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Brexitを受けた為替の見通し~金融市場の動き(7月号)

ZUU online 7月8日(金)19時30分配信

■要旨

◆為替

Brexitはリスク回避の円買いをもたらし、米国の利上げペースを鈍化させるという2つの点で円高材料となる。Brexitには「最終的な決着までの時間軸が極めて長い」、「世界経済へ与える悪影響の度合いと波及経路が不透明で不気味」という特徴があるため、長期にわたって円高圧力として燻り続ける。

一方、現在は円安材料が見当たらない。限界論が意識されているため、もはや日銀主導の大幅な円安は見込めないうえ、昨年まで円安効果を発揮してきた日本の貿易赤字も既に解消している。

そして、今後は、当面さらに円高が進む可能性が高いと見ている。円安材料が見当たらない中で、Brexitの影響への警戒が根強いためだ。英国やユーロ圏の経済指標下振れや、EU離脱ドミノを連想させる動きなどからリスク回避的に円が買われる展開が想定される。

また、FRBはしばらく利上げを見送ると予想され、ドルを買いにくい地合いが続きそうだ。このため、秋にかけて最大97円程度まで円高が進むと予想している。その後、11月に入ると、クリントン氏が次期大統領に決定し、ドル高圧力となりそうだ。また、この頃には米利上げ観測が再び台頭し始めることで、最大108円程度までドル高が進む余地があると見ている。

年末も105円台で着地すると予想。来年も、米利上げと日本の貿易赤字定着を受けて、緩やかな円安ドル高が進むと見ている。ただし、Brexitの先行き不透明感は強いため、下振れリスクも高い。Brexitの悪影響が予想以上に広がり、米利上げが予想通り行われないことになれば、ドル円レートは上記の見通しから下振れることになる。

◆日銀金融政策

日銀は6月の決定会合において金融政策を維持した。今後の金融政策に関しては、7月の追加緩和を予想する。手法はETF買入増額、マイナス金利拡大、地方債買入れ導入等、現在打てる手を全て投入してくると予想している。

■為替:Brexitを受けた為替の見通し

英国のEU離脱(Brexit)決定を受けて、為替市場では円が急伸し、足元も1ドル100円台の高値にある。Brexitという従来はリスクシナリオに位置づけられてきたものが、現実のものとなったことで、ドル円相場の見通し(表紙図表ご参照)を円高方向に修正する。

◆Brexitのドル円相場に対する影響

まず、Brexitの影響をどう位置付けるかについては、二つの面で円高材料となる。

一つはリスク回避の円買いをもたらすという面だ。先月24日のBrexit決定を受けて、投資家の恐怖感を示す「恐怖指数」と呼ばれるVIX指数は最大25ポイント(平常時は概ね15ポイント以下)まで上昇。資金の逃避先通貨とされる円は急激に買われ、一時100円を割り込んだ。

そして、もう一つは米国の利上げペースを鈍化させるという面だ。Brexitによって、世界経済・金融市場の不透明感は格段に強まった。既にポンドやユーロに対してドル高が進み、米国経済にとっても下押し材料になりかねないため、FRBとしてはその影響度合いを見極められるまでは利上げを見送る動機が出来た。

FF金利先物が織り込む市場の政策金利見通しも、Brexitを受けて年内の利上げを殆ど全く織り込まなくなり、一部には利下げ観測すら織り込んでいる状況だ。

今年に入ってからのドル円レートを振り返ると、1~2月の中国不安・原油安、そして今回のBrexitなどのリスク事象発生を受けてリスク回避で円が買われた後、リスク回避地合いが一服しても円が高止まりしたままとなる傾向がある。それは、リスク事象発生を受けて米利上げ観測が後退し、市場の混乱がひとまず収まった後も元に戻らず、ドルが買いづらいためだ。

直近数ヵ月の米長期金利とドル円レートの動きを並べてみると、両者の連動性は強まっている。リスク回避に伴う米国債選好と利上げ観測後退が、米金利を押し下げ、ドル円にドル安圧力として波及している様子が如実に現れている。

数々のリスク事象の中でも、今回のBrexitは「最終的な決着(離脱)に至るまでの時間軸が数年単位と極めて長い」、「英国を発端に世界経済へ与える悪影響の度合いと波及経路が不透明で不気味」という特徴がある。従って、長期にわたって円高圧力として燻り続ける可能性が高い。

◆円安材料は見当たらず

Brexitという新たな円高材料が加わる中でも、一方で明確な円安材料があれば、影響は緩和される。しかしながら、現在は円安材料が見当たらない状況にある。

まず、過去に強力な円安材料となってきた日銀の追加緩和にはもはや期待できそうにない。前回1月の追加緩和(マイナス金利政策導入)後の円安が2日程しか続かなかったことから「追加緩和=円安進行」という市場のイメージが希薄化したうえ、緩和の限界論が広がっているためだ。

緩和余地が残り少ないと見なされる中で追加緩和を行えば、同時に「緩和余地が無くなった」との見方が強まり、円安効果が減殺される可能性が高い。もはや日銀主導の大幅な円安は見込めなくなっている。

また、昨年まで市場の底流で円安効果を発揮してきた日本の貿易赤字も原油安による輸入額減少によって、既に解消している。現在は貿易黒字状態にあり、むしろ円高圧力になっている。

政府・日銀による介入への警戒感は円高に対する一定の歯止めにはなっているが、積極的な円安材料ではない。

◆今後の見通し

これまでの話を踏まえて、次に来年にかけてのドル円レートの見通しに話を移したい。

(1)2016年10月まで:円高地合いに

まず、当面はさらに円高が進む可能性が高いと見ている。円安材料が見当たらない中で、Brexitの影響への市場の警戒が根強いためだ。英国や同国と経済的繋がりの強いユーロ圏の経済指標が下振れしたり、不動市況が下落したりする際に、銀行の不良債権増加懸念を巻き込みながらポンドやユーロが下落し、リスク回避的に円が買われる展開が想定される。EU離脱ドミノを連想させる動きにも要警戒だ。

また、FRBは利上げに慎重な姿勢を強め、7月と9月の利上げを見送ると予想されるため、ドルを買いづらい地合いが続きそうだ。日銀は7月に追加緩和に踏み切ると見ているが、既述のとおり、為替への影響は限定的に留まるだろう。

このため、秋にかけて最大97円程度まで円高ドル安が進むと予想している。ただし、97円辺りになると、(実際は困難だと思うが)政府・日銀による円売り単独介入への警戒が一段と強まることで、円高に歯止めがかかると見ている。

(2)2016年11月~12月:やや円安にシフト

その後、11月に入ると、ドル高材料の登場が期待される。一つは11月8日に予定される米大統領選だ。現在優勢を維持しているクリントン氏が次期大統領に決定することで、米国経済の先行きに対する不透明感が緩和され、ドル高圧力になりそうだ。

また、この頃になると、米国の利上げ観測が再び台頭し始める可能性が高い。Brexitの米経済に与える悪影響が限定的に留まることが経済指標から確認され、FRBは12月の利上げに向けたメッセージを発信し始める可能性が高い。12月半ばのFOMCにかけて利上げ観測台頭に伴って最大108円程度まで円安ドル高が進む余地があると見ている。

当研究所ではメインシナリオとして12月の利上げを予想しているが、利上げの際にはFRBから改めて「その後の利上げは慎重に進める」旨のメッセージが発信されることで、FOMC以降年末にかけては利益確定のドル売りが優勢となり、年末は105円台で着地すると予想している。

(3)2017年:緩やかに円安へ

最後に、来年についても、緩やかな円安ドル高が進むと見ている。当研究所では、来年も米国の利上げ路線は変わらず、2回の利上げが実施されると予想しており、ドル高材料となる。また、これまでの円高によって輸出が圧迫され、日本の貿易赤字が再び定着することも円安材料となりそうだ。

◆ただし、下振れリスクも高い

以上がBrexitを踏まえた見通し(メインシナリオ)となるが、前回6月7日時点(Brexit決定前)の見通しと比べると、かなり円高方向に修正している。具体的には、今年10-12月期平均で108円から100円に、来年10-12月平均で117円から109円に、それぞれ修正している。Brexitによってリスク回避の円買いが入りやすくなったことと、米国の利上げ回数が減少することがその理由である。

さらに、ドル円の下振れリスクも高い。Brexitで先行きの不透明感が強まったためだ。Brexitの悪影響が予想以上に広がり、米国の利上げが予想通り行われないことになれば、ドル円レートは上記の見通しから下振れる(円高方向へ)ことになる。

■日銀金融政策(6月):またも動かず

◆(日銀)維持

日銀は、6月15~16日に開催した金融政策決定会合において、金融政策の維持を決定した。マネタリーベースが年80兆円に増加するペースで各種資産買入れと、日銀当座預金の一部に対する▲0.1%のマイナス金利適用を継続する。前回同様、資産買入れに対しては1名(木内委員)、マイナス金利に対しては2名(木内委員・佐藤委員)が反対票を投じた。

市場では、追加緩和見送りの発表を受けて、大幅な円高・株安が進行した。

声明文では、景気の総括判断を、「基調としては緩やかな回復を続けている」に据え置いた。個別項目では、住宅投資と公共投資の判断を上方修正した。先行きについては、景気・物価ともに回復に向かうとのシナリオは従来同様だが、物価については、「当面小幅のマイナスないし0%程度で推移する」(従来は「当面0%程度で推移する」)とやや下方修正。足下の物価下振れを反映した。

その後に行われた会見で、黒田総裁はマイナス金利の効果について、企業の前向きな設備投資スタンスと住宅投資の持ち直しを挙げ、「実体経済面にも徐々に波及してきており、今後、より明確になっていくのではないか」と前向きに評価した。

急速に進む円高については、「金融政策自体が為替レートにリンクしていたりターゲットにしたりはしていない」と、円安誘導と受け取られないよう配慮しつつも、「こういった形で円高が進んでいることが、日本経済あるいは将来の物価上昇率に対して好ましくない影響を与えるおそれがある」とやや踏み込んだ発言をし、円高をけん制した。

今後の追加緩和については、「必要になれば、「量」・「質」・「金利」の3つの次元を活用して躊躇なく追加的な緩和をとる用意がある」と従来同様の表現に留めた。なお、Brexitに関する表現が声明に見当たらないことに関しては、「"金融市場は世界的に不安定な動きが続いており"という中に読み込んで頂いたらと思っている」と説明した。

その後、6月24日に「金融政策決定会合における主な意見」(6月15~16日開催分)が公表され、同決定会合において、Brexitを警戒する意見が多数出ていたことが明らかになった。Brexitを見極める必要があることを追加緩和見送りの理由とする意見もみられた。

現在の金融緩和の枠組みについては、その持続性や信頼性、サプライズ重視の姿勢、ヘッジ付外債への資金流出など、問題点を指摘する意見が多数あった。非主流派からの意見と推測されるが、日銀内の意見の対立はさらに目立ってきている。

今後の金融政策に関しては、メインシナリオとして7月の追加緩和を予想している。マイナス金利の影響をある程度見極められるようになってくるうえ、年初から急激に進んでいる円高の影響などから物価の基調にも変調が出ており、下振れリスクも大きいためだ。また、7月の会合では展望レポートの公表が予定されているが、物価見通しの下方修正は避けられない情勢にある。

さらに、市場との関係の観点でも、最近は日銀の追加緩和見送りを受けて円高が進む傾向が強く(3回連続)、結果的に物価の押し下げに繋がっている面がある。7月は市場の緩和予想が集中しているだけに、ここで見送れば「動けない日銀」との印象から、大幅な円高が進む懸念がある。つまり、「緩和しないリスクが高い」ことも追加緩和に踏み切る材料になると見ている。

追加緩和手法は、ETF買入増額、マイナス金利拡大、地方債買入れ導入等を予想。マイナス金利での(銀行への)資金供給策導入も有り得る。現在、打てる手を全て投入してくると予想している。

■金融市場(6月)の動きと当面の予想

◆10年国債利回り

・6月の動き 月初▲0.1%台前半からスタートし、月末は▲0.2%台前半に。

月上旬は▲0.1%台前半での推移が続いたが、Brexitへの警戒や日銀追加緩和への思惑から10日には▲0.1%台後半へと低下。Brexitへの警戒がさらに強まり、15日には▲0.2%を付けた。

その後、17日には高値警戒感から▲0.1%台後半へと上昇し、以降しばらくは▲0.1%台半ばでの推移に。しかし、24日には英国のEU離脱が決定したことでリスク回避の債券買いが優勢となり、再び▲0.2%へ。さらに28日には▲0.2%台前半まで低下、月末も同水準で終了した。

・当面の予想

今月に入ってもリスク回避姿勢が続いているうえ、日銀追加緩和観測の高まりもあって、足元は▲0.2%台後半まで金利低下が進んでいる。特段の金利上昇材料が見当たらないなか、リスク回避に伴って金利が低下しやすい地合いにあるが、0.3%近くでは高値警戒感も出てくると思われる。しばらくは0.2%台後半を中心とするレンジでの一進一退の展開を予想している。

その後は月末の日銀決定会合が最大の焦点になる。0.1%程度のマイナス金利拡大を伴う追加緩和に踏み切れば、金利は現行水準で定着しどうだ。もし見送れば、これまで前のめりに織り込まれてきただけに、一旦金利は上昇するだろう。

◆ドル円レート

・6月の動き 月初110円台後半からスタートし、月末は102円台後半に。

月初、110円台でスタートした後、米雇用統計の大幅な下振れを受けて、6日には106円台後半へと円が急伸。その後は106円台から107円台での一進一退となったが、16日には日銀の追加緩和見送りを受けて円高が進行、104円台に突入した。

以降しばらく英国のEU離脱を問う国民投票を控えて104円台での小動きが続いたが、24日にはEU離脱決定を受けて101円台半ば(一時100円割れ)に円が急伸。終盤は政策期待などからリスク回避が一服し、やや円安に振れたが、ドルの上値は重く、月末も102円台後半で着地した。

・当面の予想

今月に入り、Brexitの影響への警戒感の高まりや、ハト派色の強い6月FOMC議事要旨を受けて円高が進み、足元は100円台後半で推移している。今後も米国の早期利上げが見込めない以上、ドルの上値は重く、悪材料が出た際には円の上値を試しに行く展開が続きそうだ。

目先の焦点は本日夜の米雇用統計。前回があまりにも悪い結果だっただけに、米雇用のトレンドを占ううえで非常に重要な位置付けにある。市場予想(Bloomberg集計:雇用18万人増、失業率4.8%、賃金上昇率0.2%)並みか予想を上回る結果となれば、ドル高反応が出ると見込まれるが、早期利上げが見込めない以上、ドルの上昇幅は限定的となる。予想を下回った場合は再び100円割れも。

◆ユーロドルレート

・6月の動き 月初1.11ドル台後半からスタートし、月末は1.11ドル付近に。

月初、1.11ドル台で推移した後、期待はずれの米雇用統計を受けて6日に1.13ドル台半ばへユーロが上昇。その後はBrexitへの警戒からポンド安とともにユーロ安圧力が強まり、13日には1.12ドル台へ。さらに16日には1.11ドル台を付ける。

その後、英国での残留派議員襲撃を受けて残留派盛り返しの観測が強まり、20日には1.13ドル台へと上昇し、しばらく高値で推移した。しかし、24日には英国のEU離脱決定を受けて1.10ドル台へと急落することとなり、月末も1.11ドル付近で終了した。

・当面の予想

今月に入り、Brexitの影響への警戒が高まったことでややユーロ安となり、足元は1.10ドル台後半で推移している。今後もBrexit問題への警戒感は続き、経済的な繋がりが深いユーロにも下落圧力がかかりやすい。

英国・ユーロ圏の経済指標の下振れ、追加緩和への期待、EU離脱ドミノを連想させる動きなどの材料を受けて、ユーロ安が進む可能性が高い。目先の焦点はドル円同様、本日の米雇用統計となるが、いずれにせよ、最近のトレンド・地合いを一変させることにはならないと見ている。

上野剛志(うえの つよし)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 シニアエコノミスト

最終更新:7月8日(金)19時30分

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