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出店加速! なぜ「鳥貴族」は“全品280円”でも成長できるのか

ITmedia ビジネスオンライン 7月6日(水)8時25分配信

 若者の酒離れ、居酒屋離れが強まっているといわれる中、その流れと逆行するように業績を伸ばしているのが「鳥貴族」だ。全品280円均一と、実に分かりやすい価格体系の焼鳥居酒屋を関東、関西、東海の駅前に479店を展開している。

【鳥貴族の店内 画像】

 目標として、オリンピックイヤーの2021年7月期に3大都市圏で1000店を掲げており、それに向かって旺盛な出店を加速している。1000店達成後は、海外に進出するとともに、全国に店舗網を広げて2000店を目指すとしている。

 14年7月にジャスダックに新規上場すると、15年7月東証2部、今年4月東証1部へと一気に駆け上ってきた。今、乗りに乗っている成長企業の1つで、焼鳥業界首位である。

 2015年7月期の売上高が186億5900万円(前期比127.7%)、営業利益が11億1800万円(同161.9%)、経常利益が10億8200万円(同130.2%)、当期純利益が5億8500万円(同142.7%)と3期連続で増収増益を達成している。

 売上高の推移を見ていくと、13年7月期は128億6400万円であり、14年7月期は146億1600万円と順調に伸びている。

 メインターゲットは20代~30代のビジネスパーソン、学生。顧客の男女比は6対4で意外と女性が多い。顧客単価は2000円を少し切るくらいで、1日の営業時間中、客入りは2回転くらいする。若者を中心に、安く飲みたい人には圧倒的な支持を受けていて、池袋だけで9店、渋谷だけで8店が駅近辺に点在している。

 現在鳥貴族は焼鳥最大のチェーンになっているが、焼鳥店にしてはずいぶんと風変りな店だ。まず、店の前に赤ちょうちんがぶら下がっていない。焼鳥店というとカウンター中心の狭い店が多いのに対して、鳥貴族はボックス席が圧倒的に多く、平均で40坪70席を有している。もちろん、ビールなどのドリンクを含めて“全品280円”もユニーク。

 看板商品の「貴族焼」(ももとむねの2種類、味付けは各たれ、塩、スパイスの3種類)は通常の2倍はあろうかといういかにもお得な「じゃんぼ焼鳥」である。焼鳥を焼く火力は、多くの店が炭火を使おうとするのに対して電気。

 なぜ、このやり方で成長できるのか。解説していきたい。

●280円均一料金で“宅飲み”に対抗

 まず、全品280円の均一料金について、創業者の大倉忠司社長は次のように語る。

 「独立してトリキ(鳥貴族の愛称)を立ち上げる前に、友人に230円均一の炉端の店に連れて行ってもらったのが、単一価格の原点ですね。お刺身も230円、厚揚げも230円で、お客の立場からすると、値段以上にお得なメニューを見つける楽しみがあって、すごく感動しました。ファンになり、よく通ったものでした。ダイソーのような100円ショップも、100円でこんなお得なものが買えるのかという、宝探しの楽しみがあるでしょう。起業したとき、真っ先に均一料金で行こうと決めました」

 しかし、1985年に大阪府東大阪市内で1号店を出店した際には、いきなり全品均一にする勇気がなく、150円、250円、350円の3プライスで営業していた。いざ、店を開けてみると売り上げが芳しくなく、1年後には全品250円均一に料金を改定する。当時でも、居酒屋では生ビールの中ジョッキで400~450円したので、非常に安いイメージの店だった。

 全品280円に値上げしたのは、消費税が導入された1989年頃で、当時の物価高に対応した措置。ニワトリのニワと、語呂も良いので以降280円で通している。

 2005年に東京に進出。それまでずっと、大阪を中心に関西ローカルで展開してきた鳥貴族が東京でも人気になったこともあり、特に08年9月のリーマン・ショックから数年間、300円前後の均一居酒屋のブームが到来したことがあった。

 ところが、今では鳥貴族を除いてあまり見なくなってしまった。

 「総合居酒屋は鶏だけでなく牛、豚、魚と食材が多いので、1食材あたりのスケールメリットがつくりにくいのではないでしょうか。トリキがこの値段で出せるのは、鶏に絞っているからです。大量に鶏を買うから、仕入れ価格が安くなるのです。トリキのフードのメニュー数は約60で、総合居酒屋の半分から3分の1です」(大倉社長)

 つまり、総合居酒屋のビジネスモデルは、フードはリーズナブルに、お酒はなかなかの値段で提供し、お酒で利益を稼ぐというものだ。総合居酒屋に限らず、お酒を飲ませる飲食店は皆、そこは同じと言っていいだろう。ところが、近年の若い人たちは金額に敏感だ。だから、家での宅飲みが増えるのだと、大倉社長は問題提起している。

 「トリキでは酒離れは感じません。若い人たちはアルコールの値段に敏感で、飲食店のアルコールの値段が高すぎるから、コンビニ(宅飲み)に負けるのです」と大倉社長はきっぱりと言い切った。

 お酒まで均一料金にしているのは、宅飲みに対する外食の挑戦でもある。ところが、総合居酒屋のように食材が増えてしまうと、仕入れコストが掛かり、全品280円で出すには、どうしても商品の品質を落としたり、量を減らしたり、人員を減らしてサービスをカットするといったことをせざるを得なくなる。それで他の居酒屋では定着しなかったのだ。

●安いだけが魅力じゃない

 鳥貴族は安いだけでなく、品質を追求。鶏肉は創業より国産のみを使い、野菜などその他の食材も98.2%が国産であるが、今年10月には100%にする予定だ。安全、安心で新鮮な食品を顧客に提供するだけでなく、国内の第一次産業支援の意味合いもある。

 また、おかわり自由の「キャベツ盛り」も魅力の1つ。高円寺のような学生街では、料理は「キャベツ盛り」だけ注文して、飲み続けている顧客が多い。鳥貴族ではお通しを出さないので、それに代わるクイックで出せるスピードメニューである。

 大倉社長は「お客様が好きでもないものをお通しで出して、勝手に料金を上乗せするのに、抵抗がある」とのこと。お通しを付けると売り上げは上がるが、納得できる商売がしたいと語る。

 鳥貴族はセントラルキッチンを持たず、たれは一括して大阪の本社にある工場でつくり、食材は仕入れ先から各店舗に届く。店がオープンする前に、パートが鶏肉を1本1本、串に刺していく。この串打ちに手間がかかるので、ランチ営業はできない。1店舗当たり平均して1日に1000本の串打ちを、4人掛かりで行う。鶏肉は劣化する脚が速く、顧客の口に入る少しでも手前に商品にするのが望ましいので、このような方法を取っている。

 電気グリラーは創業から2~3年してからずっと使っているが、アルバイトが約2カ月で焼きの技術を習得するに適しているという。炭火は職人の世界で、何年も修業して、それでも理想にはなかなか到達しない奥深い領域に入っていく。職人の領域にはタッチしない。

 また、鳥貴族の特徴の1つであるログハウス風の内装は、アウトドアが趣味の大倉社長自身で考えたもの。本物の丸太、椋の木材を使ったテーブルと椅子で、合板では表現できない癒しの空間を構築した。また、顧客の目線が合わないようにパーテーションの役割を考慮している。

 「焼鳥屋は中高年男性が行くもの」というイメージを変えるために、古くさく思われていた赤ちょうちんでカウンターの店とは異なる、若者、女性が好むテーブル席重視の店舗を開発した。

●「鳥貴族のうぬぼれ」

 大倉社長が影響を受けたのは、ダイエー創業者、中内功氏の消費者第一の志だという。最初から大衆市場を目指し、ダイエーのような大チェーンをつくるなら「低価格でやる」と決めて会社を設立した。ところが実際は、しばらくの間じわじわと店舗が増えていたのであって、ブレイクとまでは行かなかった。

 状況が一変したのは、2003年に出店した道頓堀店の成功だ。それまでは、郊外の路面に店を構えており、都心部では家賃や人件費も高くて難しいのではないかと考えていた。しかし、大阪の都心部の目に付きにくいビルの空中階に試しに出店してみると、思いもかけずこれまでにない繁盛店となった。創業して18年目、35店舗目だった。それ以来、家賃を節約できる都心の空中階を狙って出店し、500店間近まできた。

 さらなる成長のために、メーカー出身のコンサルタントと現在、店舗の生産性向上に取り組んでいる。店舗は小さな工場という考え方で、厨房、シフト、ポジショニングの無理、ムラ、無駄の洗い出しを行い、1店舗当たり1人の削減を目指す。そのコンサルタントは先立って、本社たれ工場の生産性向上に取り組み、1年半で生産量を3倍に、劇的に改善した。

 いまの勢いまま人材の確保と教育が順調に行けば、1000店達成、さらには海外に進出して世界の鳥貴族となるのも、夢ではないだろう。

(長浜淳之介)

最終更新:7月6日(水)8時25分

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