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ホンダ、スバル、JVCケンウッド、ソフトバンク……コグニティブ技術も生きる、IoTの最新12社事例

@IT 7月6日(水)6時10分配信

 2016年5月25、26日に開催された「IBM Watson Summit 2016」では、数多くの最新IoT活用事例が紹介された。注目を集めたのが、26日に行われた日本アイ・ビー・エム Watson IoT事業部 事業部長の林健一郎氏によるセッション「IoTとWatsonがつながる世界を劇的に変革 - IBMのIoT活用技術を最新事例で一挙公開」だ。このセッションでは、IoTの最新事例だけではなく、グローバルおよび国内におけるIoTの動向についても説明していた。まず、事例紹介に入る前に、IoTを取り巻く状況を見てみよう。

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 IoTという考え方は、2012年頃、ドイツが国家戦略として、インターネット接続によって製造業の競争力を高める「インダストリー4.0」を発表したことが、浸透のきっかけとなった。2014年には、米国でインターネットを利用したサービスによる生産性、効率性向上を目的にした「Industrial Internet Consortium」(IIC)が民間企業主導で立ち上がった。そうした中で、日本では、成長戦略「日本再興戦略」のカギとなる施策として、IoTやビッグデータ、人工知能を活用した産業構造および就業構造変革の検討が行われているのが現状だという。

 「最近の動きとしては、2016年4月に行われた『HANNOVER MESSE』で、IoT分野における日独連携が成立し、IoTの標準化などを共同で進めていくことが発表された。一方、ドイツのインダストリー4.0チームは、米国のIICとも連携してIoTで使われる技術の標準化への取り組みを進めている。昨今は、日独米の3カ国が中心となってさまざまな技術の標準化を策定し、ソリューション展開を推進している。これがIoTのグローバルトレンドになりつつある」(林氏)

 なお、IDC Japanが調査した「国内IoT市場 産業分野別 2020年支出額予測」によれば、日本国内では「組立製造」「プロセス製造」「公共/公益」「クロスインダスト リー」「官公庁」「運輸」が、「2020年にIoTの支出額が1兆円を超える分野」と見られているという。

 「この中で、支出額が最も大きくなると見込まれているのが製造業だ。もともと製造業は、M2Mで生産性の効率化に取り組んできた背景があり、そこにIoTのテクノロジーが加わることで、オペレーションやアセット管理、食品トレーサビリティなど本格的に市場が立ち上がることが期待される。その他、公共/公益分野ではスマートグリッド、クロスインダストリー分野ではスマートビルディングやコネクテッドカー、官公庁では公共交通システムや公共安全システム、運輸分野では輸送貨物管理やフリート管理でIoTの活用が進むことが予測される」(林氏)

 ここからは、IoTによって新しい価値創造が期待できる領域として、「製造業」「自動車」「ヘルスケア・医療」「顧客対応」「農業」「建築・公共」の6分野にフォーカスして、最新のIoT活用事例を紹介していこう。

●製造業

 まず、「製造業」では、三菱電機、アドバンテックのIoT活用事例が紹介された。

【1】三菱電機

 三菱電機では次世代のものづくりを実現するソリューション「e-F@ctory」へのIoT技術導入に向けて、日本IBMと技術協力。三菱電機の持つファクトリーオートメーション(FA)の制御系システムとIBMの情報系システムを接続することで、製造業向けのIoTソリューションを共同構築するプロジェクトを進めているという。例えば、制御系システムに収集されるさまざまなセンサーデータを、IBMのアナリティクスソリューションに取り込むことで、予知保全を実現することが可能となる。

【2】アドバンテック

 台湾に本社を置くアドバンテックは、産業用コンピュータ分野におけるIoT向けハードウェアソリューションのグローバルベンダー。同社が提供するPaaSソリューション「WISE-PaaS」を、IBMのクラウド基盤「SoftLayer」およびPaaS「IBM Bluemix」と連携させることで、ユーザー企業がIoT関連の新たなサービスやアプリケーションを容易に開発・実行できる環境を提供している。

 例えば、センサーゲートウェイやセンサーノードから収集されたデータを基に、クラウド上で工場設備機器の稼働状況や環境を可視化し、保全を支援するIoTソリューションなどを開発できるという。

●自動車

 次に、「自動車」の分野では、本田技研研究所(ホンダ)と富士重工業(スバル)のIoT活用事例が紹介された。

【3】ホンダ

 ホンダは、2015年からF1レースに再参戦しているが、F1マシンに搭載されているハイブリッドエンジン(パワーユニット)の状況をリアルタイムに分析するべく、レーシングデータ解析システムの基盤としてIBMの「IoT for Automotive」を採用。パワーユニットに設置された160個以上のセンサーからの情報を、国内の研究所で収集・分析し、レース中の走行状況をリアルタイムで把握するとともに、パワーユニットの異常を検知する仕組みを構築した。

 これにより、ホンダでは、年間約20レースで、トラックサイドに配置されるサーキットエンジニアの負荷軽減とコスト削減を実現。その結果、開発本拠地におけるパワーユニット開発に、より多くのリソースを投入できるようになったという。

【4】スバル

 スバルでは、高度運転支援システム分野における、実験映像データの解析システムの構築と、クラウドおよび人工知能技術(AI)に関して、日本IBMと協業を開始している。具体的には、ステレオカメラを用いた運転支援システム「アイサイト」などの先進安全システムの膨大な実験映像データを集約して統合的に管理するシステムを構築し、2016年4月から運用を開始している。

 この取り組みについて、5月25日に行われたゼネラルセッションのパネルディスカッションで、富士重工業 取締役専務執行役員の武藤直人氏は、次のように述べる。「今回の日本IBMとの協業では、『アイサイト』のさらなる進化を目指して、特に人工知能を活用した自動運転の研究・開発を加速していく。現在、当社では世界で200万キロ以上の走行データを蓄積しており、このビッグデータを高度に解析して、自動運転のレベル向上を図る」。

 「さらに、Deep Learningを取り込んで、自動運転が提供する“安心と楽しさ”の価値拡大を目指す。2017年には、高速道路の渋滞の中でも、車線を守りつつ、前の車との車間をキープしながら自動運転ができる技術を実現する予定だ。2020年には、レーダー技術も取り入れ、車線変更まで自動で行えるようにする」(武藤氏)

●ヘルスケア・医療

 「ヘルスケア・医療」分野では、ミネベア、テクニコル、USA CyclingのIoT活用事例がピックアップされた。

【5】ミネベア

 ミネベアは、千葉大学医学部と日本IBMと共同で、「ベッドセンサーによる生体情報モニタリングシステム」の開発に向けた実証研究を行っている。このシステムでは、ベッドに後付けした荷重センサーによって、ベッドの上の患者の体重や小さな体動、さらに呼吸の回数や深さ、パターンなどの生体情報を収集しモニタリングする。何らかの異常が発生した場合は、アラートが通知され、早期発見・早期治療による医療の安全性を高めることができるという。

 なお、事前実証における生体情報の分析には、日本IBM東京基礎研究所の高度な機械学習技術が活用されている。

【6】テクニコル

 テクニコルは、IBM BlueHubの採択事業として、バイタルデータの解析によるストレスやワークエンゲージメントの可視化研究、サービス開発に取り組んでいる。具体的なソリューションとしては、スマートフォンなどから心拍数を取得し、そのデータからストレス状況や集中度を分析できる仕組みを実現している。これにより、心拍数を通じて、その人の精神状態を把握することが可能になる。例えば、教育現場で授業中の子どもの心拍数を管理することで、「算数の授業ではストレスを感じている」「国語の授業では集中している」などが分かるようになり、子どもの得意科目や苦手科目の理解に役立てることができる。

【8】USA Cycling

 USA Cyclingは、自転車競技パシュートの米国代表チーム。選手のトレーニング強化のために「Watson IoT Platform」を活用している。具体的には、レース中の自転車の状態や選手の心拍数、筋肉の酸素濃度などをモニタリングし、「Watson IoT Platform」でリアルタイムにデータ収集・分析を行う。これにより、コーチは、手元のタブレット端末から、自転車の状況や選手のコンディションを一目で把握でき、的確な指示を出すことが可能となる。USA Cyclingでは、次のオリンピック大会での金メダル獲得を目指し、IoTを活用した先進的なトレーニングに取り組んでいる。

【8】東京大学医科学研究所

 ゼネラルセッションのパネルディスカッションでも、「ヘルスケア・医療」分野のIoT活用事例として、東京大学医科学研究所と日本IBMが進めているゲノム解析によるがん研究の取り組みが紹介された。

 東京大学医科学研究所 教授 理学博士 ヒトゲノム解析センター長の宮野悟氏は、「ゲノム解析では、生物の持つ遺伝情報を総合的に解析し、病気の予防や治療への理解を深めることができる。ゲノム解析を行うためには、30億文字の遺伝子情報を解析する必要があるが、スパコンの登場によってこれが可能になった。しかし、病気との関連性を探るためには、全世界で発表されている膨大な数の研究論文や臨床試験の情報を参照することが求められる。そこで、IBMの『Watson Genomic Analytics』を採用し、がん細胞のゲノム解析による新たながん研究を開始した」という。

 「研究では、正常なゲノムとがん細胞のゲノムを解析し、そこからがん特有の遺伝子変異を特定する。そして、がんに関する研究論文や臨床試験の情報から、その遺伝子変異に適した治療方法を見いだし、患者に提供していく。現在、『IBM Watson』には、2000万件超の研究論文、1500万件超の薬の特許データ、100万件超のがんの遺伝子変異情報などが格納されており、『Watson Genomic Analytics』を利用することで、がんの原因となる遺伝子変異や有効な治療方法の候補を、30分程度で探し出すことができる。今後、がんに関する先進医療をさらに加速していくために、『Watson Genomic Analytics』を活用したがん研究は必要不可欠になる」(宮野氏)

●顧客対応

【9】ソフトバンク

 「顧客対応」分野のIoT活用事例については、ゼネラルセッションの特別講演で、ソフトバンク 代表取締役社長 兼 CEOの宮内謙氏が、同社が実践している取り組みについて言及した。

 「当社では、日本IBMと提携し、『IBM Watson』の国内販売を共同で推進しているが、これに伴い、社内でも『IBM Watson』を活用したプロジェクトとして、『SoftBank BRAIN』を立ち上げた。『SoftBank BRAIN』は、当社の顧客情報や商品情報、社内ドキュメント、問い合わせ情報などを『IBM Watson』に集約し、コンタクトセンターやショップのスタッフ、法人営業担当に向けて、迅速で的確な意志決定や顧客対応を支援する情報を提供していく仕組みだ。既にコンタクトセンターでの『SoftBank BRAIN』の活用が始まっており、高度な知識や経験が少ない新人オペレーターでも、あらゆる問い合わせに回答することが可能となった」としている。

 「今後は、コンタクトセンターでの実績をベースにして、全国約3800店舗のソフトバンクショップ、および約2000店舗の量販店にも『SoftBank BRAIN』の導入を拡大していく。これによって、全国各地のショップのスタッフが、ユーザーからの多種多様な問い合わせに、店頭で素早く対応できるようになる。また、2016年7月には法人営業向けの『SoftBank BRAIN』のシステムが完成する予定だ。このシステムを通じて、法人営業担当の顧客企業へのビジネス提案をサポートし、さらなる業務効率化を図っていく」と、コンタクトセンターからショップ、法人営業まで全面的にIoT活用を推進していくと述べた。

●農業、建築・公共

 林氏のセッションではこの他、「農業」分野で笑農和、「建築・公共」分野でJVCケンウッド・公共産業システムのIoT活用事例が紹介された。

【10】笑農和

 笑農和は、水田に設置された水門を自動管理するIoTソリューションを提供している。

 高齢化が進み、労働人口が減りつつある農家では、1人当たりの手掛ける水田の数が増加し、水量を調整するために水門を開け閉めする作業負荷も増大し続けているのが実情だ。この課題に対して、同社は、水門にIoTデバイスを設置し、水田の状況に応じて水門の開閉を自動管理する仕組みを開発した。また、IoTデバイスのセンサーでは、水温や水質、土壌の状態などのデータも収集しており、稲作の改善提案にも活用している。

【11】JVCケンウッド・公共産業システム

 JVCケンウッド・公共産業システムは、同社が培ってきた監視カメラや業務用無線機器技術と、IBMのビデオ分析技術「Intelligent Video Analytics」(IVA)を連携し、新たな監視システム「インテリジェントビデオ解析システム」を開発した。同システムでは、映像解析の基盤技術にIVAを採用することで、特定の人物や車両、置き去り物体検知や盗難防止などの検出まで、幅広い監視を実現。

 これにより、交通機関や商業施設、小売店舗、重要施設、テーマパーク、官公庁などでの異常検出業務を無人化するとともに、犯罪や重大事故の未然防止、また混雑把握や動線分析による顧客満足度向上や売上向上にも貢献することが可能になるという。

【12】レイ・フロンティア

 また、「建築・公共」分野に関連するIoT活用事例として、25日に行われたレイ・フロンティアのセッション「位置×範囲×時間で人を知る。―行動分析の事例紹介」も見逃せない内容であった。

 レイ・フロンティアでは、位置情報をベースにしたライフログアプリ「SilentLog」をiPhone向けに提供している。このアプリは、iPhoneを持って歩くだけで、ユーザーの移動手段、経路、歩数を自動で記録して、撮影した写真と共に、毎日の行動を時間軸に沿ってまとめておけるというものだ。「健康管理」における用途を想定している。

 レイ・フロンティア 代表取締役CTOの大柿徹氏は、「『SilentLog』を利用することで、ユーザーは、その日にどんな移動手段で、どこに行って、何をしたのかといった自分の行動を詳細に振り返ることができるようになる。自分の記憶を補完するツールとして、多くのユーザーに活用されており、一般的なアプリと比較して継続率も非常に高くなっている。現在、アプリインストールから30日間の継続率は40%をキープしている」と説明する。

 さらに、同社では、「SilentLog」を個人向けアプリとして提供するだけでなく、アプリに記録される“位置×範囲×時間”の行動情報を、人工知能を活用してリアルタイムで分析するサービス「SilentLog Analytics」を展開している。具体的には、行動情報の分析データを基に、人や物の行動を俯瞰視点で可視化、ペルソナの構築や検証、各個人に最適化した情報配信などが可能になるという。

 大柿氏は、「SilentLog Analytics」の応用分野として、「自動車の安全運転」「交通情報の提供」「消費者の行動分析」「訪日旅行者向けサービス」「高齢者向けのスマートシティー」「従業員の遠隔管理」などを挙げ、「2016年3月には、モビリティの分野でイードと業務提携を行った。イードが開発・運営する自動車の燃費計測サービス『e燃費』の次期バージョンで、『SilentLog Analytics』を活用した新たなサービスを提供する計画」としている。

 なお、「SilentLog Analytics」の行動分析基盤には、分散インメモリを用いて大量データを処理するIBMの分析基盤「Spark as a Service」を採用している。「Spark as a Service」は、「IBM Bluemix」上で提供されているクラウドサービスで、ハードウェアの制約やメンテナンスの必要がなく、柔軟な拡張性を備えているのが特長だ。これにより、大規模データに対するデータ分析処理の効率化、およびサービス開発へのリソース集中化を実現している。

●日本企業のデジタライゼーションは進むのか

 ここまで、多種多様な分野でのIoT活用事例を紹介してきたが、これら多くの事例の基盤となっているのがIBMの「Watson IoT Platform」によるコグニティブコンピューティングだ。「Watson IoT Platform」は、「IBM Bluemix」のクラウド環境で展開され、センサー情報をリアルタイムに収集・分析・活用するためのさまざまなAPIが提供されている。さらに、基幹業務システムとのデータ連携APIも提供されており、センサー情報から資産情報、保全情報まで含めたエンドツーエンドのIoTソリューションを実現している。

 ゼネラルセッションで、日本IBM 代表取締役社長執行役員のポール与那嶺氏は、コグニティブコンピューティングの意義について、「これからの企業には、デジタイゼーションからデジタライゼーションへのシフトが求められる。デジタイゼーションは、単に情報をデジタル化すること。これに対してデジタライゼーションは、ビジネスをデジタル化することだ。このデジタライゼーションへのシフトを支援するべく、当社が推進しているのが『Watson IoT Platform』を基盤としたコグニティブコンピューティングである」と語る。

 「IoTでは、人工知能の技術に注目されがちだが、それ以上に、いかに早くデータを収集・分析して、ビジネスに活用できるかが重要であると考えている。いかに人工知能が優れていても、学習や解析に何日もかかってしまうのでは意味がない。その意味で、『Watson IoT Platform』は、当社が蓄積したノウハウと知見を生かし、業界ごとのベストプラクティスを提供できるのが大きなメリットだ。これによって企業は、それぞれの業界のニーズに最適化したIoTソリューションを早期に立ち上げ、デジタルビジネスを展開することが可能になる」と、業界に特化したソリューションを展開することで、企業のデジタライゼーションを促進していくと強調した。

 具体的な業界特化ソリューションの展開としては、自動車業界向けの「IoT for Automotive」の一部機能を2016年5月に提供開始している。さらに、2016年後半から2017年にかけて、家電、小売、保険、製造の各業界に特化したソリューションを順次リリースしていく計画だ。

 先進的なアーリーアダプター企業から一般企業へ、今後、IoTのビジネス活用が国内で広く普及していくために、「Watson IoT Platform」を基盤としたコグニティブコンピューティングが重要な役割を担うことになるのかもしれない。

●特集:IoT時代のビジネス&IT戦略~「チャンス」にするか、「リスク」になるか、いま決断のとき

今、IoT(Internet of Things)が世界を大きく変えようとしている。企業は現実世界から大量データを収集・分析して製品・サービスの開発/改善につなげ、社会インフラはあらゆる予兆を検知してプロアクティブに対策を打つ。だが、IoTはドライバーにもリスクにもなり得る。データの収集力、分析力、そして価値あるアクションに落とし込む力次第で、チャンスをモノにもできれば奪われもするためだ。企業・社会はこの流れをどう受けとめるべきか?――本特集ではIoTの意義から、実践ノウハウ、不可欠なテクノロジまでを網羅。経営層からエンジニアまで知っておくべき「IoT時代に勝ち残る術」を明らかにする。

最終更新:7月6日(水)6時10分

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