加率ナンバーワン。中でも伸びているのが14歳までの若年層と、少子高齢化が加速する日本の中でなんとも頼もしい存在となっている。さらに、中国、韓国、台湾の外国人観光客も増えているということもあり、その将来性から外食、小売、流通などの業界では「ラストリゾート」なんて呼ばれているのだ。

 そんな注目のエリアに、セブンが出る。ああ、やっぱり沖縄キテるのね、とビジネスをしている者は誰もが思う。

 もちろん、沖縄にお住いの方たちにとっても大きなニュースだ。

 沖縄では以前から「セブン待望論」が起きている。「沖縄タイムス」が運営するタイム・リサーチでも「沖縄に進出してほしい小売店舗・チェーン店は?」の問いでは、IKEAを抑えてセブンがトップ。これは、本州を訪れたことのある沖縄県民が、セブン-イレブンの品ぞろえの豊富さなどを「クチコミ」していたこともあるが、近年ちょこちょこと「進出ネタ」が囁(ささや)かれ続けていたことも大きい。

 2012年、東急ハンズ、ドン・キホーテなどが相次いで沖縄進出を果たすと「いよいよ次は」と注目が集まる中で、2014年5月にはセブンが沖縄で市場調査に着手をしたという報道が出たこともあり、「2015年中には一号店ができるのでは」なんて憶測も飛び交い飢餓感マックス。そこで満を持しての「進出宣言」だ。これで盛り上がらないわけがない。

●セブンの沖縄進出はイバラの道

 そんなお祝いムードに水を差すような話で恐縮だが、個人的にはセブン-イレブンの沖縄進出はかなりイバラの道だと思っている。

 セブンお得意の「ドミナント戦略」がうまく機能しそうもないからだ。

 「ドミナント戦略」とは、特定地域に出店を集中させて商圏内を独占状態にすることで、ブランドの認知度と顧客のロイヤルティーが高めることに加え、配送面や店舗管理面にもメリットを生み出していくという戦略だ。これをうまく進めることで、地域内の勢力図をオセロゲームのように一気に塗り替えることができる。先ごろ引退された鈴木敏文前会長も、「ドミナント戦略を続けるだけ。他チェーンに先行して出しても意味はない」(週刊東洋経済2015年4月25日)と常々語っておられ、セブン-イレブンの事業戦略において根幹をなす考え方だ。

 この戦略に不可欠な物流拠点を、セブンは沖縄に持っていない。ちょっと遠いけど隣の県から運びましょうや、というわけにもいかないので、まずは提携企業と専用工場をイチからつくりあげないといけないのだ。また、販売網に関しても同様だ。沖縄県内で100店舗を展開するコンビニ「ココストア」を買収するという噂もあったが、昨年ファミリーマートに買収されてしまっている。残された道は、地道に出店していくか、既存フランチャイズ店を切り替えさせるしかない。

 ただ、「機能しない」のはそんなことが理由ではない。一言で言ってしまうと、セブン-イレブンが狙うべきところを既に「先客」がガッチリと握っており、いまさらノコノコやって来ても厳しいからだ。

 そんなことを主張すると、「いやいや、ローソンやファミマがいくら出店していても、そこを切り崩すのがセブンのスゴいとこなのよ」という反論が聞こえてきそうだが、「先客」というのはローソン、ファミマではない。

 彼らをサポートしている、沖縄企業だ。

 ローソンとともに「ローソン沖縄」を立ち上げたのは、沖縄では知らぬ者のいない「スーパーサンエー」などを展開する総合小売企業サンエー。一方、ファミリーマートのパートナーは、沖縄県内で百貨店「リウボウ」や、「よしもと沖縄花月」も入る国際通りの商業施設「ハピナハ」、不動産事業など手広く手がけるリウボウホールディングス。共同で1987年に「沖縄ファミリーマート」を立ち上げてから二人三脚で出店してきた。

●ファミリーマートとローソンに共通する点

 この2つの沖縄企業に共通しているのは、セブン顔負けの「ドミナント戦略」でその勢力を拡大してきた点にある。

 例えば、サンエーは県内で小売店舗66、外食レストラン14を運営しており、そこには東急ハンズ、無印良品、ジョイフル、タリーズ、ピザハット、マツモトキヨシ、家電量販店のエディオンなど、大手チェーンとフランチャイズ契約を結んだものも多く含まれる。

 錚々(そうそう)たる企業がパートナーに選ぶのは、「スーパーサンエー」が全国の中でもトップクラスの高い利益率を誇り、「勢いのあるスーパー」として店舗を拡大してきた「実績」によるところが大きい。

 沖縄の消費者が何を求め、どう動くのかを知り尽くしたうえで商圏内の勢力を塗り替える。つまり、「沖縄流ドミナント戦略」を体現してきた企業なのだ。それは同社のWebサイトに誇らしげに語られるこの一言からもうかがえる。

 『本土の市場環境とは一線を画す沖縄の市場。そのような文化的背景や地理的要因を考えた上で、独自のドミナント戦略を確立させています』(サンエー公式Webサイト)

 では、「沖縄独自のドミナント戦略」とはなんだろうか。

 もちろん、部外者に簡単に分かるものではないがゆえに「独自」なのだが、それを読み解くヒントのひとつに「ポイントカード」がある。

 実は、沖縄はTポイントカードが非常によく普及している。2015年1月現在のデータだが、県内会員は78万人。県民の55.1%の所有率ということで全国でも五指に入るほどだという。TSUTAYAが際立って多く乱立しているというわけでもないのに、なぜ沖縄の人はここまでTポイント好きなのか。

 もうお分かりだろう、ファミリーマートの影響だ。

 「沖縄のコンビニ」として日常生活に根付いていることが、日本有数のTポイント先進国をつくったのではないかと言われているのだ。事実、ファミリーマートで展開する「ファミマTカード」の沖縄の保有率は全国一となっている。

●沖縄のドミナント戦略

 沖縄県民から圧倒的な支持をうけるポイントを、リウボウグループとしても活用しないわけがない。昨年5月から百貨店「リウボウ」、スーパー「リウボウストア」などのグループ全店でTポイントの付与を開始した。

 サンエーもしかりだ。もともとサンエーグループには、スーパーだけではなくフランチャイズ店舗でポイントが貯められる「サンエーカード」というものがあり、県内では100万人にも届くかという高い保有率を誇っていたのだが、そこへさらに昨年11月から、「楽天Edy」のポイントも貯まる「サンエーEdyカード」としてリニューアルを果たしている。

 「楽天Edy」はTポイントカード同様に沖縄の普及率は他都道府県と比較してずば抜けて高いからだ。背景には、ANAと提携したマイル付与で利用客を伸ばしたということがあるらしい。いずれにせよ、人気電子マネーの機能を加えたことで、鬼に金棒。「サンエーファミリー」の顧客拡大が期待されているのだ。

 つまり、「沖縄流ドミナント戦略」というのは、沖縄県民の生活に欠かすことのできない「ポイントカード」を武器に、百貨店、スーパー、コンビニはもちろん、レストラン、家電量販店、ドラッグストア、TSUTAYAなどさまざまな接点を利用し、商圏内の顧客を囲い込んでいくことでもあるのだ。

 もし仮にセブン-イレブンが沖縄県内に一気に100店オープンをしたところで、この「ポイントカード商圏」を切り崩すことは至難の業だろう。

 沖縄にはセブン-イレブンはおろか、グループ企業はまったく出店していない。イトーヨーカドーの最西端は広島。デニーズも兵庫から西には出店していない。だから沖縄の人に、「nanacoでポイント2倍」とか言っても、「ハア?」という感じなのだ。

 こういう周回遅れの状況にも関わらず、大物気取りで沖縄入りをしても、最初は「本土のコンビニ」というもの珍しさで客が集まっても、地元のコンビニとして根付くことなく、苦しい戦いを強いられるのではないかと思う。

 過去にそういう前例もあるからだ。

●沖縄で成功するには

 実は今でこそサンエーと組んで「沖縄のコンビニ」という顔をしているローソンだが、20年前はバリバリの本土のコンビニだった。1997年、当時の中内功社長は沖縄に一挙に20店舗を出店。記念パーティーではこのように誇らしげに語った。

 「ローソンはついに全国制覇を達成しました」

 20店舗の中には、地元コンビニのオーナーを口説き落としたものもある。「一日の売り上げが前のチェーンに加盟していた時の二倍に増えた」(日本経済新聞1997年8月20日)と最初はみなホクホクだった。

 だが、「本土のコンビニ」はなかなかファミマに勝てなかった。リウボウグループのネットワークとノウハウを駆使して、沖縄独自の商品開発、品ぞろえを行う「沖縄ファミマ」は沖縄県民の生活にごく自然に溶け込んで、順調に成長していたからだ。

 そんな劣勢に立たされたローソンにようやく反撃の兆しがでたのが2009年。サンエーと業務提携をしたところ、売上高が目に見えて大きく伸びたのだ。これを受けて、ローソンはサンエーと共同出資会社「ローソン沖縄」を設立。それまで行っていたセブン-イレブンのような中央集権型から、地方自治型に移行したのである。

 本土のコンビニから沖縄のコンビニに生まれ変わった際、当時の新浪剛史ローソン社長はこのように述べた。

 『サンエーの経営指導を仰ぎながら「沖縄化」したローソンをつくる』(日本経済新聞2009年9月29日)

 つまり、「沖縄のコンビニをセブン-イレブン化する」という「上から目線」の考え方では明るい未来が待っていないというのは、歴史が証明しているのだ。

 自前のポイントカードもない、流通拠点もグループ企業もないという、ないないずくしのセブン-イレブンが沖縄で成功するには、新浪さんのおっしゃる「沖縄化」しかない。それはセブン自身もよく分かっているはずだ。

●「流通の巨人」としてのプライド

 セブン&アイ・ホールディングスはグループの方向性として、「チェーンオペレーションからの脱却」を掲げている。従来の中央集権型の大量仕入れ、本部主導の運営から、地域や個店ごとにMD(マーチャンダイジング)を考えるスタイルに移行していくというのだ。

 ただ、セブンでは提携は行っていても、エリアフランチャイズという手法はこれまでやってこなかった。どこかの地元企業と組んで「沖縄セブン」や「琉球セブン」という合同会社を設立するイメージも正直あまり浮かばないのだ。

 さらに言えば、これまで進めてきた「オムニチャネル戦略」との親和性も難しいし、「流通の巨人」としてのプライドもある。業界のみならず、大手マスコミさえも「忖度(そんたく)」をするあの「セブン-イレブン様」が一地方企業に頭を下げてへいこらするだろうか。しないな、たぶん。

 いずれにしても、「沖縄」がこれまでセブンが勢力を広げてきた46都道府県とまったく異なる特殊な市場であることは間違いないだろう。

 本土の王者といえども、ここでは単なる挑戦者だ。ここはぜひおかしなプライドはかなぐり捨てて、南国の王者たちにがむしゃらに立ち向かっていただきたい。

(窪田順生)

最終更新:7月5日(火)8時32分

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