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酸欠少女さユり、心に同期する異次元ライブ 幻想空間に心奪われる/ライブレポート

MusicVoice 7/6(水) 10:54配信

 2.5次元パラレルシンガーソングライター、酸欠少女さユりが去る6月24日、東京キネマ倶楽部で、ワンマンライブ『ミカヅキの航海』東京追加公演を開催。現実と仮想が織りなす2.5次元の独特の世界観のもとで「来世で会おう」や「るーららるーらーるららるーらー」など全15曲を熱唱した。

【写真】そのほかのライブ写真

■冷たい雨

 彼女の姿を真影するような冷たい雨が降りしきる夜だった。山手線や京浜東北線が走る沿線にある東京キネマ倶楽部には、入場を待つ様々な柄の傘が列を作っていた。制服姿の女性が目につく。傘からはみ出た肩やカバンを濡らしながらも気にせず前を見ていた。

 この日のステージセットは、ステージの透過スクリーンに2次元のさユりの映像が流れた。その先にいるのが3次元のさユり、そしてバックバンド。その“2つ”のさユりは絶妙にシンクロして、あたかも同じ世界で生きているよう。そんな現実と仮想が交差する不思議な感覚のライブは「来世で会おう」から始まった。

■一瞬にして心に同期する

 彼女は一瞬にして人の心に同期する。目の前に広がる空間に息を呑む観客ははじめこそ、その幻想的な世界に目を奪われていたが、次第に理性を忘れ、自身の声、心の中と向き合う。その数分後には彼女の知性と会話している。そんな感覚だった。体も空気も飛び越えて、さユりの思考と直接繋がる。彼女の歌にはそんな魔法のような魅惑があった。

 そして、多くの観客は憑りつかれたように、曲の殆どを、手を挙げるわけでもなく、頭を振るわけでもなく、ただじっと聴いていた。しかし、会場は高揚感に包まれている。心で彼女と対峙しているかのようだった。それだけ彼女の言霊は刺激的で重い。大人が遠ざける問題に対峙する彼女は自身の心を削り、歌にしていることが影響しているといえよう。それはとてもピュアな心でなければ向き合うことはできない。

 その想いを彼女は歌だけでなく、ライブでは言葉をもって素直に届ける。「私は生きるために歌いにきました」。「社会は気にしなくていいです。あなたと私の2人だけの気分でやりましょう」。

■人間の欲情を刺激

 そのなかで届けられた3曲目「オーロラソース」は理性を忘れさせ、人間の欲に刺激するように歪んだギターとさユりの荒々しい歌声が響いた。深い森を連想させる4曲目「ネバーランド」では激しく歌う一方で、傷ついた少女のように繊細に歌う面も見られた。そのような深層に触れたかと思えば、8曲目「人間椅子」や9曲目「ふうせん」はオルタナに。この時ばかりはファンも頭や手を挙げて体を使って高揚を高めた。

 6月24日に配信限定EPとしてリリースされた11曲目「るーららるーらーるららるーらー」はアコギを使って情熱的に奏でた。裸足のさユりは左足を浮かせながら前ののめりに弾く。カッティングがグルーヴを作った12曲目「ちょこれいと」では弦が切れそうなほど強く、そして荒々しかった。

■過去に意味を持たせる

 そして、終盤にはツアータイトルに込めた想いを語った。

 「私は後悔が多い人間です。過去に思いを馳せたりしながら生きてきました。私の曲は悲しい気持ちから生まれた曲が多いです。だから、もしその後悔がなかったら私は今ある曲を作ってなくて、今日という日もなかったかもしれない。私の歌を必要としてくれたあなたのおかげで私は私の過去に意味を持たせることができたって思います。ありがとう。私たちは欠けたところから始まります。欠けたものから何かを生み出せる力があると思います。大丈夫。あなたはあなたの“それでも”の先に進んでください。私も“それでも”の先に進みます」

 様々な過去も、今の自身を形成するかけがえのないものだ、そうした言葉を紡いでから本編ラスト「ミカヅキ」を届けた。ステージを照らす少し欠けた月は、さユりの歌声、観客の涙で再結晶化されていく。それはやがて満月へと戻っていく。

 大歓声を浴びてのアンコールでは、キャリーケースを転がし、路上ライブをおこなっていたときと同じスタイルで登場した。ここで観客から「ハッピーバースディー」のサプライズ歌唱。聞かされていなかったさユりは涙を流した。

■生きる証

 涙の筋が残るなか「さユり」という紙で作った看板をケースに貼りつけると、新曲「birthday song」を感情をぶつけて激しく歌った。それは生きている証しとでも言うように。そして最後にこうも語った。「あなたが温かい朝を迎えられますように」。「夜明けの詩」では明かりをめいいっぱいに浴びて、観客のひとり一人を見つめて歌う。

 “歌いじゃくる”、“叫びじゃくる”、“弾きじゃくる”、そのこと自体が生きている証しであるかのように、悲しみから生まれた楽曲を通じて、生きること、ひとりではないことを伝えているようだった。(取材・木村陽仁)

■セットリスト

01.来世で会おう
02.蜂と見世物(サーカス)
03.オーロラソース
04.ネバーランド
05.光と闇
06.knot
07.それは小さな光のような
08.人間椅子
09.ふうせん
10.スーサイドさかな
11.るーららるーらーるららるーらー
12.ちよこれいと
13.ミカヅキ

EN01.birthday song
EN02.夜明けの詩

最終更新:7/6(水) 10:54

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