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消費税率引き上げの総決算-景気は想定外の悪化も、企業収益、税収は好調

ZUU online 7/7(木) 20:00配信

■はじめに

2014年4月に消費税率が5%から8%に引き上げられてから1年以上が経過し、2014年度の実績値がほぼ出揃った。本稿では消費税率引き上げによる日本経済への影響を、前回の消費税率引き上げ時(1997年度)との比較、事前予想からの乖離という視点を中心に、様々な角度から検証する。

■実質GDPの動向

◆事前予想から大きく下振れた2014年度の実質GDP成長率

2014年度の実質GDP成長率は▲0.9%と5年ぶりのマイナス成長となり、前回消費税率が引き上げられた1997年度の0.1%を大きく下回った。

四半期毎の成長率の推移を比較すると、税率引き上げ直前の1-3月期の成長率は今回のほうが高く、その分増税直後の4-6月期の落ち込みも今回のほうが大きかった。7-9月期は前回が反動の影響?落などからプラス成長に復帰したのに対し、今回は2四半期連続でマイナス成長となった。

年度下期については、今回は10-12月期に前期比年率1.2%と3四半期ぶりのプラス成長となった後、2015年1-3月期は同3.9%へと伸びを高めたが、前回は年度後半に2四半期連続のマイナス成長となり、1998年1-3月期は前期比年率▲7.4%の大幅マイナス成長となった。

なお、1997年度下期の景気の落ち込みは消費税率引き上げの影響というよりはむしろ、アジア通貨危機、国内の金融システム不安の深刻化による影響が大きかったものと思われる。

需要項目別には、個人消費が1997年度の前年比▲1.0%に対して、2014年度は同▲3.1%の大幅減少となったことが最も大きな違いである。個人消費による実質GDP成長率への寄与度は1997年度の▲0.6%に対して2014年度は▲1.9%となった。

それ以外の需要項目では、前回は消費増税と同時に公共投資を削減したために公的需要の寄与度が前年比▲0.5%となっていたのに対し、今回は増税前に経済対策を策定したこともあり、前年比0.2%と小幅ながら成長率の押し上げ要因となった。

次に2014年度の実績値を事前予想との比較でみると、実質GDP成長率は消費税率引き上げ直前の2014年1月時点では政府(1.4%)、日銀(1.4%)、民間(0.8%)ともにプラス成長を予想していた。実績値は政府、日銀の見通しから2%以上、民間の見通しから2%近く下振れしたことになる。

内訳をみると、ほとんどの需要項目が見通しから下振れしたが、特に民間需要(個人消費、住宅投資、設備投資)の下振れ幅が大きい(*1)。一方、民間在庫、公的固定資本形成、輸出入は見通しから上振れした。

ただし、輸出入については2014年1月分からGDPを推計する際の基礎統計である国際収支統計の見直しが実施され、2013年と2014年の間に断層が生じたことによる影響が大きい(*2)。統計上の技術的な要因を除くと、実態としては輸出入の実績値は見通しから下振れしたと考えられる。

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(*1)日本銀行の見通し(展望レポート)は実質GDP、消費者物価しか示されていないため、ここでは政府、民間の見通しと実績値との乖離について記述している。
(*2)2014年1月時点では国際収支統計見直し後の結果が判明していなかった。
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◆個人消費が大幅に減少

実質GDPのうち、想定から一番大きく下振れしたのは個人消費である(*3)。ここで、内閣府の「消費総合指数」で月次ベースの個人消費の動きを確認すると、今回のほうが消費税率引き上げ直前の3月の上昇幅、増税直後の4月の低下がともに大きかった。

5月以降は反動の影響が和らぐ中で緩やかに持ち直したのは共通だが、前回は秋頃にはいったん駆け込み需要が本格化する前の水準をほぼ回復したのに対し、今回は増税から1年以上が経過しても消費水準が元に戻っていない。

2014年度の個人消費を大きく押し下げた消費税率引き上げの影響は、(1)税率引き上げ前の駆け込み需要の反動、(2)物価上昇による実質所得の減少、に分けて考えられる。

このうち、(1)については増税前の駆け込み需要とその反動は前回よりも今回のほうが大きかった模様である。内閣府は「日本経済2014-2015」の中で消費税率引き上げ前の個人消費の駆け込み需要を2.5~3.3兆円程度(実質GDPの0.5~0.6%程度)と推計し、前回増税時の2兆円程度を上回ったとしている。

ニッセイ基礎研究所でも、個人消費の駆け込み需要は前回の1.2兆円に対し今回は2.4兆円と試算しており、内閣府とその規模はやや異なるものの前回よりも今回のほうが駆け込み需要とその反動が大きかったとの見方は一致している。

今回は、駆け込み需要とその反動の影響を緩和するために、臨時福祉給付金、子育て世帯臨時特例給付金、自動車取得税の引き下げ、エコカー減税の拡充といった措置が実施されたが、前回に比べて税率の引き上げ幅が大きかったことが駆け込み需要の規模を大きくしたものと考えられる。

個人消費の駆け込み需要とその反動は前回よりも大きかったものの、その規模は個人消費の1%程度であり、これだけでは2014年度の個人消費の大幅な落ち込み(前年比▲3.1%)は説明できない。

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3 伸び率でみれば住宅投資、設備投資のほうが下振れ幅が大きいが、個人消費のGDPに占める割合は6割近いため、成長率の下振れへの影響は個人消費が圧倒的に大きかった。
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駆け込み需要の反動以外に2014年度の個人消費を大きく押し下げたのは物価上昇に伴う実質所得の低下である。2014年度は企業業績が好調を続ける中、政府の賃上げ要請の影響もあって久しぶりにベースアップを実施する企業が相次ぎ、一人当たり名目賃金(毎月勤労統計ベース)は前年比0.5%と4年ぶりの増加となった。

また、企業の人手不足感の高まりを背景に雇用者数も増加を続けたことからGDP統計の名目雇用者報酬は前年比1.7%と2013年度の同1.0%から伸びを高めた。しかし、円安による輸入物価上昇に消費税率引き上げの影響が加わり消費者物価が3%近い上昇となったため、実質雇用者報酬は2013年度の前年比0.3%から2014年度には同▲1.2%へと大きく落ち込んでしまった。

前回の消費税率引き上げ時も実質雇用者報酬の伸びは大きく低下したが、デフレ突入前で名目賃金の伸びが高かったこと、税率の引き上げ幅が今回よりも小さく消費者物価上昇率が今回よりも低めだったことなどから、1997年度の実質雇用者報酬は前年比0.4%とかろうじてプラスの伸びを維持していた。

また、今回は過去の物価下落時に年金支給額を据え置いた特例水準の解消が図られていることが、年金受給世帯の実質可処分所得を大きく押し下げた。

公的年金受給者のいる世帯の割合は前回増税時の4割弱から足もとでは5割程度まで高まっており、個人消費に与える影響も大きくなっている。勤労者に加えて年金受給者の実質所得が大きく落ち込んだことが個人消費の落ち込みをより一層大きなものとした可能性が高い。このように、個人消費を取り巻く環境は前回増税時よりもかなり厳しかったと言える。

◆個人消費以外の需要項目の動向

2014年度の住宅投資は前年比▲11.7%の大幅な落ち込みとなったが、1997年度の同▲18.9%に比べれば落ち込み幅は小さかった。

新設住宅着工戸数の動きを確認すると、消費税率引き上げの前年末頃にピークをつけた後、急速に落ち込んだ点は共通しているが、前回は夏場にかけていったん下げ止まりの兆しが見られたものの、1998年に入り水準を大きく切り下げた。これは1997年秋以降アジア通貨危機などをきっかけに景気が急速に悪化したことを受けたものと考えられる。

一方、今回は2014年夏頃に底打ちした後、持ち直しの動きを続けている。理由のひとつは住宅投資の駆け込み需要とその反動が前回よりも小さかったことである(*4)。この背景としては、当時に比べ住宅購入世代が減少し潜在的な需要が縮小していること、住宅ローン減税やすまい給付金などの平準化措置が取られたことなどが挙げられる。

また、貸家については、2015年からの相続税の課税強化を見越して、相続税対策としての貸家建設の需要が拡大したことが住宅着工全体を下支えした。

設備投資は1997年度の前年比5.5%に対し、2014年度は同0.4%と前回増税時を大きく下回る伸びとなった。当時と比べて企業が国内投資よりも海外投資を優先する姿勢を強めているという構造的な要因もあるが、前回発生しなかった消費税率引き上げ前の駆け込み需要が発生したという特殊要因も影響している。

四半期毎の設備投資の推移をみると、前回は税率引き上げ前後で大きな変動は見られなかったが、今回は税率引き上げ前の2014年1-3月期に前期比5.1%の非常に高い伸びとなった後、2014年4-6月期には同▲4.8%と急速に落ち込んだ。

「簡易課税制度」の適用を受けて税率が低い時に投資を行うインセンティブがある中小企業で一定の駆け込み需要が発生したことに加え、ウィンドウズXPのサポート終了に伴う更新需要が2013年度末にかけて発生したため、2014年度入り後にその反動が生じた模様である。

このため、四半期毎の推移を比較すると、前回は1997年度末にかけて急速に落ち込みその後も大幅な減少が続いた(*5)が、今回は2014年7-9月期に小幅ながら増加に転じた後、年度末の2015年1-3月期には前期比2.7%の高い伸びとなった。

1997年度は財政再建を進めるために、消費税率引き上げと同時に特別減税廃止、社会保険料引き上げ、公共事業の削減を実施した。このため、1997年度の公的固定資本形成は前年比▲7.1%の大幅減少となり、政府消費、公的在庫と合わせた公的需要も前年比▲2.1%の減少となった。公的需要の減少により1997年度の実質GDPは▲0.5%ポイント押し下げられた。

これに対し、今回は消費税率引き上げの悪影響を緩和するために、公共事業の追加を含む5.5兆円規模の経済対策を実施したため、2014年度の公的固定資本形成は前年比2.0%となり(公的需要の寄与度は0.2%)、景気の下支えに一定の役割を果たした。

ただし、2012年末の安倍政権発足直後に策定された10兆円規模の大型経済対策によって2013年度の公的固定資本形成は前年比10.3%と大きく押し上げられていたため、2014年度の押し上げ幅は限定的にとどまった。

外需寄与度は1997年度が1.0%、2014年度が0.6%とともに成長率の押し上げ要因となったが、これは消費税率引き上げ後の国内需要の低迷に伴い輸入の伸びが前年度から大きく低下したことが大きい(財貨・サービスの輸入:1996年度:前年比11.6%→1997年度:同▲1.5%、2013年度:前年比6.7%→2014年度:同3.7%)。

円/ドルレートは1997年度、2014年度ともに前年度よりも10%程度の円安となっており、輸出にとっては好条件となっていた。こうした中、1997年度前半は輸出数量が比較的堅調に推移したが、アジア通貨危機が発生した年度下期には弱い動きとなった。今回は2014年末にかけて輸出数量は持ち直しつつあったが、2015年に入り弱めの動きとなるなど、均してみれば横ばい圏の動きが続いた。

海外経済の回復ペースが鈍いという循環的な要因に加え、生産拠点の海外シフトといった構造的な要因によって、大幅な円安下でも輸出が伸びにくくなっていると考えられる。

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(*4)内閣府では今回の住宅着工戸数の駆け込み需要は前回の3分の2程度だったと試算している
(*5)1998年1-3月期から10-12月期まで4四半期連続で減少した
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■生産、雇用、物価、企業収益、税収の動向

◆鉱工業生産

鉱工業生産指数は1997年度の前年比1.1%に対し、2014年度は同▲0.4%と前回増税時の伸びを下回った。前回増税時は1997年4-6月期が前期比▲0.5%、7-9月期が同0.5%と消費増税後もしばらくは横ばい圏の動きが続いたが、その間に在庫が大きく積み上がったことがその後の生産調整を深刻なものにした面があった。

今回は早い段階で生産調整に踏み切ったが、国内需要の落ち込みが想定を上回り輸出も伸び悩みが続いたことから、在庫は前回増税時と同様のペースで積み上がってしまった。鉱工業生産指数は消費増税後に2四半期連続で低下した後、2014年10-12月期、2015年1-3月期と2四半期連続で上昇したが、在庫調整の遅れを反映し、2015年4-6月期は前期比▲1.5%と再び減産となった。

◆雇用情勢

実質GDPや鉱工業生産の低迷が示すように景気全般は前回増税時よりも厳しいものとなったが、こうした中でも雇用情勢は堅調を維持した。その背景には人口減少、少子高齢化が進展する中で企業の人手不足感が極めて高いものとなっていることがある。

雇用関連指標は景気の遅行指標であるため、前回増税時も失業率、有効求人倍率が悪化し始めたのは1997年秋から1998年初めにかけてであった。2014年4月の消費税率引き上げから1年以上が経過したが、雇用情勢は悪化することなく改善を続け、失業率、有効求人倍率ともに約20年ぶりの水準にまで回復している。消費税率引き上げを起点とした雇用情勢の悪化は回避されたと判断される。

◆消費者物価

日本銀行は消費税率引き上げの1年前に当たる2013年4月に「量的・質的金融緩和」(異次元緩和)を導入した。当時、消費者物価上昇率(生鮮食品を除く総合、以下コアCPI)は小幅なマイナスだったが、2012年末頃からの大幅な円安に伴う輸入物価上昇を国内物価に転嫁する動きが進んだことから、2013年6月に1年2か月ぶりのプラスとなった後、上昇ペースが徐々に高まった。消費税率引き上げ前の段階で消費者物価上昇率は前回増税時よりも1%近く高くなっていた。

消費税率引き上げ時の価格転嫁率は前回がほぼ100%だったが、今回は100%を若干上回った(*6)。消費税率が引き上げられた4月の品目別の価格転嫁率を確認すると、前回は価格転嫁率が100%以上の品目が46%だったが、今回は61%と50%を大きく上回った。

今回の増税に際しては、政府が消費税の転嫁拒否や消費税分を値引きする等の宣伝・広告を法律で禁止するなど、円滑な価格転嫁を促進する姿勢を明確に示したことが企業の値上げを後押ししたとみられる。このことが企業の値上げに対する抵抗感を小さなものとし、これまで十分に転嫁できていなかった円安によるコスト増を消費増税分に上乗せする形で製品、サービス価格に反映させた企業も多かったと思われる。

コアCPI上昇率は消費税率引き上げ直後の2014年4月には1.5%(消費税率引き上げの影響を除く)まで高まったが、その後は増税後の景気減速に伴う需給バランスの悪化、2014年秋以降は原油価格急落に伴うエネルギー価格の上昇率低下から伸び率の鈍化傾向が続き、2014年度末にはほぼゼロ%となった。

一方、前回の増税時には消費増税後の景気減速ペースが今回よりも緩やかだったこと、円安に伴う輸入物価上昇により国内物価が押し上げられたことから年度半ばにかけては上昇率が高まった。年度全体のコアCPI上昇率は1997年度が0.7%、2014年度が0.8%と同程度となった(ともに消費税率引き上げの影響を除くベース(*7))。

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(*6)消費者物価に占める非課税品目や経過措置で新税率の適用が5月以降となる品目の割合を考慮すると、消費税率引き上げにより2014年4月のコアCPI上昇率は1.7%押し上げられる計算となるが、実際の上昇率は3月から1.9%ポイント拡大した。
(*7)消費税率引き上げの影響は1997年度が1.4%、2014年度が2.0%とした。
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◆生産、雇用、物価の事前予想との比較

政府、民間の経済見通しではGDPに加えて、生産、雇用、物価についても予測値が示されている(日銀見通しは実質GDPと消費者物価のみ)。

そこで、これらの項目について実績値を見通しと比較すると、政府、民間ともに鉱工業生産は実績値が見通しから下振れ、失業率は見通しから上振れ(失業率の水準は下振れ)となっている。また、消費者物価については政府、日銀、民間ともに実績値が見通しから下振れしたが、乖離幅は日銀が最も大きくなっている。

◆企業収益は好調を維持

ここまで見てきたように、2014年度の景気はかなり厳しいものとなったが、そうした中でも企業収益は好調を維持した。

財務省の「法人企業統計」で経常利益の推移を確認すると、前回は増税直後の1997年4-6月期から5四半期連続で前期比減少となったが、今回は消費増税の影響で若干弱含む局面はあったものの、基調としては回復傾向を維持し、2014年10-12月期にはリーマン・ショック前を上回る過去最高水準を更新した。年度ベースの経常利益は1997年度が前年比▲7.8%の減益だったのに対し、今回は同5.9%と増益を確保した。

今回の増税時において景気が全般的に前回増税時よりも弱かったにもかかわらず企業収益が好調を維持した理由はいくつかある。

ひとつは大幅な円安にもかかわらず輸出数量は伸び悩んだが、契約ベースの価格を維持することで円換算の輸出金額は高めの伸びを続けたことである。

過去の円安局面では、企業は契約通貨ベースの価格を引き下げて輸出数量を伸ばすことにより海外市場シェアの拡大を図る傾向が強かったが、2000年代半ば以降の円安局面では価格の引き下げ幅は小さくなっている。

これは海外生産シフトが進み国内の生産能力が頭打ちとなる中、企業が輸出数量を伸ばすことよりも価格を維持することで金額ベースの収益を確保する傾向を強めていることを反映したものと考えられる。

また、国内においても売上数量は大きく落ち込んだが、円安などによるコスト増を比較的スムーズに価格転嫁できたことが金額ベースの売上、収益増につながった。日本銀行の「製造業部門別投入・産出物価指数」を用いて、製造業の価格転嫁率(産出物価上昇率/投入物価上昇率)をみると、2012年7-9月期から2014年7-9月期までの2年間の価格転嫁率は70%程度と過去に比べてかなり高くなっている。

非製造業にとって円安はコスト増を意味するが、前述したように最近は国内の最終製品への価格転嫁が比較的スムーズに進んでいることが収益の悪化を食い止める形となっている。さらに、円安が大幅に進んだことで海外子会社からの配当、海外金融資産からの利子の受取額が膨らんでいることも企業収益の改善を後押しした。

2014年度の全産業ベースの経常利益を要因分解すると、売上数量の落ち込み、人件費の増加は押し下げ要因となったが、交易条件の大幅改善によるプラス効果がこれらを上回ったほか、海外からの利子、配当も含む金融費用要因がプラスになったことも収益の押し上げ要因となった。

◆税収は大幅に上振れ

2014年度の一般会計の税収(決算見込み)は53兆9707億円となり、前年度よりも7.0兆円(前年比14.9%)の大幅増となった。もちろん、この中には消費税率引き上げによる増収分も含まれているが、消費税率引き上げに伴う増収分を差し引いても、2014年度の税収は2.5兆円(前年比5.3%)増えていた計算になる。

1997年度は消費税率引き上げによる消費税の増収(前年比3.3兆円)はあったものの、企業収益の悪化により法人税が大きく落ち込んだことなどから、税収全体の前年度からの増加幅は2.1兆円(前年比4.3%)にとどまった。

2014年度の税収の内訳をみると、名目ベースの雇用者報酬が比較的高い伸びとなったことや配当、株式譲渡益の増加から所得税が前年比8.1%の高い伸びとなったほか、企業業績の好調を反映し法人税も5.1%の増加となった。

また、消費税収は前年から5.2兆円増の16.0兆円となった。財務省によればこのうち4.5兆円が消費税率引き上げによる増収分となっている(*8)が、この部分を除いても消費税収は前年比0.7兆円(前年比6.1%)の増加となる。

ただし、2014年度の個人消費が急速に落ち込んだにもかかわらず消費税収が増税の影響を除いても明確な増加となったことにはやや違和感もある。消費税は主として個人消費にかけられる税(*9)であるため、個人消費との連動性が高い。

2014年度のGDP統計ベースの個人消費は名目で前年比▲1.1%、実質で前年比▲3.1%であった。通常は消費税の伸び率は名目の個人消費の伸びとの連動性が高いが、2014年度の名目個人消費の伸びは消費税率引き上げによって嵩上げされており、その分を取り除くと前年比▲2%強のマイナスとなり、消費税収の実績とは大きな乖離がある。

また、2014年度の消費税収は当初予算から0.7兆円(4.5%)上振れした。通常は政府見通しにおける名目個人消費の見通しと実績値のズレは税収見通しと税収実績のズレと方向が一致するが、2014年度は個人消費の実績が見通しから大幅に下振れしたにもかかわらず、消費税収は大幅に上振れしており、両者の関係がちぐはぐになっている。

この理由のひとつは国内の個人消費として扱われない訪日外国人の急増(*10)で個人消費の伸び以上に消費税収が増えることだが、それ以外にいくつかの可能性が考えられる。

(1)免税事業者や簡易課税選択制度により発生する益税の規模が小さくなっている可能性があること、(2)税率引き上げによる増収分の多くが2014年度に前倒しで納付されている可能性があること、(3)現時点では、GDP統計の2014年度の個人消費は速報値であり、確報値で上方修正されることにより税収との乖離が縮まる可能性があること、などである。

このうち、(2)については消費税の納付が前倒しされているのであれば、その分2015年度の消費税収が少なくなるはずであるが、このことを知るためには2014年度と2015年度の消費税収を合わせてみる必要がある。また2014年度のGDP統計の確報値は2015年末に公表される予定となっている。2014年度の個人消費と消費税収の関係が明確となるまでにはしばらく時間がかかりそうだ。

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(*8)財務省は2014年4月の消費税率引き上げによる増収分6.2兆円のうち、2014年度が4.5兆円、2015年度が1.7兆円(いずれも一般会計)としている。
(*9)消費税は住宅投資、政府支出の一部にもかけられるが、ウェイトは個人消費が圧倒的に高い。
(*10)GDP統計では訪日外国人による日本国内での消費はサービスの輸出に計上される。
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■2017年4月の消費税率再引き上げに向けて

本稿では、消費税率引き上げによる日本経済への影響を様々な角度から検証した。総じてみれば、実質GDP成長率や鉱工業生産に代表される景気は前回の消費税率引き上げ時の1997年度、あるいは事前の見通しを大きく下回った。

しかし、景気が急速に落ち込む中でも雇用情勢は改善傾向を続け、企業収益も堅調を維持したため、景気が総崩れとなることは回避された。また、税収は企業収益の堅調や株式市場の活況などから大幅に増加し、当初見込みからも大幅に上振れた。その意味では消費税率引き上げの重要な目的である財政再建に向けて一定の成果を上げたという評価はできる。

しかし、その一方で消費税率引き上げによって家計部門は想定以上の大きな痛手を受けたことも見逃せない事実である。

2015年の春闘では前年を上回る賃上げが実現したため、消費税率引き上げに伴う物価上昇の影響が一巡する2015年度入り後には実質賃金が大幅に上昇することが期待されていたが、直近(2015年5月)の実質賃金は前年比0.0%と消費税率引き上げ後に急速に落ち込んだ2014年度入り後と同水準にとどまっている。この結果、個人消費の水準も依然として消費税率引き上げ前を大きく下回ったままとなっている。

消費税率は2017年4月に8%から10%に引き上げられることが決まっている。次回の増税に際しては、家計部門への悪影響をいかにして軽微なものにとどめるかが重要な視点と考えられる。まずは、2014年度に始まった賃上げが裾野の広がりを伴いながらどれだけ加速するかが鍵となるだろう。

2014年度は名目賃金の伸びが緩やかにとどまる中で前回を上回る幅の税率引き上げを実施したため、実質賃金は大きく減少してしまった。次回の増税までに税率引き上げによる物価上昇を吸収できる程度まで賃金上昇率を高めておくことが必要だろう。

幸いにも、企業収益は消費増税にもかかわらず堅調を維持しているため賃上げの余力は十分にある状態が続いている。再増税までに残された2年弱の間に企業部門から家計部門への波及がさらに本格化することが期待される。

また、賃金上昇以外にも家計の負担を緩和するための何らかの措置が必要となるだろう。2014年度の増税時にも臨時福祉給付金、子育て世帯臨時特例給付金など一定の給付措置がとられたが、数千億円規模にとどまっており、約8兆円という家計の負担増に比べれば極めて小粒で、個人消費の悪化を食い止めることはできなかった。

また、消費税率引き上げ時には年金生活者への配慮も必要だろう。2014年度の年金額は前年度の低い物価上昇率が用いられたことに加え、特例水準の解消(▲1.0%)が実施されたことから▲0.7%の引き下げとなったが、2014年度は消費税率引き上げもあって消費者物価上昇率が3%近く上がったため、実質ベースでは4%近いマイナスとなった。勤労者世帯以上に年金生活者の実質所得が大きく目減りしてしまったことが、個人消費の落ち込みを一段と大きなものにした可能性が高い。

年金改定額は前年の消費者物価上昇率などをもとに当年度の支給額を決める仕組みとなっているが、消費税率が引き上げられる年度に限って税率引き上げ分の物価上昇率を当年度の年金支給額に反映させるといった措置を検討する余地もあるのではないか。

次回の消費税率引き上げまでに残された時間はそれほど多くない。今回の増税によって明らかとなった問題点を整理したうえで、財政再建と景気回復を両立させるための方策についての議論を深めることが求められる。

斎藤太郎(さいとう たろう)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 経済調査室長

最終更新:7/7(木) 20:00

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