ここから本文です

英国「EU離脱」狂想曲に見る「シルバー民主主義」の弊害とは?

ZUU online 7/8(金) 12:02配信

一夜にして世界の株式市場から3兆ドル(約330兆円)の価値が失われた。大どんでん返し、大番狂わせ……どのような言葉で言い表すのがいいのか悩むほど、大きな嵐となった英国のEU離脱の是非を問うた国民投票。マーケットは徐々に落ち着きを取り戻しつつあるものの、これは決して対岸の火事ではない。

若者と高齢者を二分した今回の事態。少子高齢化の進行で高齢者層(シルバー)の政治への影響力が増大する「シルバー民主主義」という言葉が騒がれた。18歳に選挙権を引き下げて初の総選挙を控える、日本でも起こりうる「シルバー民主主義」の懸念を紹介する。

■「過去の栄光VS現実路線」 英国内の老若対立の構図

今回の英国の国民投票結果を簡単に振り返ろう。開票の結果は残留支持が48.1%、離脱支持が51.9%。離脱支持側の僅差での勝利だった。投票実施日が発表された2016年3月以来、激しい論戦が繰り広げられた。その結果、投票率は過去の総選挙と比べても、かなり高い72.2%となった。終盤になっても接戦が続いていたものの残留派有利が続いていた。それをひっくり返しての離脱派勝利となった。

この番狂わせの要因の一つとして挙げられるのは、英国内の老若対立の構図だ。「離脱」支持率を見ると、18~24歳層が20%、25~49歳層が34%と明らかな少数派である。対して、50~64歳層、65歳以上層はそれぞれ53%、57%と過半数を占めている。調査会社YouGovの6月初めの世論調査によって、明らかになったものだ。

このような明らかな年齢格差を生み出した背景は3つ。

第1に経済面。若者にとって「統合」は自由な選択と活躍の可能性を与えるものだ。一方、高齢層には変化から得られるものが実感できない。

第2に生活面。若者は国境を超えた人間関係の拡がりを活用できる。だが、多くの高齢者にとって、外国人や異文化との共存は負担感・不快感のもとになるだけなのだろう。

第3に、古き良き時代を知る高齢者に残る「世界に冠たる大英帝国」へのプライドとノスタルジー。

「EUの中の英国」で育った若者の声が、反EU感情の強い中高齢層に押し切られた形と言ってしまえば簡単だ。だが、そこにはもう一つ、「投票率格差」というメカニズムがある。2015年総選挙の際の投票率データをみると、18~24歳の43%、25~34歳の54%に対し、65歳以上は78%と参政意識が高い。今回の国民投票で、18~49歳の残留支持率の高い若年層の投票率が、50歳以上の中高年齢層並みだったとしたら、結果は違っていただろう。

欧州をはじめ世界経済は不透明性さを増した。海外のみならず、英国内ですらこの決定を悔やむ声が沸き上がり、「Regret(後悔)」と「exit(脱退)」を組み合わせた「Regrexit」なる新たな造語が生まれているほどだ。首相のみならず離脱派のリーダーまで辞任を表明、EU残留にこだわるスコットランドが独立を模索するなど「UK=連合王国」自体にも解体の危機が囁かれている。

政治システムに関わる教訓として無視できないのは、国民投票という政治手段を安易に濫用した結果だということだ。第1に、若者と高齢者の価値観対立を単純な白黒勝負に変えてしまった。 第2に、若者と高齢者の投票率格差から、驚くべき結果となった重大決定を導いてしまった。

「18歳選挙権」が初めて適用される国政選挙・第24回参院選を控えた日本は、英国以上のテンポで少子高齢化が進行中である。社会保障や税制などの是正を、世代間格差の上にある「民主主義」に問うのだ。

注目すべきは、日本でも起こりうる「選挙のトラップ」が起きたことだ。離脱はないだろうという世論調査の観測を信じ込んだこと、自分の一票など全体には影響ないだろうというあきらめ。事前予想が狂った最大の要因は各世代の投票行動を読み切れなかったことに尽きるのではないか。その結果、英国発のツイッターからは、若者の犠牲のうえに高齢者が得をする社会構造に対する若年層の不満が見て取れる。

■若年層の得票率は依然として低いまま シルバー民主主義の弊害

日本の人口構成を英国と比べると、年少人口比率、出生率(TFR)で英国を下回り、老年人口比率では同国を上回る。それでも日本の若者の得票率は低いままだ。平成に入ってから衆参合わせて15回の国政選挙のうち9回で、投票率が60%を切っている。背景にあるのは、若年層の政治離れ、無関心と言っていいだろう。

選挙権が18歳まで引き下げられたことは一つの改善だ。世界192カ国のうち18歳から選挙権が与えられている国は176カ国。2007年の法改正で選挙権年齢が16歳にまで引き下げられたオーストリアのような国まであるのだ。

では、10代の新有権者の参加は、どれほどのインパクトとなるだろうか。前回選挙の時点で全有権者のうちシェア19.3%を占めた20~34歳の若年層。新たに加わる約243万人を合わせると、18~34歳の若者有権者層は全体の20.7%に達する。ただ、前回と同じくらい高齢層が選挙に行くとすれば、投票総数の35.0%は高齢者票だ。若年層の票は直接的に影響をもたらすことにはならない。だが、投票率から関心の度合いは伝わるだろう。

1票の格差が叫ばれて久しい。「憲法改正」以外に国民投票ができない日本では、英国のように経済に直接的な影響を与えることは起こりにくいが、シルバー民主主義の弊害は既に起こっている。これを是正する意味でも、若者たちを中心に投票率を引き上げてゆくことが、やはり重要な課題となろう。(岡本 流萬)

最終更新:7/8(金) 12:02

ZUU online

TEDカンファレンスのプレゼンテーション動画

北朝鮮からの脱出
北朝鮮での幼少時代、『ここは地球上最高の国』と信じていたイ・ヒョンソだったが、90年代の大飢饉に接してその考えに疑問を抱き始める。14歳で脱北、その後中国で素性を隠しながらの生活が始まる。 これは、必死で毎日を生き延びてきた彼女の悲惨な日々とその先に見えた希望の物語。そして、北朝鮮から遠く離れても、なお常に危険に脅かされ続ける同朋達への力強いメッセージが込められている。