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映画『日本で一番悪い奴ら』の白石監督、「間違いなく僕の代表作」

Lmaga.jp 7月6日(水)17時0分配信

「尖った映画づくりが隙間産業みたいになってる」(白石監督)

ここ数年の邦画界で最大の問題作『凶悪』(2013年)を撮った白石和彌監督がまたやってくれた! しかも今回は、セミ・ドキュメントタッチだった前作とは違い、エンタテインメントに徹した作品として、綾野剛を主演に、とんでもないがどこか憎めない人間たちを生き生きと描き出す。こぎれいでこぢんまりとした作品が多い日本映画界にまたしても鋭い一石を投じた快作『日本で一番悪い奴ら』だ。

【画像】舞台挨拶に登場した主演の綾野剛

──本作品の企画は、脚本家の池上純哉さんから提示されて始まったそうですね。

僕が若松孝二監督のもとで助監督をしていたころ、脚本家の池上さんは高橋伴明監督のもとで助監督をされていて、もう10数年前から付き合いがあり、いつか一緒に仕事しようと言っていたんです。それが2014年の初めに共通の知人の通夜で一緒になって、こういう企画があるんだけどってプロットを見せてもらい、そのあとすぐに原作も読んで、これは映画になるなって思ったんです。

──原作のどういうところに惹かれたのでしょうか?

まず、覚せい剤130キロ、大麻2トン、拳銃100丁という、とてつもない数字の面白さですね、なんだこれはっていう(笑)。この数字は原作者で元北海道警察の刑事だった稲葉さんが関わった事件で扱われた物件の量です。でも、ほんとうに面白いと思ったのは、事件の裏側と言うか、三面記事的に言えば悪徳刑事の犯した犯罪ということになってしまうのですが、実はそこにあたりまえに稲葉さんの人生があり、青春もあったはずで、また不法拳銃を摘発しながらきっと楽しかっただろうな、女性にはモテたんだろうなと、いろいろなことが見えてきたことなんです。事件の内容やあがってくる数字も面白いけれど、これは人間ドラマになるなと思ったんです。

──稲葉さんをモデルにした主人公の諸星を綾野剛が演じていますが、終盤、逮捕・収監までされているのに、まだ自身の「正義」をブレずに貫いている姿が印象的でした。

そうなんです、まったくブレてないんです。そういう意味ではピュアで真面目なんです。普通はありえないですよね、覚醒剤絡みの事件で逮捕されていながら、出所後はまた警察官に復職してバリバリ働きたいと本気で思っているなんて。先日、稲葉さんに映画を観てもらったら、あのシーンを観て泣いてしまったというメールが送られてきました。あのときは本当にそう思っていたんだと。あのころの自分はなんだったのだろうという思いなのかな。まあ、自身の過去を改めて再見して、ほかにもいろいろと込み上げてくるものがあったのでしょうが、ともかく、泣いたと。そのメールを見て、今度は僕と池上さんが泣きましたね、なにか、この映画作ってよかったという思いが湧き上がってきて。

──稲葉さんは一線を越えてしまったわけだけれど、警察官としては優秀だったのでしょうね。

とても優秀だったんだろうなと思います。もしサラリーマンになっていたら超一流の営業マンになっていただろうとも。組織は、こういう優秀な人を、始めは頼りにしてうまく働かせるのだけれど、次第に使いこなせなくなっていくと今度は排除していこうとする。組織と個人の関係で、どこにでもあるケースです。また、稲葉さんというより映画の主人公の諸星がですが、一線を越えてしまったことについても、僕などは共感できるものがあったりするんです。

──それは、どういうことですか?

僕も映画で生きていこうと決めて、学校を出たらすぐに若松孝二監督のところに行って助監督になったのですが、諸星にとって警察がそうだったように、僕には映画がすべてだったんです。そんなとき、若松監督が例えば撮影許可が下りてない場所でゲリラ撮影を敢行しようと言う、僕などは「えぇー、監督ぅ~」なんて言いながら、でも結局は「監督がやるって言うのだからやらなきゃ」となって、なにかあったら自分が警察で始末書書くんだろうなと思いながら一所懸命やってしまうんですよね。まあ、若松監督はゲリラ撮影もとても上手かったのでいつも大丈夫でしたけど。諸星がやったこともいわばこれと一緒だと思うんです。実はいろいろな業界でこういう出来事やこういう人間はいるんですよ。

──確かにそうですね。でも、扱っている内容が警察の不祥事、それも現職警察官が覚醒剤の密輸や販売に手を染めるという内容だけに、映画化はかなりリスキーだったのではないですか?

そうなんですけど、だからこそやってみたいという気持ちが強かったですね。若松監督の作品もそうでしたが、深作欣二監督の『仁義なき戦い』シリーズなど、かつての日本映画には「権力」に立ち向かっていく作品がたくさんあったじゃないですか。それが今は、どこにも当たり障りのない作品ばかりになっていて、こういった尖った映画づくりがまるで隙間産業みたいになってしまっている。だったら僕がやってやろうと。だからと言って、社会正義を標榜する作品が撮りたいわけではないですよ、結局こういう映画が好きなんですよね。

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最終更新:7月6日(水)17時0分

Lmaga.jp