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Brexit で金価格が急騰した理由 ソロス氏は関係ない?

ZUU online 7/8(金) 17:10配信

「Brexit」により金融市場は大混乱となったが、一連の報道のなかでも注目を集めたのが金価格の急騰である。とはいえ、株や為替に比べると馴染みが薄いこともあり、投資初心者のなかには金価格がなぜ急騰したのか不思議に思う人もいるようだ。

英国がEUから離脱するとどうして金価格が上がるのか、そのメカニズムを説明するとともに、今後の見通しについてもふれてみたい。

■金は「無国籍の通貨」だから信用がいらない

ずばり最初に結論を述べると、Brexit で金が買われた理由は「無国籍の通貨」だからだ。

すなわち、金はそれ自体に価値があり、株や債券、通貨と違って発行体というものが存在しない。株であれば企業が倒産すれば無価値になるし、債券も国や企業が破綻すればその価値の大半は失われてしまう。

普段は意識されることはまれだが、通貨も国の信用の上に成り立っており、信用がなくなればただの紙切れだ。今回の Brexit に端を発した金融市場の混乱は、突き詰めれば国家に対する信用が揺らいだことに行き当たる。EUの政治的な統合という「未来予想図」は少なくともこれまで描かれていた形で実現されることはなくなった。

単に無国籍というだけであれば原油やトウモロコシなどの「商品」にも国籍はないが、これらは「通貨」の役割を果たせない。通貨の役割とは主に価値の交換手段のことで、金は世界中のどこにいっても現地通貨と簡単に交換ができる。腐ったりしないし、それほどかさばらないので持ち運びにも便利だ。

そもそも人類の歴史を振り返れば、金こそが通貨であり続けた経緯がある。現在のように通貨が国の信用に依存するようになったのは、長い歴史の中でごく最近の話といえよう。

このように、金は「誰の負債でもない」ことから、信用に対するリスク、特に国家に対する信任が揺らぐときに輝きを増す傾向にある。

■ソロス氏の金買いは Brexit と関係ない?

Brexit で金価格が上昇したことを著名投資家のジョージ・ソロス氏の買いと結びつけた報道もあるが、ソロス氏が Brexit を予想して金を購入したことは確認できておらず、投資家の混乱を招いているようだ。

ソロス氏は確かに金を購入しているが、金の購入と Brexit に直接的な関係はなく、ウォール街の市場関係者からは「(ソロス氏が)金を買った理由は別のところに求めるほうが妥当」との見方もある。

金の生産コストは1300ドル程度とされていたが、金価格は一時1200ドルを割り込むまで底なしの状態となり、金鉱山会社の株価も急落した。しかし、原油を始めとする資源価格の下落により産金コストが低下し、その恩恵を受けて暴落していた金鉱山会社の株価が急反発している。

たとえば、5年ほど前には50ドルを超えていたバリック・ゴールドの株価は昨年、一時10ドルを下回ったが、現在は20ドル台まで回復している。ソロス氏がバリック株を大量に購入したのは株価が底入れをした後の話であり、アナリストが金鉱山株価の上昇を予想していた時期である。

また、もともとソロス氏は金を大量に保有していたが、金価格の低迷で一旦すべての手持ち金を売却した過去がある。2012年から2013年にかけての話だ。その後、金価格が採算コスト割れの水準で割安な状態にあったことや、一旦は利上げに踏み切ったFRB(米連邦準備理事会)が金融政策を180度転換したことから、もともと金への志向が強いソロス氏が今年に入り再び購入していたとしても何ら不思議ではない。

このように、Brexit とソロス氏の金鉱山株や金の購入を結び付けるのは無理がありそうだ。

■EU離脱の「ドミノ現象」が起こる危険性も

気掛かりなのは、英国民投票でのEU離脱を受けたドミノ現象である。その筆頭がイタリアだ。英国民投票に先立つ6月19日、イタリアの地方選挙で反EUを掲げる新興政党の5つ星運動が首都ローマでの市長選に勝利するなど躍進した。同党は選挙後「ユーロ離脱」について国民投票を実施すべきとの考えを示している。

イタリアの経済成長率は1%に届いておらず、他のユーロ圏諸国に比べるとかなり低い成長に甘んじている。イタリアはユーロ圏内ではギリシャに次ぐ巨額の財政赤字を抱えていることから、緊縮的な財政政策を求められており、この政策が低成長を招いているとの不満がある。

また、イタリアでは憲法改正の是非を問う国民投票が10月に予定されているが、改正案が否決された場合には、レンツィ首相は辞任することを表明しており、投票の行方が注目される。

■政治的不透明が金価格を押し上げる

スコットランドが英国からの独立に向けて動きだしていることも気掛かりだ。地方レベルでの独立運動はスペインのカタルーニャ州やバスク自治州でも既に顕在化しているほか、ベルギーのフランドルやイタリア北部でもくすぶり続けている。

Brexit で焦点となった移民問題は、EU全体の問題でもあり、来年に大統領選挙を控えるフランスにしても移民排斥、反EUを訴える極右政党の候補者が高い支持率を集めて話題となっている。来年はドイツでも総選挙が予定されており、移民問題から現在の与党政権が総崩れしないとも限らない。

さらに、移民問題の政治的な影響は大西洋を越え、米大統領選挙で共和党からの指名が有力視されているトランプ候補を勢いづかせるかもしれない。

英国のEU離脱をきっかけに、英国、そしてEUはどこへ向かうのか、また米国は大丈夫なのか、といったぼんやりとした不安がしばらく続くことが見込まれている。そうした状況を加味すると「無国籍の通貨」である金も輝きを増すことになりそうだ。(NY在住ジャーナリスト スーザン・グリーン)

最終更新:7/8(金) 17:10

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