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北朝鮮のムスダン発射、これこそ本物の脅威だ

ニュースソクラ 7月5日(火)14時0分配信

トンネルなどに隠れ、出てきて即発射可能

 北朝鮮は6月22日、中距離弾道ミサイル「ムスダン」の発射実験に成功した。12輪の自走発射機に搭載されてトンネル等に隠れ、出てきて10分で発射可能とみられる。このためミサイル防衛による迎撃も先制攻撃による破壊も困難。発射準備に何日もかかる「テポドン」などに比べ、武器としての能力は極めて高い本物の脅威だ。

 当然、「抑止力強化」が叫ばれるが、報復能力を示して攻撃を思いとどまらせる「抑止力」は相手の理性的判断を前提としており、崩壊が迫り絶望的心境に陥った相手には効果がない。残念ながら、「自暴自棄」に至らせないよう「生かさず殺さず」政策を続ける以外に当面、現実的な策はないのではないか。
 
 「ムスダン」は米国がつけたコード・ネーム(仮称)で、最初に撮影された地点、舞水端(日本海岸の岬)にちなむ。北朝鮮は「火星10号」と発表している。これは旧ソ連が1967年から配備したY級弾道ミサイル原潜に搭載された「SS-N-6」(ロシアの制式名R-27)ミサイルを北朝鮮が改良したものだ。スクラップ状態で入手したものを手本に、ロシアの技術者を招いて改良したとの説がある。SS-N-6は潜水艦の船体内に立てて収容するため、無理をして長さを9.7メートルに抑えていたが、「ムスダン」はその必要がないから12.5メートルになった。
 
 北朝鮮が2012年12月12日と今年2月7日に発射し、人工衛星を一応軌道に乗せることに成功した「テポドン2」(銀河2号)は、もし弾道飛行させれば射程は1万キロを超え、「米国に届く」とも言われるが、全長30メートル、90トンもの大型で、海岸近くに建設した高さ67メートルもある発射台で衆人環視の中、2週間以上かけて組み立て、液体燃料を注入して約3日後に発射している。戦時や緊張時にこんな悠長な作業をしていては、航空攻撃や巡航ミサイルで簡単に破壊されるから「テポドン2」は人工衛星打ち上げ用のロケットと見る方が自然だ。
 
 一方、「ムスダン」やその原型の旧ソ連の「SS-N-6」は液体燃料をタンクに詰めたまま長期間待機し、即時発射が可能な「貯蔵可能液体燃料」を使っている。米国はこれより信頼性が高く、維持・整備がはるかに容易な固体燃料を使ってきたが、旧ソ連は完全に均質な固体燃料を作る技術がなく、固体燃料ミサイルも作ったものの命中精度が低かったため、「貯蔵可能液体燃料」を長く使っていた。だが、これは酸化剤に硝酸系の液体を使うからバルブやパッキングなどが腐食しがちで、しばしば分解整備が必要だったし、燃料漏れにより潜水艦が爆発、沈没する事故も起きた。
 
 「ムスダン」は2007年4月の平壌でのパレードに12輪の自走発射機に載せて登場し「配備に付いている」と発表された。しかし、その発射実験は長く行われず、今年4月15日が最初だった。その後4月28日(2発)、5月31日、6月22日の1発目と5回続けて空中爆発などで失敗し、同日の2発目の発射でついに成功した。登場から発射実験まで9年もかかり、実験も6回目でやっと成功ということは、貯蔵可能液体燃料システムの開発の難しさ、信頼性の低さを示している。だが、6回目に成功した以上、今後はその経験を生かしたものが製造されるはずだ。
 
 この「ムスダン」発射は東岸の元山付近から北東に向けて行われ、約400キロ先の日本海(ウラジオストクの南方沖)に落下した。その最高高度は1413キロと北朝鮮が発表しており、防衛省も「1,000キロ以上」としている。日本近海に達しないようほとんど真上に近い角度で撃ったようで、もし最大射程が出る45度で飛ばせばグアム島まで約3400キロの射程が出る可能性が高い。グアム島のアプラ米海軍基地には巡航ミサイル搭載原潜4隻が配備され、アンダーセン空軍基地にはB52などの爆撃機が本土から飛来し、米軍人約5000人が駐屯している。もちろん日本全域、中国主要部、東シベリアも射程内だ。
 
 北朝鮮はこれまでも推定射程1300キロの弾道ミサイル「ノドン」を保有し、日本の大部分を射程に入れていたが、これは発射前に直立させて燃料を注入するのに1時間を要し、長さ16メートルで移動もやっかいだった。「ムスダン」は長さ12.5メートル、重さ19トンで、自走発射機に載せて山岳地帯のトンネルなどに隠され、出てきて10分で発射可能だ。
 
 移動式だけに、どこに隠れているかは詳細な地点がわからないから、先制攻撃による破壊はまず不可能だ。弾道ミサイル防衛もこれまでの「テポドン」による人工衛星打ち上げのように、国際海事機関への北朝鮮の事前通告を受けてイージス艦を出航させ、PAC3短距離迎撃ミサイルを防衛省の庭に展開させるようなことではまったく間に合わない。
 
 偵察衛星は1日1回程度、世界各地の上空を時速約2万7000キロで通過するから、常時、北朝鮮を見張ることは不可能だ。無人偵察機に領空侵犯させて北朝鮮上空で常に旋回させ、イージス艦とPAC3を24時間警戒態勢においても、出てきて10分以内に発射、その後弾着までに10分以下では対応は容易ではなく、まして多数をほぼ同時に発射されると「防衛は困難だ。
 
 北朝鮮は2006年10月9日以来4回の核実験を行い、「ムスダン」が搭載可能な600-700キロ程度まで小型化できていると考えられる。口径155ミリ榴弾砲の核砲弾などにする「ミニチュア化」には高度な技術を要するが、600-700キロにするのは簡単だ。

 また核ミサイルを作るには「再突入体」の開発も必要だ。ミサイル弾頭が秒速6キロほどの速度で大気圏に突入する際、空気が圧縮されるからスパーク・プラグがいらないディーゼル機関と同じ原理で数千度の高熱が生じ、弾頭が破壊される。それを防ぐため、弾頭に耐熱性のセラミックなどの帽子をかぶせ、その表面にはガラス繊維などを張り付け、それが溶け蒸発するなどで熱を逃がそうとするものだ。北朝鮮は今年3月15日に「再突入体の耐熱実験に成功した」と発表し、その実験画像を公表した。原理は知られていたから、多分できていると思われる。
 
 日本はいよいよ、まごうかたなき北朝鮮の核ミサイルの脅威にさらされることになった。当然、「同盟深化で抑止力強化を」という声が高まるが、反撃能力を示して相手に攻撃を思いとどまらせる「抑止戦略」はかつての米ソ間のように相手が理性的判断力を持つことを前提とする。
 
 今日でも抑止は効いていて、もし北朝鮮がどこかの国に核攻撃すれば、圧倒的に優勢な米、韓国軍などの反撃を受けて壊滅するのはまず必至だ。米軍はその際核を使えば、韓国や周辺諸国にも放射性降下物が降り、韓国による統一後の復興にも障害となるから、通常兵器による精密攻撃でも十分やれるとみている様子だ。これ以上、日本がどうすれば抑止力を向上できるのか具体的には考え難い。
 
 北朝鮮が核を使用するのは自国の滅亡が迫り、「死なばもろとも、あるものは使ってしまえ」と自暴自棄の心境になった場合と考えられるが、こうした相手には抑止は通用しない。自爆テロに対して「厳罰に処す」と言っても効果がないのと同様だ。
 
 国連安全保障理事会が緊急会合で「過去の安保理決議に違反している」と非難するのも当然だが、従来の経緯からみてそれにはいささかの効果も期待できない。
 
 誠に腹立たしく、残念至極ながら、相手を自暴自棄に追い込まないよう「生かさず殺さず」政策を他国と協調して取る以外に現実的な策はないのでは、と思われる。

田岡俊次 (軍事評論家 元朝日新聞編集委員)

最終更新:7月5日(火)14時0分

ニュースソクラ

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