ここから本文です

高知の山奥で見つけた「異世界」 極楽を作り続けるモイアさん

ITmedia LifeStyle 7月8日(金)6時10分配信

 「ま、高知でなんかあったらボクに電話してきい」

 モイア橋本さん。69歳。

【画像】石のモニュメントが並ぶストーンロード

 高知の山奥で出会ったDIYアーティストは、とんでもない極楽の作者だった。そして、高知の大自然のように広い心の持ち主だった。

●雄大な棚田が広がる、高知・高角

 高知県の高角(たかつの)という場所をご存知だろうか。国道439号線から少しそれたそこは四国の真ん中に位置し、四方は山に囲まれている。自然豊かなそこは、幻想的な「棚田」が有名だ。消えゆく原風景とも言える棚田を求めて、この地域を訪れる人は少なくない。

 今日の主役である「モイア橋本」さんは、この高角で暮らしている。

 「モイア橋本」という名前だけだと、外国人かと勘違いする人もいるかもしれない。だがまあ、ご覧の通りモイアさんは生粋の日本人であり、仕事を引退した今、ゆうゆうと遊んでいるだけなのだ。

 でも、大人が本気で遊ぶ姿っていうのは、いつだって結構面白かったりするものである。

 高角集落へ足を踏み入れたその瞬間から、そのモイア節は炸裂する。

 極楽の入口は死の先ではなく、高知の山奥にあった。しかしながらこれを初めて見た人は、奇妙な極楽との不意の遭遇に不安を覚えてしまうかもしれない。

 さらに坂を登っていくと、何やら石造りの大きなモニュメントが並んでいるのが見えてくる。

 これが、モイアさんの傑作「ストーンロード」である。

 ストーンロードの先には家屋のようなものが見える。

 近づいてみると、騒然と置かれたモノの奥に、人もいるようだ。

 一体ここが何なのか気になった人は、勇気を振り絞りその家屋の奥にいる人物に声をかけるかもしれない。

 「こんにちは~、ここって一体……」

 ここは本当に極楽なのか? それとも、極楽に引き寄せられる愚か者達の為の、地獄の類ではないだろうか? 

 摩訶不思議なモノ達との遭遇に、くらくらとする頭を抱えずにいられない。

●モイアさん、どうしてこんなの作っちゃったの?

 モイアさんは、普段ストーンロードにはいない。常に新たな作品を産み出さんと、自宅やアトリエにいるからだ。今回は偶然にも会えたので、モイアさんのご自宅でお話を聞かせていただくことになった。

――とりあえず、気になってたんですけど「モイア」ってなんですか? まさかとは思いますが本名ですか?

 「いーやいや、石をいっぱい置いてるけえ。モイアっていう名前は、ほら、モ・ア・イから取ったの。あっははは」

 石が好きで石をたくさん置いているから、ザギンやギロッポンのように業界読みでモイア。本名は橋本晃光さんと言い、確かにモアイとは全く関係ない。

――極楽というのはどういう意味なんですか?

 「この辺は美しい棚田が有名やけ。最初は天国って看板にしちょったけど、天国やと死ぬみたいやけぇ、人間の楽しいを極めるちゅうことで、極楽に変えた」

 なるほど確かに、モイアさんの個性的な「楽しさ」は、極みの境地にある。美しい棚田の高角は、モイアさんの作品群によって、見たこともないような異空間になっているのだ。

――最初に作ったのはどれですか?

 「最初にツリーハウスつくったなあ。焼肉したり泊まったり遊べる様にしたんけえ。これができたって時は、すごかった。みんな来て遊んでって」

――ストーンロードにツリーハウス。素人の仕事とは思えないのですが、建築のお仕事をされているんですか?

 「若い頃はダム工事とかしてたけんどな、最終的な仕事は作るんでなく、壊すほうやった。ぼくはもともと解体、掃除の免許もっとるけえ」

 「特に建築の勉強はしちょらんけど、若い頃からいろいろ発明しとった。その頃は仕事ばっかりやったけぇ。今は引退して余裕があるけ、どーーんどん作っちょる」

 モイアさんは若い頃、早明浦ダム・稲村ダムなどの建設工事に携わってきた。その経験と、解体業をしていた頃に手に入れた重機を駆使し、モイアさんの思う極楽は形成されたのだ。しかも、現在進行形で極楽は広がっていっている。

――どうしてこの極楽を作ろうと思ったのですか?

 「解体してると、いらないものがいーっぱい出るけんど、どれも捨てとうないんじゃあ」

 解体業をしている頃、モイアさんは数多くの現場をまわった。そこでは、庭石、木材、家に置かれていた記念品、まだまだ使えるものが全て捨てられていっていた。

 「もともとこういう、木とか石とかが好きやったけぇ。人間というのは、何を好きになるかわからんもんじゃなあ」

 「ひっくり返ってた石を、思うように立てなおす。うんと廃材を生かして、思うように作る。それは、使われんなったものに命をもう一回吹き込むっちゅうか。普通の人じゃ、よう続かんし魅力もないじゃろけんどな。こんな風に石ころが好きって物好きもおるんじゃの」

 そう言ってモイアさんは、自分が作った庭を眺めて、微笑んだ。

 モイアさんにもう一度命を吹き込まれると、それらは普通の人には考えもしないような形に転生する。モイアさんが「極楽」と形容したストーンロードは、輪廻天生のそれと似ている気がした。もっとも、モイアさんはそんなことを考えてはいないかもしれないけど。

●モイアさんのインスピレーション

 「作る前に、格好形がすーっと頭に浮かぶんや。自然を感じる様に、石や木を立てるんやわ」

 「生まれた時からいっぱいどこかしら見てきとろう。建物も像も場所も人も。それがイメージとして浮かぶんじゃわ。1を知るには勉強しな分からんやろう、みんな勉強して習っておぼえるん。ぼくも、いろんなとこへ行ったり、いろんなものを見たけえ、頭に浮かぶんじゃ思う」

 「画家とかはね、年がいってから凄い絵になってくるゆうけどねえ。あんな人がおったこんな人がおった、凄い人がおったと、その出会いが20年30年たって勉強になってね、知恵がついていくんじゃろ」

 「動いてたら目の中に入ってくるけえね。じぃっとしても目の中には入らんよ」

 「だいたいまあ世の中には、なんちゃせん人がいっぱいおるんけえ。飲んだり食うたりするだけやなくて、なんぞせえってみんなに言うんじゃけんど。草が生えてたら草を引けというんやけど、草の一つも引かん人もおる」

――でも、モイアさんみたいにこんなに精力的に作ってる人は、広い世の中でもそんなにいないと思うのですけど(笑)。

 「そうけぇ」

 モイアさんは照れたように笑った。

●モイアさんが教えてくれたこと

――今まで苦労してきたことってありますか?

 「物凄いこわいこととか、いっぱいしてこうなったよお。怪我をしたり病気をしたり、もう何度もあの世にいきかけたけんど。30歳くらいのとき、伐採中に背骨が折れて、今背中には金属いれとるけえの。あと心筋梗塞で、心臓に三箇所カテーテルいれちょる。夜やったら死んどるけんども、昼やったけ皆おったけえ良かったけど」

――大変だったんですね。

 「まあ、若い頃にはもうもう夢中でやってきててもな、年が行きだしたら、どんどんみんなあ病気がくるひとガンがくるひと、いっぱいその人に襲い出すんじゃけえ。そりゃ襲われん人は幸せじゃけえど。医者やら偉いひとでも、みーんな死んでいくんじゃけえ」

 「それじゃけえ、今生きちょる世の中で、いかに毎日を大切にして、いかに形にしていくか。それが大事じゃけぇ」

 皆もちろん死んでいく、だからこそ生きている今、形を残していく。その行為を、なんでそんな無駄なことを、と思う人もいるかもしれない。

 でもモイアさんの作り出した形は、ちょっといびつでも変でも、美しく輝いていた。

 「君はフリーターか」

――微妙に違います。フリーのライターです。書くほうです。

 「物を書くのか。書くってのは、作るのと同じようなことやけぇ。まぁ、いろんなところへ行って、いろんな人に会って。知恵つけて頑張りぃ」

 なにか胸にじいんと残る感覚が分かった。

――ありがとうございました、モイアさん!

 「まあ、高知でなんかあったらボクに電話してきい」

 私はモイアさんと握手をして別れたのだった。

●助けて、モイアさん!

 数十分後、私は電話をかけていた。相手は、先ほど別れたばかりのモイアさんである。

――モイアさん、さっきはありがとうございました。

 「ええよええよ。まあ、長旅の道中、車の運転気をつけぇな」

――それなんですが、実は今、ちょっと……。

――車がぬかるみにハマって、実はかなり、大変なことになってまして……。

 「ええ、なぁにしちょるの? まっちょれ、今、助けに行くけぇ!!」

 さっき別れたばかりのモイアさんは、大型トラックに乗ってすぐにその場に駆けつけてくれた。近くで商店をしているモイアさんのイトコも一緒になって、大型トラックに私の軽自動車をくくりつけて引っ張ってくれる。

 「なぁんで、こんなことになっちょるんや~!」

――ごめんなさい……。

 結局2時間にも渡って救出作業をしてくれたのだった。

――本当にありがとう、モイアさん……。

 「ええ、ええ。ボクは解体やってて機械や車持ってたから、いろんな事故の時に呼ばれてなあ。中には車がひっくりけえってたのもある、ぐちゃぐちゃになってた死体も沢山見てきたけえ。君はひとりで旅してんのやろ。気ぃつけなぁ」

――……。

 モイアさんは優しくたしなめてくれた。

 私は、思わず涙を流さずにいられなかった。申し訳無さもあったが、初めて会った私にこんなにも優しくしてくれた、モイアさんの人柄に感動していた。

 「泣ぁーくなや! まだ次へ行くんじゃろ。まあ懲りずに、高知に寄ったら顔見せぇ。ほんじゃな」

 モイアさんはそのままトラックに乗り、颯爽と走り抜けていった。

 高知で出会ったDIYアーティスト。高角の雄大な棚田のように、広い広い心を持っていた。

 今日も山奥で、新たな作品を作り続けているのだろう。馬鹿なライターとの出会いも、ひとつのインスピレーションとして極楽の一部になるのだろうか。少なくとも、私はモイアさんとの出会いが一生忘れられそうにない。

<連載「孤高のD.I.Y.」>
世の中には、作らずにはいられない人たちがいる。役に立つとか評判になるとかを超越して、“自作”せずにはいられない人たちが。そんな人たち自身と、彼らが作ったものを、ライターの金原みわさんが追いかけます。

<金原みわ>
珍スポトラベラー。全国の珍しい人・物・場所を巡り、レポートを行う。都築響一氏主催メルマガ『ROADSIDER’s weekly』、関西情報誌『MeetsRegional』、ウェブメディア『ジモコロ』にて連載中。著書『さいはて紀行』(シカク出版)発売中。

最終更新:7月8日(金)6時10分

ITmedia LifeStyle

TEDカンファレンスのプレゼンテーション動画

暗闇で光るサメと驚くほど美しい海洋生物たち
波のほんの数メートル下で、海洋生物学者であり、ナショナルジオグラフィックのエクスプローラーかつ写真家のデビッド・グルーバーは、素晴らしいものを発見しました。海の薄暗い青い光の中で様々な色の蛍光を発する驚くべき新しい海洋生物たちです。彼と一緒に生体蛍光のサメ、タツノオトシゴ、ウミガメ、その他の海洋生物を探し求める旅に出て、この光る生物たちがどのように私たちの脳への新たな理解を明らかにしたのかを探りましょう。[new]