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中国経済-静かに進む「抜本的改革」

ZUU online 7/8(金) 20:00配信

■2015年の経済概況(GDP)

2015年の中国経済を振り返ると、経済成長率は実質で前年比6.9%増と2014年の同7.3%増から0.4ポイント低下、中国では経済成長率が緩やかに鈍化してきている。

この「6.9%」という成長率に関しては、もっと低いのでは?との見方もあって議論になっているが、開示された情報が限られる中では推測の域をでないと思われる。確かに言えることは中国経済に構造変化が起きていることで、筆者はそれを"ふたつの二極化"と表現している。

ひとつは第2次産業の伸び鈍化と第3次産業の堅調(伸び横ばい)という二極化である。中国では経済のサービス化が進行中で、3年ほど前から第3次産業の成長率が第2次産業を上回るようになってきているが、2015年にはその傾向がより鮮明になった。

第2次産業は人件費の上昇や人民元高の進行で競争力が低下してきており、今後も伸びの鈍化は避けられそうにない。一方、第3次産業にはまだ成長余地が多く残されており、最近でも8%台の高い伸びを維持できている。中国政府の政策スタンスを見ても、第3次産業を第2次産業に代わる新たな経済成長・雇用創出の柱に育てようとしている。

もうひとつは投資の伸び鈍化と消費の堅調(伸び横ばい)という二極化である。これまで投資主導で経済成長を遂げてきた中国だが、消費主導へのエンジンの切り替えに挑戦中である。GDP統計を見ると、2015年には最終消費の寄与度が上昇した一方、総資本形成(投資)の寄与度は低下が続いている。

中国政府の政策スタンスを見ても、製造業の過剰投資(又は過剰設備)の解消を指導・推進するとともに、最低賃金の引き上げを通じた所得配分の調整を継続的に進めることで、投資主導から消費主導への構造転換を支援している。

■従来の成長モデルの限界

従来の成長モデルの歴史を振り返って見ると、文化大革命を終えて改革開放に乗り出した中国は、まずは第1次産業(農業)の改革に着手、それが成功すると第2次産業(工業)の改革に乗り出した。外国資本の導入を積極化して工業生産を伸ばし、その輸出で外貨を稼いだ。稼いだ外貨は主に生産効率改善に資するインフラ整備に回され、中国は世界でも有数の生産環境を整えた。

この優れた生産環境と安価な労働力を求めて、工場が世界から集まって中国は「世界の工場」と呼ばれるようになった。こうして高成長を遂げた中国だが、経済発展とともに賃金も上昇、また中国の通貨(人民元)が上昇したこともあって、賃金上昇と人民元高で中国の製造コストは急上昇した。そして、より安く生産できる製造拠点を求めて中国から後発新興国へと工場が流出し始めたことで、対内直接投資が伸び悩むとともに対外直接投資が急激に増えてきた。

従来の成長モデルが限界に達したことはGDP統計を見ても分かる。供給面から見ると、GDP全体に占める第2次産業の比率が諸外国と比べて極めて大きい一方、第3次産業の比率が小さい。第2次産業の中核を成す製造業に焦点を当てると、世界における製造業シェアは23.2%でGDPシェア(12.8%)より10.4ポイントも大きい。

米国や欧州ではGDPシェアの方が大きいのと比べると対照的である。製造業シェアの方が大きくても製品を輸出できれば問題はない。日本も製造業シェアの方が1.0ポイント大きく、韓国は1.5ポイント、欧州の中でもドイツは1.6ポイント大きい。

しかし、輸出できないようだと、国内では生産設備が過剰となって、設備稼働率が落ちて債務負担が重くのしかかり、雇用不安に陥ることになる。いわゆる過剰設備の問題である。従って、10ポイント超になった過大なギャップを、均衡点に向けていかにソフトランディングさせるのかが、中国の産業政策においては最大の課題となっている。

一方、需要面から見ると、GDP全体に占める投資(総固定資本形成)の比率が諸外国と比べて突出して大きく、2014年は44.0%となった。

主要先進国(G7)の約2倍に達しており、経済発展が遅れたインドやインドネシアと比べても10ポイント以上高い。経済発展の初期段階では、先行的に投資を増やす場合が多いため、アジア諸国の中には過去に投資比率の高まりを経験した国が多い

。1990年代のタイでは投資比率が4割前後で7年間、マレーシアでも5年間続いたことがあり、韓国でも1990年代に4割には達しなかったものの35%前後が8年間続いた。日本でも高度成長期にあった1970年前後には35%前後が6年間続いていた。

しかし、その後の日本では、高度成長が終わるとともに投資比率も3割前後へ低下、1974年には石油危機も加わってマイナス成長に落ち込み、安定成長に移行した。

韓国、タイ、マレーシアでも、アジア通貨危機でマイナス成長に落ち込んだ後、韓国の投資比率は3割前後へ低下、タイ・マレーシアでは2割台へ低下しており、前例をみれば中国の4割超も長続きしそうにない。また、石油危機やアジア通貨危機といった特殊事情があったとはいえ、4ヵ国全てで一時的ながらもマイナス成長に落ち込んだ。これがいわゆる過剰投資の問題である。

それでは過剰設備(又は過剰投資)を解消する過程では何が起こるのだろうか。楽観と悲観のシナリオを描くことができる。楽観的に見ればGDPシェアが製造業シェアに鞘寄せする形で調整し、この場合は製造業の成長率は低下するものの第3次産業が牽引してGDPシェアが上昇する。悲観的に見れば製造業シェアがGDPシェアに鞘寄せする形で調整し、この場合は製造業の成長率が急激に低下して第3次産業だけでは支え切れず極めて低い成長率になる。

かつて日本では両者のギャップが拡大して1991-93年に約4ポイントでピークを付けた。その後このギャップは解消していくが、GDPシェアと製造業シェアがともに低下する結果となった。中国経済の発展段階はまだ低く、ここもと第3次産業が8%前後の高い伸びを維持していることから、悲観し過ぎてもいけないが、経済成長率を押し下げる大きな負のインパクトをもたらすことは間違いない。

■新たな成長モデル構築のための構造改革

そこで、過剰設備(又は過剰投資)の解消過程で発生する負のインパクトを和らげようと、中国政府は新たな成長モデル構築のための構造改革を進めている。具体的には、需要面では外需依存から内需主導への構造転換、供給面では製造大国から製造強国への構造転換、同じく供給面では第2次産業から第3次産業への構造転換の3点に要約できるだろう。

1|需要面では外需依存から内需主導への構造転換

中国は既に世界最大級の経常黒字国となっており、このまま外需依存で高成長を維持するのは難しくなってきている。賃金上昇を抑制し、人民元を無理やり割安にすれば、当面は継続可能かも知れないが、それでは貿易摩擦が高まってしまう。また、賃金上昇を抑制すれば中国国民はいつまでも豊かになれず、また人民元安は米ドルベースのGDPを小さくするため世界における中国の存在感も高まらない。

一方、賃金上昇を許容すれば、中国の内需(主に消費)には潜在的な成長余地が残っており、それが開花する可能性が高い。外需に依存する割合が減少するので、経済成長率は鈍化しやすくなるものの、海外情勢の異変には強くなり、経済成長はより安定感を増す。

また、賃金上昇で所得が増えるので中国国民の生活も豊かになる。従って、外需依存から内需主導への構造転換は、当面の高成長よりも経済成長の安定や国民生活の豊かさを重視した政策だといえるだろう。

2|供給面では製造大国から製造強国への構造転換

とはいえ、中国は輸出を諦めたという訳ではない。低賃金と人民元安を前提とした付加価値の小さい製造業に見切りを付けただけで、高賃金と人民元高に耐えられる付加価値の大きい製造業はむしろ強化しようとしている。

具体的には「中国製造2025」や「インターネット+(プラス)」と呼ばれる国家戦略があり製造大国から製造強国への構造転換を進めている。13億超の人口を擁する中国で使われれば国際規格になりやすいという利点もある。但し、この付加価値の大きい製造業の世界は、日米欧の製造業が既に市場を支配しており、その牙城を崩してシェアを奪うには、コア技術の蓄積やブランド育成が必要で、中国のような新興国にとってはハードルが高く時間も要する。

従って、過剰設備(又は過剰投資)の調整がもたらす大きな負のインパクト(経済成長率の低下や過剰雇用の放出など)をある程度はカバーできるだろうが、それだけで全てをカバーするのは難しい。

3|第2次産業から第3次産業への構造転換も

そこで、中国では第3次産業の育成も積極化している。過剰設備(又は過剰投資)の調整がもたらす負のインパクトをある程度カバーするとともに、その調整過程で放出される過剰雇用を吸収するという点でも期待されている。

賃金上昇で生活が豊になれば、消費が盛んになるとともに、その内容もモノ中心から教育、文化、体育、健康、医療など様々なサービスへと多様化するため、消費サービス関連産業には発展のチャンスが多い。また、中国では硬直的な金融制度を自由化し始めたため、銀行以外の金融業(ネット金融など)には発展のチャンスが多い。

こうしたチャンスを生かして第3次産業が順調に育って行けば、成長率を下支えするとともに、雇用を創出する効果も期待できる。但し、シャドーバンキングが問題になったように一筋縄ではいかない。情報統制が厳しい中国でも果たして第3次産業が上手く育つのか、今後も慎重に見極めていく必要があるだろう。

■構造改革(まとめ)と日本への影響

中国経済の構造改革を三面等価の観点から再整理して見よう。まず、従来の成長モデルは示したようなイメージになる。

①輸出を増やして外貨を稼ぐため、企業は銀行から資金を調達して、工場を建てて海外から設備を導入するなど投資を積極化した。

②その工場では安価で豊富な労働力を生かして生産を増やし輸出を増やした。

③こうして獲得した所得は企業に内部留保する割合を多くして、さらなる投資に回された。

一方、雇用者に分配された所得は、まだ貧しかったこともあって、個人所得は銀行預金などの貯蓄に回されて消費に回る分は小さかった。この従来の成長モデルが限界に達すると、新たな成長モデルの構築が始まった。

①まず、所得・分配面では企業から個人へ所得分配をシフトさせようと、第12次5カ年計画(2011-15年)では最低賃金を年平均13%以上引き上げる方針を打ち出した。②その実施とともに、需要面では企業の投資が頭打ちとなり、個人の消費が盛んになりつつある。③そして、生産面では輸出・建設関連を中心に第2次産業の伸びが鈍化する一方、需要が増えた消費物流などの第3次産業では伸びが高まってきた。

従来の成長モデルを卒業して新たな成長モデルにバトンタッチしようとする構造改革は、世界の先行事例を見ると後者のスピードが前者よりも遅いため、成長率の鈍化は避けられそうにない。しかし、中国政府はこの構造改革を今後も続けるだろう。何故なら、後戻りしたくてもそれは不可能で、成長の壁を克服するには他に道がないからである。

従って、第2次産業の伸び鈍化と第3次産業の堅調(伸び横ばい)、投資の伸び鈍化と消費の堅調(伸び横ばい)の“ふたつの二極化"も長く続くトレンドになると思われる。なお、当面は新たな成長モデルを構築する途上であるため、バトンタッチが完了するまでは気が抜けない。バトンを落とすような事態もあり得るからである。

中国で進行している構造改革は日本にも影響を及ぼしている。中国へ工業原料・部品を輸出してきた日本企業はピンチを迎える一方、中国本土からの訪日旅行者に関連するビジネスを計画する日本企業や、中国へ消費財を輸出しようとする日本企業には大きなチャンスが訪れている。

また、ピンチを迎えた日本企業にも新たにチャンスの芽がでてきている。中国の構造改革が後戻りできない点を踏まえれば、中国が工業原料・部品の輸入を再び急拡大する可能性は低い。しかし、構造改革に伴って中国企業が対外直接投資を増やし周辺アジア諸国へ生産工場を移転している点を踏まえれば、移転した先の国では工業原料・部品に対する需要が増える可能性が高い。

従って、中国企業が今後どこの国に工場を移転するのかに注目していると、新たなチャンスが見えるかもしれない。

※本稿は2015年12月18日「Weeklyエコノミストレター」を加筆・修正したものである。

三尾幸吉郎(みお こうきちろう)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 上席研究員

最終更新:7/8(金) 20:00

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北朝鮮での幼少時代、『ここは地球上最高の国』と信じていたイ・ヒョンソだったが、90年代の大飢饉に接してその考えに疑問を抱き始める。14歳で脱北、その後中国で素性を隠しながらの生活が始まる。 これは、必死で毎日を生き延びてきた彼女の悲惨な日々とその先に見えた希望の物語。そして、北朝鮮から遠く離れても、なお常に危険に脅かされ続ける同朋達への力強いメッセージが込められている。