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上位機に迫る機能を持った新エントリー! Astell&Kern「AK70」を徹底解剖

ITmedia LifeStyle 7月7日(木)11時50分配信

 Astell&Kernのハイレゾ対応ポータブルオーディオプレーヤーに、新製品「AK70」が加わる。国内での販売日は7月15日、販売価格は6万9980円(税込)にそれぞれ決まった。ハイレゾ対応のオーディオプレーヤーとしては“エントリー以上/ミドルクラス未満”の価格帯に位置付けられる本機の実力をハンドリングしながら解き明かしていこう。

「AK Jr」とのサイズ比較

●「AK70」は先代入門機「AK Jr」からどこが変わった?

 Astell&Kernといえば、本誌でも以前レビューを紹介した50万円の超ド級フラグシップ「AK380」を筆頭に、ハイレゾ対応オーディオプレーヤーの注目機を数多く発売してきたブランドだ。大半のモデルが10万円を超える価格で販売されているので、入門者にはやや手が出しづらい“高嶺の花”のブランドというイメージもあったが、昨年の中頃にエントリークラスの「AK Jr」が登場。直販サイトなどで7万円を切る価格で販売され、Astell&Kernの音が比較的手頃な価格で楽しめるプレーヤーとして人気を博した。新製品のAK70はAK Jrの後継機となるシリーズのエントリーモデルだ。始めにAK Jrと比べながら、AK70に新しく加わった機能を解説していこう。

 ハイレゾ対応のポータブルオーディオプレーヤーの中にも、最近はバランス接続やDSDネイティブ再生に対応するモデルが増えている。AK70にも「AK300」などの上位機種が搭載するバランス接続機能が加わったのは喜ばしい限りだ。2.5mm/4極シングル端子なので、従来のAKシリーズの上位モデルとも互換性がある。

 AK70の場合、DSDはネイティブ再生ではないが、5.6MHzまでの音源をリニアPCM変換により再生できる(AK Jrは2.8MHzまで)。D/Aコンバーターのチップには「AK120II」「AK100II」にも搭載されてきた実績のあるシーラス・ロジック「CS4398」をシングル使いで搭載。リニアPCMは最大192kHz/24bitまで対応するほか、384kHz/32bitの音源は192kHz/24bitにダウンコンバートになるが、再生して楽しめる。

 対してAK Jrは、Astell&Kernの初代ハイレゾ対応プレーヤー「AK100」にも採用されていたWolfsonのDACチップ「WM8740」を採用し、リニアPCMのネイティブ再生は192kHz/24bitまで。192kHz/32bitの音源までがダウンコンバート再生に対応しているが、サンプリング周波数が384kHz、352.8kHzのファイルは再生できなかった。384kHzクラスはまだ対応する音源が多くないので、今のところまだ搭載されていないと困るという機能ではないが、長く愛用したいのであれば変換再生機能だけでも付いているに越したことはないだろう。

 またAK Jrのワイヤレス通信機能はBluetoothにのみ対応していたが、AK70ではWi-Fi接続もサポートしている。それはつまり、「AK300」などの上位機種が対応するDLNAコントローラーアプリ「AK Connect」やストア機能が使えるようになったということだ。AK70には内蔵メモリーが64GBと、拡張用にSDカードスロットが1基搭載されているが、ハイレゾ音源が手元に増えてくると、これらのストレージではまかないきれなくなる。そんな時に「AK Connect」アプリがあれば、AK70からホームネットワーク上のNASやPCに保存した音楽ファイルにアクセスしてネットワーク再生ができるようになる。使ってみると便利な機能だ。

 ストア機能を活用すれば、AK70単体でGroovers+のサイトからハイレゾ音源をダウンロードして買えるようになる。これが果たして便利な機能なのか、後ほどダウンロード購入を試した結果を報告しよう。

 USBオーディオからのデジタル出力は、意外にもAKシリーズとしてはAK70から初めて搭載される機能だ。DSD音源のUSBオーディオ再生はDoP(DSD Audio over PCM Frames)とリニアPCM変換が選べる。なお、PCに接続してAK70をUSB-DACとして使うこともできるが、インターフェースの規格がUSBオーディオ1.0までなので、再生できる上限はリニアPCMの96kHz/24bitまでになる。

 「AK380」から採用が始まった「メタルタッチ」と呼ばれる、どの画面にいてもトップメニュー画面に一発で戻れるセンサー式のボタンが好評を受けたことから、これに近い機能がAK70にも搭載された。3.3型の液晶パネルの表側下の方にある丸い印がセンサーになっていて、これをタッチするとトップメニュー画面にすぐ移動できる。楽曲再生中にトップメニューに移動すると、画面の上部には再生中楽曲のカバーアートが表示される。いままではその画面の大半を「アルバム」「アーティスト」などのメニューアイコンが埋めてしまっていたが、AK70からはメニューアイコンを下に引っ込めて、カバーアートの領域が押し広げられるようになった。800×480ピクセルに高解像度化されたディスプレイのメリットが生きる機能だ。今後はファームウェアの更新により「AK120II」「AK100II」以降の世代のモデルにも順次搭載されていくという。

●片手持ちがしやすくなった

 先に機能周りの変更点から説明してしまったが、お気づきの通り、デザインがAK Jrから大きく変わっている。スリムで面長だったAK Jrが縦の長さを縮めて、大人の男性の手のひらにすっぽりと収まるような小振りなサイズになっている。質量がAK Jrの98gよりも、AK70が132gと少しアップしているので、手に取るとやや重くなった感じはある。筆者は片手持ちでの操作感がよりスムーズになったので、これは良しとしたい。でも一方でAK Jrのウルトラスリムデザインの方を好む向きがあることも納得できる。

 表裏がフラットなデザインのAK Jrに対して、AK70は本体の右側が斜めにカットされたエッジなデザイン。これが片手持ちでの安定感を高めている要因だ。ボリュームダイアルは本体に対して平行に配置していたAK Jrに対して、AK70では「AK380」や「AK240」と同様に垂直にクロスする方向でレイアウトした。ダイヤルも大きめなので、ポケットにいれたままでも操作しやすかった。

 カラーバリエーションはアルミのメタリック感を生かした淡いミントグリーン。メーカー的な公式名称は「ミスティ・ミント」だが、照明の色合いによってはアイスブルーっぽくも見える。カラバリはこの1色のみ。昨今はブラックやシルバーなど取りあえず無難な本体色のオーディオ機器が多いので、この“攻めてる”カラーは筆者としては夏っぽいし悪くないと思う。店頭に並んでいても目を引きやすい。でもやっぱり、組み合わせるヘッドフォン/イヤフォンとのカラーコーディネートは悩ましいので、やっぱり無難な色のカラバリもあったらいいと思う。専用ケースでカバーするという手もある。

 上位機種にあってAK70にはない機能は、高精度なフェムトクロックのほか光デジタル出力など。「AK300」などが採用する緻密なカスタマイズに対応するパラメトリックイコライザーは本機には搭載されておらず、10バンドイコライザーになる。AK300系のラインアップに対応する専用のヘッドフォンアンプ、「AK Recorder」と組み合わせることはできないが、「AK CD Ripper」には対応している。

●「Groovers+」からAK70を使ってダイレクトにハイレゾ楽曲を買ってみた

 ハイレゾ音源を試聴する前に、ストア機能の使い方を報告しよう。AK70にはIEEE 802.11b/g/nの無線LAN接続機能が搭載されている。設定からWi-Fiをオンにして、無線ルータのパスワードを入力する。ソフトウェアキーボードがフリック入力に対応していないので、スマホ感覚で文字入力ができないのが残念だ。

 トップメニューから「ストア」を選択すると、今のところ対応している「Groovers+」へのリンクが表示されるので、こちらを選択するとポータブルオーディオプレーヤー版のトップページに移動する。新作やレコメンド一覧へのリンク、フリーワードによる検索に対応している。購入したい作品を見つけたら、ダウンロードのリンクをタップすると購入画面に遷移する。

 Groovers+のサイトを利用したことがない場合は新規に会員登録が必要だ。ユーザー情報の入力は先述の通り、キーボードがトグル入力にしか対応していないうえ、文字盤が小さいのでアルファベット入力もけっこう大変。あらかじめユーザー登録だけでもPCなどで済ませておいた方が賢明だ。決算方法はクレジットカード払いになるので、クレジットカードのユーザー情報を手入力する。これもやや根気が必要だ。ファームウェアの更新などにより、フリック入力にも対応してくれれば使い勝手はさらに向上すると思うので、ぜひ対応を期待したい。

 無事作品を購入したらAK70の本体、またはSDカードにダウンロードする。今回は自宅のWi-Fiで楽曲1作品/145MBのファイルをダウンロードしてみたところ、時間は約5分13秒かかった。ネットワーク回線の状態にも影響されたものと思うが、けっこう時間がかかったように感じた。おそらくアルバム一括購入など複数の作品をまとめてダウンロードするならPCの方が速いだろう。もし外出先で、Wi-Fiにはつながるけれど、手元にPCがない時でも楽曲を買いたい場合は、オプションとしてストア機能が利用できるという位置付けだろうか。

●音質は大幅に向上、バランス接続のサウンドも聴いてみた

 続いてAK Jrと比べながらAK70の音を聴こう。リファレンスのイヤフォンはソニーの「XBA-Z5」を使っている。

 AK70で大きく変わったのは中低域のキャラクターだと思う。AK Jrのゆったりとした雰囲気も良かったが、曲によってはもっと切れ味がほしいと感じることもあった。AK70が再現する中低域はアタックが鋭く、クリアで見晴らしが良い。ストレートに言って、AK Jrよりもぐんと音質が向上した手応えを感じた。

 アップテンポなロックやダンスミュージックにピタリとはまる。ボーカルも抜けが良くなった。AK Jrではソフトな印象だったハイトーンも、シャープで透明感がアップしている。音楽が演奏されている情景が、よりリアルに思い描ける。aikoの「もっと」では、声の輪郭がすっきりとして、ビブラートの細かいひだがよく見える。ボーカルの音像は解像感がぐんと高まった。声のテクスチャーは凹凸もリアルだ。S/Nがよく、パワーも十分。マイケル・ジャクソンの「Off The Wall」では、エレクトリックベースの低域がグンと伸びてくる。指で弦を弾くプレーヤーのイメージが目に浮かんでくるようだ。

 AK70でクラシックのオーケストラを聴くと、楽器の定位感がより鮮明になり、奥行き方向の距離感も広がったことを実感できる。ミロシュ・カルダグリッチが弾く「アランフェス交響曲」を聴き比べてみると、AK Jrではギターのふくよかな音が魅力的だったが、一方で弱音の輪郭がややぼやける傾向も見られた。AK70では全体の解像感が上がって、ギターのカラッとした響きが楽しめる。リズムの躍動感が驚くほど豊かになった。金管楽器も一段と晴れやかで明るく好印象だ。

 イヤフォンケーブルをサエクの「SHC-B120FS」に交換して、バランス接続の音も聴いてみよう。ボーカルの定位がさらに引き締まり、より多くの情報量が引き出される。ボーカルに疾走感が加わり、余韻の爽やかさも際立つ。上原ひろみのアルバム「SPARK」から『Wonderland』では、アタックの強弱にますますメリハリが付いて、演奏者が音に込めた感情までもが伝わってくる。フォルテッシモからピアニッシモへのグラデーションがよりきめ細かく出ている。高域には自然なきらめき感が宿る。そのメリットは豪快なアメリカンロックを聴くとなおさらハッキリと現れた。エアロスミスのアルバム「Permanent Vacation」から『DUDE(LOOKS LIKE A LADY)』では底抜けに明るいエレキのツヤが引き立ち、6弦目のファットな低音の弾力感が何とも心地よい。

 新しく搭載されたUSBオーディオ機能も試してみよう。用意したアンプはChord Electronicsの「Mojo」。USBオーディオ機器との接続にはUSB OTGケーブルが必要になるが、Astell&Kernの製品を取り扱うアユートでは、AK70とmicroUSB端子を採用するUSB-DAC内蔵ポタアンとの接続に最適な短尺のUSB OTGケーブルをアクセサリーとして発売する予定だ。今回はそのサンプルを借りてテストした。

 USBオーディオ機器をケーブルにつないでから、AK70の画面の上部を下に向かってスワイプすると表示されるメニューリストに、新しくUSB端子のようなアイコンが加わっている。こちらのアイコンをタップすると、色が黒く変わってUSBオーディオ機能がオンになる。あるいは設定メニューに移動して、一覧からUSBオーディオを選んでもいい。DSD再生はDoPとリニアPCM変換を設けている。「Mojo」の特徴であるライブ感を豊富に含んだサウンドが余すところなく放出される。サイズもAK70にぴたりと合うので、AK70の専用ケースを装着して「Mojo」と背中合わせにバンドなどで固定すればルックスもきれいに収まりそうだ。なおオーディオテクニカの「AT-PHA100」にも、USB OTG変換ケーブルを介してUSB接続してもUSBオーディオのサウンドが楽しめた。それぞれのアンプの特徴を、混じり気なく素直に引き出せるプレーヤーだ。

 AK Jrが、Astell&Kernのハイレゾプレーヤーのコンセプトを広く伝えることにおいて果たしてきた功績は大きい。でも一方で上位モデルと比べてしまうと、音質や使い勝手の面で如何ともしがたい差ががあった。AK70では音質を最新のトレンドに合わせてチューニングしながら、「AK380」をはじめとする上位クラスのモデルで好評だった機能も惜しみなく加え、そのギャップをしっかりと埋めてきた確かな手応えが感じられる。音楽リスニングはスマホで十分という方にとって、約7万円という価格はまだまだハードルが高いものに感じられるかもしれないが、USB-DACとしても使えたり、バランス接続も含めた将来的な発展性を考慮すれば、いまハイレゾを存分に楽しむための機能を幅広くカバーした“お買い得なプレーヤー”と受け止めていいだろう。

最終更新:7月7日(木)11時50分

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